June 22, 2022

シンは神学のシン 樋口真嗣 『シン・ウルトラマン』

謎の巨大生物「禍威獣」の頻出に悩まされる近未来の日本。政府はその脅威に対処するため、各方面のスペシャリストにより結成されたチーム「禍特対」を発足させる。禍特対が何度目かに出動した際、突如として上空より謎の巨人が飛来。禍威獣を圧倒的なパワーで退ける。「ウルトラマン」と名付けられた彼は人類の味方なのか、それとも…

庵野・樋口コンビが『ゴジラ』の次に挑んだリメイクは、やはり日本人なら誰でも知るあの巨大ヒーローでした。『シン・ウルトラマン』について今回はダラダラと書きます。以後完膚なきまでにネタバレしてしまうので、ご了承ください。まずは自分の最初の印象から。

最初に冒頭の超『ウルトラQ』オマージュには大興奮でした。続くネロンガ戦、ガボラ戦も大いに楽しませられました。しかしその後ザラブが宇宙人の格好のままコートを着て現れたのには、「これ、普通の人ひかないか?」と心配になったり。さらに追加で巨大な長澤まさみが登場した際には、元ネタ知ってる我々ならともかく、そうでない特撮慣れしてない方々はこのシュール表現の暴走に途中退場してしまうのでは…と(こちらの劇場ではいませんでしたが)。

そんな杞憂をよそに終盤へと進んでいくストーリー。結末がどうなるかハラハラしながら観てましたけど、この一風…というか十風くらい変わった作風に当惑を抑えきれないまま終わってしまった、というのが初見の感想です。

大抵はそこで「微妙に合わないところがあった」で終わってしまう話ですが、この映画にはなんか不思議な吸引力があって、鑑賞後1週間くらいずっとテーマや場面・セリフの意味などについて考えさせられてしまいました。そして自分の中で作品についてのあれやこれやを熟成させた後、もう1回観てみたら今度はしみじみと感動できたのですね。映画は毎週それなりに観てますけど、そんな風に味わえた作品というのはあまりありません。

 

で、最初すんなり入らなかったのが、なんでウルトラマンがそんなに地球人にひかれたのか、というところ。これに関しては彼自身も「色々考えたけどよくわからない」と述べています。思えば私たちも何かを好きになるとき、「なぜ好きになったのか」ということについてはあまり考えないし、よくわからないもの。「かっこよかったから」「綺麗だったから」とそれらしい理屈をつけることはできます。しかし「じゃあなぜかっこよい・美しいと感じたのか?」と問われたらこれはもう理屈では説明できないものです。そもそもあのウルトラマンの前衛的なデザインもヒーローにしては独特すぎる気がしますが、こんだけ世代を超えて絶大的な支持を得ているのですから不思議といえば不思議であります。

あと今回のウルトラマン、昨年エヴァンゲリオンがあったせいかやけに宗教的というかキリスト教的な話に感じられました。

・人間が超越的存在に生殺与奪の権を握られている構図は、旧約聖書で神が度々人々を災厄により滅ぼそうとした話を思い出させます。そのまま実行されたこともあれば、行いの良い僕のために思いとどまった例もあり

・ザラブやメフィラスはまんま悪魔。いかにもその人のため…みたいな風を装って、権力をエサにしたり欲望をあおって人間を堕落させようとします。アダムやエバは成功した例、ヨブやキリストは失敗した例

・超存在だったウルトラマンが人間と融合するところは神、もしくは神のようだったキリストが人間の形で地上に来たことを思わせます。で、キリストは人々に自己犠牲の精神を説き、最後は身を持ってそれを示しました(宇宙に展開されるゼットンのシルエットは十字架を連想させます)。その姿に心を打たれた人はキリストの弟子となるわけですが、本作品では禍特対の面々や迫害者の立場だったゾーフィがそれに当たるのかもしれません。

もう1点強く印象に残ったのは、アナログ的なもの…マーキング、匂い、情熱といったものがザラブ、メフィラス、ゾーフィら外星人のデジタル的な戦略に勝利するというもの。この映画もCGが多用されておりますが、樋口監督があるインタビューで言っていた「特撮は『諦め』の技術ではあるが、そこに実在するものには確かな力がある」という言葉を思い出させます。これからさらに徐々にこの「特撮」というスタイルは消えていくのかもしれませんが、情熱あるクリエイターが研鑽して用い続けるなら、将来も生き残っていくのでは…と希望を抱いてしまうわけです。この辺は図らずもいま同時期に公開されてる『トップガン マーヴェリック』と重なるところでもありますね。
わたしの好きなシーンをふたつ。ひとつはウルトラマンが時々山に行って神永の死体を眺めてるところ。「こいつなんであんなことしたんだろうな」とか考えてたんでしょうか。もうひとつはウルトラマンが犠牲になることに瞬発的に班長が反対する場面。人類のことを思えば土下座してでも「悪いけど頼む」と言うべきなのですけど、彼もまたウルトラマンが好きになっちゃったのでしょうね。
ラストで禍特対の面々は神永に「おかえり」と言いますが、そこにもう共に戦った銀色の巨人の魂はありません。そのことを知った時の彼らの気持ちを想像すると何とも切ないものがあるのでした。
ゴジラはともかく、ウルトラマンが一般の映画でやってどれくらいいくのだろう…と危惧しておりましたけれど、長澤まさみ・西島秀俊・米津玄師のネームバリューか、庵野・樋口のブランド力か、力の入った作りに往年の子どもたちが引き寄せられたのか、はたまたメフィラス山本耕史のキャラが強力すぎたのか…ともかく興行収入40億にはなんとか手が届きそうでホッとしております。
このあと樋口さんはまた西島氏と一緒に(監督ではないですが)『仮面ライダー Black Sun』に加わり、庵野氏は監督として『シン・仮面ライダー』を手がけるとのこと。引き続き注目して参ります。「デザインワークス」に書かれていた「その後の物語」もいつかぜひ観てみたい…



