March 22, 2017

ロサンゼルスの恋人たち デミアン・チャゼル 『ラ・ラ・ランド』

10107072「本年度アカデミー賞最有力候補!」とうたわれ、各所から絶賛の嵐を受けていた新鋭デミアン・チャゼルの話題作。ところがふたをあけてみると… 本日はそんな『ラ・ラ・ランド』をご紹介します。

夢を追う若者たちが多く集う街ロサンゼルス。ジャズピアニストのセブは自分の店を持つことを、ウェイトレスのミアは女優として名をはせることを目標としていた。ひょんなことから顔を合わせた二人は偶然にもその後何度か再会することに。そしていつしか互いに心惹かれ、恋人の夢を応援するようになるのだが…

最初にあらすじや予告を見た時、実は自分それほどひかれなかったんですよね。こう言ってはなんですけどそれこそ「月9」か何かでありそうなストーリーで。それでもこれほど多くの人が激賞してるんだから、きっと「何か」があるんだろう…と。その何かを見つけるために鑑賞することにしました。で、果たして見つけられたかというと… 実はいまだによくわからなかったりして(笑)  これは自分がそれほどミュージカルに対してあまり素養を持ち合わせていないせいもあると思います。

ではつまらなかったかといえばそんなことはなく。なんか、しみじみ胸にこたえる映画でした。予告からこれはきっと恋する二人がキュンキュン踊りまくって最初から最後までハッピーが満ち溢れたそんな映画だろう…と想像してたんですが、そういうのは前半だけ。後半に入ると歌はあってもダンスはほとんどなくなってしまいます。すれちがう二人の心や夢を追うことのむずかしさが踊りを封印することによって表現されているように感じられました。
そしてかつてそれなりに志を抱いたり、好きだったけどうまくいかなかった人のことを思い出すと、どうにも切々と肺の奥のあたりがきゅううう~と苦しくなるのでした。おっさんなのにうら若き乙女のようなことを言ってて大概キモいですけど。

鳴り物いりで公開された本作。きっと日本のネット上でも絶賛に包まれるだろうと思いきや、これがものすごい意見の割れっぷりで。それも賛否両論大激突というのではなく、賛にせよ非にせよ本当にひとそれぞれに感想が微妙に異なる。そしてみんな語りたがる。それはつまり、やっぱり優れた作品ゆえだと思います。
アカデミー賞における椿事もこの映画の伝説をひとつ付け加えてしまいました。普通に作品賞を受賞するより、ああいうハプニングがあったことでかえってこれからも末永く語りつがれるのではないでしょうか。そして若手ながらすでに2作品がノミネートされたデミアン・チャゼル。彼はまだ伝説の途上にあります。これからどんな物語をさらにつむいでいってくれるのか、とても楽しみです。

Llland2オスカーは逃したものの、軽快な音楽が功を奏してか、『ラ・ラ・ランド』は日本でもヒットを飛ばしています。決して甘いだけの映画ではありませんが、伝説として語り継がれるであろう映画が観たいという方はぜひ劇場に足を運ばれてください。接戦を制した『ムーンライト』、共に賞を争った『ハクソー・リッジ』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』なども順次公開予定です。


| | Comments (1) | TrackBack (1)

March 21, 2017

リアルさかなくん クォン・オグァン 『フィッシュマンの涙』

Fnn1『お嬢さん』『コクソン』『アシュラ』と最近韓国映画がいろいろ話題を呼んでますが、本日はその少し前に公開された風変わりなコリアンムービーを紹介します。その名も『フィッシュマンの涙』、ご紹介します。

とくにとりえもない平凡な青年パク・グは製薬会社の怪しげな実験に参加したことから、頭部が巨大な魚の「フィッシュマン」に変形してしまう。パクの自称恋人ジンとテレビマンのサンウォンはそのことを報道し、金と名誉を手に入れようと企む。パクの存在は二人の目論見どおり世間の注目を集め、様々な社会現象を呼び起こすのだが。

こんなあらすじを読むと抱腹絶倒のワンアイデアストーリーを想像します。自分もそうでした。実際幾つかのシーンはおなかを抱えて笑いました。ですが観ているうちにどんどん切ねえ思いが高まっていくのです。
自分の意志とはかかわりなく世間からもてはやされたり、やっかまれたり、崇められたり、憎まれたりする主人公。その無表情でじーっと耐えてる姿がなんとも物悲しいのですね。サカナ面なんで表情を出しようもないのですが。そんな風に人として笑うことも泣くことも奪われてしまったフィッシュマンのたたずまいについホロリとさせられました。さらに彼はダメ押しのようにとてもいじらしいことを言ったりするので、「も~、やめてよ~、おじさんそういうのダメなんだよ~」と鼻水を噴きながら身もだえしておりました。

そして彼を出世の道具としか見ていなかったサンウォンの心にも、次第に変化が訪れていきます。まるで接点のなかったサンウォンとパク。でも色々なことを共に経験していく中で、サンウォンはパクも自分と同じ夢を見失った一人の若者であることに気が付きます。そんな二人がポツポツと心を通わせていくくだりに、おじさんはまた鼻水を搾り取られたのでした。

