November 05, 2008

シシ狩人の十六将 田中芳樹 『アルスラーン戦記⑬ 蛇王再臨』

081104_174436たいへんじゃ~ッ みなのしゅ~
ついに、ついにヘビ王さまが復活なされた~ッ!!

・・・失礼しました。ササン朝ペルシアをモデルにした田中芳樹氏の架空歴史小説(もうここまで来ると普通にファンタジーだろ)『アルスラーン戦記』第13巻「蛇王再臨」が、このほど発売となりました。
ついでにいままで書いた記事を。第1部のまとめはコチラ 第2部のまとめはコチラ
驚くべきことにここ三年毎年新刊が出てますね。光文社さんにはよほど腕利きの担当さんがおられるようです。
それにしてもこのサブタイ、個人的にはなかなか感慨深いものがあります。あれは確か二巻目のあとがきでしたか。「すでにタイトルが決まってる巻もあります。(略)『蛇王再臨』とか」 当事中学生だったわたしは、「いったいどんな展開になるんだろう? わくわく」と胸を躍らせたものでした。
・・・・まさかこんな三十を幾つか越したオヤジになってから、その現物を拝むことになろうとは夢にも思いませんでしたよ・・・・ その間に『グイン・サーガ』なんていったい何巻出たと思ってるんですか! 田中さん!

えー、それでですね。この巻でアルスラーン配下の「十六翼将」がようやく勢ぞろいします。どんな人がいたのか順々に思い出してみたいと思います。

☆ダリューン
十六翼将の筆頭で、現時点で人間では最強のキャラ。三国志でいえば関羽のような存在。なぜか黒衣を好む

☆ナルサス
パルスの天才軍師。三国志でいえば孔明的なキャラ。本人ははやく芸術の道で生きて行きたいと願っているのだが、絵の腕に関しては「ヘタクソ」ということで周りの意見は一致している

☆ファランギース
絶世の美貌を誇る神官。笛と弓と陰陽道に長けている

☆ギーヴ
元ストリート・ミュージシャン。田中氏お得意のプレイボーイ・キャラ。ファランギースにつられてアルスラーン陣営に加わった

☆エラム
☆アルフリード
方やナルサスの小姓、方や押しかけ女房(未だに一線は越えてないようだが)
「マスコットがいた方が楽しいだろう」「女子がもう一人いた方がにぎやかだろう」という戦隊的な発想で加えられたキャラかと思われます

☆ジャスワント
インド人。もともと敵陣営にいたが、アルスラーンの人柄に心打たれて配下となる。スタミナ自慢で寒さに弱い


この七人はアルくんが素寒貧のころから苦楽をともにしてきた、十六翼将の中でも中心的な存在。「アルスラセブン」とも呼ばれています(ウソ)。
アルくんが第一部クライマックスで「力を貸してくれるか?」と彼らに尋ねるシーンがあるのですが、その時の反応が七人七様で面白いです。
ダリューン 「生命に代えましても」
ナルサス 「非才なる身の(ブラフ)全力をあげて」
ギーヴ 「おれでよければおれなりに」
ファランギース 「ミスラ神の御名のもとに」
エラム 「おともさせていただきます」
アルフリード 「ナルサスたちといっしょに」
ジャスワント 「こ、心から!(ボキャ貧)」


次いで父王アンドラゴラスの代から王家に仕えている、「パパのお下がり」的な武将が二人。

☆キシュワード
十六翼将中一番のベテラン・・・といっても34歳(追い越しちまっただよcrying
二刀を使うため「双刀将軍」の異名も。メンバーで子持ちなのは彼だけ

☆クバード
ほら吹き、酒好き、女好きと三拍子そろった隻眼の武将。もちろん腕は確かで、出世欲がないのもいいところ


さらに「その他大勢」的な武将(ヒドイ)6人。前の記事で書いたヤツもいますが、まあ記念ということで
まず第一部中盤で「侵略者撃つべし」というアルスラーンの号令に答えて集まった武将三人

☆ザラーヴァント
童顔のため、ヒゲを生やしてごまかしている。土木工事の指揮が得意
☆イスファーン
極めて短期間ではあるが、狼に育てられてたことがある。その恩返しのせいか、ペットに狼を引き連れている
☆トゥース
腕に巻いた鎖を武器とする「鉄鎖術」をよくする武将。さして面白みのないキャラだったが、近刊で三姉妹を同時に娶るという犯罪まがいのことをやってのけた


次いでアルくんがオヤジに軍隊をもってかれてまた根無し草になった際、あちこちで拾ったりひっぱってきたりした3名

☆ジムサ
遊牧民族出身で吹き矢が得意(せこい)。もともと敵陣営だったが(略)。前の巻で幼女になつかれていたが、あの娘はいったいどうなっただろう
☆メルレイン
アルフリードの兄で盗賊ゾット族の族長。族長の座をゆずるべく妹を探していた際、なりゆきでパルス軍に加わる。弓矢が得意でいつも不機嫌な顔をしている
☆グラーゼ
港町のあきんど。武将となってからはパルス海軍を一手にたばねる

そしてこの最新刊にて加わる十六番目の武将・・・ですが、これから読まれる方もおられるでしょうし、とりあえず名を伏せておきましょう。なかなか意外な人物でした。

さて、13巻前書きにはこんな内容の文章が。「この巻からどんどん死んでいくキャラが増えていきます」

・・・なんやねん! そろたと思たらもう解散かい!

081104_174548予定では次の巻で完結のはずだったですが、新刊にはどこにもそんなこと書いてないので、たぶんもうちょい続くのではないでしょうか。

左の画像はわたしがかれこれ二十年前に買った角川文庫版第一巻。
♪あのころに~ もどれたら~ ららららら~

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October 28, 2008

適当掲示板72&我が愛しの絶版本

ようやく涼しくなってきたこのごろ、みなさまいかがお過ごしでしょうか。当ブログに関するご意見ご感想そのほかございましたら、こちらに書き込んでやってください

さて、読書の秋でございますね。最近本の整理をしているのですが、いろいろ昔のなつかしー本など出てきました。今回はその中でも現在入手しにくいものでもさくさくっと紹介してみることにいたします。

20070512134531まずは定番のアメコミから。以前にも紹介したウォッチメン日本語版。冷戦の時代を舞台にヒーローたちの暗闘を描いた「アメコミの最高傑作」との呼び声も高い作品です。当事でさえ4千円しましたけど、いまアマゾンで中古品見たら3万円の値が付いてた。すげーwobbly
以前映画化の話があったとき、ジャイヴさんから復刊されかけたのですが、映画化がポシャると同時にそっちの話もなかったことに。時は流れて今度こそ映画化が実現しそうな雰囲気だったんですが、権利問題で訴えられて、またもや難航している模様。つくづく呪われてるよな、この企画。


20060509180104半端な画像ですいませんが、二冊目は右寄りに写ってる山田風太郎の『忍者黒白草紙』。『天保忍法帖』を改題したご存知忍法帖の一作。怒涛の山風復刊ブームの時でさえ見送られた(笑)、いわくつきの作品です。よく『忍法双頭の鷲』と並んで「忍法帖ワースト長編」と言われてますが、天保という時代に興味あるひとならまず面白く読めるんじゃないでしょうか。驚くべき事に『ナポレオン 獅子の時代』などで知られる長谷川哲也氏が、現在ウェブコミックでこちらのコミカライズを熱烈連載中。長谷川さん・・・ あんたもマニアやねえ。


20060521212651お次は手塚治虫文化賞受賞作『風雲児たち』のみなもと太郎先生の『向こう傷のチョンボ』と『学園無頼帖』
一昨年行われた「みなもと太郎と語る会」の際、先生がご自分の蔵からどどーんとビンゴ景品を持ってきてくださりまして、その中から引き当てた二冊。
二つとも「若木書房」という出版社の「コミックメイト」というレーベルから出てるんですが、この会社、まだあんのかしら。


20060414212536さらに行きます。社会思想社の教養文庫という大層な名前のレーベルから出ていた、夢野久作先生の『爆弾太平記』。
実は表題作は全体の三分の一くらいで、あとはほとんど『犬神博士』という中篇が占めております。
この社会思想社もいまは消滅しております。巻末を見ますとほかに「小栗虫太郎全集」「香山滋全集」「山田風太郎傑作選」なんてのを出していた模様。どこが「教養」文庫だよ(笑)。こんだけマニアックな本ばっかり出してたら、そりゃあ潰れもするでしょうな。


