September 18, 2018

死霊のうらがわ 上田慎一郎 『カメラを止めるな!』

人里離れたところにある今はもう使われていない水道施設で、ゾンビ映画の撮影をしているクルーがいた。常軌を逸した監督の興奮ぶりに次第に疲弊していくスタッフ・俳優たち。メイク係の女性は場を紛らわそうとロケ地にまつわる伝説を語り始める。なんでもそこはもともと旧陸軍の研究所で、死体を生き返らせる実験が行われていたとのこと。彼女がその話を語り終えるや、異様な物音が館内に響き渡る。それは想像を越えた惨劇の幕開けであった…

…って感じで始まる今話題のヒット作『カメラを止めるな!』。ホラー映画としてはありがちな出だしであまり期待も持てないのですが、どうしてどうして、ストーリーはここからどんどん予期せぬ方向へ転がってまいります。

新宿駅東南口の近くにケイズシネマという映画館があります。欧州のアート系作品の特集上映や、新人監督の秀作なんかをよくかけてるところで、言ってみればこう、「エッジの効いた」映画をよくあつかってる劇場です。客席もそれほど多くなく、「新宿のど真ん中で経営厳しくないかしら」と勝手に心配したりしてました。
で、今年の7月くらいでしたでしょうか。そのケイズシネマで毎回満席で大評判を呼んでいる作品があると聞きました。それがこの『カメラを止めるな!』でした。興味が湧いたもののチケットを取るのが大変そうだな…と思っっていたら、今度は評判が評判を呼んで全国のTOHOシネマズで拡大上映されるという。そして映画ファンのみならずひろく一般層にも大変な好評をもって迎え入れられました。映画ファン歴20年のわたしにもこんな異例の形でヒットを飛ばした邦画はちょっと記憶にありません。ある方のお話によると伊丹十三監督の『お葬式』なんかがとても近い形だったそうですが。

ヒットの要因は月並みですがまずわかりやすい、とても面白い映画であったこと。「面白い」というのは人それぞれでですが、『カメラを止めるな!』には普遍的というか最大公約数的な面白さが詰まっておりました。また、それと同時にとても変わった作品でもあることも好評の理由かと。わたしくらいの年になると「これはあれのオマージュかな?」と感じるところがチラホラないでもないですが、それでもトータル的には立派なオリジナリティを有してますし、まして普段あまり劇場に行かない人たちにしてみたら「こんな映画観たことない!?」というくらいヘンテコな構成だったと思います。高額な予算をかけなくてもすぐれた脚本とアイデアひとつでこんだけの傑作を作れるという実証のような作品。少し前だと『キサラギ』『アフタースクール』『フィッシュストーリー』などと近いものを感じました。

監督はこの映画が2本の舞台から影響を受けていることを認めています。1本は劇団PEACEという団体の『GHOST IN THE BOX!』。もう1本は三谷幸喜氏の『ショウ・マスト・ゴー・オン ~幕を下ろすな』。後者はたまたま教育テレビ(現Eテレ)で放送されていたのを見たことがあります。どんな内容かと申しますと、ある名優が『マクベス』を公演するわけですが、もうかなりの高齢のため途中で倒れてもおかしくない状態だったりします。おまけに演出家が迷子になって小屋に到着できなかったり、ピンチヒッターにスタッフのお父さん(ずぶの素人)が来てしまったり、本当にたくさんのトラブルが公演を襲います。それでも一度幕を開けた以上最後まで芝居はやらなきゃならない…というスタッフのドタバタ・がんばりを描いた作品。ちなみに背景の転換は一回もなく、檀上はずっと舞台の袖で固定されておりました。

確かに『カメラを止めるな!』と似てるところは幾つかありましたが、表現方法が映画とお芝居とはおのずとやりようが異なってくるもの。『ショウ・マスト~』は普通にDVDが発売されてるので興味を持たれた方は見比べてみるのも一興かと。三谷さんは「ぼくの影響? 受けない方がいいんじゃない?」の一言で済まされましたが、もう一方の舞台の方は次第に納得いかなくなってしまったようで、現在「原作として認めるか」という協議がつづいてるとのこと。ただそんなネガティブなニュースさえもヒットの肥やしになってしまった感すらあります。

