June 14, 2019

燃やしていいのは体脂肪だけ 今石洋之・中島かずき 『プロメア』

Pma2一ヶ月後の健康診断を控えひそかにジョギングを続けているわたくしですが、それとはまったく関係なく、本日は『天元突破グレンラガン』『キルラキル』のコンビが贈る劇場アニメ『プロメア』を紹介いたします。

精神により発火できる能力を持つ新人類「バーニッシュ」が誕生した近未来。世界ではバーニッシュによる被害を食い止めるため各地で特殊消防隊「バーニングレスキュー」が活躍していた。その一員である血気盛んな青年・ガロは、テロ集団マッドバーニッシュとの戦いの中で、彼らのリーダーである若者リオと出会う。激しくぶつかり合う二人だったが、やがてガロはバーニッシュたちの哀しい運命や自分が所属する都市プロメポリスの裏面を知り、葛藤するようになる。

まあやっぱり最初に思うのは「これ、『グレンラガン』の二時間版別バージョンじゃん」ということですね。そもそも主人公のガロが『グレンラガン』の主要キャラであるカミナによく似ている。他にも『グレン~』を思わせる要素があちこちに散りばめられておりファンとしては「たまんねえぜグへへ」という感じでした(品のない表現だなあ)。

ただこれまでの中島・今石作品と違うのはこれが1本に映画であるということと、恐らく実在の役者さんを想定して、それからキャラを膨らませていということ。三谷幸喜さんが好んで用いている「あて書き」というやつですね。メインの3人である松山ケンイチ氏、早乙女太一氏、堺雅人氏はそれぞれ中島かずき先生の舞台に出ておられたとのことなので、恐らくその時彼らの演技を見ながら先生は「こういうキャラが活躍するアニメを作ったら面白かろうな」と思われたのかもしれません。とりわけそれが爆発していたのが主役二人の前に立ちふさがる執政官クレイを演じていた堺さん。普段はニコニコ穏やかな表情を浮かべているのに、尻尾をつかまれた途端別人のようにブチ切れる様子が最高でした。普通悪者が居直るところってイライラしそうなものなのに、なんでかすごい爽快だったんですよね… そういえばドラマ『新選組!』の時に聞いた堺さんのエピソードで「最初は山南さんのようにソフトな笑みを浮かべながら飲んでいたのに、酔いが回ってきたらボロボロ毒を吐き出してきた」というのがありました。まさにこのクレイは堺さんにうってつけのキャラだったと言えるでしょう。

あと同じことを繰り返してるようで、少しずつ色を変えてるのが中島・今石コンビ。彼らの作品には少なからずダイナミックプロの影響があると思うのですが、その線で行くと『グレンラガン』は『ゲッターロボ』の、『キルラキル』は『キューティーハニー』のオマージュっぽいところがありました。そして『プロメア』は原作の『デビルマン』が根底にあったんじゃないか…という気がします。まあ途中あからさまに絵柄を意識してるシーンがありましたし。「怪物」と異分子を排除している政府が、実は怪物以上の怪物だったというあたりはまさに『デビルマン』でありました。威勢がよくワイルドなガロは不動明を、中性的でクールなリオは飛鳥涼をイメージしているようにも思えます。でもまあ『プロメア』はとにかく元気で世界の破滅も気合で吹っ飛ばすようなノリなので、その辺は『デビルマン』とは全然違いますね。

絵柄の特色はと申しますと、とにかく三角と四角が目立ちます。無数の角ばった図形が画面いっぱいを縦横無尽に駆け巡る映像暴力と申しましょうか。ここんとこのアニメ映画は美術的にも恐ろしく力の入ったものが続いていますが、『プロメア』はそんな痛快なキュビズムでもって炎と氷の戦いをこれでもかという感じで描き切って、観る者を翻弄します。

そしてロボです。予告を見た時、「今回はロボはどの程度出るのだろう。おまけ程度かな」と感じていたのですが、ドカーンとやってくれやがりました。今の日本で出来る最高峰のロボアニメでございました。先日の映画秘宝のインタビューで中島先生は「レオパルドンを出していたら『スパイダーバース』はアカデミー賞を取れなかっただろう」とおっしゃっていましたが、『プロメア』からは「賞なんかどうだっていいわ! わしゃ巨大ロボが好きなんじゃあああ!」という魂の叫びが聞こえてきました。信じてたぜ… かずき…(敬称略)。わたくしそろそろ中島先生には本腰入れてゲッターロボのリメイクをやってほしいと思ってるのですが、この願いどこかのお金持ってる会社に届きませんでしょうか。

『プロメア』は残念ながら日本全体ではそんなにヒットしてないのですが、都内近郊の良い設備の劇場では満席続出という局所的なフィーバーを巻き起こしております。この映画はたぶん伝説になる… ので観られるところにいる人は今のうちに観ておいたほうがいいぜ?

2019のアニメ映画フィーバーは現在公開中の『海獣の子供』、近日封切り予定の『きみと、波に乗れたら』『天気の子』と続きます。『プロメア』と違ってオミズ系の話が多いようで。

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June 12, 2019

ロンドンVS万里の長城 フィリップ・リーブ クリスチャン・リヴァース 『移動都市/モータル・エンジン』

本日は「あのピーター・ジャクソンが(製作で)贈る!」という触れ込みで鳴り物入りで公開されたものの、あまり盛り上がらなかった(泣)『移動都市/モータル・エンジン』、ご紹介します。

人類の文明が一度崩壊した未来。世界は「移動する都市」で生活する人々と、巨大な壁の内側で定住する人々の二派に分かれていた。移動都市の中でもとりわけ強大な「ロンドン」に潜入した顔に傷のある少女へスターは、そこの技師であるヴァレンタインを復讐のためにつけねらう。ロンドンの一市民の青年トムはそれを止めようとしたことから世界を巡る大きな陰謀に巻き込まれることになる。

