November 13, 2017

アンドロイドは電影少女の夢を見るかもしれない リドリー・スコット&ドゥニ・ヴルヌーヴ 『ブレードランナー2049』

Br20491カルト映画の大傑作としてその手のベストには必ず名を連ねる『ブレードランナー』が、『ボーダーライン』『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴの手で復活。『ブレードランナー2049』、紹介します…と言いたいところですが、今日はもう紹介は諦めました。観た人か全く興味ない人のみお読みください。でも一応いつものようにあらすじから。

西暦2049年。人間と寸分たがわぬアンドロイド「レプリカント」が発明され、社会に溶け込んで様々な仕事に従事したり、時々反乱を起こしたりしていた。自身レプリカントである「K」は反抗的な同族を取り締まる捜査官「ブレードランナー」。黙々と任務をこなす日々を送っていたが、ある標的との闘いののち、謎に包まれた女性の白骨死体を発見する。調査をすすめるうちにその女性はレプリカントでありながら子供を宿していたことが判明。その子供は果たしてどうなったのか。真相を追ううちにKはアイデンティティを深く揺るがす事態に直面する。

『ブレードランナー』1作目は1982年の公開。同じ時期『E.T.』がかかっていたのはよく覚えていますが、こちらの方はまったく記憶にございません。その伝説を知って十代になってからTVで2回ほど観ましたが、正直あまりピンと来ませんでした。その映像の構築力には確かに目を見張るものがありましたが、各方面に色々影響を与えてしまったために、フォロワー的作品になじんだ身にはかえって新鮮味が乏しく思えてしまうという。日本アニメでもぱっと思いつくだけで『ボトムズ』『イノセンス』『カウボーイビバップ』などいろいろあります。正直公開時スクリーンで観た人の感動がすこしうらやましかったりもします。
あとうけやすいエンターテインメントとは一線を画してるところがあるというか。反乱したレプリカントのリーダーと壮絶な死闘を演じたのち、なんと主人公のデッカードはその宿敵に命を救われてしまう。そしてやんわりとした謎を残して物語はEND。なんともモヤモヤいたしますが、この一筋縄ではいかないストーリーがある種の人々の心をとらえ、「ふたつで十分ですよ」の名ゼリフとともに時代を越えて愛されることになりました。何度も編集しなおされ幾つものバージョンが作られたことがそれを証明しています。

で、ようやく今回の続編のお話。同じ世界を舞台とする物語ですが、30年経ち監督も違うので当然いろいろと違うところがあります。
まず街の空気ですが猥雑でありながら活気に満ちていた1作目に比べ、『2049』の街はどこか寒々しいというか社会の衰えを感じさせます。核の滅亡の恐怖があった80年代前半より、一応それが去った現代に作られた映画の方が未来像が暗いというのは、なんとも皮肉なものであります。
この空気の違いは監督の資質の違いもあるかと思います。エロ描写ひとつとっても肉食系でギラギラしたリドスコに比べると、ヴィルヌーヴのそれはいちいちオシャレで綺麗。ドゥニさんも作品によっては残酷描写を多用することがありますが、彼の場合リドスコのように暴力を楽しんではおらず、普通に「痛々しいもの・悲しいもの」として描いております。

そしてなにより大きな違いは、デッカードが「実はレプリカントなのか?」という謎を残したまま前作が終わってしまったのに対し、今回はしょっぱなからKがレプリカントであることを明かしている点です。しかしその明々自白だった出自がきわめて不確かなものであったことを知り、Kは深く思い悩みます。自分がレプリカントにより生まれた「運命の子」だと思った時、それはまちがいで彼はおとりにすぎなかったことを知らされた時、Kは二度とも深く嘆きます。やっとのことで受け入れた運命もまた偽物にすぎなかった…とはまことに残酷な話ですよね。世に「自分が実は伝説の救世主だった」という物語はたくさんありますが、「救世主かと思っていたら実は違った」という話はほとんど知りません(『侍戦隊シンケンジャー』が少し近いかも)。ですがそんな物悲しいストーリーが、うすら寒いけど心地よい背景とあいまってわたしの心を強くとらえたのでした。

大きな力に翻弄されつづけた「ブレードランナー」が、最後に自分の望む決断をし、個人としての矜持を見せる… そういうところは新作も旧作も変わりないかと思います。

あとこの映画『ブレードランナー』の正統的な続編でありながら、大変ヴィルヌーヴらしい映画でもありました。まずとてもミステリーっぽい作りな点。ある「謎」を中心に物語が展開し、意外な真相が用意されていたりする。ドゥニさんはアート指向も強い方ですが謎を放置したりはしませんね。一応はっきりした答えを残して終わってくれます。
もう一点は「引き裂かれた親子の物語」であるということ。『灼熱の魂』『プリズナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』… これらにはいずれも子を深く思ったり、その愛ゆえにくるってしまう親の情が描かれております。『ブレードランナー2049』にもそういう要素が後半出てきますが、今回はむしろ「子供」の側の視点が主になっていたのが変わっておりました。

Br20492「伝説の名作ふたたび」ということで作られた本作。しかし現時点で日米ともに初登場売上一位を記録したにも関わらず、製作費に遠く及ばないため大赤字が確定しております。まさにこの点でも本家を踏襲してしまいました。
スタッフがこの事態をどれほど予想していたかは謎ですが、自分は素晴らしい映画を作ってくれてありがとうと言いたいです。『ブレードランナー2049』はそんな状態ながらも一応プチヒットしながら公開中。また伝説となり30年後に第3作が作られることを願います(わし死んでるかも)。


