June 20, 2017

やさしさに包まれたならきっと目に映るすべてのものは テッド・チャン ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『メッセージ』

10c3195fおお、これはまだ辛うじて公開中。新作を発表するごとに注目を浴びている俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴが今回挑んだのは、なんとびっくりの宇宙人SF。『メッセージ(原題はArrival)』ご紹介します。

突如として世界各地に現れた巨大な「ばかうけ」状の物体。それははるか宇宙よりやってきた異星人の艦であった。各国はそれぞれ異星人「ヘプタポッド」との更新を試みるが、言語体系がまるで異なるために苦戦を強いられる。アメリカの言語学者ルイーズはあきらめずに様々な方法を試みた結果、少しずつ彼らとコミュニケーションを図れるようになる。しかしその最中ヘプタポッドが発したある言葉が、世界に緊張をまねくことに。

原作はテッド・チャンの著した短編『あなたの人生の物語』。普通SF映画で宇宙人がでかい船でやってくれば、目的は侵略と相場が決まっています。ところがこの映画のヘプタポッドは意外にもどうもそれが目的ではないらしい… というか何を考えてるのかよくわからない。前半はその謎を根気よく紐解こうとするお話なので、非常にまったりのんびり進んでいきます。
意外なことといえばヴィルヌーヴ作品はこれまで『灼熱の魂』『プリズナーズ』『ボーダーライン』と観てきましたが、社会派でえぐいテーマを手掛けてこられたドゥニさんが、こんなぶっとんでいて優しい映画を作り上げたことに驚きました。サド描写をいれなきゃ気が済まない人なのかと思ってましたが、やればできるじゃん!という感じです。
逆にミステリー的な謎を追う展開や、意表を突く真相を用意している点ではこれまでのドゥニさんと一緒でした。

あと落ち着いた絵画のようなビジュアルが幾つか目立つのですが、わたしにはドゥニさんのお気に入りの美術コレクションを色々見させられてるような気がしました。まず宇宙船が宙に浮いているシーンはばかうけというよりマグリッドの『ピレネーの城』(下画像参照)によく似ています。その宇宙船が駐留している美しい草原はミレーの風景画を彷彿とさせますし、ヘプタポッドがブシュッと描く文字は水墨画か書のような趣があります。かと思えば子供が美術の時間に描くかわいらしい絵も登場します。眺めていて楽しいけれど、なんとも脈絡のないコレクションであります。

イカ、本格的に結末までネタバレで。
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わたくしがこの映画を特に評価するのはふたつ。まずひとつは原作に負うところが大きいのかもしれませんが、オチが非常に独特。いろいろ飽きもせず映画を観てますが、こういう○○の○○かと思っていたものが実は○○の○○だったというオチは初めて観ました。しかもただ驚かせるだけでなく、同時に感動もさせる。こういうのかなり至難の業だと思うのですよ。
もうひとつは「人生は結末がすべてではない」ということを訴えている点。とかく人は結末とか最後を重視しがちなものですが、たとえばずっと幸せな人生を送っていた人が、悲惨な死に方をしたら、その人の一生は不幸なことになってしまうのでしょうか? わたしはそうではないと思うのです。それ以前の豊かな生涯が結末だけですべて否定されてしまったら、こんなに理不尽なことはないなあと。だからこの映画のヘプタポッド的な見方というか、始まりも終わりも中間もすべてひっくるめて等しい価値があるという考えは、非常に心地よいものでありました。うう~~~ん、もっとうまく言えたらよいのですが。

1476268557そんな『メッセージ』ですが、おおむね次の金曜で上映終了するようです。あと3日! 興味ありつつも観そびれてひとはがんばって映画館に行ってください。
そしてドゥニさんの次回作はこれまた驚くべきことに、あの『ブレードランナー』の続編。いったいどんな風に仕上がるのか想像もつきません。10月末の公開をおっかなびっくり楽しみにしています。

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June 19, 2017

23人くらいのジェームズ・マカヴォイ ナイト・M・シャマラン 『スプリット』

S06これまたもう公開終了してますね… ここんとこ調子が戻りつつある業界きってのヘンテコ監督ナイト・M・シャマラン。その最新作はあのベストセラーを彷彿とさせるサイコスリラーであります。『スプリット』、紹介いたします。

女子高生のケイシ―はクラスメイトの誕生会の帰り、友人共々謎の男に拉致監禁されてしまう。意識を取り戻したケイシーたちは、再度現れた男の物腰や振る舞いが一変しているのに驚く。男は23もの人格を持つ多重人格者だったのだ…

わたくしのツイッターのタイムラインで最も愛されてる映画監督というと、やはりナイト・M・シャマランではなかろうかと思います。本当にシャマランの新作が公開されると皆さん内容はどうあれお祭りのように騒ぎ、はしゃいでます。それはシャマランの作品が一見よくあるジャンルムービーのようでありながら、彼にしか作れない実にヘンテコな映画ばかりだからでは…と思っています。この『スプリット』も確かにサイコスリラー風でありながら、どこか変というかお笑い風。さっきまでコワモテだった男がそのまんまの顔で急にオネエ言葉になったり、小学生のようにふるまいだしたりするのですから、ヒロインたちでなくても「それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」とツッコミたくなるであります。前作『ヴィジット』もそんな感じでありました。かと思えば突然緊張感みなぎるシーンもあったりする。最後までギャグでいくのか? それともちゃんとスリラーになるのか? そんなところでハラハラしながらスクリーンに見入っておりました。