原作は2001年にフィリップ・リーブが発表したSF小説。この度はその1作目が映像化されていますが、全部で4作からなるシリーズだそうです。

まず感心するのは都市に巨大な車輪がついていて動き回るという発想。バンパイアハンターDの1作にもそんな話があったような。ただこちらがもっとぶっ飛んでるのは、大きな都市がまるで捕食するように小さな都市を取り込んで資源を吸収していく描写。そんな生き物のっぽい機能や西洋ファンタジーとスチームパンクが合わさったような都市のデザインは、「タイムボカンシリーズ」のユーモラスなメカたちを思い出させます。

前半はそういった芸達者なヘンテコメカの活躍が面白かったのですが、後半に入ってからはお話がシリアスになっていくせいか、だんだん奇天烈さが薄くなってしまうのがちと残念でした。本当にちっとばかりの物足りなさではありますけど。

夢を追う若者と謎のあるヒロインが冒険を繰り広げるあたりは『未来少年コナン』や『天空の城ラピュタ』とも似ています。違うのは宮崎アニメよりも少し年齢が上なことと、少女が主で少年が従ということなどでしょうか。

監督はクリスチャン・リヴァース氏。長年ピーター・ジャクソンにぴったりと寄り添い、その映画作りを手伝ってきた方ですが、今回晴れて初メガホンとなりました。師匠譲りの才能ゆえかしっかり楽しめる安定したエンターテインメントをこしらえてくれたのですけど、残念ながらこの『モータル・エンジン』は2018年で最も赤字(184億円)を出した映画となってしまいました。実際に観てみると何がそんなにいけなかったのかよくわからないのですんよね… やっぱり「都市が動く」というアイデアにひきつけられた人がそんなにいなかった…ということなのでしょうか。あと大本のネタがイカれてるわりには、キャラクターたちが総じて真面目な人たちばかりというのもよくなかったのかも。一人くらい子供に人気の、笑いを取れる著名な俳優を混ぜたらもう少しいい結果になったのか???

ともかく、ピーター・ジャクソン&弟子の捲土重来を期待しております。ちなみにピージャク氏の次回作はビートルズの『LET IT BE』を題材にした作品とのこと。ビートルズ版『ボヘミアン・ラプソディ』のような映画になるのでしょうか。はてさて。

 

 

 

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June 05, 2019

ポケットモンスター/ハード&ボイルド ロブ・レターマン 『名探偵ピカチュウ』

これまた1ヶ月前に公開されてる映画ですが、いまだに上位10作に並んでいるツワモノ的作品。ポケットモンスターの世界に新たな風を送り込んだ映画版『名探偵ピカチュウ』、ご紹介します。

人とポケモンが仲良く暮らす街、ライムシティで一人の探偵が事件に巻き込まれ姿を消す。その探偵の息子・ティムは、父の消息を確かめにライムシティの事務所を訪れる。そこにいたのは父のパートナーであった1匹のピカチュウであった。驚くべきごとにそのピカチュウは人語を話し、ティムに一緒に事件を解決しようと持ちかける。

原作は3年前にダウンロード用として発売されたTVゲーム。ポケモンに関しては「ポケットモンスターGO」をちょっとかじったくらいなんですけど(それでも今回そのおかげでけっこう助かりました)、コンセプトを聞いた時「なぜピカチュウが探偵なんだ!? あれに推理とかできんのか???」と困惑を隠せませんでした。正直今に至ってもその必然性とか理解しきれてないんですが、まあ面白かったしかわいかったんでよしとします。ピカチュウといえば今や国民的キャラクターでさんざん見慣れた感がありましたが(実際最近までジバニャンに押されてたし)、今回多くの人がやられてしまったのが予告編で見せた皺の寄った表情。普通しわがよったらどっちかというと醜悪なデザインになりそうなものなんですけど、これがなんとも言えないかわいらしさがありまして。ココアに少量入れる塩のような効果がありました。某『ゴールデンカムイ』のヒロイン、アシリパさんの変顔にも似ておりました。

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ピカチュウの声をあてているのは『デッドプール』での怪演で有名なライアン・レイノルズ(吹替え版では西島秀俊氏)。これもどうせ受け狙いでキャスティングしたんだろうな~~~と冷ややかな印象を抱いておりましたが、最後まで観てみたらそれなりにちゃんと理由があったことがわかりました。あとネットの感想を見ると「真相が簡単にわかった」みたいな声がけっこうあがっておりましたが、自分は普通にだまされました(笑)。ですから「探偵」とついてるだけあって一応ミステリー映画としても鑑賞できます。ちなみに映画はきちんと事件が解決されますけど、ゲームの方はこれから完結編が発売され、映画とはまた違った結末を迎えるとのこと。

探偵ものといえば監督はこの映画を作るに当たり『ブレードランナー』を参考にしたとのこと。これまた予想斜め上のタイトルでございます。たぶんブレランの闇の深い街の背景とか、大きな陰謀に一人立ち向かうヒーローの姿とかを意識したんだと思います。そういえば作品に出てくるポケモンは普通にアンドロイドに置き換えても普通にお話が成立しそう。まあポケモンの方がかわいいしカラフルだし観ていて楽しいですけどね。

監督のロブ・レターマン氏は他にも『モンスターVSエイリアン』など撮っていて、怪獣にも並々ならぬ思い入れがあるようです。本作品におけるドダイトスやミュウツー、リザードンの描写には怪獣映画顔負けの迫力がありました。その辺はさすがモンスターバースやジュラシックワールドのレジェンダリーピクチャーズでございます。

ちょうどいまレジェンダリーの新作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が上映中ですけど、両方ともモンスターを愛するおじさんとして渡辺謙氏が出演していたり、モンスターと人間の共存がテーマのひとつだったり、共通するところも幾つかあって観くらべてみると一層面白いかと思われます。また夏には恒例のポケモン映画に第1作のCGリメイク『ミュウツーの逆襲』が公開予定。かわいいのから怖いのまでモンスター花盛りでよろこばしいことでございます。

