June 25, 2023

2023年5月に観た映画

気が付けば今年もあと半分終わり… ああ…

とりあえず先月観た映画の覚書をば

☆『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』

9年の長きに渡ったGotGシリーズひとまずの完結編。一時ジェームズ・ガン監督が離脱か…ということになりかけましたが、無事彼の手で幕が閉められることになりました。

今回ちょっと驚いたのは、知性のかけらもなさそうなロケットが超インテリキャラだったということ。ただそうなったのには非常に悲しい過去があり… いたいけな動物をかわいそうな目に会わせて泣かせようとするのは反則だと思うのですが、まあ良かったので良しとします。

以下ネタバレで良かった点を列挙

・死亡フラグまき散らかしてたやつらが全員無事だった ・原作と全然違うアダム・ウォーロックのトンチキ具合 ・〆のカムゲチャラッカムゲチャラッカムゲチャラッラッ♪

『BLUE GIANT』のようにたまたま偶然で集まった連中が、絆を深めながらもまたそれぞれ自分の道を歩んでいくところも最高に良かったです。さよならだけが人生だけど、生きていれば再会出来る日も来るのでしょう。

 

☆『ザ・スーパーマリオブラザーズ ムービー』

言わずと知れた任天堂の大スター・マリオブラザーズのCG映画版。ゲームってのは必ずしも映画にしやすいわけではない…というか難しい場合の方が多いと思うのですが、これはひとつの理想形と言ってもいいのでは。

自分忘れてたんですけど、マリオって実は同業者なんですよね。だもんで冒頭で修理にいったのに壊して帰ってくるエピソードはとても身につまされました。あとはクッパ渾身の弾き語りくらいしか強烈に覚えてる箇所がないんですけど、GWに姪っ子二人と観たのが滅法楽しかったので良かったです。任天堂ありがとう!

 

☆『TAR』

本年度アカデミー賞6部門にノミネート。ケイト・ブランシェットを主演に迎え、カリスマ的マエストロの華麗なる転落を描いた作品…なのかな? とにかく思わせぶりというかはっきりしない描写が多く、どこまでが現実なのか彼女の錯覚なのかがわかりづらい話。それがかえって作品に深みや観客に考えさせる余地を与えております。

GotGのとこでも似たことを書きましたが、人の縁というのは切れる時にはスパスパあっさり切れていくものだな…ということを痛感させられます。それでもさすがはケイト様と言うべきか、どれだけ逆境に面してもおのが道を歩んでいく姿は大した説得力でありました。これを機に引退、なんて話も出てるようですが…

オーケストラを題材にした映画なのに本番の演奏場面がほとんどないのは狙いなんでしょうか? それもまたよくわからなかったりして。

 

☆『世界の終わりから』

『CASSHERN』で脚光を浴びた?紀里谷和明監督の引退作。監督初の完全オリジナルストーリーであり、これまでと違って現代社会への嘆き・怒りがふんだんに込められた作品となっておりました。自分ももういい年ですけど、世の中をよくするためにこれまでなんか出来たことがあったかと言えば無に等しく、色々生きづらい時代になってしまった令和の若者たちには少々申し訳ない気持ちがあります。たぶん紀里谷監督も同じ気持ちではなかろうかと。

童話調の本筋に社会問題、『デビルマン』的クライマックスは正直違和感なく溶け合ってるとは言い難いのですが、自分はやっぱり監督の作風が好きなので、軽率にまた復帰して『CASSHERN』みたいな映画を撮ってほしいです(それにはお金がかかりますが)。

主演の伊東蒼さんはこないだの大河や『さがす』でもしんどい役ばかり演じられてるので、次はさわやかなイケメンと軽いラブコメでもやってほしいですね。

 

☆『ワイルドスピード ファイヤーブースト』

言わずと知れた(2回目)超人気カーアクションシリーズ最新作…にして完結編二部作(三になるかも)の前編。最後の敵はジェイソン・モモア演じる仇敵の息子。父の復讐のためにドミニク・ファミリーを巧妙な罠に誘い込みます。

前にも書いたけど、ワイスピシリーズって昔の少年ジャンプなんですよね。一度戦うと仲間になるし、死んだはずのキャラはあっさり生き返るし。ですので今回亡くなったように見えるあいつもあいつも次ではさわやかに笑いながら生き返ってくるでしょう。ついでにミニ・ブライアンのお母さんも生き返って「みんな生きてた!! 超ハッピー!!」となればこれ以上ないくらいふさわしいワイスピのラストになるのでは。

観てる間は普通に楽しみましたが、一週間後観たのを思い出すのに5分くらいかかったりして。そんな映画です。ただこれにはわたしの記憶力低下もかなり関わっております。

 

☆『65』

こらまたなんつーシンプルなタイトル… ハリウッドに時々ある、大物俳優を起用したはいいけどなんか地味な仕上がりになってしまってぶっこけた類のSF作品。他に例を挙げると『パッセンジャー』とか『カオスウォーキング』とか『アフターアース』とか。やっぱり人のいない荒廃した世界をやろうとすると地味になりがちなんですよ。今年公開のギャレス・エドワーズの新作『ザ・クリエイター』も確実に同じ轍を踏む予感がします。

でもまあシリーズもの・原作ものばっかりの時代にあえてオリジナルSFに挑もうという気概は素晴らしいし、何よりも恐竜が出てくるのでそれだけで応援しなくてはいけません。もう公開終わっちゃったけど。

 

☆『クリード 過去の逆襲』

『ロッキー』のスピンオフである新世代ボクサー、アドニス・クリードの物語3作目。開始早々に引退を決めたアドニスの前に、ややこしい関係の親友が訪ねてきたところからお話は始まります。この親友デイミアンがなかなか一筋縄ではいかない。アドニスが好きなようでもあるし、恨みを抱いてるようでもあるし、一体彼の狙いがなんなのか前半はハラハラしながら見守ることになります。

結局リングの上で全力でぶつかることにより友情は回復します。『Gガンダム』並みにベタベタな解決法ですが、自分昭和生まれなのでこういうのに弱いんですよ… あと今回「出ない」とアナウンスされてたロッキー、その後どうなったのか全く触れられてませんでしたが遠くで元気にやってるってことでいいんでしょうか。

監督・主演マイケル・B・ジョーダン氏が「日本のアニメをリスペクトした」と嬉しいことを言ってくれたのに、初週から圏外だったのは本当に残念。我が国を代表して土下座してお詫びしたいです。

 

次回は『フリークスアウト』『怪物』『ザ・フラッシュ』『アクロス・ザ・スパイダーバース』『雄獅少年』について書きます。

 