わたしはお隣の事情とかよく知らないのですが、この映画を観る限りでは向こうの若者を取り巻く事情というのはとても厳しいようです。中央の大学を出なければ立派なポストにつけなかったり、公務員になれる倍率がかなり厳しい数字だったり。日本も含めなかなか将来に希望を持てない青年たちが、笑って顔をあげられるような社会にするにはどうしたらいいのだろうと、足りない頭でつい思いめぐらしてしまいます。そこで簡単に答えが出せれば苦労はしないんですけどね…

韓国映画といえば血しぶき飛び交うバイオレンス調のものが多い印象ですが、この『フィッシュマンの涙』はめずらしく物静かで心優しいファンタジー作品でありました。「涙」とタイトルにありますけど涙だけには終わらないところもけっこう好きです。
Fnn2こちらでは遅れてかかったうえに感想を書くのがもたついたので(またですか…)、もう全国でも5館くらいしか上映予定がないのですが、興味を持たれた方はごらんください。来月末にはもうDVDが出るようです。


| | Comments (0) | TrackBack (0)

March 15, 2017

LAコンガラガッテル シェーン・ブラック 『ナイスガイズ!』

Ng1『ラ・ラ・ランド』のヒットで改めて注目を浴びているライアン・ゴズリング。今回はその一週間前に日本で公開された、ライアン氏のまた違った一面が現れた作品を紹介します。『ナイスガイズ!』、行ってみましょう。

70年代アメリカはLA。しがない探偵のマーチは依頼である若い娘の身辺を調査しているうちに、彼女に雇われた示談屋ヒーリーにこっぴどく痛めつけられる。最悪ともいえる出会いだったが、その娘アメリアが政府の機密を知って追われる身だったため、彼女に関わったマーチとヒーリーも命を狙われることに。不本意ながらも二人は手を組んで巨大な敵に立ち向かうことになる。

この映画に関してはまずこの予告編をまず見ていただきたい。それほど興味のなかったわたしが、これを見て一瞬で絶対鑑賞リストに入れてしまったほどです。逆にこのトレイラーに特に響かなかった人は、むいてないと思います。

ただそういいながら予告では実は70年代が舞台ということに気づきませんでした… この70年代LAの風俗が珍妙なコンビの活躍に妙にマッチしてるんですね。ヘンテコな口髭やクラシカルなオープンカー、携帯・PCは登場せず、AVもなかったためにポルノ映画がやけにはぶりがよかったりする。定番の『セプテンバー』も流れます。そんな能天気な街を融通の利かないゴリラ男と、頼りなさげなお調子者、そしてチャーミングで活発なマーチの娘らが飛び回るのですから楽しくないわけがありません。

ライアン・ゴズリングといえばこれまで基本的にクールですかしたイケメン役が多く、非モテ民からすれば嫉妬の対象でしかなかったのですが、いやあ、今回のゴズリンくんはよかった。たぶんこれまでのキャリアで最もかっこ悪い役を極めて自然に熱演しておりました。んで彼が演じるマーチという男、冒頭から最後まで落ちたり折られたり切ったりと、えんえんと痛い目に合い続けます。その不幸ぶりが彼には悪いのだけど大変痛快でした(笑) そして彼自身も派手に痛がる割にすぐ立ち直ったりしてるので、そういう意味では実にハードボイルドです。

ハードボイルドといえば相方であるラッセル・クロウ。今よりも半分くらいのウェストのころに、やはりLAの腐敗を描いた『LAコンフィデンシャル』という作品で脚光を浴びました。二人の男の共闘、キム・ベイシンガー、狂犬のようなキャラクターと色々共通するところも多いので、見比べてみると面白いと思います。思えば彼もそんなにコミカルな映画には出てないので、ライアン共々新境地と言えるかもしれません。

この映画には特に原作はないのですけど、軽妙な海外ミステリー小説のような趣があります。ドン・ウィンズロウとか、ドナルド・E・ウェストレイクとかあの辺の作風に近い。謎解きあり、ピンチあり、意外な展開あり。でももっとも魅力的なのはそのはっちゃけたお笑いセンス。くたびれてる時に観ると実にスコーンと疲労が抜けていくような、デトックスにもってこいの作品でした。

Ng2…と、さんざんベタ誉めしましたけどいまいち宣伝に花がなかったためか、日本ではそれほど売れなかったようであさってには大体のところで上映終了です。ああああああshock こないだの『マグニフィセント・セブン』もそうだったけどドツボだった映画が売れないと本当につらい。せめて微力ながらも一生懸命応援したいと思います(ならもっと早く書けや)。というわけで興味を持たれた方はあと二日のうちにご覧ください。どうにも無理という方は二番館か数か月後にDVDでぜひ!


| | Comments (2) | TrackBack (1)

March 08, 2017

万国ビックリ少年団 ランサム・リグズ&ティム・バートン 『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』

Mpg1ここのところ、前ほどの勢いはなくなってきたティム・バートン。ですが今回の作品は久々に日本でも受けが良いよう。人気ファンタジー小説を映画化した『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』、ご紹介いたします。

アメリカに住む少年エイブはさえない平凡な毎日を送っていた。だがある日仲の良かった祖父が変死を遂げたことから、彼の謎に満ちた過去に興味を抱くようになる。祖父は戦時中ウェールズのとある島の施設で、不思議な力をもった子供たちと出会ったとエイブに語っていた。彼の死の真相を解けないかと、エイブは父親と二人でその島へと向かう。そこでエイブは祖父が子供たちを守るため、恐ろしい敵たちと人知れず戦っていたことを知る。