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May 29, 2019

その男、エドゥアール ピエール・ルメートル/アルベール・デュポンテル 『天国でまた会おう』

フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞を5部門で受賞。大都市では3月くらいに公開されたものが連休中にこちらでもかかり、これまたいまさらではございますが感想を書いておきます。『天国でまた会おう』、まずはあらすじから。

第一次大戦末期のヨーロッパ西部戦線。上官の無茶な命令で敵陣に突撃した若き兵士エドゥアールは、年の離れた戦友のアルベールを救おうとして爆撃で顔の下半分を吹き飛ばされてしまう。アルベールは彼を献身的に世話するが、このことがきっかけでエドゥアールは心を閉ざしてしまう。終戦を迎え街が復興に向かう中、エドゥアールは愛国心や戦争を美化するムードに対し風変わりな復讐を思いつく。

公式サイトでも触れられてますが、3年ほど前翻訳ミステリー界隈で話題を席巻した『その女、アレックス』という小説がありました。これがたしかに巧みな構成と意外な真相、息もつかせぬ展開で読ませる一級品のエンターテインメントだったのですが、とにかくまあ、えぐい話でして。小説だったからまだよかったけど映像だったらとても見続けていられなうだろうな…と思いました。

で、今年初めくらいにその原作者ピエール・ルメートルの別の作品が映画化され、日本でも公開されるという情報を聞きました。それがこの『天国でまた会おう』だったというわけ。「ギリアムやティム・バートンを彷彿させる魔術のような映像」という惹句や、奇天烈な仮面をかぶった男とかわいらしい少女のポスターにひかれ、「『アレックス』よりはやさしい話かも」と気になっていたのでした。ところがどすこい、序盤の戦場でのくだりなんかはなかなかにゴアでございました… まあやっぱりね。下あご大体吹っ飛んだ状態で生きてるわけですからね。そこさえ耐えきればあとはあんまりきついところはないんですが。

珍しいのはこれが十以上は年齢差のありそうな友情の話という点。ただアルベールが一生懸命エドゥアールのためにいろいろやってやってるのに、エドゥアールの方ではそれが当然のようにおもってる節があり、もうちょっと友人をねぎらってやれや、と思わないでもありませんでした。人前に出られない姿になったうえ麻薬中毒も進行していく身の上では自分のことだけでいっぱいいっぱいなのかもしれませんが。

ちょうど先日DVDでチャップリンの『担え銃』をたまたま見てたのですが、第一次大戦を舞台にして戦争をおちょくってやろうとする精神はこの映画とも通じるところがありました。もっともチャップリンの方は最初から最後まで爆笑モードですが、『天国でまた会おう』は軽妙な空気もたもちつつ全体的に物悲しいお話であります。とくに最後にエドゥアールがとる行動は大変ショッキングで、茫然としてしまいました。なぜそこでそうしてしまうのか大変納得がいかないのですが、そこがかえってこの作品の深いところでもある…のかな。

ちなみにエドゥアールの姉を主人公とした続編的小説『炎の色』がすでに早川文庫から翻訳されて出ております。ちょっと読んでみたいけどやっぱり物悲しいお話なのかな… 『その女、アレックス』も映画化されると聞いたけどその後どうなっているのでしょう。まあ公開されても自分観ませんけどー

 

 

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May 28, 2019

猫の意趣返し 柏葉幸子・原恵一 『バースデー・ワンダーランド』

更新をさぼってるうちに公開が終わってしまった映画がまた1本… いまさらという気もしますがわたしが日本アニメ界で最も信頼を置いてる作家のおひとり、原恵一氏の最新作『バースデー・ワンダーランド』ご紹介します。

友達を上手にかばうことができずに落ち込んでいた小学六年生の女の子・アカネは、自分の誕生日にまだ若いおばさんのところへお使いにやらされる。アカネがおばさんが営む風変わりな雑貨屋でくつろいでいると、突然床下からヒポクラテスという紳士然とした男が現れる。ヒポクラテスは自分の世界が危機に瀕していて、それを救う力を持つアカネに共に来てほしいと懇願する。わけもわからぬままアカネとおばさんは不思議な世界に連れて行かれ、冒険の旅に出ることになるのだが…

いま非常にはやってますよね、「なろう系」っていうファンタジーのジャンル。平凡な主人公が異世界に転生したらチートな力を授けられて無双の活躍をするという話。ただこういうのってジュブナイルや童話などでもむかーしから原型があったりするので、別段目新しいものでもなかったりします。ちなみにこのアニメの原作は1981年に柏葉幸子先生が著した『地下室からのふしぎな旅』という児童文学。さっとあらすじを見たところ大筋は一緒のようですが、「世界を救う」とかそういう話ではないみたい。もうひとつちなみに柏葉先生は『霧の向こうのふしぎな町』という作品を書いておられるのですが、これがあの『千と千尋の神隠し』の原型になってるんだとか。

さて、本編のほうですが、さすがは原監督というか作品内の落ち着いた色彩の豊かさには目を見張らせられます。特に『カラフル』でも発揮させられた食い物描写には恐ろしいほどの吸引力を感じました。あともうひとつツボだったのが原監督にしては珍しい猫描写。異世界の猫は喋ったり立ったりするんですが、それでもいかにも猫らしいしぐさにいちいちなごませてもらいました。悪役の1人(1匹?)に「だもんね~」が口癖の黒猫がいるんですが、こいつがまた小憎らしいながらもかわいらしゅうございました。

ただ残念ながらとういうべきか、最も印象に残ってしまったのがメインの柱ではなく装飾にあたるその2点だったというのがちょっと物足りなかったような。原監督のこれまでの傑作というのはごくごくありふれた日常の世界の中に、異常な存在が介入してくるものが多いのですが、今回はそれが逆転していてまるっきり非現実的な世界に日常的な存在が迷い込むというコンセプト。それでなにか大きなインパクトとか、他の多くの異世界冒険ファンタジーと比べて傑出したところがあるかといえばあまり感じられなかったというのが正直なところです。強いて言うなら冒険のパートナーとなるのが気ままなおばさんというのが少し珍しいかな? 