081028_122616お次は石ノ森章太郎先生が、幾つかの少年誌にて連載された『リュウの道』『原始少年リュウ』『番長惑星』の『リュウ三部作』。各作品に直接の関わりはなく、リュウという似たルックスの少年が、それぞれ未来・原始時代・パラレルワールドで活躍するお話。「第4作」的な『ギルガメッシュ』という作品もあります。
画像は竹書房が共通デザインで出してくれた文庫版。現在絶版となっておりますが、ネット古書店などを探せば比較的容易に入手できるはず。わたしが求めた三部セットは「日焼け・タバコの匂いあり」ということで若干お安くなってました。


081028_123542今度はぐっと渋系の作品を。フィンランドの作家が書いた古代エジプトの物語『エジプト人』(まんま)。エジプトの宗教改革の時代を舞台に、ミイラ医師シヌヘ(・・・・)の半生を描いた作品。画像は今から20年ほど前に、角川さんが復刊フェアの際に出してくれたものです(全三冊)。
特に覚えているのはシヌへが悪い女にだまされてしまったせいで、命より大事な埋葬代を失ってしまったにも関わらず、「お前はわたしたちの誇り」とご両親が手紙で述べるくだり。「親ってありがたいな」と思いました。


081028_123653どんどん行きます。横田順彌氏が明治期のへんてこな本を研究した『日本SFこてん古典』。どうですか。この読者をなめくさったタイトル。しかしそれとは裏腹に、中身はなかなか資料的に価値の高いものとなっております。夢野久作や平賀源内の『風流志道軒伝』などはこの本で教えてもらいました。理科の教科書と『太閤記』を融合させた『炭素太閤記』など、わけのわからん(でも面白い)珍品がたくさん紹介されています。


081028_123724こちらは「世界名作劇場」末期の傑作(あ、でも最近復活したんだっけ)、『ロミオの青い空』の原作『黒い兄弟』。煙突掃除夫としてミラノに売り飛ばされた少年の、冒険と友情の物語。ちなみに原作では主人公の名はロミオではなく、ジョルジョとなっております。
画像は福武文庫版ゆえ、いまでは絶版となっておりますが、あすなろ書房版だったら普通にオンライン等で入手できるかも。


081028_123233こんなのまで出てきました(笑)。以前ハヤカワ文庫より出ていた『超人ハルク対スパイダーマン』。表紙から見事なまでのB級臭が漂っております。値段も見事に百円coldsweats01
てゆーかこの本まだ読んでなかった・・・ なんか読まずとも持ってるだけで安心できるような、そんな本ですね。わたしにとっては。


書棚をさらすとゆーことは、そのままその人の人格を表すことらしいです。・・・・ろくなもんじゃないですね。
それではみなさん、また次回。

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October 17, 2008

泡坂妻夫を語りたい 泡坂妻夫 『喜劇悲喜劇』

20070620200944毎度時代と逆行している小説コーナー。今回は先日デパートの古書市で見つけた泡坂妻夫氏のミステリー『喜劇悲喜劇』を紹介いたします。

妻に去られて以来、酒びたりになり、仕事もうまくいかないマジシャンの楓七郎。ある日彼のところへ久しぶりに出演の以来が来る。豪華客船ウコン号で行われるマジックショーのメンバーに選ばれたのだ。だが驚いた事にそのメンバーの中には、七郎の別れた妻、唄子も入っていた。ショーに向けてリハーサルが進む中、事件は起きた。道化師の「たんこぶ権太」が何者かにより殺害されたのだ。ところが興行主の床間亭馬琴は公演を行うために事件の隠蔽を図る。そして七郎はこれより前にもウコン号で殺人事件が起きていたことを知る・・・・

作者の泡坂妻夫氏は、田中芳樹や連城三紀彦といった才人を多く世に出した、伝説の雑誌『幻影城』の出身。その後島田荘司氏や岡嶋二人氏と並んで、70年代、80年代の本格ミステリを支えた方です。
その作風は、「まるで手品のようで」「機知と稚気に富む」。社会派的な問題提起や文学的な命題はうっちゃっといて、ただひたすら読者を驚かせること、楽しませることを至上としております。氏は自身アマチュアの奇術家なので、そういった趣味が作品にも反映されております。また奇術自体が作品のテーマとなることもしばしば。

例をあげるなら、新潮文庫より出ていた『生者と死者』(絶版・・・)。この本は何ページかごとに袋とじの体裁になっていて、そのままでもロマンチックな短編小説として読むことができます。ところが袋とじを開くとあら不思議、全く違ったユーモアミステリーへと早変わりしてしまいます。その前の作品である『しあわせの書』もミステリ小説であると同時に、そのまま手品の道具としても使える実に凝った作りになっています。こういうくだらないことに異常なまでの努力を注ぎ込む人が、わたしは大好きですcoldsweats01

この『喜劇悲喜劇』はなにが変わっているかというと、とにかく徹底して「回文」にこだわっているということ。まずタイトル、そして章題が全て「期待を抱き」「唄子が答う」「大敵が来ていた」というように、全て回文で作られています。ちなみに序章は「今しも喜劇」、終章は「奇劇も終い」となっておりますcoldsweats01
章題だけでなく登場人物も「たんこぶ権太」「瀬川博士」というように回文の名を持つ者が多数登場。そしてこういった名を持つ者が次々と殺害されていき、名前と事件にどのような関係があるのか・・・ということがメインの謎となっております。
また作中ではキャラクターによる回文談義もあり、「草の名は知らず珍し花の咲く」「キャラメル噛み噛みカルメラ焼き」などといった面白い例を幾つか教えてもらいました。

ただ残念ながらこの本も残念ながら絶版・・・ 氏のミステリはどれもハズレのない傑作ぞろいなのに、今となっては入手困難なものが多いのが歯がゆいです。
比較的手に入りやすいものは創元文庫から出ている最初期の三長編『11枚のとらんぷ』『乱れからくり』『湖底のまつり』、それに連作短編集『亜愛一郎』シリーズくらいでしょうか。特に『乱れからくり』は第31回日本推理作家協会賞を受賞した大傑作です。 あと上に挙げた『しあわせの書』もまだ辛うじて普通に買えるようです。

081017_192635デパートの古書市も、たまーにこういう掘り出しものが見つかるので侮れません。

回文に話を戻しますと、最長例は「力士出て 塩舐めなおし 出て仕切り」と聞いたのですが、ウィキを見るとさらに長い例が幾つか出ております。ご興味おありの方はのぞいてみてください。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9E%E6%96%87

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September 27, 2008

究極戦神あーる スティーブン・ハンター 『悪徳の都』

080927_131540昨年の『極大射程』映画化が記憶に新しい(というか、もう忘れられつつある)「スワガー・サーガ」。先日最新作『四十七人目の男』が刊行されたので、わたしも久しぶりにシリーズを読んでみることにしました。ただしこの度はボブ・リーの話ではなく、その親父アールの物語。シリーズとしては通算五作目となる『悪徳の都』(上下・扶桑社ミステリー文庫)です。

第二次大戦中、激戦地硫黄島にて無数のジャップを地獄に叩き落した鬼曹長アール・スワガー。彼はその戦績のゆえに名誉勲章を授与されることになったが、華やかな式典の最中にあっても、心は陰鬱に沈んでいた。
そんな彼にフレッド・ベッカーと名乗る一人の野心的な検察官が近づく。彼は近々行われる選挙にて政界への進出を目論んでいたのだが、それに弾みをつけるために、退廃的な産業でにぎわう町、ホット・スプリングズの浄化を計画していた。違法営業の店を鍛え抜かれた精鋭たちで、力ずく銃ずくで摘発する・・・ そのチームの指導を、アールに依頼したのだった。しかしそれは同時に町をとりしきるギャングのボス、オウニー・マドックスを敵に回すことになる。
命のやり取りに明け暮れた日々は、もうたくさんだったはずだった。だがアールはいつしかその申し出に耐え難い誘惑を感じ始め、身重の妻を残して「悪徳の都」ホット・スプリングズへ向かう・・・

スティーブン・ハンターはボブ・リーにまつわる4篇の物語を著した後(ただし二作目『ダーティホワイトボーイズ』にボブは登場しない)、今度はボブの父、アールを主人公に据えた話を三作書きます。その一作目が、この『悪徳の都』というわけ。