ティム・バートンというとジョニー・デップが観客置いてけぼりでケタケタ笑うような、ハイテンションなギャグが多いイメージ。しかし今回は原作付ゆえか、ジョニデと別れたからか、そういうお笑い要素はほとんどありませんでした。むしろ「もうちょっとユーモアを入れてもいいんじゃないの?」と思ったくらい。少年の冒険と成長と淡い恋模様
が真剣に真剣に語られていきます。自分… こういうのにも弱いんですよね…

変わった点のひとつはウェールズが主な舞台であること。先日の国民投票が記憶に新しいところですが、ウェールズのお話ってあまり映画でないような。アニメの『イリュージョニスト』くらいしか思い当りません。まあ自分、ウェールズとイングランドとスコットランドでどんなふうに風土が違うとか、あんまりわかってませんけどw

子供たちを率いる先生がなぜか鳥に変身できるというところも変わっています。いったい彼女は鳥なのか人なのか人間なのか… その辺の正体はよくわかりませんでしたが、「かっこよかったから細かいことはいい」と思うことにしました。ここんとこ肉食系女史の多かったエヴァ・グリーンさんですが、今回はとても男前です。くわえパイプがとてもよく似合っていました。

そしてエイブの仲間となる奇妙な力を持った子供たち。この子らのパワーがどれもなかなかヘンテコで楽しい。後頭部に口があるとか、風船のように宙に浮いてしまうとか、体に蜂の巣を内蔵してるとか、あまり実用的ではなさそうな特技ばかりなんですが、クライマックスの戦闘ではどれもちゃんと役に立っていて感心いたしました。バトルシーンなのにサーカスの曲芸を見てるかのような楽しさがあります。もちろん主人公エイブ君にもある特殊能力があるんですけど、これがなかなか地味(笑) でも仲間たちを守るためには絶対必要な能力で、その辺の設定のうまさにも舌を巻きました。
Mgp2ここんとこ『ファンタスティック・ビースト』『ドクター・ストレンジ』と幻想的な冒険映画がコンスタントにあたっています。なんにせよいま洋画が元気に乏しいので、少しでもヒット作が増えてくれたら嬉しいかぎりでやんす。
『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』はヤングアダルト原作にはありがちなことに三部作からなっているそうです。ただ映画の方は結末がそれなりによくまとまっていたので、これで終わりでもいいんじゃないかな、と思います。ちなみに世界興行収入はいまのところトントンの模様。うーん、微妙(笑)


| | Comments (2) | TrackBack (0)

March 06, 2017

お熱いドッグがお好き コンラッド・ヴァーノン&グレッグ・ティアナン 『ソーセージ・パーティー』

Sp1いまや全然珍しくもなくなったフルCGアニメーション。「こういうの、前にも観たなあ」と思うことが多くなってきました。しかし先ごろとびっきり個性的で珍妙でお下劣なCGアニメが登場いたしました。『ソーセージ・パーティー』、ご紹介しましょう。

そこはとある町のスーパーマーケット。食品たちや製品たちは、いつか神(お客さん)に選ばれて、店の外へ出ていくことを夢見ていた。そこはきっと素晴らしい楽園に違いないという伝説を信じて。ソーセージのフランクもその一人というか一個だった。そしてあわよくば隣で売られているセクシーなパンと楽園で結ばれたいという妄想にもふけっていた。だがその甘い夢は奇跡的に外から戻ってきたハニーマスタードの証言により打ち砕かれる。彼が言うには外界は神が食品を貪り食い、商品を消費する恐ろしい世界だというのだ… 

まあなんで主人公がソーセージかというとですね。いわゆるなにかの比喩なわけですね。そしてソーセージを挟むパンも何かの象徴なのです。そしてソーセージとパンが合体するということは… ああ、もうこれ以上はちょっと言えません!
かようによくこんな下品なこと思いつくなあ、そしてそれをアニメでやるなあ…とあきれ果てるのですが、テーマが何もないかといえばそんなことはなく、意外と考えさせられるお話になっています。飽くことなく必要以上にモノを買い、食べる人々の姿が実に醜く目にうつるのですね。こうはなりたくはないなあ…と思いつつももうすでにそうなっているのかもしれません。

お話は最初こそピ○サーの名作のようなムードで始まります。というかやはりこの映画、下ネタをぶち込んだ『トイ・ストーリー』のような趣があります。主人公たちが人間たちとコミュニケーションが取れなかったり、おとぎ話を信じ込んでるあたりとかね(そして現実は厳しい…)。あらためてかの作品の偉大さに感じ入りました。
そして世界の真実が明らかになったあたりから、今度は途端にホラー調になります。これがまあやっぱり絵柄はそのまんま漫画調なんですけど、妙にシュールな怖さがありまして。メシ・フロ、済ませたあとのレイトショーなのでちょっとうとうと来てたんですが、そのあたりから急にしゃきっといたしました。