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August 30, 2019

平成時代にさよならを 『仮面ライダージオウ』まとめ

令和が始まってはや4ヶ月。本日は先ごろ完結した「平成」ライダーの総決算『仮面ライダージオウ』について劇場版も含め思うところをまとめます。

平成の終わりも近づいたころ。平凡な高校生常盤ソウゴは、将来「王様になりたい」という夢を吹聴しては級友たちに笑われていた。そんなある日ソウゴはタイムトラベラーの青年ゲイツに襲われる。理由はソウゴが未来で最低最悪の魔王「オーマジオウ」になり、人々を苦しめているからだった。それと呼応するように彼の周りにあらわれる「仮面ライダー」と、人々を襲う怪人「アナザーライダー」たち。やはり未来から来た彼の「家臣」ウォズから変身ベルトを与えられ、「仮面ライダージオウ」となったソウゴは、いつしかゲイツと共に平和を守り、「最善最高の王」となることを目指して戦い続ける。

というわけでこの物語の大きなポイントのひとつは、本当に人を思いやるいい子のソウゴ君が、なぜショッカーの首領のような独裁者になってしまったのか?というとこでした。話が進むにつれその辺の謎が徐々に明かされていくんだろうな…と予想していたのですが、いきなりばらしてしまうとうやむやのままに終わりました(笑) まあ毎回のように20年に及ぶなつかしヒーローたちが入れ替わり立ち代わり登場するので、ソウゴ君はどうしてもホスト的な役回 りにならざるを得ず、彼自身の物語をじっくりやる余裕がなかった…というところですかね。わたしも思い入れのあるライダーがオリキャスで登場するたびに我を忘れて喜んでましたし。10周年記念の『ディケイド』と違って(あれはあれで好きでしたが)、今回は可能な限り演じた本人を連れてきてくれたのが嬉しかったです。特に『龍騎』『剣』は十ウン年ぶりに懐かしい友達と再会できて、彼らが元気でいる姿が観られて感涙いたしました。

先日公開された単独の劇場版も観てまいりました。暮れの佐藤健のようなシークレットゲストがあるのでは…ひょっとしてオダ○リジョーか、竹内○真か!?と胸ワクワクで臨んだところ、予想のはるか斜め上のビッグネームが出てきて驚愕しました。ここではあえて名前は明かさないので知りたい人は映画のキャスト一覧でも調べてみてください。

映画で印象的なセリフのひとつに「お前たちの平成って醜くないか?」というものがありました。平成ライダーもとうとう20作。そこはかとなく統一感があった(そうか?)昭和ライダーと比べると外見も設定も恐ろしくてんでバラバラです。シリーズ初期は「こんなの仮面ライダーじゃない」という声もよく聞かれましたが、最近ではもうみんな「そういうもの」と諦めてしまったのか、あまり見られなくなりました。実際こんだけ多様性に富んでたからこそそれなりに飽きられずに20年続いたのだと思います。わたし自身数作脱落したものの、今にいたるまで視聴を続けてるわけですし… 本当に『クウガ』が始まった時は2019年になっても切れ目なくライダーが続いて、そんでずーっとお付き合いすることになるだろうとは夢にも思いませんでしたよ…

ついでに好きなタイトルのベスト5を書いておくと

1位…龍騎 2位…剣 3位…ビルド 4位…鎧武 5位…555 別枠…アマゾンズ となります。

令和になってもまだ続行される仮面ライダー。次の作品は背景がなにやら『アイアンマン』っぽい『仮面ライダーゼロワン』だそうです。また一年楽しめますように~

 

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September 28, 2018

さあ、人体実験を始めよう 『仮面ライダービルド』総括

火星で発見された謎の物体パンドラボックス。それが東京のセレモニーで開かれた時、突如として天を覆うほどの巨大な壁「スカイウォール」が出現。日本は「東都」「西都」「北都」の3国に分断されてしまう。
それから10年。東都では人々を襲う謎の怪人「スマッシュ」の暗躍が続いていた。だが罪なき者たちに危機が迫る時、どこからともなく正義の味方「仮面ライダー」が現れて彼らを守るのだった。

本日は1ヶ月ほど前にめでたく放映終了した『仮面ライダービルド』の紹介というか感想というか総括みたいなことを書きます。

主人公の名前は桐生戦兎(きりゅうせんと)。記憶を失った状態で喫茶店のマスター石動惣一に拾われた彼は膨大な物理の知識と超人「仮面ライダービルド」に変身する能力を持っていた。持ち前の正義感とマスターらの励ましにより、彼は日々スマッシュたちと戦い続けていたのだが…

というわけで今回のライダーのモチーフは「物理科学」(だったのだろうか…)。様々な物体・生物の要素(ウサギ、戦車、ゴリラ、ダイヤモンド、鷹、ガトリング砲etc)を二つ組み合わせてその時の状況に「ベストマッチ」した形態で戦えるという能力を持っています。

日本が朝鮮半島みたいになった設定はなかなか面白くはあったのですが、近年のライダーにありがちなチャカチャカしたギャグと慣れない放送時間に変更になったことで、自分5話くらいで一度脱落したのでした。しかしその後ツイッター等で評判をチラ観していて、どんどん面白くなっていることを知り、復帰。自分は一度離れたドラマにまた戻ってくるということがこれまでなかったので、大げさですがまさに「異例の事態」でありました。

どんなふうに驚愕の展開が続いていったかと申しますと(ここからバンバンネタバレしていきます…)、まず主人公のパトロンというか初代ライダーでいえば「立花のおやっさん」にあたる石動が、実はスマッシュを操る秘密結社の幹部で、主人公をライダーに仕立て上げたのも遠大な陰謀の一環であったことが判明。また桐生戦兎もその結社で働いていた「悪魔の科学者」で(ライダーマンみたい)、裏切りが露見したために記憶を奪われ別人格を与えられたことが明らかになります。ほんでこの時点でまだ全体の1/4くらいしか進んでなかったりします。