単独プレー、あるいはコンビで動くことが多かった息子に対し、父アールはどちらといえばチーム・プレイが本領のよう。入念にブリーフィングを重ねて、目指す拠点に急襲をかける様子は、映画『アンタッチャブル』を思い出させます。また劇中では「ボニー&クライドを追跡したことのある元FBI捜査官」や、『バグジー』で知られるベン・シーゲルなども登場し、映画ファンの好きそうな要素がいろいろ顔を出してきます。

そうしたアクションと平行して、スワガー家のさらなる源流についても描かれます。アールの父はチャールズという名で、地域で最も尊敬を集めた保安官でした。そしてアールのほかにもう一人「ボブ・リー」という息子がいたのですが、彼は不幸な死を遂げております。いったいスワガー家で何が起きていたのか。そしてこの哀れな弟の名を、息子に継がせたアールの真意は・・・・

チャールズ、アール、ボブ・リー。上っ面だけ見るならば「アメリカ人男性の模範」ともいえる血筋のように感じられます。まさに血は争えないというか、蛙の子は蛙というか。しかしその内側に目を向けるならば、遺伝子というものが本当にあてにならないことがわかります。
劇中でほとんど取り乱すことのなかったボブ・リーと比べ、冒頭酒びたりで死への誘惑さえ感じているアール。その父チャールズはそれにさらに輪をかけた問題児でした。『極大射程』『ダーティホワイトボーイズ』『ブラックライト』でも扱われたテーマですが、似ている部分もあるだろうけど、親と子はやはり別人であり、必ずしもその性質が受け継がれるわけではない・・・ということが強調されています。

根暗なアールの性格を反映してか、お話も全体的に暗いムード。彼の戦いは一応「風紀をただす」という大義名分があるものの、本質的には一人の権力者の便宜を図るためのものでしかありません。大戦の時と同じように、しょせん自分たちは政治家のコマでしかない。それがわかっていながら、アールはまたしても戦いに引き寄せられ、そしてまたしても辛い経験を積む事になります。こういうぺシミスティックな空気、人によって好き嫌いがわかれそうです。

ひっかかった点を二つ。
ウジウジしたところもあるものの、主人公アールの強さは半端なもんじゃありません。修羅場を潜り抜けてきたギャングたちでさえ、その姿に恐怖を覚えるほどに。
そんな無類の戦闘マシンであったアールが、後年なぜあれっぽっちのことで死んでしまうのか!? ・・・まあ現実ってそんなもんかもしれませんけどね(これフィクションですけど)

もう一点は、いくら硫黄島で死闘を繰り広げたからといって、我々日本人に対して失礼な用語がひんぱんに飛び出してくること。「ジャップども」「ジャップたち」「ジャップのうんたらかんたら」・・・・ コラ、スティーブン! てめえ俺らにケンカ売ってんのか!? ハアハアdash

080927_131600しかし後に『たそがれ清兵衛』に感激したハンターさんは、日本に対する見方を一変(?)。新作『四十七人目の男』ではボブ・リーと、ある日本人男性との友情が描かれているとのことです。これを「学んだ」と見るべきか「節操なし」と見るべきか・・・

本国ではさらなる続編『Night of Thunder』も発表されております。邦訳が出る前に、未読のものをぼちぼちおいかけていこうかしらん

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August 20, 2008

DEATH SAID 伊坂幸太郎 『死神の精度』

20060703202315Zくんから貸してもらった伊坂幸太郎二冊目。今年春に映画化された『死神の精度』をご紹介します。

主人公は「千葉」と呼ばれる死神。彼らは人間の姿をして、人間の中に溶け込み、「上」が決めた対象者を一定期間観察します。彼らが「可」とすれば対象者は死に、「見送り」とすれば生きながらえることになります。
大半の死神は職務怠慢で、ろくに観察もせず「可」の決定をくだしてしまうのですが、千葉は例外的に仕事熱心。対象者に積極的に近づき、彼らの人となりを知ろうと努めます。これは、そんな千葉が出会った六人の男女の物語。

OL、ヤクザ、非行少年、老婦人・・・・ 千葉が会う対象者たちは、年齢も境遇も様々。しかし皆それぞれ生きる事に一生懸命で、不思議な魅力を持っております。読んでいるうちに、彼ら彼女らに好感を抱く人たちも多いでしょう。「なんとか助かってほしい」と。
しかしさすがは死神、千葉も滅多なことでは「見送り」の決定はくだしません。普通の作家なら情にほだされて生かしてしまうようなキャラクターを、千葉、そして作者はばっさりとあの世へ送ります。この非情ぶりはなかなかのもの。「ハードボイルド」とうたっていながらメロメロな話が多い中で、この千葉の性分はまさしくハードボイルドといえるでしょう。たぶん映画のほうはもっと情に訴えた話になってると思いますが・・・・

ところが不思議なことに、読み終えてもあまり暗い気分にはならず、むしろ奇妙にさわやかな心地さえいたします。
例えるなら、一枚の美しい絵のようなものでしょうか。それを描いた画家がどんな死に方をしようとも、その絵が美しいことには変わりはありません。同様にこのお話に出てくる男女も、はかない人生だったかもしれないけれど、彼らが「いい人」「面白い人」であったことには変わりが無い・・・ そんな感じかと。ううう・・・wobbly うまく説明できないなあcoldsweats01
ま、単に暗い救いのない話ではないので、そういうのが苦手な人でも楽しく読めると思います。

わたしが一番印象に残ったのは4話目にあたる「恋愛で死神」。千葉はとあるブティックに勤める青年、萩原くんを担当することになります。彼はなかなかの美青年でありながら、自分の中身をみてほしいという思いから、わざとぶかっこうなメガネをかけています。そんな彼が店にやってきた一人の女性に恋をします。最初こそ不振がられたものの、やがて徐々にうちとけていく二人。果たして千葉はいかなる決定をくだすのか・・・・
仕事にはどこまでもクールだけれど、ほんの一瞬、あるかなしかの優しさを見せる。そんな千葉のキャラがよく表れたお話となっています。

例外的なのは3話目にあたる「吹雪で死神」。このエピソードで、珍しくも伊坂氏はコテコテの「本格ミステリー」に挑戦しておられます。吹雪であるホテルに閉じ込められた数人の宿泊客。その中で一人の男が変死を遂げる。殺人なのか? ならば犯人は誰か? 動機は?

『このミステリーがすごい!』にも選ばれていることからわかるように、伊坂氏は世間では一応ミステリー作家としてとらえられているようです。
『チルドレン』もそうでしたが、どのエピソードにも謎と意外な真相が用意されていて、そういうところは確かにミステリーといっていいかもしれません。
しかし一般のミステリーと比べるとあまりに風変わりですし(なんせ普通に死神が出てくるし・笑)、謎よりも人間の心理に重点を置いているところは、素直にミステリーとは言いがたいものがあります。伊坂風エンターテイメント・・・ そう言ったほうがしっくり来るような。

やはり『チルドレン』と同じく、この作品も連作短編集となっています。単に主人公が同じというだけではなく、全部読み終えるとバラバラに思えていた幾つかのエピソードに、意外なつながりが見えてくる・・・ そんなにくい構成。ストーリーテーリングといい、こうした「仕掛け」といい、先に述べた人物造形といい、伊坂幸太郎、なかなかに「うまい」作家であります。Zくんに言わせると、いまんとこ連作短編はこの二冊だけで、ほかはみな長編らしいですが。

080820_185119そういうわけで、なんだか他の作品も読みたくなってきました。次はやはり映画化され、評判のいい『アヒルと鴨のコインロッカー』がにしようかなあ。Zくん、またよろしくね~

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July 27, 2008

子供はわかってくれない 伊坂幸太郎 『チルドレン』

20080727203316伊坂幸太郎氏の名前を覚えたのは4年前の『このミステリーがすごい!』で。新人さんだというのに一度に二作もランクインしていて、「勢いのある人なんだな」という印象でした。
その後読書好きの友人(Zのつくアイツです)が彼の作品を読んだというので感想を聞いてみたら、「案山子が喋ったりする話だった」という。それでわたしは思い切りひいてしまい(笑)、世間の評価が高まっていくのとは裏腹に、すっかり興味をなくしてしまいました。ところがその友人は非現実的な話とかあまり好きじゃない人なのに、不思議なことに伊坂作品にはまってしまい、何度かわたしに「面白いから読め」とすすめてきました。んで、今回とうとう根負けして『チルドレン』と『死神の精度』を読まされることに。今日は『チルドレン』の方を紹介します。

