November 08, 2018

オッコちゃん 令状ヒロ子・高坂希太郎 劇場版『若女将は小学生!』

当初はまーーーーったく興味なかったんですが、ネットのあまりの評判の良さが気になって、先日見てきた(またかよ…)アニメ映画。児童小説を原作とした湯けむり人情アニメ『若おかみは小学生!』、ご紹介いたします。

小学六年生の関織子(おっこ)は交通事故で両親を失い、温泉街で旅館を営む祖母峰子のもとに引き取られる。だがその旅館には生前峰子の幼馴染だった少年の幽霊も住み着いていた。旅館「春の屋」に後継者がいないことを心配していたその幽霊・ウリ坊は、おっこに峰子のあとをつぐために若おかみになってくれと懇願する。

まず最初食指が動かなかった理由はアニメなのに舞台が温泉旅館でなんとも地味そう…と思ったからでした。しかしあらすじからもわかるようにいきなりショッキングなエピソードから始まり、次から次へと事件が起きたり珍妙なキャラが登場したりするので退屈するということはまったくありませんでした。

親が死んで孤児になってしまった女の子が老人に引き取られ、新しい環境で一生懸命がんばっていく… こういうの世界の名作児童文学によくあるパターンのような気がします。カルピス(ハウス)名作劇場を日本を舞台にしてやるとしたら、なるほどこういう風になるのかもしれません。

ハイジや赤毛のアンと違うところがあるとすれば、普通に妖怪やお化けが出てくるところでしょうか。しかしこの幽霊、デザインがかわいらしい上に真昼間にも普通に出てくるのでまったく怖くありません。お化けというより妖精に近い存在。ですからおっこも早々となじんでしまいます。

ただおっこがこういう人外と縁があるのは、事故に遭った彼女があの世に近い領域に片足つっこんでるからなのですね。両親が死んだことはわかってるはずなのに、どうしても実感がわかない。まだどこかで生きてるとしか思えない。気丈とはいえまだ不安定な年相応の子供の心情がそんな風に表現されていました。わたしゃ観てないのですが『ボネット』ってそんなお話だったのでしょうか。
またおっこちゃんは「いい子」ではあるのですが、少々抜けてたり時々すねたりもするあたり身近で親しみやすいキャラになっておりました。

以下ほぼ結末までネタバレで。

終盤とうとう両親の死を認めざるをえなくなるおっこちゃん。泣きながら「一人にしないで」と叫ぶシーンにもホロリと来ましたが、それ以上に鼻水を搾り取られたのはいってみれば加害者にあたる男に恨み言ひとつ笑顔で受け入れるくだり。まさに「小僧の神様」とでもいうべきでしょうか。わたくし、誰かが自分のことでわあわあ号泣してる場面より、辛さも悲しみも押し隠して笑顔を見せる話の方が弱いんで…
またラストシーンはしめっぽくなりそうなところを、少しのさびしさとともにさくっと爽やかに切り上げたあたりが好感が持てました。こういうのは先の『ペンギン・ハイウェイ』とも共通しています。

初週は不入りでコケ作品認定されそうだったのに、評判が評判を呼んで上映延長・再上映が続いている『若おかみは小学生!』。温泉がわりにふらっといやされてくるのもよいかもしれません。

ちなみに現在大ヒットを飛ばしている映画『ヴェノム』のツイッター公式アカウントが立った二つだけフォローしてるのが『スパイダーマン』と、なぜかこの『若おかみは小学生!』の公式だったりします。なつっこいお化けが出てくるつながりということなのでしょうか…

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October 07, 2018

ポノック3本勝負 『小さな英雄 カニとタマゴと透明人間』

8月に観た映画の感想もこれでようやく最後の1本… スタジオジブリのあとを継ぐべく作られたスタジオポノックが、昨年の『メアリと魔女の花』に続いて送る第二弾。『小さな英雄 カニとタマゴと透明人間』をいまごろ紹介いたします。ポノックが誇る実力派作家3人によるオムニバス映画でございます。

一本目は『カニーニとカニーノ』。3人の中では最もメジャーな米林宏昌監督作品。カニの兄妹の小さな冒険を描いたお話で、宮沢賢治の『やまなし』にアクションを組み込んだようなアニメ。川辺の背景が美しかったり、捕食動物が半端なく恐ろしかったり、短い時間の中でもいろいろ光るものがありました。さすがは安定の米林さんであります。