で、この映画のキモとなるジェームズ・マカヴォイ氏。23人もの人格を演じなければいけないから大変です。まあ実際登場したのは8人格くらいだったのですが… それだって器用な人でなければできない役であります。役者さんには大体いつも同じ役柄のタイプと、カメレオン的に色々演じられるタイプにわけられると思います。マカヴォイ君は芸達者そうではありますが、そんなに幅は広くないというか、大体育ちのいいお坊ちゃん役か、クズの役がほとんどのような。ですから今回は彼にとってチャレンジとも言えるキャラだったのでは。少々コント風ではありましたが、落ち着かないせわしい役をまずまずがんばっていたと思います。

さて、こっからはラストまでネタバレでありんすが。

gemini
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この映画、サイコキラーと少女が戦う映画でありながら、最後はサイコキラーが少女の魂を結果的に救済する話でもあるのです。この辺実にシャマランらしいヘンテコさでありました。そしてすでに世界で発表されてしまいましたが、『スプリット』は実はあのシャマラン初期の名作『アンブレイカブル』と同じ世界の話であることが明らかにされました。『アンブレイカブル』がいびつなヒーローの誕生話だとすれば、『スプリット』は風変わりなヴィランのオリジン・ストーリーということができます。そして両者は2019年の『グラス』で激突することになっています。本当にオラ、ワクワクしてきたぞ!って感じです。
『アンブレイカブル』は予備知識を入れないで観に行ったら、アメコミにがっつり絡んだ作品だったので当時大変驚いたのを覚えています。シャマランさん、あんた実はこっち側の人だったのか…と大変うれしくなったものでした。しかしその後シャマラン作品にアメコミ要素が現れることはほとんどなく、自分もそのことをすっかり忘れておりました。ですが最近のアメコミ映画ブームを眺めているうちに、シャマランのそっちの愛情に火がついてしまったんでしょうね。俺もアメコミが、ヒーローとヴィランの対決が、クロスオ-バーする世界が作りたい!と。彼がやるならば絶対直球ではない、ヘンテコなアメコミ「風」映画になるかとは思いますが。

41zpkbcau4lそれにしても17年前の続編も作られてない映画をいきなり新作と結びつけるとは、シャーミンも大胆なことをなさいます。彼をずっと追いかけて来た人なら狂喜乱舞することでしょうけど、ほとんどの人はポカーンだったのでは。本当にあの当時アメコミ映画が絶滅しかけていて泣いていたファンのためのご褒美のような企画です。幸いにも『スプリット』は低予算が功を奏してすでにけっこうな黒字を計上しているので、よっぽどのことがないかぎり『グラス』は実現するでしょう。というかいい加減映画会社も、彼はお金あげない方がいいものを作るということに気付いたようですね… 果たしてシャマラン・ユニバースはそこからさらなる広がりを見せるのか? 『グラス』は2019年1月に全米公開予定です。

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June 15, 2017

父性からの物体X ジェームズ・ガン 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』

20170610_200126快進撃を続けるマーベル・シネマティック・ユニバース。その最新作では宇宙を駆けるあのはみ出しものたちの活躍が再び描かれます。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー/リミックス(原題はVol.2)』、ご紹介します。1作目の感想はコチラ

クリーの武人ロナンから惑星ザンダーを守りきったガーディアンズ・オブ・ギャラクシー。その腕を見こまれて惑星ソブリンから発電所の警護を依頼される。ところがチームの1員のロケットが高価な電池をちょろましたため、ガーディアンズは彼らから追われる身に。絶体絶命のその時、彼らはエゴという謎の男に救われる。エゴはスターロードことピーターに、自分が父親であると告げるのだが。

1作目ははみ出しものたちがドタバタ暴れまわってるうちに、いつの間にか家族になってしまった話でありました。それに対して今回はその即席家族をなんとかして維持していく話であります。家族とはいいながら(家族だから?)彼らは本当によく喧嘩をします。まあ言いたいことも我慢してストレスをためこんでいくよりは、喧嘩になっても正直に本音をぶつけあったほうが家族としては健全なのかな? その喧嘩が時々シャレにならないレベルになってしまうこともあるわけですけど。

さて、こっからは本格的にネタバレで。

今回の「リミックス」はガン監督の「神様観」が見え隠れする作品でもありました。キーキャラクターでスターロードの父でもある「エゴ」は、星を創造し宇宙をも支配できるほんまもんの神様であります。ただここでは一般に信じられてるように神様は慈愛深い方ではなく、そこからかけ離れた独善的で利己的な者のように描かれています。ここで思い出すのは二つ前にガン監督が撮った『スーパー!』。あちらは神の啓示を受けた(と思い込んだ?)男が自分なりの正義を実行していく話でしたが、その正義というのが明らかにやりすぎで狂気じみたものだったりして。そして正義を懸命に代行した主人公に、神様はなんの報酬も与えてくれません。
かようにガン監督は神様は信じた自分を裏切った、自分勝手な存在と感じているようです。素っ頓狂でバカばかしい作風が持ち味のようで、時折そんな傷つきやすい少年のような人柄が作品から伝わります。