 

 

 

 

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May 28, 2023

2023年4月に観た映画を振り返る

近年まれに見る更新スピードです。がんばれ俺

☆『逆転のトライアングル』

第75回カンヌ映画祭において最高賞のパルムドールに輝いた作品…の割に、わかりやすく所々お下品。一組のカップルのバカンス旅行を通じて格差社会の問題を描いている…わけではないか。突発的なアクシデントにより立場が「逆転」してしまった人たちの、「運命の皮肉」が主なテーマかと。

「三角形」と呼応してるのか、三幕構成となっております。一幕目は知らん美形カップルの痴話げんかに巻き込まれてるようであまり面白くないのですが、二幕目で舞台が豪華客船に移ると「趣味悪いなあ」と思いつつそのアナーキーな展開に楽しませてもらいました。お下劣な『タイタニック』のようでした。三幕目に入っても面白さは持続しますが、こちらは同時に物寂しくなったり、緊張感溢れる人間関係にハラハラしたり。

セレブモデルのヤヤ役の女優さんはこの出演後ほどなくして不慮の病で亡くなったそうで。そんなところにも運命の皮肉を感じます。

 

☆『仕掛人・藤枝梅安 弐』

2月に1作目が公開された『藤枝梅安』二部作の第二弾。前作はずっと江戸が舞台でしたが、こちらは半ば過ぎまで京までの旅物語となっております。またそこはかとない慰めが感じられた1作目と比べると、こちらは無常感が強調されていて観終わった後ひしひしと虚しさが押し寄せてきました。「梅安」はハードボイルドでもヒーローものでもなく、ノワールなんだなあ…ということを改めて感じ入りました。

そんなニヒルなムードの癒しとなるのが、梅安を世話する近所のおばさん役の高畑淳子さん。彼女が出るとものすごくホッとします。高畑さんのベストアクトと言ってもいいかと。あとクライマックスの「卵かけごはん」VS「醤油焼きおにぎり」の息詰まる対決。ある著名料理家は料理対決の時塩むすびで挑んだそうですが、究極のグルメというのは限りなくシンプルになっていくものなのかも。

死への願望を抱きつつもギリギリのところで生を選んでしまう梅安さん。そういうところは「いいことをしながら悪いことをする」池波正太郎の矛盾した人間観をうかがわせます。

 

☆『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』

「梅安」と同じ日に観ました。図らずもアウトローつながり。長年親しまれてるテーブルトークのRPGを原作としたファンタジー映画。ぱっと見世界観やガジェットはそんなに目新しくないのですが、陽気で能天気なキャラクターたちと、魔法のアイテムの使い方・見せ方でべら棒に面白い映画となっていました。難点をあげると観てる間の面白さに全力を注いだため、観終わったあとほとんど残るものがないということ。まあたまにはこういう映画も必要です。

出番があまりないキャラがTwitter上で大人気というのも面白い点。最初はセクシーさが駄々洩れしてるパラディンさんがぶっちぎりだったのですが、さらに登場時間が少ない「ジャーナサン」という鳥人間の人気がだんだん肉薄しつつあります。謎です。

 

☆『AIR』

ベン・アフレック久々の監督作。盟友マット・デイモンを主演に据えて、NBAの伝説的プレイヤー、マイケル・ジョーダンとナイキが契約を結ぶまでの苦労を描いた「実話を基にした」作品。サスペンスやアクションばかり撮っていたベンアフですが、こちらは血が一滴もも流れない、平和でほっこりする映画となっております。

OPから矢継ぎ早に繰り出される80年代の音楽・風俗に懐かしさで死にそうになりました。ここで「この頃はよかったな…」とか感じてしまうと老人の仲間入りを果たすことになってしまいます。危ないところでした。あとスポーツ用品の製造会社にとっては、有名プレイヤーと契約を結ぶことが社運を左右するほどの一大事になるのですねえ。

Amazon製作のせいか1か月ほど公開した後間髪入れずにすぐAmazonプライムビデオで配信が始まりました。これからはこういう例も増えていくのですかね。

 

☆『聖闘士星矢 The Beginning』

80年代人気を博した少年漫画『聖闘士星矢』をハリウッドが実写化!…したはいいのですが、興行的には近年まれに見る爆死作品となってしまいました。何がいけなかったのでしょう。

個人的にはそれほど悪くなかったと思うのです。監督の原作愛も伝わって来るし、誠実に作られてます。ただ、アクション大作というのは「悪くない」だけでは良くないのです。巨額の製作費を回収できなくなってしまうので。

副題からわかるように何部作かに分けて、少しずつキャラを増やしていく予定だったのでしょうか。しかし『星矢』の魅力ってカラフルなキャラが勢ぞろいするところにあると思うのです。メンバーを出し惜しみした結果画面が地味になってしまったのが敗因かなあ…

ファムケ・ヤンセンやニック・スタールといった久しぶりに見る俳優さんたちが元気そうにしてたのは良かったんですが。

 

次回は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3』『スーパーマリオブラザーズ』『TAR』『世界の終わりから』『ワイルドスピード ファイヤーブースト』『65』『クリード 過去の逆襲』あたりの感想を書きます。

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May 21, 2023

2023年3月に観た映画を振り返る

というわけで続けざまに3月に観た映画のまとめ記事です。アカデミー賞の時期でした。

☆『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

昨今流行りの「マルチバース」を題材にした1本。死体がおならをひりまくる『スイス・アーミーマン』の監督コンビがこの映画で作品・監督部門を含む7部門を受賞するようになるとは… 世の中本当にわからないものです。

正直自分この映画ぶっとびすぎててちゃんと理解できてるか怪しいのですが、そんなにむずかしく考えるようなものでもないのかも。とりあえず劇中で市井の主婦から世界の映画スターまで違和感なく演じてるのはさすがのミシェル・ヨー様でした。

以下好きだったポイントを列挙すると「セクシーコマンドーの映像化」「『レミーの美味しいレストラン』リスペクト(そしてアライグマが無事だった)」「岩の会話」「相手を幸せにして戦意をなくさせる攻撃」などです。

 

☆『フェイブルマンズ』

これまたアカデミー賞関連作品。スピルバーグ監督の自伝的内容で、監督が幼少期に影響を受けた映画が次から次へと登場するのかな…と予想してたのですが、主題となってるのはどちらかというと彼の両親の複雑な事情だったり。

スピルバーグと思しきサミー少年の両親には共通のベニーという気さくな友人がいるのですが、3人が3人ともお互いのことがすごく好きなために、「結婚できるのはうち二人だけ」という現実がのしかかってきてしまうのです。この辺ちょっと『タッチ』を思い出させます。