こう書くとなんか暗そうなストーリーのような印象を受ける方もおられるでしょう。確かに重いところはけっこう重かったりします。しかしそれでも全体的に沈みがちなムードにならないのは、戦兎の相棒、万丈龍我(ばんじょうりゅうが)に負うところが大きいです。
彼は冤罪で逃亡中の元ボクサーで、たまたまスマッシュに襲われていたところを戦兎に助けられます。行き場のない彼は戦兎と同様石動の喫茶店に身を寄せることに。最初こそ無実を晴らすことに躍起になっていた万丈ですが、「ラブ&ピースのために」戦い続ける戦兎を見ているうちに、次第に彼をサポートするようになっていきます。
戦兎が過去の過ちや現状の辛さに落ち込んでいる時、決まって彼を立ち直らせるのが万丈のぶっきらぼうな励ましだったりします。また戦兎は戦兎で命も顧みず無鉄砲な行動を取る万丈を、必死で守ろうとします。
普段はお互いのことをバカにしあったりつまんないことで喧嘩してたりするのに、いざという時は全力でもう一方をかばおうとする。この「ベストマッチ」な二人の絆が『仮面ライダービルド』全編を貫く太い柱であります。

さらに作品では東都を代表する武闘派ライダー「グリス」と、北都代表で戦兎を改造した張本人である「ローグ」が登場します。二人とも実に味わい深い濃いいキャラなのですが、説明すると長くなるので割愛いたします。

で、まあ色々あって最終回(飛ばし過ぎ)。ビルドと仲間たちは尊い犠牲を払いながら、なんとか火星からやってきた魔王を葬り去ることに成功。しかしその影響で世界は「パンドラボックスによる惨劇がなかった世界」に作り替えられてしまいます。以前の世界では不幸な最期を迎えた人々も、みな笑顔で生活しております。そんな世界にただ一人残されてしまった戦兎。一緒に戦った面々は誰も彼のことを覚えていない…というか、元から知らなかったことになってしまいます。相棒であったはずの万丈さえ… 「これでいいんだ」と満足しつつも寂しさを抑えきれない戦兎の前に現れたのはなんと…

このさびしくもなんとも心優しい結末、20年に渡る平成ライダーの中でもベスト3に入るものでした。そしてやはり有数の名作であるOP曲『Be The One』の歌詞の一番がまさにこの最終回の内容そのままであることに気づき、とめどなく鼻水を垂れ落したのでありました。こんなにもわたしを泣かせた平成ライダー作品は、小林靖子脚本以外では『鎧武』くらいであります。

もう終わっちゃいましたけど夏の劇場版『Be The One』(まぎわらしい)についても少々。実に『フォーゼ』から6年ぶりに夏ライダーを映画館で観てまいりました。最近の夏映画で多いのはなくても支障なさそうな後日談とか、パラレルワールドのお話とか。しかし今回の『ビルド』の映画は最終回直前にあった大事件を描くという、本編にがっつりからむ位置づけになってました。こういうの平成ライダーでは他に『W』くらいしかなかったのでは。ずるい気もしますけど、そうなるとやっぱり最終回の前に見たくなりますよね… 同じように思った人が多かったのか、今夏のライダー映画は5年ぶりに興行収入が10億を越えたそうです。ここんとこ子供たちはもっぱらニチアサより鬼太郎に夢中、みたいな噂を聞いていたので、これは嬉しい驚きでした。

現在放映中の『ジオウ』でとうとう20作目を迎えた平成ライダー。果たしてどこまでいくのでしょう。というか『クウガ』の時からもう20年も経ってしまったという現実におじさんは深く頭を抱え込むのでしたあああああああ

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June 13, 2018

美青年と野獣 『仮面ライダーアマゾンズ』ドラマ&劇場版『最後ノ審判』

Aomegatop2_thumb奇跡の三日連続更新に挑戦… 本日は一昨年のドラマシーズン1、昨年のシーズン2を経てこの度劇場版にてフィナーレを迎えた『仮面ライダーアマゾンズ』を紹介します。

ある地方都市で、大企業野佐間製薬が秘密裏に開発・培養していた生命体「アマゾン」が数千体脱走するという事件が起きる。アマゾンはある時期までは人間と寸分たがわぬ姿かたちをしているが、それを過ぎると異形の怪物に変貌し、人肉を欲するという性質を持っていた。野佐間製薬社長の息子として育てられた温厚な青年、水澤悠はある時耐えきれない暴力衝動に襲われ、自分も人口的に作られた存在「アマゾン」であることを知る。またその開発に携わった研究者、鷹山仁は責を感じ、自らを怪物に改造し「一匹残らずアマゾンを狩る」ことを誓う。二人の究極のアマゾンは何度かの出会いの後宿命の対決へと導かれていく。

明らかに『仮面ライダーアマゾン』のリメイク的なタイトルではありますが、オリジナルとはキャラクターの造形や幾つかの用語の流用、それにスプラッタ描写以外ほとんど接点がありません。おそらく「アマゾン」が「真(シン)」と並んで最もヒーローらしくない、怪物っぽいデザインだからこそタイトルにひっぱってきたのでしょう。あとスポンサーがamazone.jpだからという理由もあります。

ドラマシリーズは年齢制限のついた有料配信という形でリリースされました。それゆえ地上波放映ではできないような容赦ない残酷描写が頻繁に出てきます。そんなスタイルからもわかるように、この作品、「仮面ライダー」というよりかなり『寄生獣』に近いものがあります。人間そっくりの人間を主食とする怪物が徘徊し、それに対し怪物と人間の中間に位置する主人公が苦悩する…という流れなど明らかに意識してるのでは。

現代の科学技術でここまで高度な新生物が作れるのか?とか、なんで食人衝動なんて備えた生き物なんて開発したんだ?という疑問も生じますが、ここはひとつある種の寓話だとして乗り切っていただきたいと思います。
人間サイドから見るならば自分たちを食らうアマゾンは怪物で、それから身を守るのは正義ということになります。しかし人間とて自分たちの命をつなぐために他の生き物を殺して食べてるわけで。そうなると仮に人間より上位の存在がいたとして、彼らが生きるために仕方なく我々を食べるのは道理にかなったことではないのか?という論理も成り立つわけです。悠はこの終わることない二つのテーゼの相克に悩まされながら、「とりあえず目の前の命を救う」ことを目的として戦い続けます。そんな心の優しい悠ですら、生き物であるゆえに心の底にわずかながらの残酷性が潜んでいたりする。『アマゾンズ』ではこれまでヒーローもので扱えなかったそういったテーマがバンバンと描かれていきます。