で、神様の代わりに彼が惜しみない愛情を注いでいるのが家族であり仲間たちであります。ことに『リミックス』においてはメジャーな監督作品第1作『スリザー』からずっとつきあってくれてる、ヨンドゥ役のマイケル・ルーカーへの愛情が大爆発しておりました。全身青色のヘンテコモヒカンの凶状持ちが、この映画ではめちゃくちゃ親しみ深く、愛すべき野郎としてわたしたちを魅了します。そのチャーミング力は公開日ガーディアンズの正規の面々を押しのけて、「ヨンドゥ」がツイッターのトレンド上位にあがったことからもよくわかります。
ガン監督の家族愛がもう一人よく表れているのが、実弟のショーン・ガン演じるクラグリン。「弟をこんなに目立たせて身びいきかよ!」とも思いますが、このガン弟、お兄ちゃんのひいき?に十二分に答えていて、本当に申し分ない働きを見せておりました。決して主役にはなれないタイプという気はしましますが、その異相といい妙におどおどした雰囲気といい、実に面白そうな役者さんであります。これからもいろんな作品での活躍を期待するものであります。

そんな家族愛がビンビンにみなぎりすぎて、終盤等はちょっと浪花節的なムードまでただよい始めました。この辺のベタベタなセンスはとても日本的でさえあります。ちょいと「泣かせ」がくどいと感じる方もおられましょうが、年で涙腺と鼻が弱くなっているわたしはダラダラと泣きました。二回目は鼻水が滝のように吹き出ました。終盤以外でもマンティスが泣き崩れてる横で微笑してるドラックスおじさんや、「(普通の人間に戻ることの)何が悪い」と毅然と言い放つピーター、あと彼が力に目覚める直前に仲間たちを思い出すシーンにもいちいちやられました。ガンさんったら本当ににくらしい人… 

もちろん1作目の特徴であったノリノリのややマイナーな名曲、アホくさい宇宙人の習性、小気味よいギャグセリフの連打、80年代サブカルネタなども健在です。中学生時代クラスの男子がナイトライダー派とエアーウルフ派に別れていたことなど懐かしく思い出しました(少数ながら「特攻野郎Aチーム派」もいました)。

世界では予想通りの爆ヒットを記録した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』。たしかMCUの中でもベスト5に食い込んだとか。当然ながら第3作の製作も早々と決まりました。おそらく次は家族の別れを描く内容となるという噂。そんなのいやでちゅ!! バカ!! まあその前にお祭り映画である『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』への登場が予定されています。ガーディアンズの面々がアイアンマンやスパイダーマンと共闘するかと思うと胸バクバクです。
20170610_20013620170206_130356余談ですがこのブログにも時々登場してた猫のモン吉先生、一か月ほど前に安らかに亡くなりました。メインクーンという種類だったこともあって、スクリーンで活躍するロケットがなんだかモン吉に見えてしょうがありませんでした。ううう…

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June 13, 2017

スマップ×スプラッタ 沙村広明 三池崇史 『無限の住人』

Mgjn1はい、またしても公開終わってます… 沙村広明氏の人気コミックを、最近漫画実写化のプロフェッショナルみたくなってる三池崇史監督がキムタクを主演に据えて映画化。『無限の住人』、ご紹介します。 

たぶん江戸時代中期過ぎ。とある道場の娘・浅野凜は、名を上げるために各流派を潰して回っている剣客集団「逸刀流」に父を殺され、母を拉致されてしまう。仇をとるために用心棒を探していた凜の前に、謎の尼僧が現れてこう告げる。「江戸のはずれに決して死なない男がいる。そいつを見つけ出せ」と…

原作は未読であります。とりあえずまず目をひいたのはモノクロのプロローグ。まだ主人公の万次が普通の人間だったころのエピソードなんですが、この映像が大変美しくかっこいい。できればこのまま全編いってほしかった…のですが21世紀の大衆向け邦画としてそれは許されなかったのでしょう。残念です。

で、本編に入って色が着いてくるとお話はやや現実離れしていきます。ただ現実離れといっても魔界の生き物とかそういうものが出てくるわけではなく、不老不死の要素とか、いかにも漫画的なとんでもね~武芸くらいのものでしょうか。このリアルとトンでものバランスや、奇天烈な武芸者たちのセンスなどは山田風太郎の忍法帖とよく似ております。もしかしたら間接的とはいえこれまでの忍法帖の映像化で最もよく出来た部類の作品かもしれません。確かめたわけではないけれど、きっと原作者の沙村先生はそちらから強い影響を受けているのでは、と推測します。

監督は割りと作品の出来に浮き沈みがはげしい三池監督。いや、すごくアレなところもありましたが、去年の『テラフォーマーズ』とかいろいろ突き抜けててわたし好きなんですけどね。で、今回は監督ご自身が原作の大ファンということで、いつもより気合が入っていたような気がしてなりません。三池作品にありがちなしょうもないギャグとか、ほとんどなかったですしね。邦画の欠点によくあげられるベタな演出も幾つかありましたが、それを補ってあまりあるパワーにあふれていました。