食べられるしかないと運命を悟ったソーセージたちは果たしていかなる決断をくだすのか。そこから先が本当に想定を超えるというか、ぶっとんだ展開を見せます。R15指定ならではの残酷描写や下ネタもバンバンヒートアップしていきます。クライマックスの一シーンなどは劇場全体にすごく気まずいムードが漂ったりもしました(笑) しかし、まあそれをさしひいても一見の価値がある…と言っていいのか。大変人を選ぶ映画であることも確かです。

Sp2で、この『ソーセージ・パーティー』、こちらで上映されたのもだいぶ遅れてからだったので、もう明後日にはDVDが出ます。ご興味おありの方はぜひお子様の目の届かないところでご覧くださいまし。セス・ローゲン、エドワード・ノートン、ポール・ラッド、ジョナ・ヒルなど声優陣がなかなか豪華なのも見どころ…というか聴きどころです。


| | Comments (2) | TrackBack (1)

March 01, 2017

ジパング残酷物語 遠藤周作&マーティン・スコセッシ 『沈黙 -サイレンス- 』

Silence1ああー これはもう完全に公開終わってしまったなー(そんなんばっかしや) 遠藤周作の不朽の名作を大御所マーティン・スコセッシが映画化。『沈黙 -サイレンス- 』ご紹介します。

時は17世紀。ポルトガルの修道士ロドリゴは、敬愛していた師のフェレイラが遠い日本の地で消息を絶ったことを知らされる。フェレイラはかの地で体制側に寝返り棄教したという噂も流れてきた。ロドリゴは同胞ガルペと共にキリスト教が弾圧されている日本に渡り、師の安否を確かめるべく旅立つが…

この作品、映画を先に観てしまったらもう原作は読まないだろうと思い、珍しくはりきって原作を先に読みました。鎖国の時代のキリシタンが迫害される話なので確かに重苦しくはあるんですが、でも不思議と秘境探検ものみたいな面白さがあるんですよね。当時のヨーロッパ人にしてみれば日本もアフリカや南米と変わらぬ未開の地だったわけで。自分たちと全く異なる文化を持ち、ついこないだまで国中で戦争に明け暮れていたとなれば乗り込んでいく側とすれば相当な勇気が求められたはず。そんな彼らに感情移入して読むと、前半はなかなかスリルとサスペンスに満ちています。加えてフェレイラはどうなったのか? 本当に教会を裏切ったのか?というミステリー的な要素もあります。この「未開の地へある人物の謎を明かすために旅を続ける」というストーリー、コンラッドの『闇の奥』を思い出させます。
ただ中盤をすぎるとさすがにゴア描写やロドリゴの苦悩などが面白さに勝ってきて、「ああ、やっぱり純文学ねえ…」と感じ入りました。悩んで苦しんでたどりついたラストはなぜか意外とさわやかな印象でありましたが。
特に印象に残ったのはロドリゴの案内役となるキチジローというキャラクター。ウソつきで小心者で愚痴っぽくて、それこそ聖書の中のユダのように苛立つ人物なのですが、遠藤先生はこのキチジローに自分を重ね合わせて描いておられたそうで。ずいぶん謙虚な方だったんですね…

さて、映画のほう。一点を除くと実に原作に忠実でありました。ポルトガル人と日本人の共通語がなぜか英語というあたりはひっかかりましたが、日本描写は本当に違和感なく丁寧に作られていたので、そこは見逃してあげるべきでしょうか。
スコセッシ作品は主人公が「自分の悩み、苦しみを誰かにわかってほしい」というお話が多いです。『沈黙』に彼がひかれたのも同じテーマを見出したからでしょう。この作品の場合、わかってほしい相手が主に神様に限定されるわけなんですけど。でも神様はなかなか直接には言葉をくださらない。だから『沈黙』というタイトルなのですね。この辺現代日本人にはなかなかわかりにくい悩みかもしれません。日本人が書いた話なのにね(笑) ともかくその神の沈黙にどう折り合いをつけていくか、どれほど返事がなくても信仰をたもっていられるか… そういうお話なのだと思います。
そんなに深刻な映画なのに、どうも映像にされるとシュールというかユーモラスなものを感じてしまったわたくし。特に笑いをこらえていたのは塚本晋也監督が荒海で極刑に処せられるシーン。相当ハードな撮影で、塚本監督は「死ぬかと思った」「ここで死んだらスコセッシ喜んでくれるかな」なんてことを考えながら演じていたそうで。事前にそんなインタビューを読んでいたのがどうもいけなかったようです。原作では安らぎを覚えた結末も、映画の方はやっぱりなんでかけそけそけそと笑えてしまって。遠藤先生、スコセッシ監督本当にごめんなさい。
Yjimageslまあ自分はそんなでしたけど、日本について信仰について真摯に問うた映画なので、興味を持たれた方は是非ごらんください…ってもう公開終わっちゃったけどな! それにしても、あの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のあとでこんな重苦しい映画作るんだからスコセッシってやっぱりすごい人…というか人間の二面性が垣間見えて面白うございました。

| | Comments (6) | TrackBack (5)

February 28, 2017

荒野の七人2017 黒澤明&アントワン・フークア 『マグニフィセント・セブン』

Mg71映画史に燦然と名を輝かせ、いまだ多くのファンから愛されている『七人の侍』、および『荒野の七人』。この度鬼才アントワン・フークアの手により、その系譜が継がれることとなりました。『マグニフィセント・セブン』、ご紹介します。