そんな弱肉強食・生きるか死ぬかの世界観の中で、どうしようもなく優しいエピソードもあったりするので本当に小林靖子さん(脚本家)という方は憎たらしい。まるでボコスカに殴り飛ばした後に微笑んで「これで血をふけ」とでも言うような、そんな作家さんです。『仮面ライダー龍騎』で(一方的に)お会いしてから15年以上調教されてきたのですっかり慣れたつもりでおりましたが、この度の『アマゾンズ』ではさらにきつく、そして優しい一発…いや、百発をお見舞いされた気分です。

ちなみにシーズン2では悠と仁は一歩後に引き、新たな若いアマゾン、千翼(ちひろ)とイユという少年少女の恋物語が描かれます。冒頭こそ「なにこの胸キュンドラマ…」と若干引き気味で観てましたが、あっという間に靖子さんお得意の哀切モードに突入してまたしても涙を搾り取られることになりました。

そして現在公開中の完結編『最後ノ審判』であります。この映画では新たに人間に食べられるために育てられた「食用」のアマゾンが登場します。いくら国内の自給率が低いとはいえ、人間とそっくりな生き物を食用として売るとか無理がありすぎだろ!!!!…と思いますが、そこは寓話として(以下同文)。わたしは藤子F不二雄先生の名作短編『ミノタウロスの皿』などを思い出しましたが、いま少年ジャンプでもそんな漫画(『約束のネバーランド』)が連載されてるそうですね。
ともかくそういった設定からさらに強く浮かびあがってくるテーマ「誰だって殺してる 何かを殺してる(主題歌より)」。生きること(食べること)が罪というなら、わたしたちはその罪を自覚して、もっと謙虚に感謝して生きなければならないと思いました。
そして2年間つむがれた物語の果てに、悠と仁の戦いはいかなる決着を迎えるのか…

71zyv8avtll__sl1500_というわけで『仮面ライダーアマゾンズ』シーズン1・2は現在アマゾンプライムビデオにて有料配信中、劇場版『最後ノ審判』は映画館にて上映中…なのですが、映画の方ははやいとことでは明日で終わりだそうです… 嗚呼。数日前カリスマゲームクリエイター、小島秀夫氏がようやく注目している、みたいなツイートをされてましたが、遅いよ! せめてもう一月早く!!

おそらく他に誰もいないでしょうが、このままいくと上半期のマイベストムービーはこの作品になりそうです。少しでも気になった方はドラマシリーズからコツコツ観ていってください。DVDも出ております


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January 10, 2018

学者・医師・僧侶・神・教師・風来坊 『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』

20180110_130307以前は熱心にチェックしていたのに、微妙な作品が多くてついつい足が遠のいていた仮面ライダー映画。しかし「今度のは違う…」と聞いて半信半疑…いや、2割信8割疑でひさしぶりに観てまいりました。『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FINAL ビルド&エグゼイドwithレジェンドライダー』ご紹介します(相変わらずタイトル長い…)

巨大な壁により日本が3分割された世界。仮面ライダービルドこと桐生戦兎は怪人たちが現れたと聞いて相棒の仮面ライダークローズ=万丈龍我と共に現場に向かうが、謎の男「カイザー」の力により龍我は並行世界に飛ばされてしまう。そのもうひとつの世界で、龍我は同じように多くの「仮面ライダー」たちが存在していることを知る。やがてカイザーの企みが2つの世界を融合させ、消滅させてしまうことだと暴いたライダーたちは、次元を越えて手を組み、人々を守るために悪の帝王に敢然と立ち向かう。

最近のライダー映画には前作と放送中のライダーが競演する「冬映画」と、とにかくうじゃうじゃと全員集合する「春映画」、そして現行のライダーがピンで主役を張る「夏映画」があります。
いわゆる「春映画」に不評が多いのは、ライダー各作品の世界観がないがしろにされてしまうことが多いからでしょうか。「中の人」が出てくるのは全体のうちわずかで、ほとんどは変身しっぱなし。そして前の「彼ら」だったらやらないようなことを普通にやらかす。要するにガワは同じだけど中身は別人ぽいライダーが大量にうろちょろしてるだけのように見えてしまうのです。オタ…ファンはそういうところに厳しいのです。

ただこれには仕方ない事情もあります。いまや若手俳優の登竜門と化している東映特撮ですが、番組終了後中の人がブレイクしてしまうとギャラが高騰して(あるいは事務所の思惑で…)、「ライダー」として呼べなくなってしまうからです。佐藤健しかり、菅田将輝しかり。去年までは出られた竹内涼真君も今年は出られなくなったりとか。
しかし今回は大枚をはたいたのか、なんと久方ぶりに躍進著しい福士蒼汰君を「フォーゼ」として呼び戻すことに成功しました。他のライダー…オ―ズ、鎧武、ゴースト、エグゼイドらもみな放映時と同じキャストを集めております。オタ…ファンはこういうのに弱いのです。それは彼らの演告知のツイートが、東映映画公式Twitterアカウントの史上最高となる1日で5万リツイートと5万いいねを記録したり、ライダー映画としては何年かぶりかの週末1位を記録したことにも表れています。そしてさらに嬉しいのは、この映画が各シリーズのちゃんとした「後日談」になっているところ。

特に力を注がれていたと思しきは平成12作目となる『仮面ライダーオ―ズ』。主人公の映児のみならず、消滅したはずの相棒・アンクまで登場させてくれました。そしてこのアンク復活のくだりがなかなかよく考えられていたり、7年経った今でもコンビが全然変わっていないところに泣かされました。まあ全体からすれば彼らの登場場面は決して多いわけではないんですけど、それでもわたしにとってこの映画はウン年越しの『オ―ズ』の正統的な続編でありました。

各ライダーの主題歌が代わる代わる流れるエンディングがまたよかった。ろくろく観てない作品もあったけど(笑)、脳裏でここ数年の彼らの活躍がバーッとフラッシュバックしていくようでした。例によってストーリーは荒削りで強引なところもありましたが、そこは大事なところではないからいいのです。やればできるじゃないですか! 東映さん!!