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November 09, 2017

ボンクラのニャンダフル・ライフ ジェームズ・ボーエン&ロジャー・ポスティスウッド 『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』

Bbnk1先日『僕のワンダフル・ライフ』という犬の映画が話題を呼んでましたが、今回は猫の映画の話です。あちらがファンタジーっぽい話なのに対し、こちらは「実話をもとにした物語」。『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』、ご紹介します。

親に捨てられ、ドラッグに溺れ、日々の食事にも事欠くストリート・ミュージシャンのジェームズ。彼は親切な社会福祉士の口利きでなんとかある公営住宅に入れることになった。そんなジェームズの住まいにある日一匹の猫が迷い込んでくる。ジェームズは飼い主を見つけようとするが徒労に終わり、なんだかんだで猫をひきとることに。ボブと名付けられたその猫は驚いたことにどこまでもジェームズの後をついてきて、彼の演奏にも立ち会うようになる。そんな一人と一匹の姿はいつしかロンドンで人々の話題になっていくのだった。

よく少年漫画などで「やさしい」以外とりえのない少年の前に突然美少女が現れて、勝手に好きになってくれる話ってありますよね。まさにそんな映画です。違うのは美少女が猫だということです。そういう漫画を見かける度に「はいはい、よく中二君が抱く妄想だよね」と一笑に付してましたが、いやあ… そんな話実際にあるんですねえ… 本当に夢を諦めてはいけないですね。

さらに驚くべきはこのボブが犬のようにジェームズのあとをひょいひょいとついていくこと。普通猫は縄張りもあるしそんなことはしないものです。しかしボブはまるでアニメに出てくるマスコット動物のように、ジェームズの肩に乗って二階建てバスで移動したりもします。冬は襟巻の代わりになってあったかいだろうなあ…じゃなくて、そんな猫いるか!!??と思わずにはいられません。それも小さいころから芸を仕込まれてきたわけではなく、ある日ぷいっと迷い込んできた猫がそんなことをやるからたまげます。

そしてそんな猫をよく撮影のためにもう一匹見つけてこれたなあ…と思っていたら、またまたビックリすることに、これボブさんご本猫が演じられてるんですね。ジェームズさん本人がカメラの外で上手に指導されてるのか、極めて自然な演技でした。本当にあった猫の話を、その猫が実際に再現しているという点で、まことに他に類を見ない映画と言えましょう。

作品はボブとジェームズの絆を描くとともに、ドラッグから抜け出すことの大変さも描かれてます。春の『T2 トレイン・スポッティング』でもありましたが、ドラッグはとことん人をダメにします。しかしそれに手を出す人にもやりきれない事情があることも多く。そして一度はまってしまうとその沼から抜け出すことは容易ではありません。
幸いジェームズはボブの存在のおかげでその悪癖を断つことができました。すべての患者に効果があるわけではないでしょうが、猫がドラッグ中毒の抑止力にもなるという一例です。一匹の普通の猫が一人の人の人生を変えてしまうことも確かにあるんですよね。昨年初めの『猫なんてよんでもこない』を思い出したりもします。

ただジェームズ氏は気づいているのかどうか。彼はドラッグへの依存からは脱することはできたでしょうけど、代わりに別の依存症にどっぷりはまってしまっております。そうです。猫依存症です。幸い今はボブ氏が健在だからいいけれど、犬猫は大抵人間より先に逝ってしまうもの。その時にジェームズ氏が耐えきれるのかとても心配です。なぜならいままさにわたしがその苦しみと戦っているからですああああああああねごねごねごねごおおおおおおおお!!!!

…失礼、取り乱しました。いつかなんとかこの病から立ち直りたいと思います。
Bbnk2春に亡くなったモンさんは肩の上には乗っかってきませんでしたが、昼寝してるとよく腹の上には乗っかってきました。そんな懐かしくも重苦しい感触を思い出させてくれた『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』。まだいろんなところで公開しておりますので、気になった方はボブさんの美猫ぶりをスクリーンで堪能されてください。公式サイトはこちら


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November 08, 2017

正義は金 FROGMAN 『DCスーパーヒーローズVS鷹の爪団』

Photoいまだかつてないアメコミ映画ラッシュとなった2017年。今回はその中でも群を抜いて低予算の日本代表的作品をご紹介します。『DCスーパーヒーローズVS鷹の爪団』、参ります。

今日も赤貧にあえぎながら世界征服に励む秘密結社鷹の爪団。だが彼らの発明になぜか興味を抱いた天才犯罪者ジョーカーが「鷹の爪団」に接触を図ろうと来日する。ジョーカーの野望を阻止すべくスーパーヒーローチーム・ジャスティスリーグは後を追うが、主要メンバーのバットマンはある事件のショックからひきこもりになってしまっていた。

マーベルが六本木ヒルズで展覧会を開いたりファッション関係から女子たちの興味をひいたりしてるのに比べ、DCはチャンピオンにコミカライズを連載したり茅ヶ崎に専門店を開いたり果ては『鷹の爪』とコラボしたり… どうもマイナーな方へマイナーな方へ進んでいってるような気がしてなりません。まあ要は面白ければそれでいいんですけど。