一言でいうと、陣内という青年を中心にした連作短編。この陣内、いつでもどこでも自信満々で、無関係な事件に首をつっこんでは、周りの人々にいらぬ説教を垂れております。変わり者といや変わり者ですが、「超変人」というほどでもなく、「まあこんなヤツもいるかもね」程度の変人。
そんな彼や友人たちの周りで一風変わった事件・問題が起き、エピソードの終わりには意外な真相が明かされる、というスタイル。ですからジャンルとしては、やはり変種のミステリーとなるのだと思います。ただ普通のミステリーと違うのは、陣内が何も推理しないということ(笑)。彼が衝動のままに行動しているうちに、気がつくと真相が明らかになっている、というパターンが多いです。恐らく伊坂氏が重要視してるのは「謎」よりも、「人生の滑稽さ」ということなのでしょう。

面白かったのはこの本の構成。まず最初に陣内が学生時代に銀行強盗に出くわしたエピソード「バンク」があります。ついで家裁調査官になった彼の後輩が遭遇する事件を扱った表題作、さらに陣内が公園で発見した不思議な現象についてのお話「レトリーバー」、そしてまた家裁調査官としての活躍?を描く「チルドレンⅡ」、最後に陣内と友人たちのなにげない一日にまつわる「イン」へと続いていきます。家裁調査官となった陣内を現在の陣内とするならば、
「過去→現在→過去→現在→過去」
という順序になっております。こういう流れにすることで、陣内が実父への鬱屈した思いをどのように解消したのかが、少しずつ明らかになるような構成となっております。

わたしは何が嫌いといって「威張るヤツ」「自信満々なヤツ」ほど嫌いなものはないので、本当なら陣内みたいな人間は到底好きになれないのですが、伊坂氏のかもし出すユーモラスな空気ゆえか、あまり嫌味には感じませんでした。
ただ、陣内よりも明らかに好感がもてたのは彼の友人の永瀬くん。彼は「生まれつき目が見えない」というハンディを背負っているのですが、それゆえに類まれな明敏さと洞察力を持っています。だからといっておごるでもなく、もちろん卑屈でもなく、極めて自然体。そんな永瀬君はなかなかかっこよい。
思ったのは、本を読むということは、盲人の感覚とほんの少し似ているかもしれない、ということ。言語のみを材料として、細部を補完・想像し、脳の中に像を結んでいく。この作業が上手にできるようになればなるほど、本読みとしてハイレベルになれるような気がします。

わたしが一番気に入ったのは最後の一編「イン」。陣内の演奏を恋人の優子と聞きにきた永瀬くんは、自分に近寄って来た陣内にある違和感を覚えます。(キミは本当に陣内なのか?)
このやや不安を感じさせる出だしが、一転して愉快極まりない真相へとつながっていきます。
「優子とべス(盲導犬の名)がずっと助けてくれるわけがないんだ、と。ただ、その特別が、できる限り長く続けばいいな、と甘いことを考えてもいる」
そんなことを胸のうちでつぶやく永瀬くん。たぶんその「特別」は、ずっとずっと長く続くはず。なぜだかそんな風に思わせるラストがとても気持ちいいです。

20080727203352というわけで、思ったよりも現実的で(笑)、予想よりかなり楽しめた伊坂作品。『死神の精度』ではまた違った世界を見せてくれますが、それについてはまた。

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July 04, 2008

ウンコに抱かれて眠れ 田村裕 『ホームレス中学生』

20080704185456たまには売れ筋の本でも紹介してみましょうか。
もう何ヶ月も前のことですけど、実家に寄った折、父から一冊の本を手渡されました。

「これ面白そうだぞ。読んでみるか?」

タイトルは『ホームレス中学生』。さすがパパン。流行の最先端を突っ走っておられます

内容はいまさら申すまでもないでしょうが、一応手短に。お笑いコンビ『麒麟』(「ジ」は付かない)の田村裕さんが、自分の悲惨な体験をつづった本。

それは明日から夏休みが始まろうかという、胸が躍る日の出来事。自宅に帰った中学生の田村くんを待っていたのは、自宅が差し押さえられたため外に運び出されたの家財道具の山でした。

「これからはみんな自分でたくましく生きてください。(我が家は)解散!」

その一言とともにどこかへ消えてしまう父親。事情で親戚も頼れない田村くんは、近所の「まきふん公園」で寝泊りし、その日その日をなんとか生きていくのですが・・・・

まるで『電波少年』を地で行くようなサバイバル生活。もっとも田村くんがホームレスなのは本の中ほどまで。以降はなんとか人間並みの暮らしをしながら、学校に通い、やがてお笑いの仕事を目指すまでが書かれています。
その内容については信憑性を疑う声もありますが、それはまあ置いといて。一読してこの本がなぜこんなに売れているのかよくわかりました。

まず読みやすい。素人さんが書かれてるので多少文章がぎこちないところもありますが、本好きの方なら2時間あれば余裕で読み終えられるでしょう。

次いで笑える。さすがにお笑いの方だけあって、ユーモアのセンスはなかなかのもの。特に田村くんがウンコ型の遊具(中に入れる)をめぐって近所の悪童どもと決死の戦いを繰り広げるくだりは、彼には悪いけど笑いが止まりませんでした。

そして一番重要な部分として、泣ける。後半田村くんと兄弟たちは、色々な人たちの親切に支えられて、なんとか住む場所を得ます。そして田村くんは世話になった人々へ、本の中で力を込めて感謝を述べます。この豊かな人情味が、中高年のハートを直撃するのでしょう。「食べ物を大切に」「苦労は人を成長させる」といった教訓も、同様です。
さらに別の泣かせポイントとして、溢れんばかりの母親への「愛」があります。本の中で田村君は何度も何度も「おかあさんおかあさんおかあさんおかあさん」と呼びかけ続けます。「小さいころに死に別れた」ということをさしひいても、すさまじいまでのマザコンぶり。これに比べたらリリー・フランキーなんて全然普通の人です(笑)
ただそうした強く母親を慕う気持ちが人々の心をとらえ、この本をベストセラーに押し上げているような気がいたします。
自分もなんだか母のことを思い出して切ない気持ちになってしまいました。ウチの母ですか? バリバリ生存中ですが?(ってこのネタ前にもやったよな)

ひとつ気になるのは、この本をわたしに貸した父の真意。

まさか・・・「ウチももうすぐ解散だから、いまにうちに心の準備をしておけ」と・・・ そういうことなのかよ!? パパン!!(ちなみにそれを言うなら正しくは「離散」だと思うんだが)

まがりなりにも自活できる年齢になっていて、本当に良かったと思いました(笑)

20080704185254『ホームレス中学生』は現在コミック版も発売され、今秋には映画も公開される予定。
まっ 映画のほうはわたし、たぶん観ないと思いますけど。


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June 13, 2008

山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい その22 『明治忠臣蔵』

20080613181724昨年の頭から始めた(笑)、河出文庫の「幕末妖人伝」というか「明治もの」短編集レビュー。ようやく最後の一冊です。
「明治編」と銘打たれた『明治忠臣蔵』。当然絶版ですがcoldsweats02はりきって参ります。

☆東京南町奉行

維新の嵐もまだ冷めやらぬ明治4年、東京と名を改めた江戸に一人の老人がやってくる。林頑固斎と名乗るその老人は、かつて幕府の要職を務めていたものの、派手な不祥事を起こして長い間罰せられていたらしい。行く先々で煙たがれる頑固斎。果たしてその正体とは?
「南町奉行」といえば普通みんな想像するのは桜吹雪のあの人。しかし読み進めていくと、どうにもイメージがかみあわない・・・・ 
ワースト忍法帖(笑)の呼び声も高い『天保忍法帖』(『忍者黒白草紙』)の後日談ともいえる話。あわせて読むと、山風は悪名高きこの人物も、それなりに理想のあった男としてとらえている模様。
失われた「江戸」を懐かしむ元奉行というところは、『警視庁草紙』の「隅老斎」先生とも通じるものがあります。明るさの点ではだいぶ開きがありますが