一度彼らと離れることに同意したベニーおじさん(演セス・ローゲン)が、サミーに押し付けるように高いカメラをプレゼントするシーンが好きです。

 

☆『シン・仮面ライダー』

今年最も待望していた1本。これに関してはひとつの記事で書きたかった気もするけどいかんせん映画の感想をため過ぎた…

現代を舞台にしてるのにまるで70年代のようなムード。一言でいうと、これ(東西冷戦のころを意識した)スパイものですよね。社会の影で人知れず戦い、人知れず散っていくエージェントたち。そんな名もなき彼ら彼女らにも人並みに人の温もりを欲する気持ちがあり。ラストに敵のアジトに乗り込んでいくのは007の名残かも。石ノ森先生には『009ノ1』というスパイ漫画もありますが。

そんな感じで映画全体を覆う寂寥感や荒漠としたムードや、わずかながら差し込まれるホッとするようなシーンが好みでした。『仮面ライダー』は漫画版とTV版でけっこうかけ離れた要素があり、今回はなんとかそれを融合できないだろうか…という意図があったように思います。結果として漫画版6:TV版4くらいの配合だったかと。すべて綺麗に混ぜ合わさったわけではありませんでしたが、そうした歪さもまた「シン・シリーズ」の特色だと思います。

 

☆『シャザム! 神々の怒り』

新体制への移行が決まったDCユニバース。今年はその前に決まった作品を消化すべく実に4本の公開が予定されてます(出来んのか…)が、第一弾がこの作品。姿は大人、心は子供のシャザムを主人公とした映画の続編となります。アメコミ版『ハリー・ポッター』のようなところもあるこのシリーズ、とりあえず子供たちがでかくなりすぎる前にもう一本撮れたのはよかったですよね。あと先の『アントマン』や『エブエブ』もそうですけど、映画にもかっこいいアクションを決めるおばあさんが増えたなあ…と感じました。

昨年末の『ブラックアダム』と深い関わりのあるキャラだけにそちらへの言及とかあるかな…と楽しみにしてたら何もなかったのは残念。逆にラスト付近での予想外のカメオ出演には素直にびっくり。またお茶らけが続く中で、ビリーと家族たちの絆が描かれるくだりにはホロリと来ました。もういい年なのでこういうのがあるのと条件反射的に涙腺に来てしまうんです。やめてください。

 

☆『グリッドマンユニバース』

TVアニメシリーズ『SSSS.グリッドマン』と『SSSS.ダイナゼノン』がとうとうクロスオーバーを果たした劇場オリジナル作品。これに関しては主題歌「ユニバース」が素晴らしすぎて… これだけ観てくれれば自分の野暮な感想などいらないかと思います。https://www.youtube.com/watch?v=m4vjI6InDJM

『ダイナゼノン』ラストで切ないお別れをしたガウマさんが超あっさり復活したのはアレですが良しとします。監督さんによりますと「初日3日間の興行で今後の続行が決まる」とのことでしたが、結局どうだったのだろう… もしあるとすれば次は原点である『電光超人グリッドマン』にもっと踏み込んだ話が観たいです。

 

☆『ベネデッタ』

エログロの巨匠?ポール・パーホーベンの新作。イタリアに実在した「キリストを見た」という修道女の騒動を描いた作品。戒律でがんじがらめのはずの身が、こっそり隠れて背徳的なことをしてる…というストーリーはヴァン・サン・カッセルのマイナーな映画『モンク 破戒僧』を思い出したり。どう考えても破滅にしか向かわなそうな暗いお話なのに、時折なぜかクスっと笑ってしまいそうなところがあるのは「これこれ、パーホーベンだよね」という感じでした。あと予想に反してそこまでバッドエンドでもなかったような…?

 

☆『アラビアンナイト 三千年の願い』

『マッドマックス 怒りのデスロード』から8年。ジョージ・ミラー待望の新作…のはずが話題も規模もこぢんまりしたような? それはそれとして現代のおとぎ話としてはまあそこそこ面白かったです。もうだいぶいい年のはずなのにティルダ・スィントンさんも相変わらずの美しさでしたし。ベネデッタ』と「バイオレンスな作風で人気を得た監督が老いて撮った、メロメロな愛の物語(でもちょっと変)」という点で共通してました。まあ無味乾燥な毎日を送ってますとたまにはいいですよね。メロメロな話

 

なんとか3月分まで書けました。次は一ヶ月以内に4月に観た映画…『逆転のトライアングル』『仕掛人・藤枝梅安 弐』『ダンジョンズ&ドラゴンズ』『AIR』『聖闘士星矢』の感想を書ければと思います。

 

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2023年2月に観た映画を振り返る

いまごろ3ヶ月前に観た映画のことを書くとか、このブログもいよいよ末期だな…と感じるこの頃です。でもあがくだけあがいてみましょう。

 

☆『鬼滅の刃 上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』

ご存じ『鬼滅の刃』の劇場版…というかTV放送の特別上映。『遊郭編』のクライマックスと『刀鍛冶の里編』の第一話を強引に1本の映画にした構成となっています。

ただやはりufotableさんの超作画は大画面でこそ生きてくるものなので、本来この状態で鑑賞するのがふさわしいのかもしれません。あと妓夫太郎&堕妃の最後のくだりは、TV放送の時は泣きませんでしたが映画館で観たらけっこう鼻水が垂れました。ちょろいです。

 

☆『仕掛人・藤枝梅安』(1作目)

池波正太郎生誕100年記念の映画化プロジェクト第1弾。『藤枝梅安』シリーズは何度か映像化されてきましたが、これまでで最もけれんみを排し、リアルにこっそりと暗殺を遂行する描写に力が入れられてます。

もう一点力の入ってるところは、池波作品特有の江戸グルメ。そんなに凝った料理は出てこない(肉禁止の世ですし)んですが、どれもシンプルながらめちゃくちゃおいしそう。そんな描写から梅安さんと一緒に江戸で生活してるような気分を味わえます。

プロットが偶然に頼りすぎるところが玉に瑕ですけど、これは原作がそういう話なんでしょうがないといえばしょうがない(笑)

それにしてもこの日たまたまチョイスした二本が両方とも「貧困ゆえに哀しい運命に見舞われる兄妹の話」だったのはちょっとびっくりでした。

 

☆『バビロン』

デミアン・チャゼルによるハリウッド草創期の青春物語。監督の代表作『ラ・ラ・ランド』とテーマは同じなんですが、こちらの方はかなり趣味が悪いです。これまでチャゼルさんの作品は上品というかお洒落嗜好が強かったのに、一体何があったのでしょう。