『鷹の爪』映画の特色に画面の右端に備えられた「予算メーター」というものがあります。映画の中で予算が消費されればされるほどゲージがどんどん下がっていくという。しかしただでさえ低予算の『鷹の爪』シリーズに莫大な製作費がつぎこまれてるDCの面々が本気で暴れたらどうなるか。3分と持たずに映画は終了してしまいます。ではどうやって約二時間もたせればいいのか… まあこれまでシリーズを観てきた方にはおなじみの「あの裏ワザ」でお金をかき集めてくるわけですね。その浮いたお金で作られた白組やプロダクションI.Gの本気映像には目を見張るものがあります。そして平常時の低予算画風とのものすごい落差が独特のギャグになったりしています。

しかし映画を観てる時は気楽にケラケラ笑っておりましたが、「映画と予算」を巡る問題について考えると頭を抱えてしまいます。今公開中の『ブレードランナー2049』にも顕著ですが、その週の売上第一位を記録しても製作費・広告費においつかないと「大コケ」と言われてしまったりする。じゃあその分予算を抑えればいいじゃん、ということになりますけど、それが簡単にできたら誰も苦労しないわけで。あとどう考えても当たらなそうな企画にものすごい額のお金がぶっこまれるのも謎であります。投資する方たちはそれなりの勝算があるのか、それともわかっちゃいるけどやめられないのか。本当に映画ビジネスというのは難しいですね。

横道にそれました… ほかの見どころとしましては『レゴバットマン・ザ・ムービー』とはまた別の角度からバットマンの本質に迫っていたり。ブルース・ウェインは両親が殺されたからバットマンになったわけですが、もしこの悲劇が未然に防がれていたらどうなっていたか。このアンサーがなかなかにひどい(笑) 他にもアクアマンをサバ夫よばわりしたりワンダーウーマンをオカン扱いしたり… 面白いけどひどい。よくDCが許したな…とも思いましたが、アメコミは自社でもっとひどいパロディをやったりするのでこれくらい全然許容範囲なのでしょう。あとテラスハウスやあれやそれといった日本作品のわかりやすいパロディもあちこちにちりばめられております。

ちなみにこの映画東京までわざわざ出張って観に行った(アホだ)ら、ラッキーなことに舞台挨拶つきでした。マスコミがひいた二回目のあいさつだったせいか、監督が本音をぶっちゃけたりキャストのテンションが低かったり、両者が険悪なムードになりかかったり… 予想してた華やかな感じでは全然ありませんでしたが、それはそれで見ごたえがありました。特に印象に残ったのは一同のお金の失敗についてのコメント。バットマンの声役の山田孝之氏は「金貸しの役を長いことやってたので、お金の使い方は堅実になりました」と語っておられました。イイネ!!
20171021_151536他の本場のアメコミ映画と比べると上映館がだいぶ少ないのが泣かせどころですが、それでもファンであれば観ておいて損はない一作です。『DCスーパーヒーローズVS鷹の爪団』はたぶんまだ全国各地で細々と公開中。できればもう少しスクリーン増えますように。彼らの聖地島根では無事かかるようでほっとしてます。


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November 03, 2017

冬来たりなば、猿遠からじ マット・リーブス 『猿の惑星 聖戦記』

Swgw1シリーズが始まって約50年。いまここに『猿の惑星』史上最高傑作が誕生しました。リブート版3部作の完結編でもある『猿の惑星 聖戦記』、ご紹介します。旧シリーズおよび1作目『創世記』の感想はコチラ。2作目『新世紀』の感想はコチラ

進化した猿たちと衰亡著しい人類の対立が激化する近未来。猿側のリーダー・シーザーは戦いの中最愛の妻と長男を失う。復讐に燃えるシーザーは、群れから離れて仇である人類軍の指導者「大佐」を追う。しかし大佐たちの奇妙な行動はシーザーと仲間たちを困惑させる。彼らの目的は果たして…

正直申しますとわたしこのシリーズやシーザーにそれほど愛着があったわけではないんです。旧シリーズの『新・猿の惑星』は好きだし、『創世記』もそれなりに感動しましたけど、やっぱりわたし人間なんで。どちらかといえばシーザーよりもジェームズ・フランコやジョエル・エドガートンといった「いいもん」の人間に感情移入しながら観てました。
ところが今回はもうのっけからモンキーになりきって「猿がんばって! 人間ぶちのめせ!!」とすっかり猿状態でずっと鑑賞しておりました。前二作の下積みがあったからか、アンディ・サーキスの熱演が心を動かすのか、はたまた巧みで骨太な脚本の力によるものなのか… わたし以外にも猿化してしまった人たちは大勢いるので、これ
は本当にすごいことです。あらためて物語の持つパワーの強さというものに感服いたしました。

そういったエモーショナルな部分もサルことながら、前半お話をひっぱる「謎」の部分もまた興味深く。大佐たちは猿以外の何かとも敵対してるようなのですが、その相手とは一体だれなのか。隊の中で行われている「味方殺し」は何の意味があるのか。これらの謎が明らかにされた時、「大佐」という男の凄みや意思の強さに圧倒されます。それは限りなく狂気に近いものでもあるのですが…