『カメラを止めるな!』は怪談の時期が終わってしまったこともあり、さすがに売り上げがピークを過ぎて参りました。それでもまだ2、3週は上映が続くものと思われます。繰り返すようですが、こんなヘンテコな映画がこんなヘンテコな形でヒットを飛ばすことは今後10年ないのでは。祭りにでも参加するつもりで、ちらっとでも興味を持たれた方は鑑賞してみるのはいかがでしょう。何かにつけ自信がないわたしが(ちょっとだけ)自信をもっておすすめいたします。

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September 12, 2018

プリズン・ブレイキング・バッド シドニー・シビリア 『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』

シネコンの普及で地方でも観られる映画の選択肢はぐんと増えましたが、それでもヨーロッパ映画なんかはあまり入って来ないもの。ただ先日珍しく一風変わったイタリア映画が流れて来たので、これはチェックせねばと鑑賞してまいりました(1ヶ月以上前の話ですが…)。『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』、ご紹介します。

大学を追われた研究者のピエトロは、金を稼ぐため仲間の教授たちと語らって違法薬物の密造に手を出す。色々あって結局警察に捕まってしまった彼らだったが、野心家の女警部がピエトロたちの知識を麻薬組織の摘発に利用することを思いつく。犯罪者から警察のスパイへ。奇妙な教授たちは180度立場を変えて再び夜の街で大騒動を繰り広げる。

実はこの映画『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』という作品の続編にあたります。そちらの方は都市部の2,3館で細々と特集上映されただけだったので、さすがに観に行けませんでした。どうせなら1作目からちゃんと見たかった…とは思いましたが、まあサイトのあらすじとかそれなりの想像力で前日談の内容はだいたい把握することができました。

やっぱり面白いのは主人公が「研究者たちのチーム」というところ。みなそれぞれその道の第一人者なんだから当然頭がいいはずなのに、やることなすこと抜けてたり危なっかしかったり。勉強ができるからといって、上手に波風立てずに生きていけるわけではない…ということを改めて教えられました。ひとつの才能が突出しすぎてるあまり、他の面(人格など)が大きく欠けてたりとかね。しかしそんな連中のハイテンションな暴れっぷりというのは観ていて至極痛快だったりします。

イタリア映画というとかつてはマカロニ・ウェスタンとか残酷ホラーなどを量産していたのに、近頃評判を呼んでるのは大抵社会派ドラマとか人情ものなど。この映画もちょびっと社会問題を提起ししてるようなところがありますが、普通にドタバタ喜劇として楽しめる作品。こういうあちらのコメディがもっと色々あるのなら、ほかの作品もぜひ観てみたいものです。

あとイタリア男というとキザで女性と見れば片っ端からナンパする…というイメージがありますが、本作品を観るとそんな男ばっかりでもないことがわかります。というかトルナトーレの諸作や『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』『ベニスに死す』『人生、ここにあり!』などを観ると、どちらかといえばナンパ男より不器用で一途な純情野郎の方が多い気がします。なんにせよ偏見はよくないですね。話が横道にそれてますね。

腹を抱えてなかなか楽しませていただいた『いつだってやめられる 10人に怒れる教授たち』でしたが、ラストに限ってはそりゃあひどい映画でした。ぶっちゃけちゃうと思いきり「第3作に続く!」というものです。しかも非常に切れの悪いところで。なんじゃあこりゃあ!!
幸いにも3作目『いつだってやめられる 戦う名誉教授たち』は11月から日本公開が決定しております。2作目がかかったんだから、その次も当然こちらでやるよな… 配給さん&映画館さん、信じてますから。