ともあれ、序盤の無声映画の撮影シーンなどは何でもありの時代ゆえのでたらめさがべら棒に楽しい。で、その後トーキーが導入されたことで登場人物たちが、どんどん追い詰められていく様子がしんどい。つまり全体の2/3はしんどいパートなのがしんどい映画でした。でもまあこういう失われた青春をしみじみ思い出す話は嫌いになれないんです。あとトビー・マグワイア、なかなかの怪演でした。

 

☆『アントマン&ワスプ クアントマニア』

MCUフェイズ5の第一弾。超ミクロの量子世界に迷い込んだアントマンと仲間たちの活躍が描かれます。自分としては「ぷにぷにした量子世界の風景・生物」「さばけた性格になったダレン」「メタルヒーローみたいな3アントマンそろい踏み」「クライマックスの蟻とジャイアントマン大暴れ」など十分に楽しませてもらったのですが、世間的には評価はイマイチみたいで。前二作みたいな現実世界のこぢんまりした期待されたということでしょうか。

とりあえずラストの「オレ、もしかしてやらかした…? でもいまんとこ大丈夫だし大丈夫だろ♪」的なマインドは大いに見習いたいものです。

 

☆『BLUE GIANT』

「なんかすごい熱くて感動するらしい」という評判だけで鑑賞を決めたアニメ映画。ジャズに情熱を燃やす三人の若者のお話(漫画原作)。ジャズのことなど何もわかりませんが、「一見さんに魅力を伝えたい」という作品のポリシーのせいか、「なんかすげえな」ということはよく伝わって来ました。上原ひろみさんが監修されてるだけのことはあります。あとやはり原作あっての映画なんでしょうけど、「本当に音が聞こえてくる」というのは漫画にはない強みだと思います。

三人のうち主人公の大は最初から最後まで全くブレないのですが、脇の二人が色々葛藤するというのが独特です。特にずぶの素人からドラムを始める玉田君は我々凡人に一番近いキャラなので共感させられることしきり。また、田舎から出てきた若者が貧しいながらも東京に馴染んでいくあたりは先ごろ完結した『イチジョウ』を思わせてほっこりしました。

 

気力が持てばこのあと続けざまに3月観た映画のまとめも書きます。もつかなー

 

 

 

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March 05, 2023

2023年1月に観た映画を振り返る

ようやく今年最初の映画まとめ記事であります。

 

☆『空の大怪獣ラドン』

本当は昨年に「午前十時の映画祭」で観ました。近年リバイバルで『ゴジラ(1954)』『モスラ(1961)』も鑑賞しましたが、その中ではこの作品が一番面白かったように思えます。ミステリーのような導入部、今は失われた炭鉱の風景、メガヌロンのホラー的な描写、そしてラドンの大暴れ…などなど楽しめる要素が色々詰まってまして。まだ先の話ですが今年の年末は『地球防衛軍』をかけるようでこれまた楽しみです。

 

☆『かがみの孤城』

『オトナ帝国』の原恵一監督最新作。前作『ハッピバースデー・ワンダーランド』が氏にしてはかなりファンタジー要素の強い作品で、いまいちその持ち味が感じられなかったのに対し、今回はしんどい現実に立ち向かわざるを得ない子供たちの姿にその本領を見ました。というわけでけっこう見ていて辛い・切ないところもありますけれど、最後には爽やかな後味を残してくれるところも原テイストでした。

ストーリー上のある「仕掛け」に関しては私にしては割と早々に気づきました。ただこれは自分が鋭いというよりは少し前に同じ発想のアニメを見ていたから。

 

☆『仮面ライダーギーツ×リバイス MOVIEバトルロワイヤル』

良かった点…『龍騎』関連はみな良かったです。

悪かった点…ラスト付近、一輝が願いをかなえられる場面で「何もないよ」と微笑んで言うところ。そこはバイスの復活を願ってあげるべきではないのか… 

 

☆『ケイコ 目を澄ませて』

耳の聞こえない女子プロボクサー・ケイコと彼女を支える人々の物語。ただスポ根的ムードはなく、主人公が属するジムの閉鎖がストーリー上最も大きなヤマ場であったりします。現在の都会を舞台にした作品であるのに、出てくる風景がいちいち郷愁を誘うような懐かしさに溢れています。あと彼女が会長と行うミット打ちの「バシュ!」という音がとても心地良いのですが、それも本当は彼女の耳には届いていないわけで。

最後の試合はどうしてこんな風にもってったんだろ…と思いましたが、これ、一応実話を下敷きにした作品だったのですね。現実の結果に倣ったというとこでしょうか。

 

☆『ノースマン 導かれし復讐者』

西暦9世紀の北欧が舞台。叔父に父を殺され、母を奪われた男の復讐譚。『ハムレット』の原型となった「アムレート」という人物の叙事詩を元にしてるそうです。

復讐ものには2通りあります。復讐が遂げられてスカっとする話と、復讐の陰惨さにゲンナリする話です。こちらはどっちかというと後者。ラスボスのおじさんがあまり強くなさそうなところからもそれはうかがえます。ただそんなカタルシスの乏しそうなお話ではありましたが、ストーリー自体は意外にも面白く観ることが出来ました。これまで「脇の人」という印象が強かったアレクサンダー・スカルスガルドさんは、これで堂々たる主演の「代表作」をゲットできたのでは。

 

☆『エンドロールのつづき』

インド版『ニュー・シネマ・パラダイス』。いつものインド映画と雰囲気が少々違うな…と思ったらフランスとの合作でした。

主人公の少年のものすごい行動力にとにかく圧倒されます。映画を自分で上映したい…という目的のために平気で盗みまでしたりして、悪い方向に進んだら犯罪組織のボスにまで上りつめてしまうのでは…と心配になりました。

劇中に登場するお母さんのお弁当が肉とかあまり入ってなくてほぼ香辛料と野菜が主体なのですが、それでもすごくおいしそうで、晩御飯を後回しにしたお腹には少々堪えました。

 

☆『蒼穹のファフナー BEHIND THE LINE』

少し前リバイバルがあった『HEAVEN AND EARTH』の直後の物語。つまり『蒼穹のファフナー』シリーズの中で最も平和だったころのお話。その後のエピソードで散ったキャラ達もまだ元気な姿を見せていて、戦闘シーンはなく、よってロボの出番もほぼないのですが、ファンの満足度はめちゃくちゃ高いという不思議な作品。もうこれが真の完結編ということにして、『EXODUS』以降はなかったことにしませんか… 真壁指令の中の人のつぶやきによると、竜宮島のモデルはやっぱり尾道みたいですね。そんなわけで尾道観光の疑似体験もできる一本