☆天衣無縫

やはり明治四年、参議広沢雅真臣が邸宅にて斬殺されるという事件が起きた。事件が起きた際、同じ部屋にいた広沢の愛妾、かねは目撃者、あるいは容疑者として警視庁に連行される。激しい拷問にたえかねたかねは、思いつくまま容疑者の名を並べ立てるが、どの人物も真犯人というには決め手を欠き・・・
作者が初期の「探偵小説」時代に著した一編。そのせいかかねに加えられる拷問の描写がやけにきめ細かく、エログロ風味の強い作品。にも関わらずユーモラスな風味が強く、暗い話が多いこの短編集では唯一の救いとなっています。
山風はこの事件には思い入れが強かったのか、後に『警視庁草紙』の一編でもう一度アレンジを試みております。『警視庁草紙』といえば、そちらでの重要キャラが特別出演しているのも嬉しいところ。

☆首の座

江戸時代、激しく弾圧されたキリシタンたち。維新となれば信教の自由が与えられるかと思いきや、九州総督してやってきた沢宣嘉卿はなおも厳しい迫害をもって彼らに望む。しかしキリシタンたちは厳罰を与えられても信仰を捨てない。沢卿は彼らの中心人物である千助をなんとか「ころばせ」ようと画策するのだが・・・
死を覚悟した人間の決意を揺るがせるには、どんな手が最も効果的か? キリシタン千助と、幕末において非凡な戦士であった沢卿の姿を重ねつつその答えが語られます。
戦中派として、多くの人の死に様や生き様を見つめてきた山風の「人間観」が光る一編。

☆斬奸状は馬車に乗って

ちょっと下って明治十七年。福島から出てきた血気盛んな青年広谷錠四郎は、下宿先の長屋に住むお秋という娘に心を奪われる。しかしお秋は父親の借金の方に芸者として売られることに。不公正の横行する世の中に憤った錠四郎は友人らとともに、政府を倒し、奸物たちに成敗を与えようともくろむ。
「明治もの」のウリである「著名人のすれ違い」がほとんど出てこない話coldsweats01
この短編集には特に「理想の敗北、転落」をモチーフとしたストーリーが多いのですが、それがもっともよく現れた作品。世に「悪者」とされている人物だって、実はそれなりに高潔な人間であるかもしれない・・・・ そのことを錠四郎が標的と狙う三人の人物を通して語りかけます。
山風は本当に頭でっかちで目的を選ばない連中がお嫌いだったようですね。反面、「うらやましい」という思いもあったんじゃないでしょうか

☆明治忠臣蔵

表題作。明治の世に「気が触れてる」ということで、屋敷の一室に閉じ込められていた元大名家の若様がいた。そのことを知った下級藩士の錦織儀助は、「主君を家臣がないがしろにしている」と憤り、なんとかして若様を外の世界へ連れ出そうとしますが・・・・
これまた探偵小説時代に書かれた作品。実際にあった事件を題材としています。「忠臣蔵」といっても47人もの浪士が出てくるわけではなく、ほぼ錦織一人の孤軍奮闘状態。その忠誠心&不屈の闘志には「がんばれ!」と応援たくなりますが、相手側にもやはりそれなりの事情があり・・・・ そして彼もまた、活動の途中で殿の狂気を認めざるをえなくなります。しかし世間の注目を浴びてしまった以上、いまさらやめるわけにもいかず・・・
「ひっこみがつかないことの恐ろしさ」を描いた作品。何かを世に訴える時には、入念にリサーチをしてから臨みましょう。

☆明治暗黒星

なにやら乱歩チックなタイトル。自由党の巨魁であった星亨と幕末のヒーローの弟、伊庭想太郎の長年にわたる因縁と、その結末を描いた作品。山風は星氏がお気に入りだったようで、上の「明治忠臣蔵」や長編『明治十字架』にも彼を登場させています。著名人と、著名人の縁者を組み合わせるこのやり方は、このシリーズにあった『おれは不知火』と一緒。違うのは星さんが河上彦斎よりかっこよくないこと(笑)。『明治十字架』では主人公を助ける頼もしいイメージでしたが、こちらでは野卑で型破りな描かれ方。それでも不思議と好感の持てる印象を受けました。

20080613181601『伝馬町から今晩は』『おれは不知火』と比べると、この三冊目は古本屋でもあまり見ないかな・・・・
でも収録されてる作品は他のアンソロジーにも色々収められてますんで、興味を持たれた方は根気よくcoldsweats01探してみてください。

さーて、次の山風は何を読もうかな?

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May 24, 2008

『ザ・リング』に挑んでみる J・R・R・トールキン 『指輪物語』 「二つの塔」上1編

20080524153322冥王サウロンが鍛えし、強大な力を持つひとつの指輪。その指輪が主のところに戻る時、世界は再び暗黒に帰すという。
数奇な運命により「指輪」を持つこととなったフロドは、そうなることを阻止すべく、仲間たちと危険な逃避行を続けていた。だが仲間の一人ガンダルフはその途中、強大な敵バルログに襲われて行方不明に。またやはり仲間の一人であるボロミアは、指輪の力に魅入られてしまい、フロドからそれを奪おうとする。
大切な仲間たちのことを思ってフロドは彼らから離れ、ただ一人サムだけを共に、ソウロンの拠点モルド-ルへと向かう・・・・

オッス! おらゴクリ! 忘れたころにやってくる、わしらはいいスメアゴルだよ! 今までことはここらの記事(第一回第二回第三回第四回)に書いてあるよ! うけけ!

さて、やっとここの『指輪』レビューも第二部「二つの塔」編に突入だよ! 「二つの塔」というとついついあのツインの塔を思い出してしまうな・・・・ ま、それは心の中にとどめておくことにするよ!(思いっきりしゃべってるよ!)

さて、この上1巻は「ぼろやん」ことボロミアのダンナが奮戦むなしくオークどもに深手を負わされ、ご臨終になるところから始まるよ! ・・・ってあれ? 前の巻でまだ死んでなかったんだな! 映画では「旅の仲間」編できっちり死んでたのに! まったく原作は映画以上にキリが悪いよ!

んで、フロドがばっくれたことと、メリ・ピピがさらわれたことにようやく気づいたハセ夫さんたち。ふつう指輪を持ってるバカ旦那の方を追いかけるよな。ところがどういうわけかハセぴょんはメリー&ピピンのおまけコンビの方を追いかけるんだよ! 「もう食われちゃってるだろ」とか思わんのかな! きっとこっちの方が楽だと思ったからに違いないよ!

ところが追っかけても追っかけても糞くらいしか見つからないオーク&おまけホビット。結局連中の努力は無駄足でしかなかったわけだな! あとでどこぞのジイ様が「決してムダではなかった」と言ってたけど、どう考えても無駄な努力だったよ! うけけ!

あとこの道中、ハセ夫さんチームはローハン王の息子エオメルと出会うよ! 映画では第一印象はいけすかない高飛車なあんちゃんだったけど、原作ではわりと懐の大きい好人物って感じだよ! わしらが言うのもなんだけど!

さて、一方でさらわれたメリー・ピピンズ。生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに、わりかしのほほんとしたたりして。ホントーにホビットととやらは緊張感がない生き物だよ!

結局いろいろ好都合に物事が運んで、オークどもは自滅。映画では「うがー」とか「ふんがー」くらいしか言ってなかったオークだけど、原作ではよく喋ってるな。一応知能も少しはあるようだよ! 

そんでおまけホビッツはどこぞをうろついてる時に、エントとかいう謎のUMAに遭遇する。このエントとやらがいつもどおり伏線も何もなく、いきなり登場するんで面食らうんだが、早い話が木と人間の中間のような生き物みたいだよ! ぼーっとしてるうちにいつの間にか本物の木になっちゃうのん木なものもいるとか。それって早い話が植物にんげ・・・ゴホガハゲヘwobblydash
木とはいえエントにはそれぞれ名前があり、メリー・ピピンズの会ったヤツは「木の髭」という。他にどんな名前があるかというと、「木の皮」とか「木の枝」とか「木の実ナナ」とか「木の内みどり」とか・・・ この辺の適当なネーミングセンスも相変わらずだよ!

「旅の仲間」編では宿に泊まる度にご馳走をたらふく食ってたホビッツだけんど、この辺りになるとかなり食糧事情が逼迫してきて、例の味気なさそうなレンバスをかじるか、木の汁をすするくらい。ちょいと木の毒になってくるよ!