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September 11, 2018

妹はお姉さん 細田守 『未来のミライ』

今夏もアニメ映画をよく観ました。今日はそのうちの一本で細田守氏の最新作『未来のミライ』をご紹介します。

くんちゃんはまだ小学校にも上がっていない甘えん坊の男の子。妹のみらいちゃんが生まれてからというもの、両親はそちらにかかりきりで、かまってもらえないくんちゃんは癇癪を起す日々が続いていた。そんなある日くんちゃんは自宅の庭で「王子」と名乗る奇妙な男と出会い、それをきっかけに不思議な体験を繰り返すことになる。

予告から勝手に感動押しの泣けるお話かと予想していたのですが、これまでの細田作品では最も淡々としたストーリーだったように感じました。ちょうどくんちゃんが読んでる絵本によくあるようなパターン。ごく日常的な状況にある子供が、ちょっとだけ非現実的な体験をルーチンのように何回か経験していくというストーリー。ぱっと思い出せる例が『はれ、時々ぶた』と『トイレにいっていいですか』くらいしかないのが辛いところですが。

そしてこれまで以上に細田監督の私小説感が濃厚になったアニメでもあります。ネット等で「『うちの子かわいいでしょ?』という話をえんえんと見せつけられてるようできつい」という意見がありましたが、わたしはそうは感じませんでした。くんちゃんは時折かわいくて健気な一面も見せますが、基本的にはダダとわがままをこねまくるなかなか手ごわい男児です。でもまあ大抵の子供というのはそういうもんじゃないでしょうか。「育児って大変だな…」ということが未経験の者にもよく伝わって来ました。あと妹が生まれたばかりの時、すぐに機嫌を損ねる様子がわたしの上の姪とかなりおんなじでそのことを思い出してにんまりいたしました。

ただやっぱり細田監督や夏アニメには壮大な冒険とか切ないお別れとかを期待してしまうもので、その点ではちょっと物足りなかったかな… 今回はいいですけど次はもうちょっと細田さんのご家庭から飛躍した話が観たいものです(えらそう)。
個人的に気に入ったのはくんちゃんちにおける犬「ユッコ」の扱いとか。その家に子供が生まれた途端一番かわいい存在ではなくなってしまう…という例、いかにもありそうですよね。大島弓子先生の『綿の国星』にもそんなエピソードがありました。
あと前作からキャラデザが貞本義久さんでなくなってるんですけど、絵はおんなじだったりします。そんな貞本そっくり絵で描かれるイケメンが男のわたしでもドキッとするような色気を放っておりました。

日本テレビその他から「ポスト宮崎駿」として期待されている細田さん。先の言葉と矛盾するようですが、本人はあんまりそんなこと気にしなくてのびのびと自分のやりたいことをやってる様子で、いいなと思いました。『未来のミライ』はまだたぶん上映中。あと1週くらいでしょうか

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September 05, 2018

恐竜屋敷の恐怖 J・A・バヨナ 『ジュラシック・ワールド 炎の王国』

20180905_165821良い子の皆様、夏休みの宿題は終わりましたでしょうか。本日は今年の夏休み洋画で一番儲けたであろう『ジュラシック・ワールド 炎の王国』をご紹介します。前作の記事はコチラ

ジュラシックワールドの惨劇から数年。恐竜たちが残された島が火山活動で今にも壊滅するという知らせをクレアは聞く。若い資産家の援助を取り付けた彼女は、元恋人でラプトル「ブルー」の親でもあるオーウェンと共に恐竜たちを救出すべく、かの地を再び訪れるのだが…

このシリーズもいつの間にやら5作目。前半こそいつものジュラシック・パニック映画なのですが、後半に入ると意表をついた展開を見せ始めます(以下バンバンネタバレしていくのでご了承ください)

監督は『永遠のこどもたち』『怪物はささやく』などのJ・A・バヨナ。どちらかというとこぢんまりとした物悲しいムードを得意とする作家で、就任が決まったと聞いたとき「彼にはあんまり合ってないんじゃ」と思いました。ですが中盤を過ぎたあたりからはどんどんジュラシックシリーズを強引に自分色に染め上げていきます。
ハリウッドの大作を任されると個性が骨抜きにされてしまう例が多い中で、大したものでありました。