そのパワーの中心となっているのが、意外なことにここんとこゴシップで世間をにぎわせているキムタクこと木村拓哉。どなたかが指摘されていたので注目して見ていたのですが、刀を両腕に持ちながら長時間暴れていてもほとんどスピードが落ちないという。同世代(40前半)として見たら驚異的な身体能力であります。加えて最近の苦労が(笑)いろいろ経験してきた万次というキャラクターに説得力を持たせていたような。ライバルである福士蒼汰君も久々に仮面ライダー仕込の切れのいいアクションを見せてくれました。
本当にねえ、日本にはすごい動きを見せてくれるイケメン俳優がまだまだいると思うのです。ただそうした役者さんはアクション映画よりもラブコメや人情ものに持っていかれることが多いので、せっかくの長所が持ち腐れになっているのではないのかと。ほんでかなしいことにアクションよりもそちらの方が大抵ヒットしてしまうのでますますそういった傾向が進んでしまうという… う~~~ん。なんとかなりませんかねえ。

余談ですがこの映画、現在公開中の『ローガン』と幾つか重なっているところがあり、見比べてみると面白いかと思います。まあこっちは上映終わっちゃってるんだけど~

Mgjn2三池監督の次回作はまたしても漫画実写化の『ジョジョの奇妙な冒険』第4部。危ぶんでいる声もよく聞きますが、予告を見た感じでは悪くなかったので自分は期待しております。


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June 12, 2017

ボーイ・ミーツ・ファムファガール エドワード・ヤン 『クーリンチェ少年殺人事件』

Krssまた間が空いてしまいました… そしてゴールデンウィークに観た映画の感想を今頃書いてます… 本日紹介しますのは早逝した巨匠エドワード・ヤン監督の伝説的作品『クーリンチェ(牯嶺街)少年殺人事件』であります。今回デジタル・リマスター版が作られたということで多くの劇場で再上映されることになりました。ではまずあらすじから。

1950年代末期の台湾。あまり風紀のよくない夜間クラスに通う十代の少年・小四は、不良たちのリーダー・ハニーの恋人だった小明と親しくなる。対立するグループとの抗争、ハニーの帰還、スパイ容疑をかけられた父の拘留、そして小明との擦れ違いなどを経て、平凡だった小四の心にはいつしか深い闇が根を下ろしていく…

作品が発表されたのは1991年。自分はまだ高校生でしたかね。都会ではおそらくミニシアターブームが華やかなころだったかと思います。いわゆる「名画」の中では比較的最近の方…といえるかな。

全編通して特に印象に残ったのはその「暗さ」でしょうか。ストーリーは中盤過ぎまではそんなに暗くはないんですけどね(決して明るくもありませんが…)。だから暗いというのは単に画面・映像についてです。もちろん昼のシーンもそれなりにありますが、とにかく夜のシーンが多い。あと暗がりの中で何がいるのかわからなったり、極端に影に覆われてたりするカットが目立ちました。
この映画はやはり少年の心の闇を描いた作品だと思うのですが、小四の心の激しい部分というのはそう滅多に表れるものではなく。家族への思いやりも、女の子への純粋な愛情も、仲間たちと楽しそうに遊んでる姿も、ごくごく平凡な少年のそれであります。しかしそうした日常の中にちらちらっと鬼気迫る何かが見え隠れしはじめます。そんな小四の危険な部分が影に覆われながらも、少しずつ大きくなっていくあたりがとても居心地悪い反面、スリリングでありました。特に我慢を重ねていた小四がバットで電球をパキンと割ってしまうシーン、いけすかない近所のおじさんに背後から忍び寄るシーンなどはやがて来る凶事を予感させて忘れがたい絵でありました。

闇が濃い、といえば当時の台湾もそうであります。『セデック・バレ』や『KANO』などを観ていたからわかったことですが、50年代といえばまだまだその土地に暴力や戦争の名残が残っていた時代。加えて冒頭でも述べられていましたが、国自体がまだまだ不安定でありました。そんな当時の台湾に漂う不安な空気が、暗めのスクリーンの中にずっと立ち込めていた気がします。

あとこの映画の特色はなんといっても約四時間もあることですね… 「4時間なんてあっという間」という方もいれば、「やっぱりそれなりに長い」という方もおられる。自分も休憩なしでこんだけの尺の映画に臨むのは初めてだったので、ちょっとおっかなびっくりでありました。トイレを我慢できるように3時間くらい前から断ったりしてね…
で、正直なところやっぱりそれなりに長くは感じましたが、不快な長さではなかったし、それだけの時間がこの物語には必要だったと思います。とはいえ上映が終わった後、ほぼ満席の映画館には「おれたち、なんとかやり遂げたよな…」という軽い徒労感も漂っていたような。気のせいでしょうか(笑)

2わたくしは今回の「デジタル・リマスター版」、第一陣が終わった後に川崎のアートセンターというところで観ましたが、まだぽつぽつと名画座等で上映が続いているようです。特に小さい箱ながらユジク阿佐ヶ谷などでは連日満席だとか。この伝説はまだまだ語りつがれていくようです。


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May 31, 2017

ドムと氷の女王 F・ゲイリー・グレイ 『ワイルド・スピード/アイスブレイク』

Photoシリーズ8作目ながらどんどん勢いを増している『ワイルド・スピード』シリーズ。本当にどこまでいくのでしょう。とりあえず本日はその最新作『ワイルド・スピード/アイスブレイク(原題:速さと怒り狂い8つ目)』ご紹介します。1~7作目の内容をまとめた記事はコチラ