森林を乱開発するサルマン(って誰だっけ?)に激怒した木のヒゲ木木一髪は、メリー・ピピンズと意木投合。仲間たちに召集をかけつつ、猿マンの本拠地に向けて行進を始める。ゴルフ場でもうけてるどっかの企業も、そのうち襲われんだろうよ! うけけ!

ここで話はハセ夫さんちのグループに戻るよ! ホビットたちを追って怪しい森に迷いこんだハセ夫さんちだが、そこで怪奇現象を目撃する。彼らは森の中でみすぼらしいジイ様を見かけるんだが、追いかけたら煙のように消えうせてしまったんだな、これが!

で、早々とネタバレしちゃうと、このジイさま、実はバルログとの激闘で死んだかと思われたガンダルフだったんだな! この実に拍子抜けな復活劇、まるで『キン肉○ン』か『聖闘士○矢』みたいだよ!
もったいぶった登場をするジイさまもジイさまだけど、それに全然気がつかないハセ夫さんちも大概薄情だよなー。
ついこないだ別れたばっかりだというのに・・・ 連中はよほど人の顔を覚えるのが苦手なんかの? まあキリストの弟子たちも彼が復活した時すぐにはわからなかったらしいから、その辺意識してるのかもしれないよ!

最悪なムードだった前巻ラストから、だんだんいい方向に風が吹いてきて、わしらとしては気に食わないんだけど。っていうかわしらの本格的な登場はまだかよ! もう五合目過ぎてんじゃんかよ! 珍しくちゃんと登場に伏線張ってるキャラだというのに・・・ ブツブツ

それでは指輪名物のお歌のコーナーで締めるとするよ。今回は葛城ユキの『ボヘミアン』のフシで

20080524153334 ぼろみあん 
壊れかけの角笛鳴らし 
今宵も 仲間の行方占ってみる

ぼろみあん
身のほど知れよこのおバカ
不幸せ 求めちゃいけないでしょうが


・・・・今回もイマイチだな。「葛城ユキ」がわからないシトはお母さんに聞いてみるといいよ!

それでは皆さん、また次回。

わしらのいとしい、いとしい、いとしいシトおおおお!!shock


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May 03, 2008

客員フューチャー フレドリック・ブラウン 『未来世界から来た男』

20080503095057このタイトル、いかにも映画にありそうですけど、今回はご本のお話です。1940年代俟つから60年代に活躍した作家フレドリック・ブラウンのショート・ショート集。昨年某書店でSFフェアをやっていた時、「不朽の作品集」というポップとともに並んでいたので手にとってみました。そういや星新一が影響を受けた人だったっけ・・・というかすかな記憶も手伝って。

そのカラーをおおまかに言うなれば、星新一よりは軽快でスケベ、筒井康隆よりは上品。人間に対するシニカルな視線はみんなどっこいどっこい・・・といった感じでしょうか。
日本のSF作家たちに少なからぬインスパイアを与えたというだけあって、本当にショート・ショートのお手本のような作品です。確かよくできたショート・ショートの三つの条件とは
①奇抜なアイデア
②簡潔なプロット
③意表をつく結末
ではなかったかと。流石に全部の作品が、というわけではないにせよ、収められてる掌編はかなりの高確率でこの三条件をクリアしております。
戦後まもなくという時代に書かれたこともあり、多少の古さを感じさせないでもないです。しかしその古さは決してマイナスにはならず、今の読者からすれば、かえって一種のスパイスのような彩を与えています。ちょうどチャップリンやキートンのサイレント作品が、古くはあっても十分に面白おかしく、またその古さが今にない独特の風味をかもし出しているようなものでしょうか。

内容はおおまかに二部に分かれています。第一部は「SFの巻」。第二部は「悪夢の巻」。なんだかこの分割、前半を藤子F、後半を藤子Aが担当しているかのよう(笑)。
個人的に楽しかったのはやっぱり前半パート。次から次へとヘンテコな題材が次から次へと出て参ります。たとえば巻頭は『二十世紀発明奇譚』という三部からなる作品で始まってるんですが、その三部にそれぞれ「忍びの術」「不死身」「不老不死の妙薬」というタイトルがついています。・・・なんで戦後まもなくのアメリカの本に「忍びの術」なんてものが出てくるのやら(笑)。ただこの邦題にはちょいと訳者さんの茶目っ気が表れているみたいですね。原題は単に「invisibility(不可視性)」ですから。
どういう話かと申しますと、19世紀はじめのトルコ系の小国で、ある学者が偶然透明人間になれる薬を発明します。そんで彼はこの薬を使って後宮に忍び込み、王様専用の美女にこっそりいいことをしちゃおうと企むのですが・・・・ いつの時代も男が考える妄想なんて、ほんっとーに似たようなもんででごぜえますなcoldsweats01

そらにこのあとにも宇宙旅行に時間旅行、雪男にネコ泥棒に寄生生物などなど、センス・オブ・ワンダーに満ちたお話が続きます。一番関心したのは末尾の作品「おしまい(The End)」。時間の流れを逆さにする機械のお話。そのスイッチを入れたとき、果たしていかなる現象が起きるのか・・・・
わずか1ページで八行の作品。こんなオチにはいまだかつてお目にかかったことがありません。そして映像化はまず不可能でしょう(笑)。二・三分で立ち読みできますんで、本屋で見かけたらそこだけでもご覧ください。

第二部に入るとややバカ風味はなりを潜め、現実的かつシリアスな話が増えてきますが、こちらも水準の高さは変わりません。特に怖かったのは「ばあさまの誕生日」と「白色の悪夢」。前者はほとんど親族だけで占められたパーティーに、たまたま呼ばれてしまった「よそ者」のお話。後者は新婚旅行の帰りに是非にと言われて義姉の家に泊まる事になった夫婦の話。特に後者は怖い。血が流れるわけでも、お化けが出るわけでもないんですけど、そういうホラー的なものとはまた違った怖さにあふれております。

20060527203835最近NHKで星新一の名作を映像化した番組が放映されていますけど、あれを見て気に入った方ならば、きっと楽しめるのではないかと思います。
創元SF文庫より発売中。初版は1963年9月で、わたしが手に取ったのは65版。そんなにビックリするほどではないにせよ、なかなかのロングセラーです。
タイムマシンを使ってこの版をブラウンさんに見せたなら、彼はいったいどんな顔をするでしょう。きっと平然とした顔をして、「ああ驚いた」と言うような気がしますcoldsweats01

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April 11, 2008

奇天烈バッファローズ 五味康祐 『柳生武芸帳』(上巻のみ)

20080411190724なぜか時代からとっぱずれた作品ばかり扱っている読書コーナー。本日もお若い方はまず知らないであろうこんな本を。武芸者ものの大家五味康祐氏の代表作『柳生武芸帳』。とりあえず上巻だけ読み終わったのでご報告をば。

時は寛永。唐津城大広間では張り詰めた空気が漂っていた。藩の武芸師範役、山田浮月斎が藩主唐津堅高に、「自害なさりませ」と詰め寄っていたからである。その理由を浮月斎はこう述べた。「殿の企みはすでにご公儀に見破られてございます」
果たして、城内に曲者が忍び込んでいることが判明。曲者はしとめられたものの、この時より浮月斎門下の忍びのものたちと、将軍家武芸指南役、柳生一族との戦いが始まった。そして戦いの勝敗は、柳生家がひたかくしにしてきた、謎の「武芸帳」にかかっていた・・・

主要登場人物は柳生一族のみなさんと、浮月斎の弟子である多三郎・千四郎兄弟。これにわけありの浪人、神矢悠之丞や、肥前龍造寺家の再興を願う夕姫や賀源太らがからみます。
んで、「武芸帳」の争奪戦を縦糸に、ひたすら「バトル」「陰謀」「新キャラ登場」が繰り返されるという内容(笑)。五味先生という方はどうもサービス精神が旺盛な方だったようで。この小説はもともと新聞に連載されたものだったのですが、「一日一回は見せ場を作らんと!」とがんばった結果、話がすすむにつれどんどん筋がややこしくなり、どんどん登場人物も増えていくという有様。しまいにゃ先生も把握しきれなくなったようで、映画の試写を観た際、「ああ、『柳生武芸帳』ってこういう話だったんだ」と申されたとかcoldsweats01 まあいうなれば元祖『少年ジャンプ』みたいな作品ですね。