二本目は『サムライエッグ』。タマゴのアレルギーに悩む小学生の日常を切り取った作品。「日常」といってもアレルギーは時として死に至りかねないほどの症状を引き起こすこともあり、毎日が危険と隣り合わせなわけであります。決してくらい話ではないのですが、そんなアレルギーの苦しみを体感させるような美術・演出はインパクトがありました。

三本目は『透明人間』。存在感が薄いあまり誰の目にも見えなくなってしまった青年のピンチと奮闘の物語。透明なだけでなく体重も異常に軽いため、常に重しの消火器を携行しなくてはならない…という設定も気の毒ながら笑えました。青年がうっかり重しを手放してしまったため、ふわふわと際限なく上空へ浮かんでいってしまうシーンなどは夢で時々みることがあるため、軽いデジャブを覚えたりしました。

3作品とも発想・題材・美術ともにひかれるものがありましたが、惜しいのはやっぱり「短い」ということ。まったく違う種類のアニメをオムニバスで…という企画は冒険してていんですけど、全部合計しても一時間に満たないとどうしても「物足りない」という感が否めません。特に最後の『透明人間』はもう20分ほど延ばしてじっくり見せてほしかった。去年『メアリ』をやったばっかりであまり時間が取れなかったのでしょうか…

というわけでこの「ポノック短編劇場」、続けるのであれば次回はせめて1時間半か2時間くらいの尺でお願いしたいところです。ジブリもまた復活するようですけど、某御大が亡くなったらまたそこで終了だと思うので、ポノックにはアニメ映画を盛り上げるためにがんばってほしいのでした。ファイト! 3発!!

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October 05, 2018

萌える! お姉さん! 森見登美彦 石田祐康 『ペンギン・ハイウェイ』

アオヤマくんは子供にしては珍しい研究者肌の小学4年生。日々疑問に感じたことをノートにまとめては丁寧に調査・考察を繰り返していた。そして彼がとりわけひかれているのは、歯科医につとめているやさしいグラマラスなお姉さんについてのことであった。ある日アオヤマ君の街に南半球にしか棲息していないはずのアデリーペンギンが大量に出現するという事態が起きる。さっそく原因究明に乗り出したアオヤマ君は、調査の途中でペンギンとお姉さんに奇妙なつながりがあることを発見する。

夏は時期的にアニメ映画をよく観るのですが、この『ペンギン・ハイウェイ』もそのうちの一本。予告でお姉さんが投げた缶ジュースがうにゅうにゅっとペンギンに変身する映像を見てあっけにとられてしまいまして。アオヤマ君じゃないですけどその現象の謎をとくべく鑑賞いたしました。あと自分、ペンギン好きなもんで。映画に出てくるペンギンといえば大抵は皇帝ペンギンで、アデリーペンギンにスポットがあてられることってあまりないので、これは観ねばと思いました。
で、果たして怪現象になぜペンギンが関わってくるのか、納得のいく理由があったかというとこれがよくわかりませんでした(笑) わたしの頭が悪いのか、それとも重要なセリフを聞きのがしたか。でも無数のペンギンがわらわら動いている絵に大変ほんわかしてしまったので、その辺は適当でもよしとします。あとEDに宇多田ヒカルの歌が流れるとなんとなく「まあいいか」という気分になってしまうものです。

この映画の魅力は主人公のアオヤマくんとお姉さんに負うところも大きいですね。アオヤマくんはなかなかかわいげのないお子様ではありますが、興味のあるテーマにぶつかる時は実に子供らしいいい顔を見せます。一方でいじめっ子の攻撃や同級生の女子のアプローチにはクールな態度を崩さず、小学生のくせにいちいちかっこいい野郎だな、と思いました。
そんなアオヤマ君が慕っているのが謎多き歯科医のお姉さん。ちょっとおっぱいが強調されてるところがネットでは議論を呼んだりしておりました。おっぱいの是非はともかくとして、少年が短い間年上の女性に淡い思いを抱き、その出会いを通じて成長する…みたいな話は『銀河鉄道999』みたいでなかなかツボでした。声を当てているのは蒼井優さんですが、前にやはり声優を担当された『鉄コン筋クリート』で「おっぱいぼい~~~ん」というセリフがあったことをここに記しておきます。