ただこの後半の展開、本国では意見が割れてるそうで。広大な屋敷の屋内で恐竜どもが暴れまわるというコンセプト、確かにいままでなかったアイデアでそこは誉めてさしあげたい。けれどせっかくの巨大生物が広いとはいえ家の中に押し込められているようで、少々ダイナミックさに欠けたのは確かです。わたし個人はといえばやはり窮屈さは感じましたが、目新しい演出に弱い上にそれなりに面白くはあったので、「よし!」といたしました。

あとこのシリーズは特に必然性もないのに決まってお話に子供をからめますよね。恐竜好きな低年齢層のお子さんたちを映画館に呼び寄せるためでしょうか。本当にちっちゃい子がスクリーンでT-REXのお食事シーンとか見たら確実にトラウマになるかと思いますけど。
ただ今回に限ってはかわいそうな親子話を得意とするバヨナさんの資質が、この「お約束」とぴったりマッチ。偶然なのか狙っての起用だったのか、最初「なんで彼が」と思っていたことを謝罪いたします。

クライマックスでさらに思い切ったことをやってくれちゃった『炎の王国』。次作は再びコリン・トレボロウにメガホンを戻し新三部作の集大成とするようですが、いったいどのように収拾をつけるのか… ちょっときなくさい予感もしますが3年後の完結編を楽しみに待ちたいと思います。

20180905_165944『ジュラシック・ワールド 炎の王国』はまだまだ全国の映画館で公開中。やっぱり夏は恐竜が強い…


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August 28, 2018

デ・ニーロ・イン・コリア チャン・フン 『タクシー運転手 約束は海を越えて』

S0175f41bもう大体公開が終わってしまった紹介シリーズ第3弾。本日は2017年韓国においてNo.1ヒットとなった『タクシー運転手 約束は海を越えて』、参ります。

1980年。ソウルで娘と貧しく暮らしていたタクシー運転手のキム・マンソプは、光州まで連れて行ってくれれば大金を払うという外国人客の話を聞き、なんとかその仕事を取り付ける。だがマンソプは知らなかった。その時光州は軍部に掌握されていて、これからまさに大きな惨劇が始まろうとしていることに。

当時わたくしは3歳。光州事件のことはおろか韓国という国があることもよくわかってませんでした。というか、40過ぎてようやくそんな悲劇があったことを知りました。そんなわけでいろいろ勉強させていただいたこの映画には感謝しています。

光州を抑えていた軍閥は地域一帯を封鎖し、反抗する住民たちを容赦なく虐げていたのですが、外部には「テロが起きていてこちらが襲われている」なんて報道しておりました。そしてそれをすんなり信じてしまう韓国国民。ネットが発達し簡単に動画を配信できる現代では不可能なことだと思いますけど、それともやはり世界のインフラが発達してないところでは今もこういうことがあるのでしょうか。マンソプが乗せる記者ユルゲン・ヒンツペーター氏はその欺瞞を暴くため光州に潜入します。災難なのはそれに付き合わされることになったマンソプさん。

興味深いのはこれが光州だけの事件で、ちょっと走ったソウルでは普通にのどかな暮らしが営まれていたということです。わが国でいうなら地方のどっかの県に突如として独裁政府が誕生し、周囲と交流が断絶してしまうようなものでしょうか。果たしてどうしてそんなことになってしまったのかは、調べが足りないためによくわかりません。

ともあれ、序盤はのんびりまったりしている昔のソウルから始まるので、山崎監督の『ALWAYS』みたいな雰囲気が漂っております。マンソプを演じるソン・ガンホ氏のキャラがまたユーモラスでのんびりムードに拍車を駆けます。しかしそのムードは光州に入ると徐々に緊張感を増し、ついには血みどろの銃撃シーンへと突入してしまったので顔色を失いました。マンソプさんとユルゲンさんは生きるか死ぬかの脱出行をせまられることになります。本当に前半と後半でこんなに空気が一転してしまう映画は『ライフ・イズ・ビューティフル』以来です。また、そんな凄惨な事態に陥っても、二人を懸命に助けようとする人々の姿には胸を打たれました。