さて、こんだけいいものを作ったあとで、問題の「春映画」はどうするのだろう…と思っていたら、今年はぐっと方針を変えてネット配信だった作品『仮面ライダーアマゾンズ』の劇場版をやるのだそうです。気になったので今更シーズン1をレンタルで鑑賞してみたら、これまた『寄生獣』の系譜につらなる大変な力作でした。劇場版の公開前に項を改めて感想を書くつもりでおります。
20180110_130212陛下も退位されることが決まり、「平成」ライダーたちの時代もそろそろファイナルを迎えつつあります。まあ元号が代わり、休止期間が訪れることがあっても仮面ライダーはこれからも戦い続けるのでしょう。ひきつづき応援してまいります。


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August 17, 2017

ビックリヒーローズ高校白書 ディーン・イズラライト 『パワーレンジャー』

0f638427f91e3c27cba4613325b9d21b夏休みもいよいよ後半。よい子の皆さんは宿題片付けてるでしょうか。本日はそんな子供たちに送る夏休み映画の1本『パワーレンジャー』をご紹介します。

アメリカの田舎町に住む高校生のジェイソンはアメフトの花形選手だったのに、派手ないたずらをやらかして居残り勉強をさせられることに。そこでいじめられっ子のオタク・ビリーになつかれてしまったジェイソンは、半ば強引に遺跡調査に付き合わされる。ビリーが発破をしかけると中に眠っていた超古代の装置が作動。偶然居合わせた他の高校生3人らとともにジェイソンたちは超能力に目覚め、装置の所有者であった異星人ゾードから「パワーレンジャー」に任命される。

日本人ならほとんどの人が知ってる長寿特撮シリーズ「スーパー戦隊」。作品ごとに設定は変わるものの、大体5人のヒーローチームが巨大ロボを駆って悪と戦うという内容です。その16作目『恐竜戦隊ジュウレンジャー』のころから、特撮パートだけを抜き出して、アメリカ人用に作り直したものが『パワーレンジャー』です。こちらも一応現在までオリジナルと並行してシリーズが継続しているとのこと。

というわけで基本は子供向けのはずなのですが、なぜかこれがけっこうしっかりした青春ドラマになっておりまして、スクールカーストやSNS、家族との関係など、現代アメリカのティーンが直面する多くの悩みが取り上げられたりしてます。
こうした作りは1985年の名作『ブレックファスト・クラブ』を意識してるようです(自分は観てませんが)。そちらは普段グループが異なるゆえ接点の無かった五人の高校生が、居残り勉強を通じて友情を深めていくという話だそうで。ともかく、米国の洋画・ドラマでは体育会系はオタクをいじめるのが相場と決まっているのに、のっけからいきなりかばってくれるというのはなかなか斬新でした(いじめっ子が速攻で親友になった『21ジャンプストリート』のような例もありますが)。

ただ青春ドラマとしての充実度が高くなればなるほど、「あれ? もしかして変身とか巨大ロボとかいらないんじゃね…」という気がしてくるから困ります。自分がこの映画を観た最大の動機は「巨大ロボの合体が気になるから」だったので。オリジナルの「ジュウレンジャー」のロボはそれはもう合体ギミックが秀逸で、何度もばらしたり組み合わせたりしてよく遊んだものでした(自分当時大学生でしたが…)。だから今回のロボ「メガゾード」もおおよそ合体しづらそうな形状なんですが、きっとその辺の描写をきちっとやってくれると期待してたんですが… 結論から言うと、上手にごまかされた、という感じでした。青春模様もいいけれど、まずはそこを!そこをしっかりやらないといけないのでは!! じゃないとお子様たちはオモチャを買いませんよ! もちろんわたしもです!(お前は買うトシじゃないだろ)。ハアハア、ハアハア…

またしても呼吸が荒くなってしまいましたが、全体的に丁寧な造りですし、クライマックスのバトルは燃えますので、そこは評価しております。

Img_0この『パワーレンジャー』、そんな風に一体どの年齢層に向けて作ってるのか微妙なため、本国・日本ともにきびしい成績になってしまったようです。しかし意外にもDVD・玩具関連の売れ行きは好調なようで(あれ?)。思わせぶりなオマケシーンもありましたし、がんばって続きを作っていただきたいものです。今度こそちゃんとした合体ギミックを披露するためにも。ちなみに日本での公開は残ってるところでも大体明日までです。

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August 14, 2016

残酷な遺伝子のテーゼ 庵野秀明 『シン・ゴジラ』

Photo蓋をあける前は昨年の『進撃の巨人』の再現か、と危ぶまれていましたが(わたしは大好きですけどね…)、公開されるや否や日本特撮映画久々の快作!と各所で大評判を呼んでいる本作。そんなわけで今回は日本では十二年ぶりの復活となりました『シン・ゴジラ』、ご紹介します。

東京湾を漂流していた謎のボート。調査に向かった海上保安庁のチームは、突如として海底で起きた爆発に飲み込まれ消息を絶つ。海底火山の噴火か…と内閣は推測するが、その後海中から巨大な尻尾が出現。爆発は未知の巨大生物に関わりがあることが明らかになる。やがて沿岸に上陸しその姿を現した怪獣。政府はある島の伝承に基づき怪獣を「ゴジラ」と命名する。ゴジラは付近の建物を盛大に破壊し海に帰って行ったが、それはまだ日本が直面する未曾有の災厄の始まりにすぎなかった。

最初にあまり語られることのない「1984年版」と重なるところが多いな、と感じました。対抗する怪獣が出てこない、政府がゴジラのために核兵器の使用を許可するか苦慮する、生物学的なアプローチからゴジラ退治の方法を考え出す…といったあたりが共通してます。ただ公開当時自分は小学生だったので、スクリーンでゴジラが観られただけで大満足でしたが、現在観てみて傑作かといえば幾分微妙と言わざるを得ません(^_^; 理由に関しては後ほどまた触れます。

そして何より思い出されたのは庵野監督の代表作『新世紀エヴァンゲリオン』です。襲来する未知の怪物、ブリーフィングルームで対策を練る特務機関の面々、都市機能を利用した迎撃方法、工場の生産ラインの細かい描写、そして画面にでかでかと映るテロップの数々、。最後のはもともと岡本喜八監督が好んで用いていた手法ですが、そういった演出を見て『エヴァ』を連想した人は多かったようです。
しかし『シン・ゴジラ』には『エヴァ』とは決定的に異なる点が二つあります。それについて述べましょう。