余談ですが西原理恵子先生のエッセイ漫画によると、高知では昔普通に野良のペンギンがその辺をうろついていたそうで。遠洋漁業に出てたおっさんたちが法律のことも知らずお土産に持ち帰ったりしてたんだとか。いまあちらの水族館にいるペンギンたちはその末裔なんだそうです。映画を観ながらそんな話を思い出したりしてました。

今夏の日本アニメ映画はこれと『未来のミライ』のほかにもう一本『小さな英雄 カニと卵と透明人間』も観ました。次回はそれについて。あとペンギン映画では現在名作ドキュメンタリー『皇帝ペンギン』の続編、『皇帝ペンギン ただいま』も細々と公開中です。

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September 24, 2018

家族はつよいよ2 ブラッド・バード 『インクレディブル・ファミリー』

あの1作目から14年… わたしはだいぶ年を取りましたが、彼らはあの時と変わらず帰ってやがり参りました。『インクレディブル・ファミリー』、ご紹介します。

いろいろあって家族の絆を取り戻したパー家。だが世間では変わらずヒーロー活動は禁止されていて、彼らにとっては肩身の狭い日々が続いていた。そんな折、ある資産家がパー夫妻にヒーローが再び表舞台に立てるための計画に協力してほしいと申し出る。考えた末にそのプロジェクトに乗ったボブたち。とりあえずいろんな意味で柔軟なパー夫人が秘密裏にレスキュー活動を行うことになる。そして家の留守を任されたボブは、いくつもの能力を持つ末っ子ジャック・ジャックの世話に手を焼かされることに…

モンスターズ~にファインディング~にカーズと、2作目は1作目のわき役が中心になることが多いピクサー作品。今回もイラスティ・ガールことパー夫人をメインに持ってきています。近年ますます女性の社会進出が顕著になってきている世界情勢を、如実に反映した内容となっていました。
三児のお母さんがスーパーヒーローの映画って果たして面白いのか?という疑問がわく人もいるかと思われますが、これがなかなかに楽しい。ゴム人間といえば『ワンピース』のルフィや『ファンタスティック・フォー』のリードがいますが、最新のCGアニメで描かれたゴムアクションはさらにそれらの上をいっておりました。
そしてイラスティ・ガールさんですが、かっこよくもあり、ほのかなお色気もあり、そして家に帰ると家庭的な奥さんという、熟女好きにはたまらないキャラでありました。出番が増えた分、前作より魅力も大幅にアップしております。

ただ観ていて心配になるのは、最近のディズニー、ピクサーには「人当たりのいい権力者、パトロンは信用してはいけない」という法則があること。この作品にもいかにもそんな登場人物が出てきます。こいつ絶対裏切るだろうな~と決めつけながら鑑賞しておりましたが、実際はどうだったかというと… 一応伏せておきましょう(笑)

先に公開された『未来のミライ』と同じく「育児」が重要な要素になってるところも興味深かったです。くんちゃんは普通の人間の子供でしたが、ジャック・ジャックは光線を放つし炎は吐くしでこんなベビーの面倒を見ていたら命がいくつあっても足りません。加えて長女の思春期の悩みや長男の難しそうな宿題まで取り組まなければならないのですから、スーパーヒーローのボブさんといえ、どんどん憔悴していくのはやむなきこと。スーパーヴィランに立ち向かうのと同じくらい、家事・育児は大変ということなんでしょうね。わたしは子供いませんけど全国のお父さん・お母さん、まことにお疲れ様であります。

さて、この作品ヒーロー映画的にはなかなか危ないテーマにも挑んでいます。それは「ピンチの際にはヒーローに頼るべきか? それとも自分で解決すべきか?」というもの。実際にヒーローはいませんが警察や救急におきかえて考えることもできるでしょう。わたしとしては普通にケース・バイ・ケースだと思うのですが、この映画はその辺投げっぱなしで終わってしまいました。観客一人一人で考えてくださいってことなんでしょうかね。

もうひとつ特筆すべきことをあげると、『ミッション・インポッシブル』シリーズを手がけたマイケル・ジアッチーノの音楽がレトロ調でめちゃめちゃ渋かっこいいこと。Mr.インクレディブル、イラスティ・ガール、フロゾンには専用のテーマがあるのですが、これらがまた無駄にオシャレで決まりまくっておりました。本年度の映画音楽ベスト1に選びたいくらいです。

お母さんが大暴れしてヒーローが育児に励むこの映画、果たして一般受けするのかと思いましたが、世界でも日本でもけっこうなヒットを飛ばしているようで、不思議なものであります。よかったね、ブラッド・バード!