で、頭から実在の事件をモチーフにしたフィクションだと思って観ていたのですが、最後にユルゲンさんはおろか彼を助けたタクシー運転手も本当にいたということを知ってたまげました。さすがにマンソプさんのキャラやクライマックスのあれこれは盛ってると思う(というか、実在した運転手さんの名前はサボクさん)のですが、それにしてもすごい話です。
あと『タクシードライバー』『TAXI』『フィフス・エレメント』などタクシー運転手はちょくちょく映画の題材になるのに、バスや電車の運転手はあんまり主人公になりませんよね。タクシーの方が自由度が高いからなんでしょうけど、ちょっと気の毒です。

『タクシー運転手』のDVDは11月発売。まだもうちょっと先ですか。名画座などでも細々とかかってるので気になった方はチェックされてください。

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August 21, 2018

ディズニー世界の片隅に ショーン・ベイカー 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

再びの公開が終わってしまった映画シリーズ第二弾。名優ウィレム・デフォーがいろんな助演男優賞を受賞したりノミネートされたりした『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、ご紹介します。

西海岸はディズニーワールドの近辺にあるモーテル群。そこでは家を持てない貧しい人たちがその場しのぎの生活を続けていた。そんな中でも母親と二人暮らす少女ムーニーは毎日友達と遊んだりいたずらを繰り返したり元気いっぱい。ヤンママっぽい母ヘイリーも共に陽気な日々を送っていたが、やがて生活苦は彼女たちをおいつめていく。

まず副題の「真夏の魔法」というのが謎です。そんなにのんきで都合のよい話ではないのです。魔法っぽいところがあるすればすぐ近くに「夢と魔法の王国」がそびえたってることくらいでしょうか。
「ディズニー施設のある町のひなびた家族の話」ということで自分は『浦安鉄筋家族』みたいなものを想像してましたが、あちらよりは西原理恵子先生の『ぼくんち』に近いかもしれません。劣悪な環境においても子供たちは愉快な仲間がいればいろんなところでお楽しみを見つけていくものです。しかし家計を支えなければいけない大人たちはそう単純なわけにもいきません。ことにそれがシングルマザーの場合は…

いまひとりの主人公であるヘイリーはガラは悪いしすべてが行き当たりばったりだし、子供がそのまま大人になったようなお母さん。正直近くにいたら問題に巻き込まれそうでいやだなあ…とは思いますが、それでも憎めないのはムーニーや近所の子供たちに対する愛情がとても深いものだから。どんなに苦しい境遇にあっても、彼女は決して娘に八つ当たりしたりはしません(ここ大事)。
そんなお母さんに育てられたからか、ムーニーはほとんど泣き顔を見せません。子供というのは本来もっとぎゃあぎゃあ泣くものだと思うのですが、この子は「バカなのかな?」と思えるほどにいつもケラケラ笑っている。だからこそそんなムーニーが一度だけ声をあげて泣きべそをかくシーンには胸が締めつけられるようでした。

このどん詰まりの親子をたしなめたり、さりげなく助けてくれるのが我らの?ウィレム・デフォー。アクション映画ではコワモテになりがちな彼が、人間ドラマではなんとあたたかく心を落ち着かせてくれること。しかしそのあたたかさが親子を救うものになるかといえば、やっぱりその場しのぎにしかならないのがなんともやるせないところでありました。そういう切ない人間模様と、登場人物のアナーキーな暴れっぷりと、ディズニー調のポップな街の背景が独特な印象を残す作品。

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』はもう再来月にはDVDが出ます。最近はこのブログ、DVD発売予告屋さんみたいになっちゃってますね…