以下、どんどんネタバレで。

どなたかがネットで書いていてはたと膝を打ったのですが、これ、「言葉」を巡る「万物の霊長」の交代劇でもあったのだなあと。「言葉は神なり」という聖書の一節がありますが、せっかく言葉を与えられて神様の代理を任せられていたのに、度重なる失敗の末にその座=「言葉」を取り上げられてしまう人類。そして別の生き物が地球の管理を引き継ぐ…という。いわゆる「黙示録」でありますね。
ただこの映画、とりわけ印象深いのは無言のやり取りが描かれた2つのシーンなんですよね。シーザーと大佐が最後に相対する場面と、激戦の最中シーザーと裏切り者のドンキーが視線を交わす場面。それらの数瞬の間、いったいどれほどの感情が彼らの間に交錯したのかと考えると、「無言」の持つ限りない豊饒さに感じ入るのでした。言葉を失った少女エヴァの可憐な純真さもいちいち胸をうちます。

そして傷だらけになりながら、我武者羅に生きる道を探し求めるシーザー。彼はその名の通りカエサルのようでもあるし、十字架にかけられたキリストのようでもある。群を約束の地へ導く姿はモーゼのようでもあります。けれども英雄であり聖人である以前に、とても人間臭い(猿なのに)。我々と同じように泣き、怒り、迷い、悩み、微笑む。そんな「彼」だからこそ我々は深い親しみを感じるわけで。思えば1作目から苦難の連続だったその生涯。できれば穏やかな老後を過ごしてほしいと心から願いながらスクリーンに見入っておりましたが、その結末は…

さて、このお話、「50年前の1作目につながるのでは」なんてことも言われてます。同じ名前のキャラもちらほら登場しておりますし。でもオリジナル『猿の惑星』の主人公は地球に降り立った時、「発射してからすでに2000年が経過してる」なんてことを言ってました。その計器がどこまで信頼できるかも怪しいんですけど… え~と、じゃあ結局どっちなのかというと「どっちにも取れる」ってことでいいんじゃないかと思います(無責任)。ただ『創世記』の時点で恒星間飛行ができるほど人類の文明が発達してるようには見えなかったので、やっぱり旧シリーズとはパラレルワールドと考えた方が一番しっくり来るのでは。

Swgw27年越しの物語にこれ以上ないくらい堂々たる幕をひいた『聖戦記』。あらためて「まあ付き合いで観てやるっぺよ」という動機で臨んだことに深く土下座いたします。
これで本当に終わりかと思うと本当にさびしいですね…(今頃かよ!) ただ人気シリーズはいつかまた復活するのが世の常。やらなきゃいいのにやっちゃうのが人間の愚かさなのです。ウキー!!


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October 25, 2017

わたしたちのマーキュリー計画 セオドア・メルフィ 『ドリーム』

Drm12月に行われたアカデミー賞作品賞ノミネートの、ようやっと最後の1本です。NASA草創期に宇宙開発を陰で支えた女性たちを描く『ドリーム』、ご紹介します。

1960年代、NASAはソ連に追い付くべく初の有人宇宙飛行プロジェクト「マーキュリー計画」に血道をあげていた。キャサリン、メアリー、ドロシーら有能な黒人女性たちもその能力を買われ、日夜計算と実験に励んでいたが、肌の色のゆえに、女性であるがゆえに不当な待遇に耐え忍ばねばならなかった。それでも彼女たちの奮闘はやがて実を結び、徐々に計画の中心を担っていくようになる。

原題は「Hidden Figures(隠された数式)」。宇宙飛行において必要なのにいまだたどりつけない正解的な数字のことを表すと共に、上司から嫌味半分でマーカーで塗り消された書類のことも指しています。またfigureには「人物像」を指すこともあります。彼女らの存在が大々的に知られるようになったのことはごく最近のことであり、ようやく日の目を見た…という意味も含められています。

NASAといえば時代の先をいってるというイメージがありますが、さすがに創設まもないころは内部で偏見や差別的措置もあったようです。加えて当時はキング牧師の活動が注目を集めていたこともあり、黒人と白人の間で緊張が高まっていたことも彼女らを脅かします。そうした逆風にあってもキャサリンたちが妥協することなく、自分の道を邁進する姿は実にすがすがしい。二重の差別を乗り越えてしかも3人とも現役のお母さんだったりしますからね。逆に子供たちがいることが彼女らを強くしたのかな…なんてことも思いました。
あとそういう時代においても人種・性別に囚われず人を尊敬できる者たちもいる、ということも慰められます。ケビン・コスナー演じるキャサリンの上司や、グレン宇宙飛行士、マハーシャラ・アリ演じるキャサリンの恋人などがそうでした。余談ですがマハーシャラさんはドラマ『ルーク・ケイジ』のすぐに切れるギャングの役が強烈だったため、いつDVを振るいだすかと、とてもハラハラさせられました(大丈夫でした)。

『ズートピア』でも言われてましたが、「わたしは差別してない」と思ってる人間でもそれなりに差別意識はあるもの。だからこそ、余計気をつけてそういう意識をなくしていかねばならない。この映画はそういうことに気づかせてもくれます。わたし自身も以前はこの映画の一部の男たちのように、「女子は機械や科学が苦手」と漠然と思っていたことがありました。その誤解をただしてくれたのは『魁!! クロマティ高校』に出てくるロボット番長メカ沢君です。彼の言葉を引用すると「女が機会に苦手というのは偏見にすぎない。現に携帯が流行ってから女たちはバンバンメールやその他の機能を使いこなしてるだろ」とのことです。『ドリーム』を観ていてそんな真理を思い出しました。つか、計算や機械が苦手なのは自分の方だった…

wikiの項目を見ると史実と映画とではちょこちょこ異なるようですが、当時こういう闘いは全米のいたるところにあったものと思われます。そういうのを集約してわかりやすくことの本質をあらわしたってことなんでないでしょうかね。杉田玄白の『蘭学事始』でも『解体新書』翻訳の苦労を表した「フルヘッヘンド」という語のエピソードがありますが、実際に『解体新書』にその文章はないそうですし。