南北戦争から程ない時代のアメリカ西部。私腹を肥やすためならどれだけ血を流しても意に介さないヴォーグという実業家がいた。そしてまたひとつ彼の欲望のために、立ち退きを迫られているローズ・クリークという町があった。夫を殺された若き未亡人エマは、街と正義を守るべく手練れの用心棒を探す。その心に打たれた黒人の賞金稼ぎサム・チザムは自分を含めた七人の精鋭を探し出し、ヴォーグの軍勢に敢然と立ち向かう。

…というわけで今回もオリジナルと大筋は同じです。七人のかっこいやつらが集結して、とことん悪いやつからか弱い人々を守るために戦うわけです。そのメンバーをまず紹介しましょう。

☆サム・チザム…旧作では勘兵衛およびクリスに相当するキャラクター。いかなる時も沈着冷静な頼れるリーダー。この時代まだまだ風当たりが強かろうと思われるアフリカ系アメリカ人ながら、凄腕の賞金稼ぎとして恐れられている。演じるは先日アカデミー主演男優賞にノミネートされたデンゼル・ワシントン。

☆ジョシュ・ファラデー…旧作では平八+五郎兵衛、ヴィンに相当するキャラクター。順番的に副官となる立場でもありながら、お調子者のギャンブラーのためどこまで信用できるかいまひとつ怪しい。演じているのがクリス・プラットのためどうしても『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のスターロードがオーバーラップしてしまいます。

☆グッドナイト・ロビショー…旧作では七郎次とハリー+リーに相当するキャラ。かつて南軍に属し数知れぬ兵士をあの世に送ったという伝説のスナイパー…なのだが、そのために悪夢に悩まされている。演じるは哀しそうな表情がよく似合うイーサン・ホーク。

☆ビリー・ロックス…久蔵・ブリットに相当するキャラ。ナイフの達人で東洋人。かつてグッドナイトに助けられて以来、彼とは強い絆で結ばれている。「この時代のアメリカにアジア人とか…」と思いましたが、実際に西部には労働力として連れてこられた中国人がけっこういたそうです。演じるは原田泰造によく似ているイ・ビョンホン

☆バスケス…ちょっとだけ菊千代とベルナルドおじさんに相当するキャラ。賞金首のメキシコ人で、第一印象は見るからに凶状持ちといった印象で最悪。ですが村に着いてからはちらちらと意外な一面を見せるようになります。演じるはマヌエル・ガルシア=ルルフォというあんまり知らない役者さん。たぶんまだ若い。

☆ジャック・ホーン…特に旧作に相当するキャラが思い当らない… 山奥で原住民狩りに精を出していた怪人。怒らすとジェイソンのように斧を振り回す殺人鬼だが、それでいて信心深く女子供にはやさしい。演じるはかつて「ほほえみデブ」、今ではキングピンとして知られるビンセント・ドノフリオ

☆レッド・ハーベスト…もしかしたら勝四郎かチコにあたるキャラなのかな…?(それにしては強い)。なんとなくフィーリング?でついてきたネイティブ・アメリカンの青年で弓矢の名手。中の人はマーティン・センズメアーというたぶん新人さん。

というわけで今回は旧作とくらべ人種的にバラエティに富んでおります。誰が誰なのかぱっと見分けのつきやすい構成。北軍と南軍、黒人と白人、入植者と原住民、アメリカ人とメキシコ人と、これまで生まれや社会の事情で戦いあってきた者たち。当然最初はやや不穏な空気が流れますが、割とあっさりその辺のわだかまりはスルーされます。たぶん彼らはそれまでの戦いに正当性を見失って、いささか人生に疲れていたんでしょうね。しかしどこからどうみても正義と思える闘いを見つけて、己の命の燃やし場所をそこに定めるわけです。その正義とは言うまでもありませんが、「自分の欲のためになりふり構わない悪党から、力なき一般庶民を守る」ことです。まあその正義感をあんまり表に出さず、ちょいと悪ぶってへらへら笑ってるあたりがかえって好感がもてたりして。

『七人の侍』『荒野の七人』の面々は例外もちょっといますが、おおむね出てきた時から英雄であり好漢でありました。「マグニフィセント(素晴らしい)」とタイトルについている所以であります。しかし今回の面々はほとんどがならず者かはぐれ者か犯罪者。その日その日を目的もなくフラフラと漂い、時々もめては同種のガンマンを墓場に送ったりするような連中。そんなどっちかといえばヘイトフルな輩たちが、真にマグニフィセントな男たちになっていく。そのあたりが新『マグニフィセント・セブン』の醍醐味と言えましょう。

あとなんといってもこれほどまでに男たちがかっこよく輝いている映画はそうそうありません。どっかのアニメ映画で「かっこいいとはこういうことさ」というキャッチフレーズがありましたが、まさにその言葉がズバッとあてはまるような作品です。薄汚れた風体が、立ち姿が、不敵な表情が、目にもとまらぬアクションが、朴訥なセリフの数々が、本当にいちいち「勘弁して!」と言いたいくらいかっこいい。男なら誰でも憧れ、女たちなら誰でも惚れる、そんなやつら。ドノフリオさん(ジャック・ホーン)だけはちょっと例外というかゆるキャラのような立場ですけど。
C5mb3vguyaawii5C5mb5afu8aau5sb正直これまでいまひとつ「合わないな」と感じていたフークア作品でしたが、この映画に限ってはずぼっとツボにはまりました。ありがとう! そしてありがとうフークア監督!!