・・・・気を取り直して。上巻を読み終えて特に印象に残ったのは、主要登場人物の酷薄さでしょうか。やはり人間が書いてる以上、メインキャラにはそれなりに作者の感情が反映されるものですが、柳生の皆さんも多三郎・千四郎も恐ろしいほどに無感情であります。どいつもこいつも、本当に相手を殺ることか出し抜くことしか考えていませんcoldsweats02。「ハードボイルド」と銘打っていても意外とメロメロな作品が多い中で、このどこまでも冷徹なカラーは特筆に値します。ただ解説によりますと、中巻・下巻とすすむにつれ、連中にも次第に人間らしい感情が芽生えてくるようなのですが・・・・

さて、以前山風の記事で「隆慶一郎は山風から影響を受けたのではないか」というようなことを書きました(コチラ)が、この作品からもだいぶインスパイアされているような気がします。隆先生も柳生一族に関しては『柳生非情剣』で一通り扱われてますし、肥前鍋島藩におけるごたごたは『死ぬことと見つけたり』で、後水尾天皇の一連の事件は『吉原御免状』『花と火の帝』で題材にされております。もちろん隆先生だけでなく、後代の伝奇作家に与えた影響は計り知れないものがあるでしょう。また戦国時代の豪傑譚や武芸者たちにまつわる有名な逸話などもふんだんに紹介されていて、その手のお話が好きな方にはたまらない小説となっております。

えー、ただですね。この後さらに中巻、下巻と読み進んでいくのが筋なんでしょうけど、ちょっと自信がありませんcoldsweats01。なんでかというと、読むのにけっこう労力を要するからなんです。これはわたしが買った版が古かったからなんでしょうけど、使われいる漢字がやたらややこしい。例えば「正體」「證據」「膽力」とか。それぞれわかりやすく書くと「正体」「証拠」「胆力」だと思うんですけど、意味を考えながら読んでくと非情に時間がかかるんですね。あと解説や高野正宗さんから頂いた情報によりますと、この作品、上中下の大ボリュームでありながら結局未完なんだとか(笑)

20080411190800_2男子たるもの、一度手をつけたからには最後まで読み通したいものですが、その「最後」がないとなるとちと辛い・・・・

『柳生武芸帳』は少し前に文春文庫からも上下二分冊で復刊されています(わたしが読んだのは新潮文庫版)。こちらは漢字読みやすくなってるかもしれません。

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March 24, 2008

キッスは目でして ジャン=ドミニック ボービー 『潜水服は蝶の夢を見る』(原作)

20080324190815わたしはフランス人(特に男性)が嫌いです。
彼らは自分たちが世界で一番賢くてセンスがいいと思い込んでいて、我々を「黄色いおサルさん」と差別するからです。そのくせ匂いには鈍感で、華麗な並木道を飼い犬のウンコで埋め尽くしたりしています。
しかしこの度ある一冊の本を読んで、そんな高慢ちきなフランス人のイメージを改めなければいけないな、と思いました。その本とは最近話題になった映画『潜水服は蝶の夢を見る』の原作本です。

世界的に有名なファッション雑誌『ELLE』の編集長ジャン=ドミニック・ボービー氏は、まだ働き盛りの年齢でありながら、脳出血のため片瞼しか動かせなくなる「ロックトイン・シンドローム」に侵されてしまいます。
ですがジャン氏は驚くべき事にそんな体でありながら一冊の本を著されました(どうやって書いたのかは先の文中リンクをご覧ください)。それがこの『潜水服は蝶の夢を見る』。原題はもっとシンプルで、直訳すると『潜水服と蝶』となります。

読んでみますと、当然ながら映画とは色々異なるところがあります。たとえば映画ではジャンさんが色っぽい療法士さんの胸チラを見て「ウホッ♪」と喜ぶ場面がありましたが、底本ではそんなことはどこにも書いてありません。
やっぱり当人を目の前にして「彼女の胸元にムラムラした」なんて伝えたら、セクハラ以外のなにものでもありませんからね(いや、フランス人ならやるか?)

あとお子さんの数ですが、映画では三人でしたが、実際は二人だったようです。赤の他人はともかく、ジャン氏を良く知る人・・・特にお子さんたちは、映画を観て「こんなひとちゃうよ」と言うかもしれません。そこで監督はこうやってお子さんの数を変えることにより、「これはフィクションというか、わたしの一解釈である」ということを伝えたかったんではないでしょうか。

そう、この本はまずジャン氏のお子さんたちに捧げられるべき本だと思います。あんなにかっこよかったのに、突如として物の言えない体になってしまった父。最低限のコミュニケーションはできるものの、彼が心の底で何を思っていたかなんて、わかろうはずもありません。しかしこの本を読む事により、子供たちは父が思っていた多くのこと、そして自分たちが深く愛されていたことを知ることができるでしょう。そのことは二人の子供たちにとって、なにより大きな財産になると思うので・・・・

ほかにも映画では語られなかった追憶や幻想、文字通りの夢の話なども収録されています。
ただ普通なら最初にもってくるであろうエピソード(息子とドライブ)を、終盤に配置してあったのは映画と同じでした 。というか、映画が原作に倣ったのでしょう。
ジャン氏の心の中で一番大きなヤマ場とは、たぶんあの忌まわしい日の出来事を、もう一度はっきり思い出し、そしてその現実をしっかりと認めることだったのでは・・・・と思います。

あとがきにはこんなことも書かれています。「あまりの姿に取り乱したわたしに、彼が最初に伝えた言葉はこうだった。『パニックにならないで』」「彼が愚痴をいうのを一回も聞いたことがなかった」
本当に強い男、とはこういうひとのことを言うのではないでしょうか。確かにおフランスにも尊敬に値する男はいるようです。

映画も深刻な題材を扱っていながら不思議と軽やかなお話でしたが、原作はさらに軽やかです。その上文章が短くて表現もなめらかなので、とても読みやすい。厚さのわりに値段が高いと感じられる方もいるかもしれませんが、こんな風にして書かれた本はたぶんこの世にこの一冊しかないと思いますので、できるかぎり多くの人に読んでいただきたいものです(先ごろ紹介した『動くのは瞼だけ』は、おそらく回復(!)したあとに書かれたものと思われます)

20061008124252いま手元にないので正確ではありませんが、この本はたしかこう結ばれていました。
「いつかこの分厚い潜水服から抜け出して別の場所に行けるのだろうか」「行けるのなら、ぼくは行こう」

自分は死後の世界を信じていないので、ジャン氏がそこへ行った・・・とは思えません。
ですが彼が死の間際まで希望を捨てなかったことを思うと、とても慰められるのでした。

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March 05, 2008

小と・笑と・掌と 筒井康隆 『怪物たちの夜』

20080305202656今をさかのぼること20数年前のこと。おませでウブな小学生のSGA屋伍一くんは、デパートの古本市でお得なブツを発見しました。文庫五冊でまとめて五百円だったか。五冊のタイトルは確か豊田有恒『タイムスリップ大戦争』『マーメイド戦士』 筒井康隆『時をかける少女』『ミラーマンの時間』『にぎやかな未来』。そんでこの五冊の中で、とりわけ何べんも何べんも読み返したのが『にぎやかな未来』でした。

内容は筒井氏がデビュー前後に書いたショートショートをまとめたもの。すでに星新一の作品集も何冊か読んでいて、その愛読者でありましたが、星氏にはない馬鹿馬鹿しさがあって強くひかれたのでした。
で、それからずいーぶん経って、この掌編集が徳間文庫より『怪物たちの夜』という題で復刊されました。収録作品に若干の追加・変更があるものの、ほぼ同じ内容。そんでわたしも久し振りに『にぎやかな未来』が読みたくなって、実家の本の山を漁ってみたのですが、これがどこにも見当たらないwobbly。さらにもたもたしてる間に、復刊されたヴァージョンもあっという間に本屋から消えてしまいました。

(さっさと確保しておくべきだった・・・)と肩を落としたわたしでしたが、昨年秋都に上ったときジュンク堂で発見。多少体裁は変わっておりましたが、ともかく感動の再会をはたしたのでした。