と、ちょっとくさしてしまいましたが、お話のテーマは本当にまっすぐで、他の人を思いやる心の大切さとか、それにはちょっと勇気を出して前に踏み出すことが必要なんだ…ということはよく伝わって来ました。アカネと同じくらいの子供たちがこの映画を観て、そういうことを感じ取ってくれたらそれでいいんだと思います。問題はそういう子供たちが大体『名探偵コナン』や『名探偵ピカチュウ』にもっていかれてしまったことですね。主人公が探偵だったらよかったのだろうか…

ここ2,3年、ジブリの後を継げとばかりに作家性の強いアニメ映画が色々作られてますが、大体こけていて安定してるのは細田守監督くらいでしょうか。それでもなおも作られ続けているのがありがたいことでございます。2019年はひきつづき『海獣の子供』『君と、波に乗れたら』といった意欲作が待機中。『君の名は。』でメガヒットを飛ばした新海監督の『天気の子』も控えています。わたしの一押しは現在公開中の『プロメア』。これまた興行が苦しそうですが、現在の日本アニメの最高峰とも言える出来なので気の向いた方はぜひご覧くだされ~

 

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May 21, 2019

ストライク・バック・トゥ・ザ・フューチャー ルッソ兄弟 『アベンジャーズ/エンドゲーム』

Dsc_0377 始まりがあれば終わりがある… 2008年より始まったマーベル・シネマティック・ユニバースもいまだ続行中ではありますが、ここにひとまずの決着を迎えました。11年間21作品の総決算とも言える『アベンジャーズ/エンドゲーム』、紹介いたします。

6つのインフィニティストーンをすべてそろえたサノスはかねてよりの悲願を達成し、全宇宙の生命の数を半分に減らしてしまう。アベンジャーズはストーンを奪うことで仲間たちの命を取り戻そうとサノスの元へ急襲を試みるが、ストーンはすでに彼の手によってこの世から抹消されてしまっていた。もはや打つ手なしと意気消沈するヒーローたち。だがある時、思いかけもないところから「奪還」の希望がもたらされる…

今回は(も)完全に見た人向けのネタバレ全開です。観てない人は今日明日にでも映画館に行ってそれからまた来てください。

 

 

というわけでアベンジャーズがサノスのプロジェクトを打ち破るために見出した方法はなんとびっくり「タイムトラベル」でございました。一発逆転のために過去に遡る…という手段、後ろ向きというか『ターミネーター』のスカイネットがやらかしていたことだけに、抵抗のある方もおられようかと思います。ただアメコミクリエイターたちはそうでもないようで、特に90年代あたりで『エイジ・オブ・アポカリプス』『ヒーローズ・リボーン』『X-MEN/ワイルドキャッツ』といったコミックでやたら繰り返し用いられてたこともありました。映画でも『X-MEN/フューチャー&パスト』『デッドプール2』などで題材にされてましたし。特に『デッドプール2』に関しては『エンドゲーム』製作中にスタッフの間で「あれ… これちょっとかぶってない?」という会話が交わされたのではw ここでやたら引合いに出されるのが名作SF映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。「あの理論はでたらめだ」とかぷちっとdisられてましたが、少し前の『レゴムービー2』でも引用されていたのでもはや映画製作者の間では基本というかバイブルに値するような存在なのでしょうね。

タイムトラベルの是非はともかく、これまでのMCUのあの場面やこの場面が再現されるあたりはファンとしては大興奮の鳥肌ものでございました。ずっとこのシリーズを追いかけてきた人への大きなプレゼントと言えるのではないでしょうか。サプライズなプレゼントといえばクライマックスのサノス軍との対決は「待ってました!」の連発でした。いちいち書くのも野暮なんでやめますが、オタクが「そこでそうなったらいいのに…」と想像することがほぼ実現します。あらためて「ルッソ兄弟はそういうとこわかってるな~」とよだれをたらしながら興奮していたら、最後で思いもよらないショックが待ち受けておりました。

それは言うまでもありませんが、長いことMCUをひっぱってきたあの人の死。このシリーズってけっこうフラグとかなくいきなりさくっと人気キャラが亡くなられたりするんですよね… そういうのにも多少耐性ができていたつもりですが、それでもトニー・スタークとの突然のお別れにはしばし呆然としてしまいました。トニーという人物は天才でありながら見栄っ張りで素直じゃないところがあって、どこか子供っぽい男…というイメージがありました。だからか子供の気持ちがよくわかるのか、これまで子供がらみで非常にいいシーンがたくさんありました。そんなトニーも『エンドゲーム』で自らの子供を持ち、チームメイトを心の底から信頼することでようやく真に大人になったのだなあ…と。そうなった途端この世を去ってしまうのがあまりにも哀しい。たぶんここまでやらないとトニーはずっと現場活動をやめられないし、ロバート・ダウニ―Jr.氏もアイアンマンから卒業できない。そこから逆算してこういう結末になったのでは。ファンからわがままを言わせてもらえるならできれば生涯現役でいてほしかったところですが、いまはひとまずRDJ氏に「長年お疲れ様でした」と言うべきなのでしょう。ただアメコミにおいて人気キャラの死→復活は定番のイベントであります。どんな形であれいつかまたトニー・スタークが再登場することを夢想してやみません。