自由の身になり、地元に帰り、時間軸ももとに戻り、復讐鬼も返り討ちにしたドムさんファミリー。今度こそ何の悩みのなくハッピーにドライブを楽しめる日々が待っているはずだった。しかし彼らが退けたショウ兄弟の裏にはさらなる黒幕が控えていた。その女サイファーはドムの弱みを握りファミリーを裏切るよう命じる。

今回も世界・日本共に爆ヒットしている本シリーズ。なんとなく我が国の興行収入を調べてみたら 4億→7億→10億→9億→14億→20億→35億といううなぎのぼり具合。ここんとこバイオハとSWくらいしか人気シリーズがない日本の洋画事情からしたら、異例なくらいの出世ぶりです。いったいそんなになにがうけているのか。さっき5秒ほど考えて、それはこのシリーズが最近ますます少年ジャンプ化しているからでは、と思いました。

たとえば『リングにかけろ』でしょうか。あのマンガは最初こそ人間レベルのボクシングをしていましたが、終盤になると主人公たちのパンチがほぼ超能力になってしまい、稲妻を呼んだり、対戦相手を会場の外までふっとばしたりしていました。本シリーズの主人公ドムも1作目ではタンクローリー1台襲うのにも四苦八苦してたのに、最新作では車一台で潜水艦すら破壊しかねない暴れっぷりです。そんな主人公の際限ない強さのインフレぶりがまずジャンプっぽかったです。

あとジャンプの黄金パターンには、どんなに悪いライバルでも一度戦うと友情パワーがめばえて、それまでの罪が帳消しにされ、主人公たちの仲間になってしまうというのがあります。『キン肉マン』『ドラゴンボール』『魁!!男塾』などこうした例はあげるとキリがありません。
『ワイルドスピード』でも最初激しく戦ってたホブス(ロック様)は今作ではドムに「兄弟!」なんて言っちゃってますし、前作であれほど極悪非道だったデッカード(ステイサム)もすんなり共闘モードに移行してしまいます。それでいいのか…とも思いましたが子供をあやしながら悪党どもをバタバタなぎたおすステイサムがあまりにチャーミングだったので見過ごすことにしました。自分もつくづくいい加減な人間だと思います。

さて、この度の『アイスブレイク』のキモはリーダーのドムが本当に裏切ってしまったのか?というところにあります。考えてみればこの男元々は正義とは程遠い強盗集団の一員でありました。ここ2作ばかり世界の危機のためにヒーローしている方が「らしくない」わけであって。また悪役に戻ってしまうことも十分に考えられる。「いやよ! ドム! 帰ってきて! わけがあるなら話してよ!」とすっかりファミリーに感情移入して涙目になってたわたしがいました。まあ実際は裏切ったふりをしてるのが見え見えでそんなには心配してませんでしたけど。ちなみにこれ完結編3部作の第1章ということですが、『アイスブレイク』は『アイスブレイク』でキリよくきちんと終わってくれてありがたかったです。

あとこのシリーズで感心するのはやっぱり車へのこだわりぶりですかね。秘密兵器を強奪するにも敵の本拠地に攻め込むのも飛行機やロボットではなく普通に乗用車です。この辺も少々くらっとする部分ではありますが、わたしの中の(ブラックエンジェルズ)松田さんが「細けえこたいんだよ」と微笑んでるのでここも見過ごすことにします。
Charlizetheronsnowwhiteandthehuntsmそんな『ワイルド・スピード/アイスブレイク』。公開から1ヶ月経った今も普通に上映されていて感服つかまつります。なんだかんだ言って今年上半期は洋画いろいろがんばったのではないかと。最終章の第二弾は2019年、第三弾は2021年に公開予定とのこと。来年のことを言うと鬼が笑うと言いますが、この安定っぷりならきっと大丈夫だと思います。さらなるヒートぶり、エスカレートぶりを期待いたします。


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May 29, 2017

インドアのインド ガース・デイヴィス 」『LION/ライオン 25年目のただいま』

Lion_logoさすがにアカデミー作品賞ノミネート作品もだいぶ公開が進んできました。本日はそのうちの1本である「驚異の実話」『LION/ライオン 25年目のただいま』をご紹介します。

インドのに住む5歳の少年サルウは、兄の仕事を手伝いに行った先でうっかり長距離移動の列車に乗ってしまい、故郷から遠く離れた場所に運ばれてしまう。家に帰る術がわからないサルウは孤児院に引き取られるが、幸い裕福な夫妻に養子と迎えられ成長する。だが彼の頭から実の家族のことが離れたことはなかった。グーグルアースの存在を知ったサルウはそれを使って地道に故郷の風景を探し出そうするが…

『家なき子』『母を訪ねて三千里』『みなしごハッチ』など、親と別れた子供が懸命に会いに行こうとする話はよくあります。ただこちらがそれらと違うのは、まず実話であるということと、本格的に探し始めるのが大人になってから…ということですね。
あとやはりフィクションながら、主演がデープ・パテール君ということもあって『スラムドッグ$ミリオネア』を思い出したりもしました。特に冒頭インドのスラムでサルウがならず者たちにさらわれそうになるところは、『スラムドッグ~』でもほぼ同じくだりがありました。架空の話とはいえ、あれはインドの紛れもない現実でもあったのですねえ。サルウは幸運でしたが、実際インドではそのまま行方知れずになってしまう子が無数にいるそうです。辛い…