あとこの映画、邦題を巡るあれやこれやで騒がれたりもしました。最初に発表されたのはもちろん原題の『ヒドゥン・フィギュア』ではなく『ドリーム わたしたちのアポロ計画』というものでした。ところがアポロ計画に関しては最後にちょっと触れられるだけで、実際はマーキュリー計画がメインの作品なのでSNS等で非難が殺到。ついには副題が外れてただの『ドリーム』になってしまいました。
わたしとしては洋画不振のこのごろにあって、有名な「アポロ計画」を使って親しみをもたせようとした意図もわかるんですよね。アポロもまるっきり無関係というわけではないし。むしろ『ドリーム』だけじゃ何の映画かさっぱりわからないと思います。
邦題もほんと難しいですよね。原題そのままだと一般の人には意味不明なことも多い。だからといって直接関係ない語やダジャレを使って客を集めようとすると非難をあびる。わりと最近よく聞くのは「○○と○○の○○を○○」みたいな「の」や「と」が入った長めのタイトル・副題。確かにこれなら内容をわかりやすく伝えられるかもしれませんが、どうもオシャレじゃありません。
自分はその方がよいのであれば日本独自のタイトルをつけちゃってもいいと思ってます。ただその場合は的外れじゃない、短いながらも作品をよく表した題をつけてほしいな、と。でもって広く一般の人の興味を引きそうな題…となるとやっぱり相当難しいですね… なにはともあれ配給会社の皆さんがんばってください。

Drm2わかりやすく力強いテーマがあり、教養も身につき、しかもスカッとする『ドリーム』。大勢の人に自信を持ってすすめられる映画です。タイトルが意外と功を奏したのか?公開館が少ないながらもまずまずの成績をおさめております。あともう二週くらいはやってるのでは。


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October 23, 2017

アダムはバス・ドライバー ジム・ジャームッシュ 『パターソン』

Ptsn1一筋縄ではいかないシュールな作風で根強い人気を誇るジム・ジャームッシュ監督。以前BS系で初期の2作『パーマネント・バケーション』と『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観たのですが、淡々としすぎていて正直よくわかりませんでした。そんな苦手意識を持っていたのに心安らぐ予告編につられて、先日新作を観てまいりました。『パターソン』、ご紹介します。

北米の一都市パターソンに住むパターソンさんは、平凡なバス運転手。彼の愛するものは白黒にこだわる妻、ペットのブルドッグ、詩を読むことと作ること、マッチ箱の収集、夜の散歩のついでにいきつけのバーでひっかけること… 映画はそんなパターソンのある一週間を追う。そして彼の前にはなぜか双子がよく現れる。

というわけで今回もわかりやすい起承転結のある作品ではないのですが、ずいぶんとっつきやすく感じられたから不思議です。それはたぶん穏やかで上手に日常を楽しむパターソン氏が、とても親しみやすい造形だったから。演じるのは『スター・ウォーズ』のカイロ・レンが記憶に新しいアダム・ドライバー。正直あちらの絶えずイライラしてるキャラより、こちらの何があっても決して怒らない仏のような役の方がよほど合っていると思いました。パターソンさんは普通に行動してるだけなのに、彼も周囲の人もどことなくユーモラス。こういう静かでちょっと変わった雰囲気、荻上直子監督の『めがね食堂』とも似ています。

パターソン氏が特に熱中しているのが詩作。ひとつのマッチ箱に関して様々な表現でもってえんえんと語っていたりします。こんなにマッチにこだわった映画といったら他には『不思議惑星・キン・ザ・ザ』くらいしか知りません。その詩が美しいものかどうかわたしにはちょっとわかりかねる(文芸学科卒なのに…)のですが、ありふれた直方体についてこれだけ文章をつむげるのだから、それはやっぱりひとつの才能なのでは…という気がします。どうも日本でポエムというと、気取ったり気恥ずかしかったりするイメージが先行してしまいますが、こういう肩の力の抜けた自然体の詩はなかなかいいものだな~と思いました。

パターソン氏が街中ですれ違ったり歓談したりする人も人種、年齢が様々ながら、詩を愛する人が多く、同じ趣味について楽しそうに語らっているシーンを見てるとなごみます。

あとこの映画で特に目を惹くのが、ブルドッグのネリーさんは昨年のカンヌ映画祭でパルムドッグを受賞したほどの演技派。特に奇抜なことをしているわけではないのに、醸し出す存在感はなかなかのものです。残念ながらネリーさんは映画完成直後に亡くなってしまい、自身のの受賞について知ることはなかったそうで。…いや、生きてても知ることはなかったかな。「なんか褒められてるな」くらいは感じたかもしれませんが。

余談ですが最近はまっている漫画に『ハンチョウ』という作品があります。ギャンブル漫画『カイジ』のスピンオフなのですが、これまたいい年のおっさんがごく限られた一日を、それほど大金をかけずにどこまで楽しめるか…ということに挑んだ内容。こちらもおすすめです。『パターソン』と比べるといささか即物的というか、食欲中心ですが。

Ptsn2『パターソン』は地方ではまだこれからかかるところも多い模様。ドライバーさんは年内に強盗と闇落ちジェダイの役で2本の新作が待機しております。うーん、無理してないかい?