それほどまでな大傑作なのに日本ではあまり売れ行きが芳しくなく、今週中には上映が終わってしまうというのが哀しくて悔しい… 自分ももっとはやく感想を書いて微力ながら応援するべきだった… 僕のバカバカバカバカ。
観られる状況にありちょっとでも興味を抱いた方は、あと3日のうちに劇場に急がれてください。下側のイラストは『ドクター・ストレンジ』にひきつづきウシ先生が描いてくださったジャック・ホーン。かっこかわいいとはこういうことさ!

| | Comments (2) | TrackBack (2)

February 24, 2017

決定! 第6回人間以外アカデミー賞!!(2016年公開の作品から

いよいよアカデミー賞が3日後にせまってまいりました。そこで恒例の「人間以外アカデミー賞」をそろそろ決めたいと思います。2016年の映画で活躍した人間以外の生物・自我を持つものを表彰してまいります。それでは例によってゲノムの単純なやつらから。

Yn2☆細菌・微生物部門 『君の名は。』より三葉ちゃんが噛んでた口噛み酒に含まれていたコウジカビ
昨年度ナンバーワンヒット作より時空を超えた細菌を選びました。次点というか功労賞に『バイオハザード ザ・ファイナル』のT-ウィルス

☆植物部門 『オデッセイ』よりジャガイモ
これしか思いつかんかった…

☆昆虫その他の無脊椎動物部門 『テラフォーマーズ』のみなさん
正確にはこのひとたち背骨あるんですけどね。純粋な昆虫では『TOO YOUNG TO DIE!』の神木君が転生したカマキリとか。無脊椎動物では『レッドタートル』のカニも光ってました。

Rtasm1☆魚類および海生哺乳類部門 『ファインディング・ドリー』よりタコのハンク
『ドリー』だけで10種くらい候補があったんですが。あと『ロストバケーション』のホオジロザメと『白鯨のいた海』の鯨

☆両生類・爬虫類部門 『レッドタートル』より赤い海亀
『ミュータントタートルズ 影』との亀対決でありました。ほかに『キング・オブ・エジプト』のでかい蛇もいました。

☆鳥類部門 『アングリ―バード』の赤い鳥と『コウノトリ大作戦』のコウノトリ
この二本観てないので公平に同時受賞。『ロストバケーション』のカモメと『ひな鳥の冒険』のひな鳥もよかったです。

☆犬猫小動物部門 『ズートピア』のジュディと『猫なんてよんでもこない』のクロ
本年度も激戦区でした。ほかには『ペット』のスノーボールほかのペットたち、『ミラクル・ニール!』のワンコなど。『メン・イン・キャット』は観そびれました。

Pdt1☆草食動物・牧畜部門 『ひつじのショーン いたずらラマがやってきた!』よりいたずらラマ
ほかは『ズートピア』のポゴ署長とか悪者のヒツジとか。

☆肉食動物・野獣部門 『パディントン』よりパディントン
『ジャングルブック』のバルーや『レヴェナント』などクマの活躍が目立ちました。『ジャングルブック』からはシア・カーンやバギーラも印象深かったです。あと肉食ってなさそうだけど『ズートピア』のニック

☆類人猿部門 『ジャングル・ブック』より巨大オランウータン
あと『ターザン』のゴリラや『神様メール』のゴリラ。今年は二大サルシリーズの新作が公開されるので楽しみです。

☆恐竜その他絶滅した動物部門 『アーロと少年』よりアーロ
この部門は『アーロと少年』の独壇場ですかね。ほかに翼竜ゴロピカドンやT-REX一家

ここから現実離れした路線になります。

Sots1☆妖精・伝説の生き物部門 『ソング・オブ・ザ・シー』よりシアーシャちゃん
めっちゃかわいかったですねえ… ほかに『ピートと秘密の友達』のドラゴンや『ファンタスティック・ビースト』のもろもろ

☆怪獣部門 『シン・ゴジラ』よりシン・ゴジラ第二形態と第四形態
どっちかひとつにしようと思ったんですが選べませんでした。ほかに『インデペンデンスデイ リサージェンス』『10クローバーフィールドレーン』『モンスターズ 新種襲来』のあれら

☆人でなし部門 『クリーピー』の香川照之さんかなあ… これ観てないんだけど
『ヒメアノ~ル』の森田君は辛うじて人の心が残ってたので落選。『スーサイド・スクワッド』のアマンダ女史もひどかったですね。

Iamh1☆ゾンビ・吸血鬼部門 『アイアムアヒーロー』の体育会系ZQNさん
ゾンビに新しい性質を与えた『アイアムアヒーロー』。『バイオjハザード』『高慢と偏見とゾンビ』『インド・オブ・ザ・デッド』と今年もゾンビは元気でした。

☆幽霊部門 『貞子VS伽耶子』より貞子&伽耶子
怖くて見てませんが。『クリムゾン・ピーク』のトム・ヒドルストンはあまり怖くなくてよかった。

☆妖怪・モンスター部門 『GANTZ:O』 のぬらりひょんさん
観ているこちらがぶるってしまうほどの恐ろしさでした。正確には宇宙人かもしれませんが

Koe2☆神様部門 『キング・オブ・エジプト』のラーさん
『キング~』ではホルス、アヌビスも目立っておりました。『神様メール』のエアちゃん、『X-MEN アポカリプス』じょアポやんもよかったです。