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August 20, 2018

笑えないホット・ショット ジョセフ・コシンスキー 『オンリー・ザ・ブレイブ』

北米では猛暑期に頻発する大規模な森林火災。消防精鋭部隊「ホットショット」のあるチームを描いた実話に基づく物語『オンリー・ザ・ブレイブ』、ご紹介します。

だいたい2010年くらい。アリゾナ州でマーシュ隊長率いる消防隊は有能ながら融通の利かない制度ゆえにワンランク上の「ホットショット」に昇格できないでいた。そんな彼の隊にある日ブレンダンという若者が入隊してくる。薬物依存を患いながら、子供が生まれたたために一念発起して志願したのだった。最初は冷たい目で見ていた隊員たちも、やがてひたむきにがんばる彼を迎え入れるようになる。

火災を題材にした映画ってそんなにないもんですよね。有名どころでいうと『タワーリング・インフェルノ』や『バック・ドラフト』くらいでしょうか。だもんで実話でしかも山火事がテーマのお話というのはかなり珍しいかと。実際観てみますとわれ我々とは縁遠い大規模な森林火災のいろいろ勉強になります。山火事を消すのには水じゃなくてむしろ燃やすことだとかね。「???」と思われた方は本編をごらんください(もう公開終わっちゃってますけど…)

とは言いながら、そっち方面に別に興味があったわけでもない自分は、当初全然観ようとは思ってませんでした。予告編を見ても普通に「実話版『海猿』」みたいな印象でしたし。それが翻ったのはツイッター上で「とにかく衝撃的」という評判をいっぱい目にしたから。その衝撃とはどんなものなのか確認したくて鑑賞することにしたのでした。

でもね… 実話ベースで「衝撃」と言われちゃうと大体想像ついちゃうんですよね… そしてほぼ想像通りでした… なんというか、「まるで映画みたいな実話だなあ!」というところと、「やっぱり実話は映画のようにはいかんわ…」というところがあります。
この辺むずかしいですね。できたら先入観のない状態で観る方が一番良いのでしょうけど、「衝撃的すぎる」という評判を目にしなければまず自分は観に行かなかったでしょうし。少し前の『レディ・プレイヤー1』にも同じことが言えます。某ロボットが出てくるというのはできれば伏せといてほしかったけど、それを明らかにしないと観に来ない人もいっぱいいるだろうし。宣伝って本当に難しいですね。この辺で誤ったせいで『オンリー・ザ・ブレイブ』の日本公開もこけた感がありますし。

監督は『トロン・レガシー』『オブリビオン』のジョセフ・コシンスキー。SF畑の人という印象がありましたが、地に足の着いた実話ものも出来るということをこの作品で証明されました。
もう一人新境地に挑んだのは『セッション』でのひねくれ役が異彩を放っていたマイルズ・テラー。こちらでは非行から立ち直って成長する好感の持てる若者を巧みに演じておりました。前が前だけに反動でけっこういい人に見えてしまうという「映画版のジャイアン効果」みたいなところがなきにしもあらずですが。
そんでこの二人が組んで今度やるのが『トップガン』の続編だそうで。なんとなく物悲しい~せつな~い『トップガン』になりそうな予感がします。

『オンリー・ザ・ブレイブ』はもう11月にはDVDが出ます。ここまで読んで興味が湧いた奇特な方は秋になったらごらんになってください。

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August 08, 2018

博物館へいこう ブライアン・セルズニック トッド・ヘインズ 『ワンダーストラック』

1wdst先月の「遅れ小規模公開映画」特集第二弾(あと3回くらいあります…)、『ベルベット・ゴールドマイン』や『キャロル』で知られるトッド・ヘインズが、『ヒューゴの不思議な発明』のブライアン・セルズニックのベストセラー小説を映画化。『ワンダーストラック』、ご紹介します。