 

☆『イニシェリン島の精霊』

『スリー・ビルボード』監督による今年のアカデミー賞作品部門候補の1本。前日まで仲良くしていた友人から突然絶縁を迫られた男が、狭い島の中で悩みまくるというお話。ほかの映画でアクの強い役を多く演じているコリン・ファレルが「退屈極まりない男」を演じているのが無理があるんですけど、まあそれは置いといて交友関係・対人関係において色々勉強になるお話です。できるだけ他の人を楽しませたい・面白いやつだと思われたい…という願望は誰にでもあると思うのですが、これがなかなか難しいのですよね… あとリアルではあまりないけれど、ネットではいきなりバサッと縁を切られてしまうというのは時々あること。あれはこちらでは唐突に感じられるけど、向こうにしてみれば積もり積もった「こいつうざいな」メーターがとうとう極に達したということなのかもしれません。

最後の方すごい状態になってしまったコリンの友人と、平然と学生さんたちがセッションしてるのは明らかに無理があると思いました。

 

次回は『仕掛け人 藤枝梅安』『鬼滅の刃 ワールドツアー』『バビロン』『アントマン&ワスプ クアントマニア』『BLUE GIANT』についてちょっとずつ書きます。

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February 06, 2023

『鎌倉殿の13人』を雑に振り返る⑫ やっとこ12月編

すでに『どうする家康』が始まって一月以上。いまさら感が半端ないですが、マイBEST大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の感想を〆とうございます。

 

第45回「八幡宮の階段」

雪の中行われた実朝の右大臣拝賀式。階段を下りていく彼を物陰から狙う公暁。目の前で今まさに将軍暗殺が実行されようとしていることを知りながら、しかしそれを止めようとはしない義時。そして運命の時が訪れた。

ある意味『鎌倉殿』の真のクライマックスとも言える回。頼朝の血筋が絶え、名実ともに北条が武家社会の頂点に立つことになります。刀を下げた公暁を前に、あえて逆らわず命を投げ出す実朝。血を血で洗い生き馬の目を抜く鎌倉にあって、彼は勝ち残るにはあまりに優しすぎたのでしょう。実朝登場からこの回が来るまで毎週が本当にしんどかったですが、シリーズ最大の悲劇が終わってなんだかホッとしてしまったのも事実です。

一方で素っ頓狂な散り際を見せてくれた源仲章氏。やけくそに「寒いんだよおお!!」とがなる姿はジーパン刑事の最後を彷彿とさせました。

こんなに大事な回なのにワールドカップの日本ーコスタリカ戦と重なってしまったために視聴率が最低だったというのもまた悲劇でした。

終わりに登場する運慶×義時の会話も印象深かったです。「お前は俗物だ。だからお前の作るものは人の心を打つ」

この回の重要なアイテム:血で読めなくなった公暁の弾劾文とポイ捨てされた実朝の小太刀

 

第46回「将軍になった女」

1219年。鎌倉では次なる暗闘が始まっていた。自分の息子阿野時元を次の将軍に据えようとした実衣だったが、その陰謀はもろくも崩れ去る。絶体絶命の彼女を救うべく立ち上がったのは子供をすべて失い悲嘆に暮れていた政子だった。

『鎌倉殿』最終章の開幕にしていわゆる「尼将軍」誕生の回。政子のことを「稀代の悪女」と評する向きもあるようですが、1人でも十分つらいのに4人もの子供に先立たれた心情を思えばあまりに気の毒でありません。そしてどん底から妹を助けるためもう一度立ち上がるその姿が凛々しくもやはり悲しい。「田舎の行き遅れが」と連呼されてたのもちょっと悲しく、少し笑えました。

実衣の方はなんというか自業自得だし懲りないしであまり同情できないのですが、耳たぶひとつ切られず無事で済んだのはまあよかったですね。

この回の重要アイテム:無事だったミイさんの鼻と耳たぶ

 

第47回「ある朝敵、ある演説」

1221年。鎌倉で最高権力者となった義時に、ついに後鳥羽上皇が刃を向ける。彼一人を引き渡せば兵は出さないと諸将に文を送る上皇。幕府を守るため自ら朝廷に身柄を預けようとする義時だったが、姉はそんな彼を見捨てなかった。

義時と言う人も本当に不思議な人で、ここに至るまでに権力欲にとりつかれたマックロクロスケのような男になり果ててしまいましたが、彼の欲って金とかスケベ心とかにはいかないんですよね。あくまで主導権を握ることだけに邁進し続け、他に熱心に取り組んでることといえば仏像や寺を作ることくらい。ある意味めちゃくちゃストイックな男とも言えます。そんな彼だからこそ鎌倉(そして息子)を救うためには迷いなく命を投げ出します。「あの親子はぶつかり合うほどに絆を強くしていく」というのえさんの評、聞いてる方は微笑ましいんですけど、彼女にとってはねたましくてしかたなかったのでしょうね。

『東京リベンジャーズ』の如く坂東武者に「ひよってるやつはいるかああ!!」とぶちかます政子。非道をつくしてきた自分でさえまだかばってくれる人たちがいる… 涙する義時の姿にちょっぴり白味が戻ったラストでした。

この回の重要なアイテム:「記念にほしい」とトキューサに言わせた上皇様のお手紙

 

第48回「報いの時」

そして始まる承久の乱。尼将軍パワーに奮い立たされた坂東武者に雅な京の侍たちはなすすべもなく、戦いは短期間のうちに幕を閉じた。これで今度こそ歯向かうものは誰もなくなった北条義時であったが、死は意外なところから忍び寄っていた。

「アガサ・クリスティの作品からヒントを得た」と三谷さんが言っていたラストシーン(結局どの作品だったの?)。小栗さんも小池さんも特番で「すげえすげえ」と興奮していたその終幕はどんなものだったのだろう…と固唾を飲んで見守っておりましたが、予想を上回る衝撃に打ちのめされました。ちなみにこの放送時間、自分は某宅で忘年会に呼ばれていて、酒盛りに一人背を向けてTVに見入っておりました。

前回助けてくれた姉にとどめをさされてしまう義時があまりにやるせない。でもあれは復讐や処刑ではなく、永くない弟にこれ以上罪を重ねさせないための処置だったのでは。思わず駆け寄ってしまうところとか、「もっと似てる人がいるわ」という言葉からそれを感じますし、宮沢りえさんも全く同じ意見だったのに慰められました。

もう少し余韻とか残された人たちの反応とか見たかったところですが、あそこでバサッと終わるのがやはり美しいのかも。脳内を「ゴッドファーザー 愛のテーマ」がただただ流れていきました。

この回の重要なアイテム:書き上げられた御成敗式目・毒(キノコ由来?)