さて、この映画を紹介するにあたってよく引き合いに出されてたのがグーグルアース。いまや家に居ながら世界各地の上空を眺められるのですから、昭和生まれとしては「まんずすげえ時代になったっぺ」と思うわけです。恐ろしいほどの技術の進歩であります。ただあらすじなどを読んで、自分はてっきりサイトにアクセスしたら1発で故郷を発見した…という話だと思っていたのですが、実際はそんなに単純にはすまなかったようです。文明の利器があっても5歳のころの断片的な情報しかなければそうやすやすとたどり着けるわけではありません。まして広大で世界第二位の人口を誇るインドですから。やはり世の中パソコンさえあればなんでもすぐ解決…というわけにはいかないようです。

あと特に印象に残ったのが、ニコール・キッドマン演じる養母の愛情の深さ。『幸せの隠れ場所』でも扱われたテーマですが、見ず知らずで人種も違う子供にここまで愛情を注げるということは、到底誰にもできることではありません。というか、できる人はごくごくわずかでしょう。そういう点では彼女はまさしく愛情の天才といえる人だと思います。日頃殺伐としたニュースばかり見ていると、わずかにせよ確かにそういう人がこの世にはいることに深く慰められます。

わたくしこの映画を観る直前、仕事がにつまってたせいか昼食に古いものを食べたせいか、突然蕁麻疹がぶわっと出てしまいまして。疲れたし、翌日も仕事だし、映画やめて静養してよっかな…とも思いました。でもなんか元気を出したくて、蕁麻疹をぼりぼりかきながら車を1時間走らせて観に行ったのですね。正解でした。体のあちこちがかゆかったけど、大変さわやかな気分にさせてもらいました。幸いその後仕事もなんとか片付きましたし。人が元気を引っ張り出す方法はそれぞれでしょうけど、自分はやっぱり映画館にいくことがそうです。まあそういう時はダメージくらいそうな作品をなるべく避ける必要はありますが。

Rah_lionmaru_03『LION/ライオン 25年目のただいま』はまだまだこれから上映されるところもあるようですので気になった方はグーグルで検索してみてください。アカデミー作品賞関連では、あと近いうちに『ムーンライト』『ハクソー・リッジ』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などを観る予定です。『メッセージ』は先日鑑賞したのでそのうちレビュー予定。

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May 23, 2017

東宝っぽい見聞録 チャン・イーモウ 『グレートウォール』

8公開が終わってしまった映画のレビューがまだ続いています… 今回は火星での活躍が記憶に新しいマット・デイモンが、はるか昔の中国で大暴れする『グレートウォール』、ご紹介します。

中国は宋王朝の時代。ヨーロッパから絶大な破壊力を持つ黒色火薬を求めてやってきたウィリアムとバートルは、盗賊から逃れて巨大な長城へと逃げ込む。ひとまず命を永らえたと安心した二人だったが、彼らには予想だにしない危機が待ち受けていた。その長城には恐ろしい怪物の群れがすべてを食い尽くすべく殺到しつつあったのだ…

最初に企画を聞いたとき、「中国の史劇になぜマット・デイモン…」と少なからずひいてしまいました。しかしまあ中国から欧州に火薬が伝わったのは宋のあとの元の時代とされているので、この時代早めに連中がウロチョロしてたとしても不思議ではないかもしれません。そして予告であんなものがじょわじょわ群れをなしているのを見て、歴史の齟齬などどうでもよくなりました(笑) SFモンスターに比べればマットくらいいたってなんの問題もありません。それに製作しているのは怪獣映画の雄、レジェンダリー・ピクチャーズ。ちょっとくらいあれなところがあってもファンとしてはお布施を払わなくてはなりません。

で、感心したのはそのモンスターが「饕餮(とうてつ)」であるということですね。これ、中国の神話に登場する由緒正しい怪物。酒見賢一氏の小説『陋巷にあり』などに登場したりしてます。どうでしょう、この恐ろしくややこしい漢字。字幕の人の苦労がうかがえます。劇中では「神の怒りにより隕石と共にあらわれた」みたいな説明がされていましたが、饕餮を流星に乗ってきた宇宙怪獣としてアレンジしたようです。ちなみにさらに古代の殷の時代、この怪物のシンボルとおぼしき「饕餮文」という模様が施された青銅器が多く作られました(下画像参照)。映画の怪物のおでこにもくっきりこれが刻まれていて、アホ映画とはいえその辺はディティールが細かいな、と思いました。

そうしたアイデアはやはり中国出身のチャン・イーモウによるものでしょうか。この監督、どちらかといえば『紅いコーリャン』や『初恋の来た道』といった叙情性豊かな人間ドラマが本領のはず。『HERO』や『LOVERS』といった武侠ものも撮っておられますが、彼の長いキャリアでも怪獣が出てくるのはこれが初めてでは。なんというか… お疲れ様でした。いろいろ事情があってこの仕事を引き受けたのだとは思いますが、とりあえず怪獣と次から次へとくりだされるビックリ戦法には本当に楽しませていただきました。

Ll_137今年上半期ですでに『バーフバリ』『モアナと伝説の海』といった古代伝承的映画がありましたが、この『グレートウォール』が一番無茶だったような気がします。でもこういう無茶な映画、俺は嫌いじゃないぜ? 来月公開の『キング・アーサー』や、夏の『トランスフォーマー 最後の騎士王』の無茶ぶりにも期待しています。