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October 18, 2017

烈轟忍法帖 チャーリー・ビーン 『レゴ・ニンジャゴー・ザ・ムービー』

Lng11『レゴRムービー』『レゴバットマン・ザ・ムービー』と連続して傑作を世に送り出したレゴ映画シリーズ。しかし第3弾のこれはどうなんだ…?と心配しながら観に行ったのですが、全くの杞憂でありました。今回もめちゃくちゃ面白い! そんな『レゴ・ニンジャゴー・ザ・ムービー』ご紹介します。

そこは香港と西海岸を足して割ったような街、ニンジャゴーシティ。豊かな自然に囲まれたにぎやかな都市だが、ひとつ難点があるとすると、それは定期的に悪の魔王ガ―マドンが侵攻してきてなんでもかんでもぶっ壊していくこと。幸い街には守り手たる正義のニンジャたちがおり、ガ―マドンは毎回彼らに敗北しては去っていく。ニンジャたちを人々は称賛するが、実はリーダーのグリーンニンジャはガ―マドンの息子であり、父親が悪者であることに人知れず悩んでいた。

ちなみに同名のTVシリーズがすでに数シーズン放映されていますが、そちらとは設定の異なるパラレルワールドの関係だということ。それでは面白い点を片っ端からあげていきましょう。

①最初に目を引くのはやっぱり主人公のロイドが駆るドラゴン型ビーグル(上画像参照)。ダイレンジャーの龍星王とか好きだったんでこいつはたまりませんわ… 他のメンバーのビーグルも正統派からヘンテコなものまで個性派ぞろいです。

②主人公のロイドことグリーンニンジャ。お父さんが悪の帝王であるがゆえに学校ではハブにされてるという泣けるけど笑える設定。ただ現実にも親父が町内きっての問題児で家族が肩身の狭い思いをしてる…という例はあると思います。他のメンバーがきらびやかな属性を持ってるのに彼には特にそういうのがない、というのも泣けます

③悪の帝王ガ-マドン。CVが山寺宏一さんのため闇落ちしたレゴバットマンに見えて仕方ない。4本ある腕で色々変わった芸を見せてくれます。あと最近の流行に合わせてかサメ型のメカがお好きみたい

④ガ-マドンの持つ「最終兵器」。その威力はこちらの予想の遥か斜め上を行く。レゴ風の核弾頭のようにも見えるが…(下画像参照)

⑤メンバーの中でとりわけ異彩を放つのがホワイトニンジャ。R・田中一郎のような天然っぽい発言が目立つが、実はその正体はロボ。機械らしい薄情な一面もあり。

⑥ジャッキー・チェン。どこまでもいつも通りのジャッキー・チェン。

⑦ガ-マドン配下のなぜか魚介系で統一されてる将軍たち。いらんことを言っては豪快に粛清されていく様子が哀れであり、おかしくもあり。

⑧キラキラこまごましてて抒情性あふれるニンジャゴーシティの風景。前二作とはまた違った味わいがあります。

…とまあざっとあげただけでこんだけ魅力あふれる要素があります。すごいでしょう。
そしてどこまで作り手が意識してるかわかりませんが、レゴムービー、レゴバットマンと共通するテーマも幾つかあります。

ひとつめは孤独や疎外感。主人公は一見楽しくやっているようで、心に満たされない空洞を抱えていたりします。

ふたつめは親子の絆の話であるということ。『レゴ・ニンジャゴー』は特にそれが強調された作品でありました。

みっつめは悪者への深い愛情と理解。どうしてこのシリーズは悪者にこんなに優しいのか。嫌われ者を排除するのではなく、温かく迎えてあげよう!という点でこの上ない教育映画だと思います。

あと山寺宏一。もうミスターレゴムービーといっても過言ではないと思います。

Lng4これほどまでに面白くて感動する『レゴ・ニンジャゴー・ザ・ムービー』ですが、日本ではやっぱり大爆死してますcryingcryingcrying 一般の方々が「なぜレゴをわざわざ映画館で見ねばならんのだ?」という気持ちもわかります。でもどうか、だまされたと思って観てほしい… こんな調子だといよいよ次の『レゴRムービー2』は日本ではDVDスルーになってしまうかも。そうならないために、焼け石に水とわかっていても自分はこの映画を必死に応援し続けます。
『レゴ・ニンジャゴー・ザ・ムービー』は一応まだ全国の映画館で上映中。タイムリミットはあと10日か… 少しでも興味を持たれた方、猫・レゴ・ジャッキー・チェン、いずれかが好きな人はぜひごらんください!