まずひとつは(当たり前ですが)この映画にはエヴァンゲリオンは登場しません。ウルトラマンも巨大ロボットも1984年版にさえ出てきた未来の超兵器さえありません。あくまで現実にある科学技術で、ミサイルも戦車砲も受けつけないバケモノをどのように倒すのか… そこがこの映画の見どころのひとつでもあります。一昨年のギャレス版でも描かれていましたが、ほとんど神とも言えるゴジラを前にして、人間たちは虫けらとほぼ変わりない存在です。そんな虫けらたちが頭を寄せ合い、あらん限りの知恵を絞って、集めて、ゴジラに立ち向かう。そう、今回ゴジラと戦うのはあくまで同格の怪獣ではなく、ちっぽけな人間たちなのです。

時々怪獣映画を観ていて「人間いらなくね?」と思うことがあります。怪獣映画の主人公というか語り手たちは、偶然その場に居合わせた一般人ということが多く、怪獣退治のヒントを見つけたりはするものの、自らがモンスターに立ち向かうことはあまりありません。まあ普通の人間がゴジラやその他の怪獣に立ち向かってもまず勝てませんからね。そこで最近どこぞのキャッチコピーにもありましたが、怪獣には怪獣をぶつけて事態の収拾をはかるわけです。しかしそうなると主人公たちはほとんど傍観者となって怪獣同士の闘いを見守るだけになり、先ほど述べた「人間いらなくね?」につながるわけです。あくまで人間が怪獣と真っ向から闘いを挑むのは、それこそ一作目『ゴジラ』や、平成ガメラ三部作、やはり平成に入ってからのメカゴジラ関連作品、『パシフィック・リム』くらいでしょうか。ちなみに対抗する気など全くなくてただひたすら逃げることに徹したのが『クローバーフィールド』です。

で、現実に怪獣が出現した場合、そいつと戦うことになるのは誰になるでしょうか。それは自衛隊であり、また自衛隊に指示を下す政府のお役人さんたちであります。居合わせた少年でもなく事件記者でもなく、このお役人とゴジラの戦いを真っ向から描いたところが、今までなかった『シン・ゴジラ』の新しい部分と言えるでしょう。

そのお役人の中心となるのが長谷川博巳氏演じる官僚・矢口蘭堂です。ここが『エヴァ』と決定的に違う点の二つ目ですが、この矢口さん、基本的にどんな時も恐ろしいほどに前向きです。次々と不測の事態が起きても絶えず次の手段を考え続けます。一秒たりとも迷ったりはしません。あのことあるごとに「戦いたくない」「なんでぼくが」と愚痴っていた『エヴァ』のシンジ君とまるで正反対の存在であります。そこだけ考えるととてもあの『エヴァ』を作った人の手掛けた作品とは思えません。聞くところによるとこの作品を撮る少し前まで、庵野監督はちょっとした鬱状態に陥っていたとのこと。それを聞くとますます「どうしてこんな前向きの映画が出来たんだろ?」と思えますが、そこまでポジティブなキャラクターに自分を投影しなきゃ鬱から抜け出せなかったということなのかな? ともあれ、監督がそうすることで回復したのなら実に喜ばしいことであります。

おそらく、庵野監督に鬱をもたらした原因のひとつに、3.11に起きた巨大地震と原発事故があります。これらの災害を怪獣映画として表現したという点でもかつてない作品です。1954年のゴジラが核兵器の申し子であるならば、2016年のゴジラは原発のメタファーであるというわけです。『エヴァ』がブームだったころ、インタビューで監督は「ぼくたちの世代には何もない」ということを言ってました。前の世代は戦争や安保闘争といった国を揺るがすような事態を体験しているけど、ぼくらにはそれがない。だからサブカルにのめりこむしかなかった…といった趣旨の発言だったかと。しかし不幸なことに、わたしたちも2011年、そうした事態に直面してしまいました。その体験や考えたことを庵野氏はこの映画に全力でぶつけています。「最後まで、この国を見捨てずにいてやろう」と言う矢口。やっぱり庵野さんは、そしてわたしもこの国が好きなんですよ。だってこんなにサブカルにまみれたヘンテコな国はそうないですからね。これは「愛国心」とは違います。「好国心」とでも言うべきか。国のために犠牲になる気はさらさらないけど、平和にサブカルが楽しめるようなんとかしていきたい… そんな気持ちでしょうか(^_^;

まあ正直この『シン・ゴジラ』、完璧な作品ではありません。あえて申しませんが、愛すべきつっこみどころも幾つかあります。それでも斬新で圧倒的な映像で細かい欠点をねじふせております。それが1984年版には足りなかった。この映画がこれだけ高い支持を得ているのは、その映像力にやられた人たちがそれだけいたということなのでしょう。もちろんわたしもその一人です。
B4zzvkmcyaemsa_『シン・ゴジラ』は現在二週にわたって売り上げトップを占めるほどの大ヒットを記録(信じられん…)。これでなんとか「次」にはつながったかな。少なくとも12年待たされることはないでしょう(笑)


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April 06, 2016

タケシとヒロシの間に 石ノ森章太郎・金田治 『仮面ライダー1号』

Mr1g1ここ数年、毎回アレな出来にも関わらずアクの強い企画にひかれてつい行ってしまう春の仮面ライダー映画。今年はいつもと違う重厚な雰囲気や脚本を井上敏樹氏が務めるということで「もしや…」と期待してみた(懲りないw)のですが果たしてその結果は。仮面ライダー45周年記念作品『仮面ライダー1号』、ご紹介します。

仮面ライダーゴーストこと天空寺タケルは、街で暴れている怪人の一団と、彼らに追われている少女と出会う。さらにそこへ少女を守ろうとする一人のただならぬ風格の男が現れる。彼はこの世に誕生した最初の仮面ライダー、1号こと本郷猛であった。そして追われていた少女は猛にとって父のような存在であった立花藤兵衛の孫・麻由であった…