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May 22, 2017

帰ってきた「電車で業!」 ダニー・ボイル 『T2 トレインスポッティング』

T2terminator2judgementday2014237630ダニー・ボイルの名を知らしめたあの快作が、なんと20年ぶりに帰ってきました。かつてエジンバラでブイブイいわしてたあの悪ガキたちは、2010年代の今どうしているのか? 『T2 トレインスポッティング』、ご紹介します。

レントン、ベグビー、サイモン、スパッドは子供のころからつるんでいる悪友同士。青春時代はともにドラッグをキメたり盗みを働いたり刹那的な日々を謳歌していた。だがその友情はレントンが仲間を裏切り、一人故郷を離れたことで一度終焉を迎える。
それから20年。人生に疑問を感じたレントンはふらりとスコットランドに戻ってくる。会いたかった友達、会おうかどうか迷う友達、そして絶対に会いたくない友達… レントンの思いをよそに、彼の帰郷は仲間たちを再び引き合わせる。

『トレインスポッティング』1作目が日本で公開されたのは1996年11月。ちょうどわたしが映画にはまる2か月ほど前でした。公開後映画雑誌やらレンタル店やら各種メディアで大々的に取り上げられ、当時のオシャレな若者たちに大いにもてはやされたようです。たしかコピーが「もっとも陽気で悲惨な青春映画」だったかな。便器の底でもスタイリッシュな映像、イギ―・ポップのビートの効いたスコア、そしてモデルのようにスラリとした主演の若者たち。遅れてビデオでようやく鑑賞したわたしは、「ほほー まんずかっこええ、都会っぺえ映画だっぺ」と地方の薄汚れたアパートでひとりごちたものでした。
そんなわけでそれなりにたのしんだものの、まず「おしゃれ映画」としてのイメージが強く、そんなに思い入れが深かったわけでもなかった『トレインスポッティング』。20年ぶりにメインキャスト続投で続編を作ると聞いて、主に懐かしさと物珍しさで観に行ったのでした。ところがこれが予想外に大変突き刺さるお話でありました。

まずアホっぽくてもキラキラと輝いてたレントン。あの独特のへらへらとした笑顔はもう見られません。時折微笑むことはありますが、ジェダイの弟子を育てそこなったせいでしょうか、基本的にいつも眉根にしわをよせています。彼などはまだいいほうで、ベグビーはいまだ収監中ですし、サイモンはヤクザな商売を続けていて、スパッドは結婚にも仕事にも失敗して相変わらず重度のヤク中…と誰一人まともで幸福な家庭を築けていない。ただねえ、自分だってドラッグや犯罪にこそ手を出していないものの、この20年どれほど成長したかといえばいささかこころもとないし。くわえて体力もけっこう落ちてる。おなかも出てる。そして相変わらずの独り者… そんな自分の停滞・劣化ぶりをいちいち指摘されるようで胃がキリキリといたしました。

でもそれでいてこの映画、すごく楽しいんですねえ。笑えない境遇にありながらそれでもカラ元気で暴れまわるレントンたちがとにかく愉快ですし、ダニー・ボイルってこんなにお笑い得意だったかな?と思うくらいギャグセンスが秀逸。私が観た回は10人くらいしか入ってなかったんですが、それでもけっこう場内笑い声が響いていました。特に印象に残ったギャグはやっぱりトイレ関係。本当にダニーさんはトイレを撮らせたら天下一品ですね。

あととりわけ胸にしみたのは友情の面倒くささでしょうか。友情の素晴らしさを描いた映画はたくさんありますが、この面倒くささを強調したものはあまりないような。だいたいレントンはあんなことをしでかしたあとで、どの面下げて仲間たちに会うのだろうと思ってましたが、やはりみんなからぶんなぐられてました(笑) ただそのあとが三者三様で、スパッドがすぐにうととけたのに対し、サイモンはもう少し一悶着あったりする。ベグビーにいたっては到底和解は無理だろ、と思ってましたが幼少のころを思い出すにつれ、意外な感情が湧いてきたりして… どれだけ喧嘩しても結局縁が切れない4人。どっちかといえばバラバラでいた方がお互いのためになる気もするんですが、やっぱりその存在がなによりの慰めなんでしょうね。
ベグビーなんかは20年前到底理解できないような男だったのですが、今回はその不器用ぶりが泣けて泣けてしょうがありませんでした。

そんなアホどもを優しく照らすのはエジンバラの美しい夜景。前作はビデオ鑑賞だったからそんなに感銘を受けなかったけど、この歴史を感じさせる風情ある街並み、いいですよね… お金もないけど行ってみたくなりましたよ。
Photoなんかまだまだ語りたいことがるような気もするんですけど、鑑賞から1ヶ月経ったいまもあんまりうまくまとまりません。それほどにいろんな感情が呼び起こされる映画です。1作目がそれほど特別な映画でもなかっただけに、こんな気持ちになるとは大変意外でありました。
ちなみに『トレインスポッティング』原作(アーヴィン・ウェルシュ著)にも続編がありますが、『ポルノ』というタイトルで映画とはやや内容が異なるとか。加えて『Skagboys』なる前日談もあるそうです。
『T2 トレインスポッティング』はさすがにだいぶ公開が終わりましたが、東京ではまだほそぼそと続いてるところもある模様。やっぱさすがだべな、東京は!