衝撃だったことのもうひとつはキャプテン・アメリカの引退。これまたクリス・エヴァンスの卒業を決定づけるためにあの結末が選ばれたのでは…と考えます。「前に進む」と繰り返しとなえていたキャップがあのような行動を取ったことに違和感を多少覚えないでもなかったですが、過去の大きな思い残しをやりとげることこそが彼にとっての「前に進む」ことだったのかな、と。あと彼は「キャプテン」となった時世界でたった一人の超人だったわけです。アベンジャーズが結成された時もその数はまだ一桁でありました。しかし今回自分の後ろに連なる大軍勢を見て、「もう他のヒーローたちに後を託しても大丈夫だな」と思えたのでしょう。観終わった後は複雑な感情もありましたが、今では心から「よかったね」という気持ちでいっぱいです。

他のキャラ達について一人一人語っていたらきりがないので、あと二人取り上げます。一人はアントマンことスコット・ラング。彼は並み居るアベンジャーズのヒーローの中では一番小市民的で身近な存在であります。1作目ではム所帰りでアイス屋さんをクビになってしまうほど社会的には底辺の人でしたし、能力も「世界最小になれる」という変化球的なもの(ビッグにもなれますが)。そんなおじさんが宇宙最強の存在であるサノスの計画を覆す糸口になるわけですから、これほど痛快なことはありません。いやー、本当アントマン最高!

もう一人はネビュラさん。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』登場時は嫌味と怒りに満ち溢れてた彼女でしたが、『エンドゲーム』では残り少ない食糧(水?)を相手に分け与えるほどの成長ぶりを見せています。ここかなり序盤のシーンでしたが、いきなり泣きそうになりました。そんな他者への優しさを身に着けた彼女が、かつての自分のことしか考えてない自分とご対面した時、果たしてどんな気持ちになったのかな…と思うとなんとも切なくなります。本当に人はいくらでも良い方に変われるのかもしれないけれど、それもふとしたきっかけとか出会いがあったればこそで、いつまでも変われないことの方がずっと多いのかもしれませんね…

まとまりのない一人語りが続いてしまいました… 後半は皆様の記憶の助けになればと過去21作から『エンドゲーム』にどんな引用があったのか列挙してみます。『エンドゲーム』にどの程度関わってくるのか、ということを基準に重要度A~Cで分けてみました。公開年月日は日本のものです。

 

<フェイズ1>

『アイアンマン』(2008/9/27) …重要度A。MCUの原点。ラストの「アイ・アム・アイアンマン」やエンドロールで響く槌音は知ってると知らないとで感動が大きく違うのでは(と言いつつ最初槌音が何の音なのかよくわからなかった)。

『インクレディブル・ハルク』 (2008/8/1)…重要度C。とりあえずハルクさんのオリジン話ということで。

『アイアンマン2』(2010/6/11) …重要度B。若きお父さんハワードのトニーへのメッセージなど思い出すとほっこりいたしますね。ブラック・ウィドウとウォーマシンとしてのローディとキャプテンの盾初登場

『マイティ・ソー』 (2011/7/2)…重要度B。ソーのオリジン話にしてスペース・ストーン(4次元キューブ)とホークアイ初登場。

『キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』(2011/10/14) …重要度A。いかにしてアベンジャーズの高潔なる戦士は誕生したのか。ラストの悲恋は半世紀以上の時を経てようやく報われます。

『アベンジャーズ』(2012/8/14) …重要度A。『エンドゲーム』で最も映像的に引用されてた作品では。あのニューヨーク決戦の裏側であんなことやこんなことも進行してたかと思うとまったくたまりませんなあ!! マインド・ストーン初登場。エンドロール後ではサノスさんもようやくお目見え。

<フェイズ2>

『アイアンマン3』 (2013/4/26)…重要度C。ただこれに登場してた少年がトニーの葬式に参列してましたね。わたしとしては彼にアイアンマンを継いでほしい…

『マイティ・ソー/ダークワールド』(2014/2/1) …重要度A。わりとMCUの中では印象の薄いこの映画が、『エンドゲーム』での引用によりぐんと地位が向上したような。レネ・ルッソ、おいくつになってもお綺麗ですね。リアリティ・ストーン(エーテル)初登場。

『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』 (2014/4/19)…重要度B。ファルコンとウィンターソルジャーとしてのバッキー初登場。「左から失礼」の言葉がクライマックスのすごくいいところで使われてました。あとエレベーターのバトルのセルフ・パロディや「ハイル・ヒドラ」には笑わされました。ロバート・レッドフォード演じるアレクサンダー・ピアースが再登場したのにはびっくり。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』 (2014/9/13)…重要度A。スターロードが踊りながら出てくる場面の再現は、わたしの『エンドゲーム』のベストシーンのひとつ。というわけでガーディアンズの面々とパワー・ストーン(オーブ)初登場。「宇宙には6つのインフィニティ・ストーンがある」ということが明かされたのはこの作品が初めてだったような

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』 (2015/7/14)…重要度B。ソーのハンマーをキャップが持ち上げようとするシーンや、ホークアイの家族など今回に通じる小ネタがチラホラ。「トニーが自分の人生を生きてみればと言ってくれた」というのはやっぱりこの作品のラストの会話のことでしょうか。エンドロール直前で切られた「アッセンブル!」は4年後にようやく言わせてもらえました… スカーレット・ウィッチ初登場。

『アントマン』(2015/9/19) …重要度C。一応アントマンのオリジン話。量子世界の存在が初めて明らかにされます。きむずかしい感じの若き日のピム博士も登場。

<フェイズ3>

『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』 (2016/4/29)…重要度B。この映画を観終わった直後から、トニーが「やはりこれは君のものだ」とキャップに盾を返す場面を予想して泣いてましたが、ほぼ想像通りに実現しました。一方で序盤の「君は一緒に戦うといってたのにそばにいなかった」のセリフがつらい。ブラックパンサーとMCU版スパイダーマン初登場。