え~、結論から申しますと、藤岡弘、さんのアイドル映画でした! つまり藤岡さんが自分の言いたいメッセージを全開で発信し、若い女の子といちゃいちゃし、かっこいいところではバシッと決めるそういう映画でした。
わたくしさすがに仮面ライダー1作目は生まれてなかったこともあってそんなに観てないのですが、本郷猛ってそんなに自己主張の強いキャラではなかったんではないでしょうか。こう言ってはなんですけど、もっと没個性的というか平均的な正義の味方だったように思います。藤岡さんも当時は駆け出しということもあって、自分の個性を前に出すことよりも「本郷猛」というキャラクターを演じることを優先していたでしょう。
ところが今回の映画では藤岡さんが普通に藤岡さんのまんま仮面ライダーを演じています(笑)。後輩のゴーストに「命とはなんだ!?」と哲学的な問いかけをし、現代の若者たちに戦争や環境問題について警告を発しておられます。
本郷さんも長い間海外をさすらってるうちに、社会問題について深く考えるようになられたのかもしれません。石ノ森章太郎先生もヒーロー漫画の中でよく公害や差別問題を題材にされてましたしね… でもそれにしてももう少しバランスよくというか、活劇の合間にさりげなく、という風にできなかったものでしょうか。
さらに必然性もなく出てきたノバショッカーの計画や、脈絡もなく出てくるアレクサンダーの魂とやらが混乱を増幅させてくれます。

…よかった点もあげておきましょう。まず予告にもあった暗闇の中立ち上がるちょっとマッチョのネオ1号のビジュアルが大変かっこよかった。ここだけでもまあなんとか元は取れたかな、という気もしないでもありません。
あと古びたガレージで本郷がおやっさんの写真を拾って「帰ってきたぜ…」とつぶやくシーン。ここに限ってはちゃんと藤岡さんも本郷猛を演じていたと思います。
他にはキャリアもあるのに地獄大使を嬉々として演じておられる大杉漣さんとか。ディケイド劇場版もあったからこれで二度目ですかね。お疲れ様でした。最初の方で竹中直人がカラオケに興じてるシーンで場内の子供たちが大うけしてたのもよかったです。そんなもんかな~

また当分「1号」を映画化することはないでしょうけど、できたら和智正喜先生の小説『仮面ライダー 誕生1971』を原作に忠実に映画化してほしいんですよね… さらにできたら金子修介監督で、長谷川圭一氏か小林靖子女史の脚本で。わたしが生きてる間になんとか…なんとか実現しないものですかねえええ(別に不治の病でもなんでもありません)

Mr1g2『仮面ライダー1号』は現在全国の映画館で中ヒット中。あとライダー関連ではアマゾンプライムビデオとやらで『仮面ライダーアマゾンズ』というダジャレみたいな企画が配信されていて話題を呼んでいます。冗談みたいなタイトルの割にこちらは初期平成ライダーを思わせるムードで本当に面白そう。でもそれだけのために入会するのもなんなのでDVD化をじっくり待ちたいと思います。


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March 31, 2015

三代目は黒井さん 『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』

Mainいつの間にやら春の恒例となってしまった「東映ヒーロー大集合シリーズ」。本日はその最新作である『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』、ご紹介いたします。

1973年(オレが生まれた年じゃねーか)、仮面ライダー1号2号の戦いによりショッカーは全滅。世界には平和が訪れたはず…だった。突如として発生した時空の歪みにより、ダブルライダーの前に現われたのは、彼らを上回る性能を持った「仮面ライダー3号」。そしてこの時空改変は2015年の仮面ライダードライブの戦いにも重大な影響を及ぼす。

夏の単品映画も冬の「MOVIE大戦」も最近は足が遠のきがちなわたくし。だのになぜ最もファンからの評判が悪い春映画を観続けているかというと、「なつかしのあの人・あのキャラ」を大画面で観られるからにほかなりません。今回も仮面ライダーブラックの倉田てつを氏や、同555の半田健人氏、同ギャレンの天野浩成氏といった面々が「ライダー」として出演してくれています。それに加えて謎の新ライダー「3号」まで登場するという。
情報を漁ったところによると、この1号2号に近いデザインで「V3」とはまた別の「3号」(上画像参照)は、本当は新ヒーローとしてTVに登場するはずだったものの、企画変更により設定から抹消。辛うじて幼年誌に一度登場したのみの不憫なキャラクターであります。ウルトラセブンの夢の中にだけ出てきて、以後完全に忘れられてた「セブン上司」を彷彿とさせますが、あちらは一応映像に出てきましたからねえ… 
ともかくこのものめずらしいヒーローの勇姿が観たくて今回も足を運んでまいりました。以下、中バレ気味で

それ以外に個人的に盛り上がったのは石ノ森章太郎氏の漫画版『仮面ライダー』へのオマージュが幾つか見受けられたこと。喫茶店のマスターでなく、執事姿の立花藤兵衛や、巨大なコンピューターと化した本郷猛とか。
あとこんな映画ではありますが、「歴史の縮図」というものがそれなりに表現されていたと思います。仮面ライダーにしてもショッカーにしても、何度滅ぼされてもその都度復活してくるんですよ(笑) 健全な社会も恐ろしい独裁政府も永遠に続くものではなく、歴史を通じて繰り返し繰り返し出現するものなんではないでしょうか。
そしてその正義と悪も、はっきり二つに分かたれているというよりかは、境界線が非常にあやふやだったりして。ことに仮面ライダーは善悪の狭間でふらついているような人が多いのですが、今回の映画ではタイトルの「3号」を筆頭にそれが顕著でした。

さて、いい加減褒めたので次は困った点を…

プロデューサー白倉伸一郎氏の見上げたところは、「同じものは二度とやらない」ことを心がけていることです。傍からはほとんど同じように見えたとしても、毎回何かしら新しい要素や試みを盛り込んできます。この「スーパーヒーロー大戦」シリーズで申しますと 

スーパーヒーロー大戦→ライダーと戦隊を戦わせてみました
同 Z→その戦いに宇宙刑事も混ぜてみました
仮面ライダー大戦→今度はライダーたちを昭和世代・平成世代に分けて戦わせてみました
今作→幻の「3号」を登場させてみました。そんでライダーたちにレースをやらせてみました 