1977年、母を亡くし、事故で聴力も失ってしまった少年ベンは、まだ見ぬ父の手掛かりを探すために大都会NYへ向かう。それから50年前、やはりとある事情で有名女優を訪ねて、同じ地へ向かう耳の聞こえない少女ローズがいた。彼らはメトロポリタン美術館にある「驚きの飾り棚(ワンダーストラック)」により、奇妙に結び付けられることになる。

と書くと『君の名は。』みたく超自然的な要素によって二人が時空を越えちゃうのかな…と思われる方もおられるかもしれませんが、あくまで現実的な範囲の中でおさまる話です。
主人公たちの境遇からそういう演出になったのか、非常にセリフが少なく、物静かな映画。77年パートはまだ普通に音声がちょこちょこ流れますが、57年パートは当時のサイレント形式そのままで、映像は白黒で言葉は字幕でしか流れません。
わたしのうしろで観ていたおばさま二人組が「なんだか眠くなるわねえ」とかおっしゃってましたが、その音声控えめなところがなんとも味のある作品です。

あとこの映画のもうひとつの特色は、博物館、それも特に「みんなのうた」や『ナイトミュージアム』で扱われていたメトロポリタン博物館への愛情がものすごくこめられているところです。まるで自分もベンやローズと一緒にかの施設を探訪しているような気持ちになりました。それぞれ40年前、90年前の展示内容ですから今とはだいぶ違うんでしょうけど、かえって貴重なものが観られたような。
よくできた博物館というのは、ひとつの宇宙でもあるんですよね。多くの少年少女がそこから世界の一端を感じたように、主人公二人も小宇宙のような建物をさまようことによって、狭い環境から一歩踏み出すとっかかりを得ることになります。

Wdstこの映画観てたらひさしぶりに博物館をおとずれたくなってしまいましてね。先日行ってまいりました。もちろんNYではなく上野です。『ジュラシック・ワールド』新作の影響で恐竜の骨を見たくなったということもありまして。やっぱりいいですね、博物館は。化石、はく製、標本、機械、よくわからんもの… あそこにいくといつでも童心に戻れます。

映画『ワンダーストラック』はDVDがもう今月末に出ます。子供のころ学研まんが「ひみつシリーズ」などに胸をときめかせた人はどうぞごらんください。

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August 07, 2018

時代に早すぎた男たち ニック・パーク 『ア―リーマン ~ダグと仲間のキックオフ!』

Elm1『犬ヶ島』『ぼくの名前はズッキーニ』とコマ撮りアニメの傑作が相次いで公開された2018年ですが、老舗のアードマンの新作も後を追うようにしてやってまいりました。『ア―リーマン ~ダグと仲間のキックオフ!』、ご紹介します。

たぶん古代のヨーロッパ。原始人のダグと仲間たちは緑豊かな谷間で毎日楽しく暮らしていた。しかしそこへ青銅器文明を持つ帝国が侵攻し、強引に領土としてしまう。荒野に追いやられたダグは帝国の総督に直談判し、彼らのエリートとサッカーの試合で勝ったら谷間を返してくれると約束を取り付けるのだが…

まずサッカーってそんな紀元前から存在してたのか??という疑問がわきますが、子供アニメでそういう堅苦しいことを言ってはいけません。あと約1万年前の中国の地層から実際に石の球が発掘されてるそうなので、この時代本当に存在していた可能性もわずかながらあります。
ともかく、石器文明のワイルドな連中と青銅器文明のちょっとおしゃれな連中がサッカーで熱戦を繰り広げるという発想が面白い。…ですが…

この素っ頓狂なアイデアに並ぶストーリーやキャラクターがあったかというと、ちょっと首をかしげざるをえません。さすがは古豪のアードマン、もちろん十分に楽しい作品ではあるのですが、少し前の『ひつじのショーン バック・トゥ・ホーム』やニック・パーク黄金期の『ウォレスとグルミット』に比べるとどうしてもインパクトに欠けるというか。そうやってすぐなんでも他と比べてしまう。オタクっていやですね…
あとやっぱりアードマンは人間よりも動物をメインに据えた方が内容的にも商売的にも成功するような気がします。この映画にしてもダグのペットの犬のようなイノシシや、いつの間にか仲良くなる巨大ガモ、食べられそうなのに楽しそうなウサギに送り主そっくりにしゃべる伝書オウムなどなど動物の方が俄然印象に残ってしまったような。

ああ… 本当はこんな風に文句つけたくないのに… アードマンをもっと持ち上げて激賞したいのに!! 