 

最後こそ遅れましたが無事全話感想書き上げられてホッと一息です。ただ「13」が強調されたドラマだったので、あともう一回くらいなんか書きたいですねえ(挫折する可能性高し)

 

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December 29, 2022

2022年、この映画がアレだ!!

年々投げやりになっていく年間映画ベスト。腐乱死体のように見苦しいですが、今年もやります。まずはどん尻から。

 

ワースト:『仮面ライダー〇〇〇 10th 復活のコアメダル』

伏字になってるようななってないような。でもあんまりこの映画の悪口言いたくないんです。主演の渡部秀君がこれで満足されてるのだったらそれでいいです。三浦君は怒ってましたが。

 

リバイバル部門:『ロード・オブ・ザ・リング』三部作IMAX上映

公開からはや20年。色々忘れてたので新鮮な気持ちで感動出来ました。

 

ではBEST25を一気に発表いたします。

第25位 『ハウス・オブ・グッチ』 お金って怖いよね。でも欲しいよね

第24位 『バブル』 ネトフリ同時公開とか、やめよう

第23位 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』 次は「時間よ、止まれ」の映画化よろしく

第22位 『FLEE』 ジャン・クロード・ヴァンダム再評価映画

第21位 『ソー ラブ&サンダー』 2年ぶりに会った友人と一緒に観たのが大変楽しかったので

第20位 『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』 電〇は悪

第19位 『ベイビーブローカー』 かつてないくらい優しいソン・ガンホ

第18位 『SING ネクストステージ』 稲葉さんのU2が良かった

第17位 『鋼の錬金術師 完結編』2部作 今年の「そこまで悪く言われることなかったんじゃないか」賞

第16位 『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』 二代目はシュリチャン

第15位 『コーダ あいのうた』 無音演出が斬新でした

第14位 『神々の山嶺』 フランスのお洒落なセンスで描かれる昭和風景

第13位 『ドクターストレンジ マッドネス・オブ・マルチバース』 ラストのアレは『三つ目がとおる』のオマージュでしょうか

第12位 『ノープ/NOPE』 みんな『AKIRA』好きだよね

第11位 『トップガン マーヴェリック』 今までで映画館で一番多く予告編を見た映画。4DXSCREENは壁際に座ると片っぽの横画面がほとんど見えません。

第10位 『マークスマン』 今年ナンバー1のリーアム・ニーソン映画(これしかないけど)

第9位 『キングダムⅡ 遥かなる大地へ』 良かったけど、このペースじゃ最後まで映画化とか無理だよね…

第8位 『DCがんばれ! スーパーペット』 クリプトたちだけじゃなく、DC映画は全体的にがんばろう

第7位 『さがす』 さがし さがしもとめて~ ラストシーンがすごく好き

第6位 『ザ・バットマン』 東京コミコンでアンディ・サーキスに会いに行きたかった…

第5位 『すずめの戸締り』 「人間椅子」も新海誠が手掛けるとこんなにさわやか?

第4位 『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』 観たてのほやほや。今年はどん詰まりに来てツボな作品がラッシュして来ました

第3位 『THE FIRST SLAM DUNK』 今年の「公開されるや否やみんなの手の平がひっくり返った」大賞。ワールドカップ日本代表の姿とダブりました。

ラストは2作品同率で

『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』

『シン・ウルトラマン』

東西を代表するヒーローの総決算的な作品を並んで1位といたします。誰に強いられてでもなく、好きな人たちを守るために笑顔で自分を犠牲にする、彼らの姿に涙と鼻水を搾り取られました。片や10代、片やウン千才?という開きはありますが。それにしてもアンドリュー・ガーフィールド、騙してくれてありがとう。許さないけど許す。

 

振り返りみれば今年もいい映画いっぱいありました。来年も『シン・仮面ライダー』『スパイダーバース』などに期待しております。それでは良いお年を。

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December 27, 2022

2022 年12月に観た映画

今月は後『ラドン』の4Kリバイバルを観る予定なのですが、とりあえずここで締めます。

☆『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』

そのまんまですね。ギレルモさんがストップモーションアニメで表現した「ピノッキオ」。ネットフリックス製作ですが、幸い近くの映画館でもちょっとだけかけてくれました。ピノキオといえば去年の生々しく、原作に忠実な実写版が記憶に新しいところ。デルトロさんが差別化を意識されたのかはわかりませんが、今回はかなり独自のアレンジが効いておりました。戦時下のイタリアが舞台となっているので、戦争の悲しさや恐ろしさが強く伝わってくる内容となっております。キュートでコミカルなところもたくさんありますけどね。

思えばギレルモ氏が純粋に子供向けの映画を手がけたのはこれが初めてかも。観客に「あとはご自分で想像してください」と委ねるような結末は『パンズラ・ビリンス』や『シェイプ・オブ・ウォーター』を思い出しました。

 

☆『ブラック・アダム』

揺れ動き続ける(笑)DC映画ユニバース最新作。ブラック・アダムさんといえば『シャザム!』の名悪役の一人なのですが、今回はビリー君ちとは関係なく映画化。代わりにホークマンやドクターフェイトといったコミックでは古参なのにいまいちメジャーになりきれないヒーローたちがチーム「JSA」を組んで登場してきてたのしゅうございました。特にドクターフェイトのデザインはもろ好みでフィギュアが欲しくなります。

印象に残ったのはJSAが「ヒーローとかいう割に中東の問題は全く解決してくれない」とか皮肉られるところですね。これ、現実の米軍へのかなり痛烈な皮肉になっているのでは。あと『フライト・ゲーム』や『ロスト・バケーション』といった限定空間でのサスペンスを得意とするジャウム・コレット・セラ氏が監督でしたが、彼の持ち味はあまり生きてなかったような。題材が題材だけに仕方ないところでしょうか。

 

☆『THE FIRST SLAM DUNK』

90年代の名作スポーツ漫画を、原作者自らが映画化。この「原作者自ら」ということを知った時はたまげて記事を二度見しました。井上先生ってあんましアニメに興味ない人だと勝手に思ってたので…

正直あまり期待はしてなく、大好きな漫画だったのでまあ一応観とこう…くらいの気持ちでした。でもまあ、何度も読み返したあの場面、あのセリフが出てくると感極まって条件反射的に鼻水がブシューッと噴き出てしまうんですよね。今回のメインは湘北5で最も地味な宮城君で、出番が最も多いのは彼なのですが、自分はやっぱり桜木花道がここぞというところで活躍するところにテンション上がってました。