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May 19, 2017

プラと呼ばないで クリス・マッケイ 『レゴバットマン・ザ・ムービー』

1491803297468上半期最も楽しみにしてた1本だったのに、感想書くのがモタモタしているうちに完全に公開が終わってしまった~~~! とほほ…
何の力添えもできず大変申し訳ないかぎりですが、遅まきながら『レゴバットマン・ザ・ムービー』、ご紹介いたします。

そこは全てがレゴでできた世界。犯罪都市ゴッサムシティで活躍するヒーロー・バットマンは、今日も惨事を未然に防ぎ、声援をあびながら秘密基地に戻る。だが広大な邸宅で彼を待つのは執事とコンピューターだけ。孤独に晩飯をチンしてくつろぐバットマンに、執事はそろそろ家族を作ってはとすすめるが…

本作品は2014年に公開された『レゴ(R)ムービー』の姉妹編というかスピンオフのような位置づけ。あちらにもすっとぼけたバットマンがサブキャラとして登場します。ただ今回の映画と同一人物なのかというと、そんな気もするし、違う気もする大変あいまいな設定です。まあこんなゆるさがレゴ映画の魅力のひとつとも言えます。

バットマンといえばまず『ダークナイト』を思い浮かべて、暗くてハードでシリアスなイメージをもっておられる方も多いことでしょう。確かにいまのバットマンに関していうなればそれは間違いではありません。しかしなにせ約80年もの歴史を持つシリーズですから、その間にはギャグ調に振り切れた時期もあったのです。いい例が今回もちらっと出てきた60年代に作られたTV版。そんな黒歴史も含めて、バットマンの長い長い歩みと本質を総括した内容となっていました。

バットマンの本質とはなんぞや。それは彼がスーパーヒーローで世界最高の探偵であると同時に、子供で偏執狂であるということです。子供のころ目の前で両親を殺されたというトラウマが、犯罪と戦う原動力となっている反面、未だに彼の内面を子供のままとどめてしまっている。言うなればごつくて暗いピーターパンのようなもの。まあ普通ちゃんとした大人は犯罪と戦うにしてもあんなコスプレしたり、不眠不休で訓練したり働いたりしないものでしょう。自分のペースと家族を大事にしたうえでやるものだと思います。
だからブルース・ウェインが普通の大人になる…幸せになって孤独感を感じなくなったら、『バットマン』という物語は終わるのだと考えます。実際映画『バットマン&ロビン』や『ダークナイト・ライジング』はそんな感じでしたし。
では肝心の原作はと申しますと、いまバットマンには養子・実子含めて3人の息子がいます。それとは別にぐれて勘当したような子供までいます。そんだけ子供に囲まれてブルースが立派なお父さんになったかといえば、これがはなはだ微妙でして… どの子どもたちにもちゃんとコミュニケーションを築けてないようですし、その上しょっちゅう死んだり失踪したりしてます。まあウェイン氏が本当にまともな大人になってバットマンを卒業してしまったら、DCコミックスとしては大変な痛手になるでしょうからそれはまだまだ先のこと…というか実現しないような。コナン君が半永久的に元の姿に戻れないのと一緒です。

もうひとつバットマン世界…というか多くのヒーローものに関して言える本質としては、「ヒーローとヴィラン、ふたつそろってて初めてお話が成立する」ということです。建前としては悪者なんかいないほうがいい、ということになってますが、もしあの世界にコスをまとっているのがバットマンだけで、ほかに珍妙な格好をした悪役がいなかったとしたら、そもそも物語としてなりたちません。まさにヒーローがいるからこそヴィランがいて、ヴィランがあってこそのヒーローであります。『レゴバットマン』では普通はごまかされそうな、そんな二者の絆が微笑ましく描かれておりました。これを通常のバットマンでやったら白けるか、めちゃくちゃ皮肉っぽくなると思うんですけど、二頭身のレゴの世界ならばみんなが幸せになれるというとてもほっこりした仕上がりになっております。
ちなみにいまコミックのマーベルではどちらかというとヒーロー同士が主義主張をめぐって激突するという話がとても多く、悪役の影がとても薄くなっています。その方が現実的でテーマも深くなるのでしょうけど、ここんとこの売上がぱっとしないところを見ると、もう少しバランスたもってやった方がいいんじゃないかな~と1ファンとしてはお思うわけです。

まわりくどい理屈ばかり書き連ねてしまいましたが、『レゴバットマン』はこんな面倒くさいことなど考えなくても…というか考えない方が楽しめる映画です。仏頂面でかっこ悪いバットマンに笑い、邪険にされるジョーカーに腹をかかえ、DC以外からもやってくる大量のカメオ出演に興奮し、文字通り血の一滴も出ない活劇ににんまりする。ああ… こんなに面白い映画なのに日本ではなぜ大コケしたんだ!! 世の中いろいろ間違いが多すぎる!!

Lgb2そんな『レゴバットマン・ザ・ムービー』、8/2にDVDが出ます。観られなかった方はそれからでも観てください。そしてこれだけレゴ映画が不振なのに秋には新作の『レゴ・ニンジャゴー』が公開決定してます。あまりにも無謀すぎるチャレンジ。わたしはもちろんお布施と思って観に行きますよ!


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