どちらかといえばエロ・グロ・ナンセンスな作風で知られる筒井先生ですが、この掌編集ではまだスタイルがさだまっていなかったのか、エロ・グロはわりと薄めでナンセンスだけが突出しております。
SFあり、怪談あり、スラップスティックあり、童話あり・・・・ まことにバラエティに富んだ内容。とりあえず20年後にもはっきりと覚えていた作品をいくつかご紹介しましょう。

☆『超能力』
ある資産家とその甥の、すごーくくだらない超能力バトル。高度なんだけどやっぱりしょうもない心理戦がえんえんと続きます。『逃げろ』も同じようなテーマ

☆『亭主調理法』
夫と生活していくことに疲れた妻は、ある晩のケンカがきっかけで禁断の行動に出てしまう・・・ と書くといかにも深刻そうな話だけど、オチはこの本の中でも1,2を争うくだらなさ(笑)。数年前出たコミックアンソロジーではなぜかあるエロ漫画の大家・・・名前が思い出せん・・・が書いてました

☆『マリコちゃん』『ユリコちゃん』『サチコちゃん』『ユミコちゃん』
こう並べるといかにもつながりがありそうなうな作品群ですが、少女が主人公という以外は特にそういうものはありません。ふざけた題とはうらはらに、どれもそこはかとなく怖い話。特に『サチコちゃん』は20年後の今読んでもちびります。

☆『池猫』
親に言いつけられて子猫を池に捨てていた少年。その後成長した彼がその池で見たものとは・・・・
いわゆる不条理系のお話。わけわかんないながらも印象に残ってました。この本以外にもあちこちのアンソロジーで見かけます。

☆『到着』
これすんごい短いので全文のっけちゃいます(著作権法にふれるだろうか・・・)


とつぜん地球が、なんの前ぶれもなく「ぺチャッ」という音をたてて潰れた。
太陽も「ぺチャッ」という音をたてて潰れた。
月も土星も、他の恒星群の星々も、「ぺチャッ」という音をたてて潰れた。
宇宙のあらゆる星が、いっせいに「ぺチャッ」という音をたてて潰れた。
今まで、一団となって落ちていたのだ。


これを読んだ星新一氏が「このぺチャッという音を誰が聞いたんだい?」とつっこんだそうです。

☆『怪物たちの夜』
新版表題作。午前二時、田舎町の駅に居合わせた男二人。片方の男は凶悪犯を追っている刑事だと言う。やがて彼らの口から驚くべき言葉が語られる・・・
この作品、高校時代美術部で無謀にも「漫画化」に挑んだことがありました。今回のイラストはそのとき書いたキャラ。あー、はずかしーwobbly
『幻想ミッドナイト』という番組でドラマ化されたこともあったそうですが、どうやったのか非常に気になります。

20080305202709先ほど検索してみましたら、オンライン書店では『にぎやかな未来』はどこでも品切れ。『怪物たちの夜』は店によってはまだちょびっと在庫がありました。興味を持たれた方、これが最後のチャンスかも! 早い者勝ちです!

・・・・なんか通販の宣伝番組みたいだな。まあとにかくオススメです。新版は徳間文庫より「筒井康隆自薦短編集」の二巻目として出されております。

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February 13, 2008

『ザ・リング』に挑んでみる J・R・R・トールキン 『指輪物語』 「旅の仲間」下2編

20080213185150冥王サウロンが鍛えし、強大な力を持つひとつの指輪。その指輪が主のところに戻る時、世界は再び暗黒に帰すという。
数奇な運命により「指輪」を持つこととなったフロドは、そうなることを阻止すべく、仲間たちと危険な逃避行を続けていた。だがサウロンの追撃の手は容赦なく、ついにフロドは追い詰められ、深手を負わされる。すんでのところでフロドを救ったのは、ようやくかけつけた仲間の魔道士・ガンダルフだった。エルフの森で目が覚めたフロド待っていたのは、人間・エルフ・ドワーフ合同の「指輪会議」と、新たなる任務だった・・・

オッス! おらゴクリ! 忘れたころにやってくる、わしらはいいスメアゴルだよ! 悪いけどここらの記事(第一回第二回第三回)読んで思い出してけろ! うけけ!

さて、今回は「旅のなまか」編のラスト下2巻部分をいくよ! ちょっと下1部分も含んでるけど、細かいことはいいっこなしだよ!

指輪会議の結果、バカ旦那には8人の仲間とともに、指輪をモルドールの火山まで捨てて来い、ちゅう命令が与えられた。まったくおえらいさんってやつはいつの世もきつい仕事は下っ端に押し付けて、自分らは高みの見物ときたもんだよ!
まあとにかくそんなわけで「運命の九人」が選ばれたわけだよ! 1号は赤ちゃんで予知能力者。2号はアメリカ出身で空を飛び・・・ あれ? なんかと間違ったよ!
ところがこの九人、なかなかまとまりがない。出発してすぐ雪山ルートか地下鉄ルートかもめだす始末。結局は最初は雪山ルートにしたんだけど、遭難しかけて退却。んでもうひとつの「モリヤ鉱道」を行くことになったわけだけんど・・・ ここには気色悪い魔物どもがたくさん住んでるところなんだよ! 今風に言うとダンジョンってやつだな。ウケケ!
ガンダムのじいさまが「だいじょぶだいじょぶ」って言うから、みんなおっかなびっくり入っていったわけだけど、これが全然だいじょうぶじゃなかったんだよ! 四方八方からはオークの大群が押し寄せてくるし、「だいじょぶ」と言っていたじいさんにしてからが、途中でバルログとかいうやつともみ合って転落→生死不明。出発には遅れてくるわ、人(サルマン)を見る目はないわ、ドアの開け方にてこずるは、色々やきもきさせてくれるジイ様だよ!
それにしても、集結したとたんに脱落者とは、どうよこれ。 ちょっとは八犬士やゴレンジャーを見習ってほしいもんだよ! 
んで、このあたりで気になるのが、原作と映画との怪物たちの違い。まず鉱道に入る前に、一行は海だか湖から出てきた得体の知れない化け物に襲われるんだけど、評論社文庫版の挿絵では、左上図のような気色ワリィ代物が描かれてるんだよ。ところが映画ではまるっきりの巨大タコ(もしくはイカ)。ピージャクの趣味丸出しだよ!

あとバルログつーのもじいさまは「ダークエルフの成れの果て」とか言ってたような気がする(本当はもう少しややこしい経歴があるみたいだよ)んだけど、映画じゃ思いっきり牛の怪獣みたいだったよ! そういえば「バルログ」ってどっかの格ゲーにもいたような・・・ ちなみにシンダール語で「力の悪魔」って意味らしいよ! ウケケ!

そんでそのあとロスロリ園というところでエルフのおばさんにすごまれたりして、いよいよ「旅のなまか」編の最終章へ。指輪の力に目がくらんだボロミアことボロやんは、そいつをよこせとバカ旦那に迫る。それでバカ旦那はみんなの前から姿を消すことにするんだけんど。
映画ではなんだか「もう誰も信じられない」という感じで、仲間たちから離れたようにスガヤゴルには見えたんだよ。ちょっとこいつ薄情だよ、と思ったな。でも原作読むと「これ以上みんなに悪影響を与えないように」、むしろ仲間たちを気遣っての行動だったことがわかるんだな。バカ旦那! 誤解してすまんかったよ! おわびに今度ウサギの生肉あげるからよ!

こうして旅のなまかはあっという間にテンテンバラバラに。本当に欧米のやつらは自己主張ばっかり強くてまとまりがないよ! こっから先はまた次回だな!(いつだ・・・)

では最後にポエムのコーナーまずは谷山浩子さんの(『真っ暗森の歌』の節で

真っ暗モリヤ 不思議な鉱道
深くてやばい 真っ暗くらいくらい

・・・なんかもの足りんの。もういっちょ行ってみるよ

出会いは オーク千万の むなさわぎ

20080213185107
なんか書けば書くほど泥沼にはまっていくようだよ!

それではみなさんまたいずれ。

わしらのいとしい、いとしい、いとしいシトおおおお!!


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January 21, 2008

山田風太郎に関しては色々言わせてもらいたい その21 『地の果ての獄』

20080121161536今日は雪の中の半泣きでお仕事をしておりました・・・・
だからというわけでもないですが、久々の(・・・・)山風コーナー、『地の果ての獄』をお送りします。一番最近出たのはちくま文