☆悪魔部門 『キング・オブ・エジプト』よりセトさん
『キンエジ』2冠です。『デスノートLNW』のアーマさんもよかったですね。

☆宇宙人部門 『PK』よりPK
あとは『GANTZ:O』のみなさんや『インデペンデンスデイ リサージェンス』『10クローバーフィールドレーン』『モンスターズ 新種襲来』のあれら

Swr11☆ロボット部門 『ローグワン』よりK-2SOトと『エクスマキナ』のエヴァ
例年より元気のなかったこの部門。貴重な候補だったので同時受賞といたしました。

☆正体不明部門 『ソーセージ・パーティー』よりソーセージ
いや、ソーセージじゃないの…?という意見もありましょうが、やはりあれらは別の何かという気がしてなりません。

そして栄えある大賞に選ばれた作品は順当に

『シン・ゴジラ』

Sngzl


であります。『ズートピア』『ジャングルブック』『キング・オブ・エジプト』といった強力なライバルたちを征しての受賞、大変お見事でした。

今年も『キングコング』や『エイリアン・コヴナント』、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』にアニメ版ゴジラなど楽しみな人間以外映画が目白押しです。期待して待ちましょう!

| | Comments (0) | TrackBack (0)

February 22, 2017

妖術のお医者さん スコット・デリクソン 『ドクター・ストレンジ』

1487749940503_3『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』から約9ケ月。ようやくマーベル・シネマティック・ユニバースの最新ヒーローがお目見えです。その名も『ドクター・ストレンジ』!(…) ま、ともかくあらすじからご紹介しましょう。

自他ともに認める天才外科医スティーブン・ストレンジは、不慮の事故により両手に大けがを負う。医師としてのキャリアを諦めきれない彼は、「半身不随さえ回復させた」施設の噂を聞き、その施設がある場所カマー・タージへと向かう。だがそこで彼が出会ったのは医師ではなくエンシェント・ワンと名乗る魔術師であった。魔術と聞いて一笑に付したストレンジだったが、エンシェント・ワンの強大なパワーを目の当たりにし、弟子入りすることに。しかしそれはこの世に災厄をもたらす異次元の怪物との闘いに足を踏み入れることでもあった。

X-MENは差別問題、アイアンマンは電子工学、スパイダーマンは地道な自警団員…と、アメコミヒーローにはそれぞれ得意分野や役割分担があります。ドクター・ストレンジの割り当ては地獄や魔界からくるモンスターと戦い、我らの世界の門番となること。日本のキャラで一番近い存在と言えば「悪魔くん」でしょうか。決して本国でもメジャーなキャラではなかったようですが、そのラリッたようなサイケデリック・アートが一時期マニアな大学生さんたちにウケていたそうです。
まあなんというかヒーローにしては独特ないでたちですよね。素顔丸出しでちょび髭で派手な衣装。正義の味方というより悪の幹部かマジックショーの舞台が似合いそうです。つい最近まで単独タイトルは訳されたことがなく、わたしの印象は「大規模なクロスオーバーでいつの間にかいて偉そうなことを言ってるおじさん」というものでした。ゲームファンには人気シリーズ「マーヴルVSカプコン」などでも親しまれているようです。

さて、この度の映画ですが、オカルト系の作品やあまりほめてる人のいない『地球の静止した日』のスコット・デリクソンがメガホンを撮っております。だからなんとなく不安だったのですが、マーベルのかじ取りがうまくいったのか、デリクソン監督のキャリアで最も称賛を浴びた作品となりました。本当に大人から子供まで広く楽しめる一大エンターテイメントに仕上がっています。自身の十八番であるオカルト描写を抑え、代わりに『インセプション』のようなサイバーパンク的なビジュアルで観客の目を楽しませてくれます。
あとこれも意外だったのですが、今回かなりギャグが多いです。しんみりした場面の直後でもすかさず入れてくるので「ちょっとやりすぎじゃね??」とも思いましたが、見逃しましょう。

最初こそじれったくなるほど魔法の習得にてこずっていたストレンジ先生ですが、「素質がある」と言われるだけあって一度壁を越えたらあとはグングンと様々なスキルを身に着けていきます。そんな風になんでもできちゃうようでいて、実はそれなりに法則にのっとっていたり、侵しちゃいけない領域があったり、失ったものは取り戻せなかったり…というあたりが面白いですね。魔法モノでありながらこういう色々不自由な設定がハリポタとは一風違ったところです。今回「時間」がひとつのテーマにもなっているのですが、先生が恋人から贈られた時計が要所要所で印象的な使われ方をしていて心憎かったです。