『ドクター・ストレンジ』 (2017/1/27)…重要度A。この作品でお亡くなりになったティルダ様演じるエイシェント・ワン様をまたスクリーンで拝めようとは… これまたサプライズでございました。お得意の幽体離脱の業も見せていただきましたし。タイムストーン(アガモットの眼)初登場。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス(というかVol.2)』 (2017/5/12)…重要度C。限りなくインフィニティサーガから独立した1作。ただここでガモーラとネビュラが打ち解けてなかったらアベンジャーズがサノスに勝つことはできなかったかも。

『スパイダーマン/ホームカミング』 (2017/8/11) …重要度B。Cに近いBではあります。ただここでのトニーの「ハグじゃないぞ。ドアを開けてやるだけだ」を覚えておくと『エンドゲーム』での感動が倍増しになります。

『マイティ・ソー/バトルロイヤル』 (2017/11/3)…重要度B。この作品からソーがギャグキャラになりました。バルキリー(とコーグとミークも)初登場。

『ブラックパンサー』 (2018/3/1)…重要度C。一応ワカンダの勇ましい皆さんの顔見世ということで関係あるかも。そういえば『エンドゲーム』にルピタ・ニョンゴって出てましたっけ。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』 (2018/4/27)…重要度AA。 『エンドゲーム』の前編的なタイトルなので最重要作品であります。インフィニティ・ストーン最後のひとつであるソウル・ストーンが登場し、六つの石があっというまに集められてしまいます。ドクターストレンジの「たったひとつの勝利のルート」がはったりじゃなくて本当によかったな~~~

『アントマン&ワスプ』 (2018/8/31)…重要度A。この作品で「量子世界に行けば時間の流れを操作できるかも」みたいなことがやんわりと匂わされます。

『キャプテン・マーベル』 (2019/3/15)…重要度B。これ観てないと「いきなり出てきたこのバカ強な姉ちゃんは誰なんだ…」となりますよね。彼女がいなかったらトニーも冒頭で死んでただろうし。愛猫のグースちゃんはどうなったのか気をもんでましたが、キャロルと一緒にアウディのCM に出てました。

 

ふ~~~と落ち着いてる暇もなくもう来月にはMCU最新作である『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』が公開されます。はやいよ!! もうちょっと余韻にひたらせてよ!!! さらに来年からはいよいよ「フェイズ4」に入り『ブラックウィドウ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』『シャン・チー』『エターナルズ』『ブラックパンサー2』『ドクターストレンジ2』などが予定されている…といううわさ。詳細は夏に正式に発表されるとのこと。終わりはまた新たな始まりへと続くわけですね…

おしまいにこれまでのオマケ映像がどの作品につながっていくのか表にしてみましたので気の向いた方はごらんください。。字がぼやけてますけどクリックするとくっきりします。

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May 15, 2019

中華で一番! 原泰久・佐藤信介 『キングダム』

Sga2 9年前から当ブログで推していた一大歴史コミックが、とうとう映画化となりました。ちょっとおっかなびっくりでしたが、こりゃ観に行かないわけにはいかんでしょう!! というわけで『キングダム』ご紹介します。

時は紀元前の中国春秋戦国時代。秦国の奴隷の少年・信と漂は貧しい身分から抜け出して剣で出世するため、日々二人で武術の稽古に励んでいた。ある日都の貴族の目に止まった漂はその才能を見込まれ、王宮に使えることになる。一人残された信はくじけず下働きと修行を続けていたが、そんな彼の元に都にいるはずの漂が血まみれで転がり込んで来る。それをきっかけに信は秦国を揺るがす騒乱へと巻き込まれることになるのだが…

というわけでこれは「秦の始皇帝」を題材にした物語でございます。始皇帝・嬴政といえば世界史的には超メジャーな人物でありますが、その苛烈な政策などからどちらかといえば悪役として扱われることがほとんどのような。またお話の主人公としてはその死後台頭してきた項羽と劉邦の方がよっぽど務める数が多い気がします。始皇帝がどのようにして青春時代を過ごし、やがて中華統一を成し遂げたか…ということはあまり知られていないのでは。『キングダム』はその辺にスポットをあてた作品となっています。

ただ主人公を務めるのは始皇帝ではなく、彼に仕える信という少年。後の「李信将軍」であることはまちがいないのですが。これまた紀元前ゆえに謎が多い人物です。『キングダム』はそんな未知の部分が多いのをいいことに、存分に空想の翼を広げた一大活劇となっております。まあぶっちゃけやがて嬴政が列強を打ち破って中華を統一するのはわかりきっているわけですけど、それでも読んでいてハラハラさせられますし、毎週続きが気になって仕方ありません。ここから原泰久先生のストーリーテーリング力がなみなみならぬものであることがうかがえます。

ちなみに原作は現在54巻を数えていて、ぼちぼち全体の6割くらいはいったかな…というところw 映画版はその本当の序章となる5巻までを扱っております。映画版でまず感じたのはその予告編 の出来のよさ。原作ファンとしてはその映像の美しさと叙情性に心打たれて公開前から何べんも何べんも繰り返し見ておりました。こりゃ今までの日本映画の殻を破るような大傑作になるかも…と期待していたのですが、ふたをあけてみたらよくも悪くも日本映画らしい仕上がりとなっておりましたw そんなわけで非常に泥くさい部分も多いんですが、やっぱり若い子たちがボロボロの姿で一生懸命やってる姿を見てるとおじさんとしては胸が熱くなってしまうわけです。特に原作より際立っていたのは信と漂の絆の部分。お話の大切なところで必ず信は漂を思い浮かべるんですが、そういうのずるいぞ!と思いながら鼻水をずるずるとすすっておりました。