宮城君の性格が原作とはちょっと違っていて、原作者が作っているのに二次創作みたいなところがあります。多分先生はこのアニメを1本の映画、あるいは「現実(リアル)に近い作品」として仕上げたかったのでしょうね。ギャグ含めてコミックをそのまんま再現するとそこからかけ離れてしまう恐れがある。その辺を考慮に入れての改変だったのだと思います。

懐かしい面々にまた会えてよかった(あまり期待してなかったくせに)。大変でしょうけどぜひともTHE SECONDも作っていただきたい。こんなタイトルにしたんだからその辺責任とってください。

 

☆『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』

この十年間ずっと「やるやる」詐欺を繰り返していた『アバター』待望の続編。今回は惑星パンドラの海が中心となっていて、この水の3D表現が本当にすごい。デビュー作『殺人魚フライングキラー』から、『アビス』そして『タイタニック』と、キャメロンはやっぱり海を扱うのが本領の人…という思いを新たにしました。3D旋風を巻き起こした前作ですが、その後「すげえ立体映像を見せてやるぜ!」というのを第一目標として作られた映画が何かあったかというと、『怪盗グルーの月泥棒』くらいしかなかったんではないかと。「ゲーム画面みたい」という評価も聞きましたが、ゲーム画面はいかに美麗であろうと飛び出してはこないし、なにより大スクリーンでは観られないのです。

映像以外には海で活躍する悪役のメカ群とか、長男ばかりひいきされてないがしろにされる次男、その次男とクジラとの友情などもツボでした。しかしキャメロンは本当に̪シガ二ーと大佐が好きですねえ。この二人への肩入れがあからさまで今回前回の主人公ジェイクの影がちょっと薄かったです。

「3作目は何がなんでもやる」とのことなので、興行がたとえアレな結果になったとしても責任とって続けてください。

 

☆『MEN 同じ顔の男たち』

『エクスマキナ』のアレックス・ガーランド監督と聞いて観ました。あちらが一応条理的なSFだったのに対し、今回はかなり不条理なお話。タイトル通り同じ役者さんが管理人、牧師、警官、ホームレス…と風体を変えてヒロインの前に何度も現れるのですけど、そのことに関しては特につっこまない主人公。神経のまいってしまった人が見た幻覚とも、田舎の変な妖怪を目覚めさせちゃった話とも取れます。リンゴがいっせいに落ちるシーンとか、ヒロインが逃げ惑う中、背景の夜空がめちゃくちゃ綺麗だったりするところが印象に残りました。

 

☆『MAD GOD』

『スターウォーズ』『ロボコップ』『ジュラシックパーク』など名だたる娯楽巨編に関わってきたクリーチャー操演の神様フィル・ティペットが、一からオリジナルで作り上げたストップモーションアニメ。で、これがかなりシュールで難解でえぐい。アニメといえど子供に見せちゃいけない作品です。『JUNK HEAD』とかぶってるところも色々あるんですけど、こちらにはあちらにあった「かわいらしさ」というものが一片もありません。

その映像の力強さや作りこみには圧倒されながらも、共感を拒絶するような作りに「ポカーン」としてしまったのも事実。実はこれクリスマス・イブに一人で見たのですが、なんだか寒さとやるせなさが一層募った気がしました。

 

おお、なんとか超雑ではありますが、年内観た新作映画の一言メモを全部書き切りました。次は誰も注目してないであろう2022年映画ベストについて書きます。

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December 25, 2022

2022年11月に観た映画を振り返る

10月はリバイバルと特集上映しか観てなかったので飛ばします。余裕があったらそのうち書くかも…

☆『RRR』

『バーフバリ』のラージャマウリ監督が描く近代インドアクション。偶然出会った時から互いに強くひかれあったラーマとビーム。だがそれぞれに一族を背負った使命があったことから、その絆は分かたれてしまう。…と書くと男女のラブロマンスのようですが、主人公二人は凄腕の武芸者なので激しいアクションの応酬が繰り広げられます。

3時間の長尺を退屈させずに一気に観させる手腕はさすがのラージャさん。ただちょっとラーマさんもビームさんも大事なお勤めがあるのにサボって遊びすぎだと思いました。あと最後の一人が倒れるまでぶっとおしで続けられる死の舞踏「ナートゥ」ダンスが圧巻です。

 

☆『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』

みんな大好きタイムリープ映画。ただ日本でタイムリープをやるとなぜか青春の甘酸っぱいムードが濃厚になったりするのですが、こちらは辛気臭いサラリーマン社会が舞台となってるのが斬新であります。作品紹介を読むとブラック企業で酷使されて大変そうな話を想像しますけれど、こちらの会社の同僚はみないい人たちで、出来たらこんなメンバーと一緒に働きたいなあと思ったり。その代わりクライアントである広告代理店?はけっこう腹黒い感じ。やっぱり電〇あたりがモデルだったりするのでしょうか。

 

☆『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』

待望のMCU最新作。前作の主演で会ったチャドウィック・ボーズマン氏が不慮の死を遂げられたため、作品世界でもブラックパンサー=ティチャラが突然の病で亡くなったという展開に。主役不在の中脇役たちがそれぞれ懸命に働き、やがて新たなるブラックパンサーが誕生する…という流れ。言ってみれば映画丸丸一本使って一人の俳優さんの追悼式を行ったようなもの。それだけ社会にもスタッフにもチャドウィックさんの存在が大きかったということなのでしょう。自分としては代役立ててでも、映画の中ではティチャラに死んでほしくはなかったですけど… ただCGでボーズマン氏を再現して、安っぽい感動的なセリフを言わせたりしなかったのは評価いたします。

 

☆『すずめの戸締り』

待望の新海誠最新作。こう言ってはなんですが爽やかな孔雀王(もしくは仮面ライダー響鬼)がピュアな女子高生に助けられる話。強引なところはあれど、冒頭から中盤まではスペクタクルの連続で観る者に休みをくれません。それが少し転調するのが、悲壮な決意を固めたヒロイン・すずめの前に孔雀王の友達である芹澤という軽そうなにーちゃんが現れるところ。こっから多少肩の力を抜いてのんびり楽しめるロードムービーへとシフトしていきます。かようにちょっと変な映画ではあるのですが、この芹澤のキャラと縦横無尽にすっとび回る人間椅子があまりにも楽しかったので年間ベストに入れたいと思います。

ちらっと地元熱海も映りました。あそこも実は土石流が流れてったところだったり…

 