あともう一点気づいたのはストレンジ先生がMCUの代表的ヒーローであるアイアンマンとよく似ているということ。天才で傲慢でちょび髭でどんどん新技術を習得していくとこや、その実正義感を胸の奥に隠していたり、一度手痛い挫折を味わっていたり…と本当に「もう一人のアイアンマン」と言っても過言ではないかと。しかし上手に差別化されている…アイアンマンは科学技術の申し子、ストレンジは精神世界の探求者…ため、「二番煎じ」という印象は全く受けません。アイアンマンが基本ワンマンなのに対し、ストレンジには兄弟子たちや師匠が支えとなってくれるところも異なってますね。劇中で「アベンジャーズとは違い、我々は…」というセリフがあったように、ストレンジ先生はこれから別方面の侵略者たちと戦うヒーローたちのリーダーになるのかもしれません。もしそうであれば一人でなんでもしょい込んでしまうキャップやアイアンマンたちにとって、非常に心強い存在となるはず。ちょっとすっとぼけた一面もありますが、そんなストレンジ先生の活躍に期待しております。
Drst3『ドクター・ストレンジ』は『ファンタスティック・ビースト』の余波にうまくのっかったのか、日本でも初週第一と好調な成績をおさめました。いや~~~ わしゃ、これてっきりはずすと思ったけどな~~~
そしてMCUの次なるタイトルはあの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の続編。さらに今年はスパイダーマンの新作や(たぶん)『ソー』の第3作も待機しております。ああ… 楽しみなことが多くてなんだかあたし怖い…
左のイラストはお友達のウシさんが描いてくれたもの。上のわたしが描いたヘボ絵との画力のギャップをお楽しみください。

| | Comments (6) | TrackBack (4)

February 20, 2017

おじいちゃんは復讐鬼 アトム・エゴヤン 『手紙は憶えている』

Tgmiho2カナダ映画界にその人ありと言われている実力派作家アトム・エゴヤン。そのアトムさんの作品が珍しくこちらでも上映されたので、先日(もう一か月前…)行ってまいりました。『手紙は憶えている』、ご紹介します。

グループホームに暮らすゼブは齢90。最愛の妻を亡くしたばかりだが、一度寝るとそのことすら忘れてしまうほど記憶の機能が衰えていた。しかしそんな彼を友人のマックスは「独り身になったいまこそ、私たちの復讐を果たそう」とせきたてる。かつてアウシュビッツで彼らの家族を殺し、いまだ隠れ暮らしているナチ高官の居所をつきとめたと言うのだ。マックスは足が不自由なため施設を出られないので、すべてをこと細かくしるした手紙をゼブにもたせ、仇とおぼしき四人のもとにむかわせるのだが…

アトムさんの経歴をさらっと読んでみたのですが、犯罪や暴力といったモチーフを好み、ある人物の秘められた素顔が徐々に暴かれていく…そんな作品が多いようですね。ただわたしがこの映画を観ようと思った最大の動機は「あっと驚くどんでん返しがあるから」と聞いたからでした。確かに社会派作品というより、ミステリー・サスペンスとしてよく出来ています。
グループホームでの友情から始まるあたりは名作アニメ『しわ』を思い出させますが、ゼブが旅に出てからはクリストファー・ノーランの初期の傑作『メメント』を彷彿とさせます。なんせ自分の状況をすぐ忘れてしまうゼブおじいちゃん。手紙を見ればなんとか事情を把握できるため、腕にマジックで「手紙を読め」と書いてはあるのですが、いろいろと不安です。足元だっておぼつかないし、旅の目的は温泉やグルメではなく処刑であります。90過ぎのおじいちゃんにそんなことが可能なのか?と全力で止めに行きたくまります。少し前の『100歳のおじいちゃんの華麗なる冒険』の人だったら余裕でできそうな気はするんですけど。

そんな風にハラハラする一方で、おじいちゃんがよたよたしながらも旅を続けているのを見ていると、その恐ろしい目的のことも忘れてなんだかほのぼのした気持ちになってくるから不思議です。北米の雄大な風景もなごやかムードを増してくれます。なんか最近旅行してないからめっちゃ観光とか行きたくなりましたよ。

ただやっぱり、ゼブが真の標的に近付けば近付くほど、そんなのんきな空気はかぎりなく薄くなっていきます。アトム・エゴヤン監督は迫害された歴史を持つアルメニア人でもあるゆえ、ユダヤ人には共感を覚えるのかもしれません。しかしゼブに負わされた業の痛々しさを思うと、復讐を是としているわけではないことは明らかです。自分は正義の側で正当な理由があると信じていても、それはどれほど確かなものなのか? そんな問いも投げかけられているかのようです。結局、暴力に頼って報復をなしとげるということは、公ではなく個人のエゴやん?みたいな?

………

ごめんなさい… 主演のクリストファー・プラマー氏はさすがに90代ではないですが、あとわずかの御年87歳。まさにその生涯現役的な熱演には心を打たれました。恥ずかしながら調べてようやく知ったのですが、この方『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐の方だったのですね。あちらではナチスの手から脱出する役柄でしたっけ。まだまだ長生きしていただきたいものです。

Tgmiho1昨年も多かったナチス関連映画。この作品のほかにも「ヒトラー」とついたタイトルをいくつか見かけました。わたしゃ『ヒトラーの忘れもの』というのが観たかったんですが、来月ようやくこちらでかかります。『手紙は憶えている』はまだ少し公開予定のところもありますが、さすがにそろそろ興行も終わりのよう。5月にDVDが出るようなので観そびれた方はそちらでどうぞー


| | Comments (0) | TrackBack (0)

より以前の記事一覧