信と政の間柄が徐々に変わっていくあたりも感慨深いものがありました。最初は「殺してやる」「利用するだけだ」と言い合っていた二人ですが、苦楽を共にするうちにいつしか双方にとって大切な存在となり、クライマックスで「まちわびたぞ」「おれがついていく」と言葉をかける場面はなんとも言えんものがありました。このあたりがあまりに気持ちよかったので先日二回目を観に行ってしまったほどです。さらに大沢たかお、橋本環奈、長澤まさみといった面々もキャスティングを知った時は「?」と思いましたが、それぞれ原作のキャラを生かしつつ独自の存在感を出していて大変良うございました。また、アクション面では『アイアムア・ヒーロー』『いぬやしき』ほかの佐藤信介監督が本領を発揮し、特に主演の山崎健人君とラスボス坂口拓氏の対決では息をのむほどのチャンバラを展開しております。

最近少年・青年漫画原作の映画が次々と映画化されていますが、正直『銀魂』以外はどれもぱっとした成績をおさめていなくて、今回の『キングダム』も心配しておりました。ところが『コナン』や『アベンジャーズ』といった強豪の下で現在35億という興行収入を達成しております。佐藤監督も山崎君もこれまでで最大のヒット作となったのではないでしょうか。好調の要因は「中国の時代劇」という題材が中高年にもとっつきやすかったことと、やっぱり原作のヒットが示すように元のお話が普遍的に面白いものだったから…と考えております。

はやくも続編の声を望む声が上がっている『キングダム』ですけど、大長編ゆえに次はどこまでやるかが難しそう。とりあえず連載も負けずに引き続きもりあがってくれることを望みます。あと30巻くらいかな…??

 

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May 13, 2019

北欧テレホンショッキング グスタフ・モーラー 『THE GUILTY/ギルティ』

アンデルセンとデニッシュの国、デンマークよりえらくとがったサスペンス映画がやってまいりました。本日はロッテントマトにおいて99%をたたき出したその『THE GUILTY/ギルティ』をご紹介します。

深夜の警察の緊急コールセンター。とある事情でそこにいやいやながら勤めているアスガーは、任期も終わりに近づいた時一人の女性から助けを求める電話を受ける。何者かに誘拐されているらしい彼女を助けるため、アスガーは知恵を絞って各方面に連絡するのだが…

この映画の特色はなんといっても主人公が「建物のその階から1歩も外に出ない」というところにあります。他の登場人物はコールセンターの同僚らと、電話で声しか聞こえない人たちだけです。そんなわけでストーリーはもっぱら電話のやり取りだけですすんでいきます。

こういうスタイル、ほぼパソコンの画面だけで進行していた昨年の『search/サーチ』 を思い出させます。しかし時間が飛ばされたり主人公がしょっちゅう外に出ていたそちらと比べると、 『ギルティ』の方はさらに限定的です。普通なら我慢できず現場に急行するんじゃないか?というところでもアスガーは持ち場を離れません。理由のひとつはやはり感情的になって外に飛び出すよりも、そこで電話を受けたりかけたりしたほうが対象を助けられる可能性が高いから…ということがあげられます。そしてもうひとつは監督の「おれは意地でもこのスタイルを貫くから!」というこだわりゆえでしょう(推測ですが)。

そうしたコンセプトから連想したのはミステリーの「叙述トリック」という型式。文章だけなのを逆手に取って読者をひっかけるタイプの小説です。目で色々背景がわかってしまう映画では不可能な方式だろう…と思っていましたが、「声しか聞こえない」という状況を用意することで限りなく「叙述トリックの映像化」に近いものを作り上げていたと思います。

あと舞台がほぼ固定されていて二三の部屋を出入りするだけ…という設定は非常に演劇にもむいてそうです。演劇と違うのは頻繁に主役の顔が大写しになってその焦燥や苦悩が伝わりやすいことですね。で、この主演の方、まあまあ整った顔立ちをしてるんですが「美しすぎる」というほどでもない、長時間の大画面アップにちょうどいい顔面力でございました。くどすぎず、ずっと落ち着いて見られるルックスというか。日本で言うなら誰にあたるか… うーん、おもいつかない。

そんな風に映画の作りは大変面白いのですが、ストーリーの内容はけっこう重苦しかったりして。「国民の幸福度」が世界ランキングでかなり上の方のデンマークですが、抱える悩みの量や重さ、種類は日本の我々とさほど変わらないのでは?と思ったり。出身監督で有名な人と言えばほかにラース・フォン・トリアーやニコラス・ウィンディング・レフンといったダークな方たちでありますし… お隣のスウェーデンでも『ミレニアム』とか『ぼくのエリ』とかありましたしね…

もうおおむね公開終了してしまった『ギルティ』ですが、世界での好評を受けて早くもハリウッドでのリメイクが決まっているとのこと。主演はジェイク・ギレンホールだそうで。ちょっとオリジナルと比べると顔が濃いように感じられますが、評判がよかったらそっちも観てみるつもりです。

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May 08, 2019

ビリー・バットソンと魔法の呪文 デヴィッド・F・サンドバーグ 『シャザム!』

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現在マーベル・シネマティック・ユニバースの総決算である『アベンジャーズ/エンドゲーム』が絶賛公開中ですが、その一週前に封切られて地道にがんばっているもう一本のアメコミ映画があります。本日はそんな健気な『シャザム!』をご紹介します。

幼いころ母親と生き別れた少年ビリーは、里親に引き取られては脱走を繰り返し、実の母を必死で探していた。ある時新しい里親の元で共に暮らしている少年をいじめっ子からかばったビリーは、彼らから逃げる途中不思議な洞窟のような空間にワープしてしまう。その空間の主である老魔術師シャザムは自身の能力を受け継ぎ、邪悪な闇の勢力と戦うようビリーに申し渡す。言われるがまま魔術師の名を唱えた途端、ビリーはモリモリマッチョの超人へと変身。新たな「シャザム」が誕生した瞬間であった。