この映画英国の名門イートン高の同級生、エディ・レッドメインとトム・ヒドルストンの珍しい共演作であるのに、字幕版がほとんどなかったのもつろうございましたね…

Elm2と、ついオタクらしい愚痴が多くなってしまいましたが、普通に面白いですから! 気になった方は円盤か配信でご覧ください。

アードマンの次回作は『ひつじのショーン』劇場版第二作。公開日はまだ決まってないそうで。ちゃっちゃと進めちゃって! また、もう一方の雄「ライカ」の新作はこれまた原始人ものになるっぽいです。かぶった…

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August 03, 2018

ゼロの終点? 谷口悟朗 『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』

Cdg最近ちょくちょくあるテレビシリーズの総集編的映画。本日はその中でも特に目立っている『コードギアス』の最終作、『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』をご紹介します。第一部『興道』の記事はコチラ。第二部『叛道』の記事はコチラ

一度は記憶を奪われたものの、なんとか自分を取り戻し再びブリタニアへの反旗を翻したルルーシュ=ゼロ。だが最愛の妹ナナリーは、敵である父シャルルの掌中に陥ってしまう。ルルーシュは多くのわだかまりを抱えた友・スザクにプライドを捨てて彼女を守ってくれるよう懇願するが…

『エヴァ』といい『ガルパン』といい、そしてこの『コードギアス』外伝の『亡国のアキト』といい、TV版終了後の激情展開はどんどんスケジュールがのびのびになっていくもの。ですから今回の総集編三部作は流用シーンも多かったとはいえちゃんと予定通り公開されて「たいへんよくがんばりましたね」と褒めてあげたいです。
オーソドックスな総集編だった第一部に対し、いろいろいじりすぎてよくわからなくなった第二部。そして第三部はちらかしまくったものをなんとか風呂敷におさめようと頑張る、そんな印象でした。おさめきれなくてぽろぽろこぼれたものもあった気がしますが、まあ一応許容範囲だったかな、と。

やっぱり多少とっちらかっていても、思い入れのあるエピソードが流れたりすると「そんなことは細かいことよね」と思えてきてしまうもので。今回の『皇道』で申しますと、ロロ君が必死でルルーシュを救おうとするシーン。あんなにひどいことを言われたのに(それも仕方ないっちゃ仕方ないんですが)、それでも命と引き換えに「兄」を守りきったロロ君。そしてそんな彼に初めて心からの笑顔を見せるルルーシュ…

なんだか書いててまた鼻水が垂れ流れて来ましたね… 『皇道』だけでなく『コードギアス』全体でここが一番泣かされたくだりかもしれません。ちなみに一番「ひでえ」と思ったのは『叛道』のユーフェミアの惨劇のあたりです。

あと今回の総集編三部作、わたしが苦手だったラブコメパートがほとんど削られてたのでその辺が大変みやすうございました。本編では悲劇的な最期をむかえたあの嬢ちゃんが普通に生き延びたのもよかった。ここまで改変しちゃってもよいものか?とも思いましたがあれじゃあの娘のおかあさんが可哀想すぎますし、まあいいんじゃないでしょうか。

そして本当にちらっとだけ変えられたラストシーン。いよいよ満を持して「彼」が復活するのでしょうか。アニオタを長いことやってるわたしもテレビシリーズ完結から十年を経て「生き返った」という例は聞いたことがありません。
完全新作『コードギアス 復活のルルーシュ』は来年2月に全国で劇場公開されることがつい先ほど発表されました。楽しみなような観るのが怖いような… 確実に観ますけどね!

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