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October 17, 2017

素晴らしきかな、犬生 ラッセ・ハルストレム 『僕のワンダフル・ライフ』

Bwl1「犬好きは感涙必至!」と評判のこの映画。果たして猫好きのわたしが観ても泣けるのか… そんな実験精神とともに鑑賞いたしました。『僕のワンダフル・ライフ』、ご紹介します。原題は『A Dog's Purpose(犬の目的)』。

彼は犬としてこの世に生を受ける。最初の犬生はごく短い儚いものだったが、生まれ変わった二度目の犬生で、彼はイーサンという少年と運命的な出会いを果たし、「ベイリー」と名付けられる。その後もベイリーは転生を繰り返し、様々な犬種で色々な人とふれあっていく。

前から思ってたんですけど、猫に比べて犬って本当に形がバラバラですよね。大きいのから小さいのまで、もじゃもじゃしたのからツルツルしたのまで。ハイレベルな愛犬家は犬ならばやっぱり全種類いとおしいのでしょうか? 個人的には柴犬が一番かわいいと思うんですけど、それはさておき。

犬が何度も生まれ変わっていく… こういう発想、米映画では珍しいですよね。転生というのは東洋的というか仏教的な思想なので。そういえば『百万回生きた猫』なんて絵本もありましたな。昨年の『TOO YOUNG TO DIE!』ともちょっとアイデアがかぶってます。
あれは『グーグーだって猫である』のセリフだったかな。ペットを飼ったことのある人はわかると思うんですけど、小動物というのは人間より寿命が短いので「いつの間にかこちらの年を追い越していく」んですよね。飼い始めた時は赤ちゃんだったのに、気が付けば飼い主より年老いている。その時間のずれが不思議であり、悲しくもあります。自分も少し前に猫を看取ったばかりだったので、この映画を観ていて改めてそのことを強く感じました。

ベイリー君(CV高木渉)があまりにもよくしゃべるんでちょっと感動をそがれたかな、というところはありますが、そう言いつつもポリスメンとコンビを組むあたりはけっこうやられました。ずっとワンコに厳しく接してた彼が、別れの際に初めて見せる想いとかね… ああいうのにおじさんは弱いのです。
あと犬猫っていうのは苦しくても人間みたいに愚痴こぼしたりぎゃあぎゃあ泣きわめいたりしないんですよね。辛そうな顔でただじーっと耐えてる。その辺はよく描けてましたが、かえって胸が痛んだりして。

監督はスウェーデンの名匠、ラッセ・ハルストレム。わたしはこの人の『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』という作品がとても好きでして。実はこの映画を観に行ったのは邦題がそれと似というてたから、という理由もあります。『マイライフ~』の方は実はあんまり犬は出てこなくて、親と離れて暮らす少年の田舎での日々をほのぼのとつづった作品。これが特にどこがどういいとかは説明しづらいんですが… いいんですよ! 気になった方はDVDでご覧ください。HDマスター版他がアマゾン等で入手できます。

Photo『僕のワンダフル・ライフ』は、犬好きの人たちの支持を集めてかわが国でもなかなかのヒットを飛ばしております。こういう地味な洋画が売れてくれるのはなんか嬉しいですね。
猫好きとしては遅れてかかる『ボブという名の猫』も楽しみにしております。


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October 16, 2017

マイルズ・テラーは参らない ベン・ヤンガー 『ビニー/信じる男』

Bso1ボクシング映画にはずれなし…とまでは言いませんが、名作が高確率で多いのも確か。今日とりあげるのもそのうちの1本です。『セッション』のマイルズ・テラーが主演を務める『ビニー/信じる男』、ご紹介いたします。原題は『Bleed for This(このために血を流す)』です。

「実話をもとにした物語」。80年代後半。すでにデビューから数年を経ているスーパーライト級のボクサー、ビニー・パジェンサはタイトルマッチで敗退。プロモーターから引退を勧められる。納得のいかないパジェンサは新たなコーチ・ケビンの指導のもと奮起し、二階級あげて見事な戦果を収める。順風満帆かに思えたその矢先、ビニーは突然の事故に見舞われる…

見てて思ったんですよね。開始30分くらいのところでもう人生逆転に成功してる。いくらなんでもはやすぎでしょ、残りの1時間半くらいどうすんの…とか考えてたらやっぱりとんでもないアクシデントが待っていました。

この事故によりパジェンサはボクサーとしてはもちろん、普通の生活すらおぼつかなくなります。回復を確実にするには脊椎固定手術というものがベストなのですが、それを受けるとボクサー人生は確実に終了(というかどう考えてももうボクシングなんかできなさそうなんですけど…)。 で、パジェンサが選んだのが「ハロー」というものを装着する療法。わたしの画力でわかっていただけるとありがたいのですが、上画像のように肩に金属のやぐらのようなものを取り付けるわけです。これを半年間つけっぱなしなので当然何をするにも不自由が付きまとう。さらに頭にボルトが刺さってるので、麻酔なしで抜くと想像を絶する激痛がともないます。だのに「神経を鈍らせたくない」と拷問のような痛みに耐えるビニー。なしてそこまでして… と思わずにはいられません。

正直序盤のパジェンサはそこまで堪え性のある人物には見えないんですよね。減量には苦労してるしギャンブル好きだし、ボクサーには厳禁の試合前のエッチまでやらかしてる。ところが誰もが「あきらめろ」という状態になっても、彼だけは復帰を決してあきらめない。異常なまでのストイックさでもってあらゆる苦労を乗り越えていきます。とはいえ果たして一度壊れかけた脊髄でまたリングに上がれるのか? そこは実話なんで「ビニー・パジェンサ」で検索すればすぐわかります。