シャザムが世に出たのは第二次大戦勃発の翌年の1940年。フォーセットという今は亡き出版社から発行されておりました。当初は「キャプテン・マーベル」という名前で、「シャザム」はビリー少年が超人に変身する時の呪文でありました。漫画の読者と同じ年頃の少年がスーパーヒーローとして活躍するこのコミックは大変な人気を呼び、一時期は元祖アメコミヒーローのスーパーマンと人気を二分したほど。しかしその人気をDCからやっかまれたキャプテン・マーベルは「変身後がスーパーマンに微妙に似てる→パクリだ」と訴えられてしまいます。その後廃刊になったり、DCに権利が買い取られたり、MARVELが同じ名前の「キャプテン・マーベル」というヒーローを作って商標登録したために本のタイトルに自身の名が使えなくなったり、DCの名だたるヒーローたちの活躍のためだいぶ影が薄くなったり、もうこの際まぎらわしいんでヒーロー名も「シャザム」ということにしちまおうとなったり… ま、そんな様々な苦労を積み重ねて今日に至っております。

それがともかくこのヒーローの最大の特長はやはり中身は普通の子供であること。親を失って放浪生活を送っていた…というあたりはディケンズの小説か世界名作劇場を彷彿とさせます。実際初期は名作劇場の主人公よろしく不幸な境遇でも明るさと正義感を失わない、みんなのお手本のような少年でした。それが最近ではやや現実的になり、リニューアルの際に喧嘩や悪さも上等的な、やや斜に構えた性格に変更されてしまいました。それでも根の部分には弱者を見捨てないヒーローらしい性分を抱えているので「シャザム」として選ばれるわけですが。こうした設定はこの度の映画化にも影響を与えております。というか、映画版ではえらくお笑い要素がギュウギュウに詰め込まれていてちょっとびっくりしました。ある評者は「DC版デッドプール」と例えたほど。シャザムと言えば一応正統派ヒーロー…というイメージがあったので少々面喰いましたが、普通に考えればリアル十代の遊びたい盛りの少年がスーパーパワーを得たら、こんな風にいたずらしたい放題のはしゃぎ放題になるでしょう。あと他のDCヒーローのいじりネタがいちいち痛快だったので「もうこれでいいや」という気になりました。

とはいえこの映画はおふざけだけでなく、ビリー少年がなぜヒーローたりえるのか、ヴィランはなぜヴィランになったのか…というアメコミにおいて重要な主題もきっちり描いています。またアメコミものにしてはけっこうきつい真実がビリーを待ち受けていたりもします。そんな彼の助けとなるのが里親のバスケス夫妻と同じ境遇の養兄弟たち。性格も年もバラバラですけど、決して押しつけがましくなくビリーのために奮闘してくれます。この辺のほっこりした描写は実の兄弟の話ではありましたが『ひとつ屋根の下』とか『てんとう虫の歌』(古いなあ…)を思い出したりしました。

そんなわけで大ヒット作の影に隠れてる感じではありますが、ここんとこのアメコミ映画と比べて同様のハイレベルを維持している本作品、興味があるのに観そびれているならぜひ公開中に映画館に行ってほしゅうございます。かかってるのたぶんあと二週くらいなので… DCフィルムズユニバースの次なる作品は来年2月に本国公開予定の『バーズ・オブ・プレイ』。『バットマン』に登場する女性キャラチームの活躍が描かれます。DCサイドもここんとこ一定の質を保っているのでこの調子でがんばってくださいー

Szm1

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May 07, 2019

離島猫歩き ねこまき・岩合光昭 『ねことじいちゃん』

十連休も終わり、ほぼ二週間ぶりの更新です。うほっ 本日は猫カメラマン(他の動物も)の第一人者岩合光昭先生が映画監督としてデビューを飾られた『ねことじいちゃん』をご紹介いたします。

猫と漁師と老人の多いとある島で。元教員の大吉さんは飼い猫のタマと共に、周りの人々と触れ合いながら悠々自適の日々を過ごしていた。しかし島の人々の高齢化と人口の減少はそんな大吉さんたちの暮らしにも次第に影を落としていく。離れて暮らす大吉さんの息子は父親を心配し、都会で共に暮らそうと持ちかけるのだが…

…なんか暗い感じのあらすじになってしまいましたが、全体的にのんびりまったりした映画です。だってこの映画のメインとなるのは島のそこかしこをうろちょろしてる猫なんですから。大画面にいっぱいに写るごく普通の猫と、館内に響き渡るゴロゴロ音… お好きな方にはたまりません。

監督の岩合先生の猫を撮る力は疑いようもございません。BSの『世界ネコ歩き』を観てもわかるようにまったく猫に警戒されずに撮影をされています。どころか猫の方からそっちに寄ってきたりする。体がマタタビで出来てんじゃないか?と思うほどの猫吸引力です。ただ猫は撮れても人間も出てくる普通の映画は作れるのか…というと未知数です。しかしまあその点は優秀なスタッフに恵まれたのか(失礼)、一応人間ドラマとしても完成された作品になっていました。出演者・柴咲コウさんの「監督は猫ばかりに集中していて人間の方はおざなりだった」なんてコメントもありましたが。

猫吸引力といえば主演の立川志の輔氏も大したもの。タマちゃんが本当に自然に氏に寄り添っていて、前かがみになった背中にポンと乗ったりする。もっともこれはもう一方の主演である猫のベーコンさんの演技力に負うところも大きいかもしれません。これまでにTVドラマ「ようこそ、わが家へ」、映画『ねこあつめの家』、太陽生命CM「かけつけ隊サービス『太陽生命が大切にするもの』」篇などに出演おられるそうです。いずれにしてもそんな一人と一匹のアンサンブルが大変見事でした。

そういえば先日30日は平成の終わりだけでなく、当ブログもにぎわしてくれたモンさんの二周忌でございました。仰向けに寝てるとおなかにポンと乗ってきたモンさんの感触を思い出しながらこの文章を書いてました。体重もなかなかだっただけに、あれは苦しゅうございました(笑)20070531183006_1thumb1

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