☆『ザリガニの鳴くところ』

ザリガニって鳴くんか…?? それはおいといて、アメリカ南部の自然で育ったややワイルドな女の子が、町のプレイボーイを殺したという罪で訴えられ、果たして彼女がやったのか、それとも無実なのか…という謎でもって観客をひっぱっていきます。

某ロッテントマトの点数はあまり高くありませんでしたが、十分に面白かったし原作は全米でベストセラーになったとのこと。だからこの面白さの功績は原作小説に負うところが大きいかも。その原作者さんは自然学者として名を馳せてた方で、だいぶご高齢になってから初めて書いた小説が大ヒットとなったというのだから驚きです。

舞台となったノースカロライナ州の豊かに広がる河は『トム・ソーヤの冒険』とも似た景色だったり。あちらはミズーリ州のお話なのでそれなりに近いと言えば近い…かな。

 

☆『グリーン・ナイト』

日本でも人気の高いアーサー王伝説に出てくる「円卓の騎士」の一人、ガウェインの冒険物語。といっても明るくモンスターを倒していくような内容ではなく、追剥にあって苦労したり説明のつかない怪異に出くわしたり…といったストーリーで、正直なかなかわかりにくいところもあって困惑いたしました。ただラストも含め不快な難解さではなく、わけわからないながらも爽やかな気持ちで劇場を後にすることが出来ました。そんでこれ、大元は監督が考えた話じゃなくて、イギリスで昔から伝わってる民話みたいなものをアレンジした作品なんだそうです。

快活な青年の役が多かったデブ・パテル氏がこちらでは悩める修行者的な役を好演してて感服いたしました。

 

次回「12月に観た映画」の感想は年内にまとめられるかどうか。『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』『ブラック・アダム』『THE FIRST SLAM DUNK』『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』『MEN』『MAD GOD』について書きます。

 

 

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December 04, 2022

『鎌倉殿の13人』を雑に振り返る⑪ だいたい11月編

第41回「義盛、お前は悪くない」

一時は回避されたかに見えた和田勢との衝突。しかし不幸な行き違いから、義盛の郎党たちは幕府に向けて進軍を開始してしまう。ここに幕府内乱で最も激しかったと言われた「和田合戦」が始まった。

和田義盛退場編の後編。和田さんに関してはドラマを見る前から名前だけ知ってましたが、本当に名前だけ。その性格は三谷さんの誇張によるところが大きいとは思いますが、歴史の記号みたいだった人物が、またしてもこれで全国の皆さんの親しみやすい人気者になったのでは。それだけにその壮絶な最期がつろうございました。和田さんを葬った後何とも言えない表情を見せる義時にも…

数少ない笑いどころは、追討に向かう際なぜかべろんべろんに酔っぱらってた泰時。几帳面な彼にしては珍しい乱れっぷりでした。

大抵源平ものでは義仲の死と共に姿を消す巴御前は、この41回までねばりを見せてくれました。秋元才加さん演じる凛とした巴と髭もじゃの熊さんみたいな義盛公は、実に微笑ましいカップルでしたねえ。

この回の重要なアイテム:大江さんが別人のような刀さばきで取り戻してきたドクロと、朝時が思いついたことにされたファランクス戦術

 

第42回「夢のゆくえ」

和田合戦を経て、平和な鎌倉を作ろうと心に誓う実朝は、実権を取り戻すべく義時と対立していく。そんな折都から宋の匠・陳和卿が鎌倉を来訪。船を作り宋との交易を興すことをすすめ、実朝は大いに乗り気になる。

西暦1216年の出来事で、豪快に失敗したプロジェクトXみたいなお話。若いなりに一生懸命がんばってる実朝君の努力が報われないのが、これまた切ない…んだけど、裸の男たちがギャースカわめきながら船を引っ張ってる絵はなかなか笑えました。なぜか脚本に「脱いでる」と書かれてた義村。書いてないのになぜか脱いでた八田さん。見事な胸筋を披露してくださりありがとうございました。

他にはお父さん譲りの超能力なのか、冒頭で実朝の夢枕に現れる後鳥羽上皇がインパクト大でした。あとエピローグで3回ぶりに姿を見せ、そのままナレ死した時政パッパにほっこり。

この回の造船マメ知識:船を陸で重く作り過ぎてはいけない

 

第43回「資格と死角」

1217年。後継者に将軍職を譲ることに決めた実朝は、京より帝の子息をその地位に据えることを提案。そこへ運悪く僧として修業していた二代将軍の忘れ形見公暁が鎌倉に戻ってくる。鎌倉殿を継ぐ気満々だった公暁に義村が要らないことを色々吹き込んだせいで、新たなる悲劇がまた幕を開ける。

これまでも辛いエピソードが山ほどあった「鎌倉殿」ですが、ここからの3回で言わばつらみのピークを迎えます。キーパーソンとなる公暁は役の上では頼家、役者さんとしては佐藤浩市氏のギラツキぶりを見事に継承していてお若いのに凄みを感じさせます。

一方でのんきだったのが政子とトキューサが都を訪れるエピソード。政子×シルビア・グラブの交渉戦とトキューサ×上皇様のリフティング勝負は両方とも見応えありました。

この回の珍妙なアイテム:政子が一杯のツマミに持ってきた干しダコ

 

第44回「審判の日」

1218年。都より皇子を将軍職に迎える準備が着々と進んでいた。だがその陰で義時は朝廷と接近しすぎた実朝を排除することを決意。公暁もまた自分が鎌倉殿となるべくクーデターの計画を練っていた。そして公暁のターゲットには実朝だけではなく、父を葬った義時も含まれていた。

某所で「みなもとの なんかむかつくなかあきら かおはいいのに かおはいいのに」と歌われていた源仲章。本当にむかつくというか、怒りの煽り方がうますぎる。演じる生田斗真君は『いだてん』や『脳男』などが印象に残っていますが、それぞれ全然別の役どころで感心いたします。

運命の日の直前に会話を交わす実朝と公暁。表向きは和解できたように見えましたが、公暁の闇は実朝の光を受け入れることが出来ません。まっすぐで清らかな心がかえって相手の心をかたくなにしてしまうこともあるという。

ここに至って本当にギャグがなくなってしまった『鎌倉殿』。前半のコメディ調が嘘のよう、というか別のドラマのようです。三谷作品としてもここまでドス黒いものは例がないのでは。雪の降る中階段を上っていく実朝。物陰で息をひそめる公暁。ぽっかり口を開けて義時を嘲る仲章。緊張が極に達したところで生殺しのように次回へ。

この回の謎の動物:義時の夢に出てくるソフトバンクのお父さん

 

いよいよ残り一ヶ月。さびしいようなホッとするような…

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