自分も『はじめの一歩』とか愛読してたのでボクシングのことはとりあえず上っ面くらいは知ってますが、この話のことは知りませんでした。これけっこう当時アメリカでも話題になったと思うんですけどマイク・タイソンやジョージ・フォアマンのことはともかく、彼のことまでは耳に入ってこなかったなあ。これほどに「小説よりも奇なり」な事実も珍しいと思うんですけどねえ。不思議ですねえ。

それにしてもマイルズ・テラーは『セッション』に続いてこちらでも交通事故にあっていて、本当に車には気をつけてほしいものです。対照的に今回はお師匠さんには恵まれています。暗い過去やアルコール依存症を抱えながら、ビニーをずっと支え続けるケビン。丹下段平や鴨川会長にも匹敵するその献身ぶりには男涙を誘われました。

なんかもうラストシーンまでばらしちゃいますけど、ビニーがインタビューで語っていた言葉が印象に残っています。「みんなそう簡単じゃないと言うけれど、大切なことはいつだってシンプルなんだ」と。地獄の底から這い上がってきた男が言うからこそ、重みと説得力があります。

Bso2『ビニー/信じる男』はうちでは遅れて公開されてたのでもう2、3館くらいしか予定が残ってないですね… 興味を抱かれた方は来年1月にDVDが出るのでそれまでお待ちください。つか、もう来年ももうすぐそこですね…

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October 13, 2017

ハリー・ポッターと死の放屁 ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート 『スイス・アーミー・マン』

Sam1毎週毎週映画を観てるとたまーにとんでもなくヘンテコな作品に出くわすことがあります。本日は今年のヘンテコ映画の中でもベスト3に入る1本、『スイス・アーミー・マン』をご紹介します。

船の事故で無人島に流れ着いた青年ハンクは、孤独と飢えからいままさに死のうとしていた。だが首に縄をかけようとした瞬間、流れ着いた男の死体が目に止まる。絶え間なくオナラを噴出するその死体をジェットボートのように利用して、島を脱出するハンク。それ以後も彼を様々な仕方で利用して、ハンクはなんとか故郷へ戻ろうと奮闘する。

最初にあらすじをちらっと聞いたとき、『キャストアウェイ』のバレーボールが死体に変わったような話かと思いましたが、ハンクが島を脱出するのはわりとすぐでした。そのあとがむしろ本番と言えます。
タイトルはスイス特製の十徳ナイフから来ています。まるでいろんな用途に使える多機能ツールのような男、ということですね。死んでますけど。
さらにナイフでもボールでもなく人間の形をしているので、さびしさをまぎわらすのにももってこい(人によっては不気味に感じるでしょうが…) ところがそのうちテレパシーのような形で本当に意思を通わせてくるので、正直ひきます。死体を演じるのはご存知ダニエル・ラドクリフ。元ハリー・ポッターゆえ死してなお意識を保つことができるのか、それとも青年(ポール・ダノ)の孤独が呼び込んだ妄想なのか。シュバンクマイエルによくありますけど、この辺を上手にぼやかしてあるところがにくいですね。

そういえばラドクリフ君の姿を映画館で観るのはそれこそハリー・ポッター以来。ハーマイオニーことエマ・ワトソンが『美女と野獣』で変わらずスター街道を歩んでいるのに対し、ダニエル君は実在のゲイ文学者やフランケンシュタインの助手、推理すると角が生えてくる青年ととんがった役が続いています。そして今度は「意思を持つ多機能死体」と来ました。もう一生働かなくてもいいくらいの財産を稼いでしまったようなので、それこそ遊びで面白そうな役だけ選んでやってるのかもしれません。

楽しかったのは森を探検する途中で二人が映画ごっこに興じるあたりですかね。君たち極限状況じゃないのかね…というツッコミはおいといて、手作りの小道具で名作を再現するあたりは『僕らのミライへ逆回転』とか『リトル・ランボーズ』などを思い出させます。なかでもハンクがひいきにしているのが『ジュラシック・パーク』。そんなにもジュラパを引用するのには何か深い意味でもあるのだろうか…と思いましたが、わかりませんでした。普通にないのかもしれません。

一方でハンクの相棒がなぜ「死体」なのかというのはわかる気がします。不器用だけどさびしがり屋の人が物言わぬ人形に親しみを抱いたり、慰めを求めたり…という話は時々ありますよね。『空気人形』とか『ラ―スと、その彼女』とか。わたしも人一倍繊細で愛情に飢えた人間なので彼らの気持ちが大変よくわかります。あとでアマゾンで探してこようかしら… あ、ラブドールじゃないですよ? あれは高そうですし… 話が横道にしれましたが、結局無人島に行こうと大都会にいようと孤独な人は孤独なのです。でもそれを皮肉っぽくも温かくあほらしく描いている点に好感がもてました。
特に「これアホだわw」と思ったのはやはりダニエル君がぶっぱなし続けるオナラ。本当に映画の半分くらいはオナラの音が鳴り響いてるんじゃないかという。西洋の人はゲップよりはオナラに寛容と聞きましたが、それでもさすがにここまでやられたら閉口するのではないでしょうか。ともかく映画史上かつてないほどのオナラムービーでありました。オナラ関連でいうと『サンダーパンツ!』という作品もすごいらしいですが、そちらは未鑑賞です。

20170923_141514『スイス・アーミー・マン』はそろそろ終わる劇場もあれば、これから始まるところもあり。くわしくは公式サイトをご覧ください。


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