こんな感じかと。こうしたマンネリズムを嫌う姿勢はまことに天晴れです。ただ問題はこの実験精神が作品の完成度や「燃える展開」を著しく低下させてるということですね(^_^; 今回も「そこはおかしいだろ」「それはあまりに無茶だろ」「あなたはいったいなにがしたいの!?」というところいっぱいありましたw
スケジュールが押し迫ってる中、ビックリするような設定をつめこんで、しかも感動させるお話を作る… 確かにそれは至難の業かもしれません。でも『アギト』~『555』の映画の時はそれなりに出来てたんだから、決して不可能ではないと思うのですが。

まあ面倒くさいオタクとしてはそんな風に感じましたが、もっと重要なのは子供たちがこういうのをどれほど楽しんでいるのか、ということですね。自分が子供のころにこれを観たら、そこそこ楽しめるような気はします。ただ今回は平日の20時からの鑑賞ということもあって、お客さんがわたし一人だったのでお子様たちの反応は確認のしようがありませんでした。子供たちからの支持があれば来年も再来年も続くでしょうけど、彼らが置いてけぼりになっているのであればそろそろこの春の大集合シリーズも終了するんではないでしょうか。その辺は少し時間が経ってみないとわかりませんね。
Img00161『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』は現在全国の映画館で上映中です。そしてビデオ配信による『仮面ライダー4号』に続いてしまうとか…

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June 05, 2014

アンドロイドは電磁エンドの火花を散らすか 石ノ森章太郎 下山天 『キカイダーREBOOT』

Img00672電流火花が体を走る~♪ 本日は40年ぶりの復活で喜ばしいはずなのに、例によって特撮ファンの間に物議をかもしちゃってる(^_^;『キカイダー REBOOT』を紹介します。スイッチ~~オン!

現代日本。災害救助や資源発掘のためロボット開発に携わっていた光明寺博士は、スポンサーである政府の機関が、彼の研究を軍事目的に利用しようとしていることを知る。激怒した博士は研究のデータをある場所に隠したが、ほどなくして彼は不可解な死を遂げた。
それから少し後、博士の遺児であるミツコとマサルは、突然謎の集団により拉致されかかる。二人の窮地を救ったのは、博士が作ったアンドロイド、「ジロー」こと「キカイダー」だった。

説明不要とは思いますが『キカイダー』とは第二次特撮ブームに作られた石ノ森最章太郎原作の特撮ヒーロー。鉄腕アトムのように自分が「作られた機械」であることに悩む主人公の姿が、根強いファンを生んだ作品でした。さて、最近の東映の特撮映画というのは、ほとんどがTVシリーズの番外編であります。地獄のようなスケジュールの合間を縫って作ってるわけですから、当然かけられる時間と完成度には限界があります。
それらはそれらで楽しんでいたわたしですが、ここらでハリウッド映画のように、ちゃんと映画だけで独立したヒーロー映画が観たいと思っておりました(東映以外だと少し前に『電人ザボーガー』がありましたが)。
そんなところへ流れてきた『キカイダー』新作の予告編。おお、これはかなり気合入ってる! 少なくとも予告だけならハリウッドとそんなに遜色ない!と、期待に胸躍らせたのでした。では結果はどうだったでしょう(笑) 

まず主演の俳優さんがロボットに見えるかどうか。これは新人さんのぎこちなさゆえか、一応それらしく見えました。序盤・中ごろのスピーディな戦闘シーン、スタイリッシュでありながら旧デザインを踏襲した造形もよかった。なぜいまロボットであり、「キカイダー」なのか。その題材を選んだ理由もきちんと作中で語られ、十分納得のいくものでした。
で、ストーリーの方… 以下は中盤過ぎまでネタバレしちゃってるのでご了承ください。

導入部、ヒーローの登場、序盤の見せ場、そこまではけっこう食い入るように見てました。少々長いかな~と思いつつも、逃亡するジローと姉弟の交流のくだりも『ターミネーター2』のようで好感が持てました。問題はその後です。
戦闘を制御する「良心回路」のゆえか敵組織のアンドロイドに敗北を喫したジローは、ミツコとマサルが投降したことにより救われます。ここから自分の「使命」を失ってしまったジロー君の自問自答がここからえんえんと始まります。その辺がやっぱりくどくて長い(笑) もう少しコンパクトにまとめられなかったものかと思います。
そしてここが『キカイダー REBOOT』の最大の問題点というか特異な点なんですが、ヒーローであるキカイダーが後半から救う側から救われる側になってしまうんですよ。ヒロインはもう完全に安全圏内にいるのに、無茶をするジローを助けるために自分から危険な領域に飛び込んでしまうのですね。
まあジローの存在自体がヒロインを精神的に救ったとも言えないこともないし、こういうヒーロー像も斬新といや斬新です。ですが「スカッとするか」と言えばどうにも厳しいものがあります

ヒーローものだから必ずしもカタルシスがなければいけない…とはわたしは思いません。でも爽快感を犠牲にするのであれば、もっと観客の心にズシンと来る様な衝撃というか「狂気」がなければならないと思います。『キカイダー REBOOT』には「本気」は十分感じられたけど、そこまでの「狂気」は正直感じられませんでした。

しかし、です。ようやくこのような特撮映画が本気で作られるようになったのですから、そのことをまず喜ばなければなりません。何事も最初から100点満点が取れるわけではありません。ここをスタートとして、さらなる高みを目指してほしいものです。
で、課題としてあげておきたいのはやはり「脚本」ですね。日本特撮界には小林靖子、太田愛、長谷川圭一といった豪腕ライターたちがいらっしゃるので、そうした方たちを積極的に起用していただきたい。小林さんなんかはTVで手一杯かもしれませんが、いつか時間が空いたらね…

というわけでいろいろくさしてしまいましたが『キカイダー REBOOT』、無理と知りつつそれでも多くの人に観てもらいたいです。日本の特撮映画がなんとか次の段階へと進むために。Img00673


予断ですが、原作漫画『人造人間キカイダー』のラストはかなりひどいです。「衝撃的だ」と見る向きもあるようですが、あれはやっぱりひどい(笑)折りよくコンビニで廉価版が全二冊で出るようなので映画と合わせてぜひごらんください!(それで薦めてるのかお前は!)

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