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September 11, 2018

妹はお姉さん 細田守 『未来のミライ』

今夏もアニメ映画をよく観ました。今日はそのうちの一本で細田守氏の最新作『未来のミライ』をご紹介します。

くんちゃんはまだ小学校にも上がっていない甘えん坊の男の子。妹のみらいちゃんが生まれてからというもの、両親はそちらにかかりきりで、かまってもらえないくんちゃんは癇癪を起す日々が続いていた。そんなある日くんちゃんは自宅の庭で「王子」と名乗る奇妙な男と出会い、それをきっかけに不思議な体験を繰り返すことになる。

予告から勝手に感動押しの泣けるお話かと予想していたのですが、これまでの細田作品では最も淡々としたストーリーだったように感じました。ちょうどくんちゃんが読んでる絵本によくあるようなパターン。ごく日常的な状況にある子供が、ちょっとだけ非現実的な体験をルーチンのように何回か経験していくというストーリー。ぱっと思い出せる例が『はれ、時々ぶた』と『トイレにいっていいですか』くらいしかないのが辛いところですが。

そしてこれまで以上に細田監督の私小説感が濃厚になったアニメでもあります。ネット等で「『うちの子かわいいでしょ?』という話をえんえんと見せつけられてるようできつい」という意見がありましたが、わたしはそうは感じませんでした。くんちゃんは時折かわいくて健気な一面も見せますが、基本的にはダダとわがままをこねまくるなかなか手ごわい男児です。でもまあ大抵の子供というのはそういうもんじゃないでしょうか。「育児って大変だな…」ということが未経験の者にもよく伝わって来ました。あと妹が生まれたばかりの時、すぐに機嫌を損ねる様子がわたしの上の姪とかなりおんなじでそのことを思い出してにんまりいたしました。

ただやっぱり細田監督や夏アニメには壮大な冒険とか切ないお別れとかを期待してしまうもので、その点ではちょっと物足りなかったかな… 今回はいいですけど次はもうちょっと細田さんのご家庭から飛躍した話が観たいものです(えらそう)。
個人的に気に入ったのはくんちゃんちにおける犬「ユッコ」の扱いとか。その家に子供が生まれた途端一番かわいい存在ではなくなってしまう…という例、いかにもありそうですよね。大島弓子先生の『綿の国星』にもそんなエピソードがありました。
あと前作からキャラデザが貞本義久さんでなくなってるんですけど、絵はおんなじだったりします。そんな貞本そっくり絵で描かれるイケメンが男のわたしでもドキッとするような色気を放っておりました。

日本テレビその他から「ポスト宮崎駿」として期待されている細田さん。先の言葉と矛盾するようですが、本人はあんまりそんなこと気にしなくてのびのびと自分のやりたいことをやってる様子で、いいなと思いました。『未来のミライ』はまだたぶん上映中。あと1週くらいでしょうか

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August 07, 2018

時代に早すぎた男たち ニック・パーク 『ア―リーマン ~ダグと仲間のキックオフ!』

Elm1『犬ヶ島』『ぼくの名前はズッキーニ』とコマ撮りアニメの傑作が相次いで公開された2018年ですが、老舗のアードマンの新作も後を追うようにしてやってまいりました。『ア―リーマン ~ダグと仲間のキックオフ!』、ご紹介します。

たぶん古代のヨーロッパ。原始人のダグと仲間たちは緑豊かな谷間で毎日楽しく暮らしていた。しかしそこへ青銅器文明を持つ帝国が侵攻し、強引に領土としてしまう。荒野に追いやられたダグは帝国の総督に直談判し、彼らのエリートとサッカーの試合で勝ったら谷間を返してくれると約束を取り付けるのだが…

まずサッカーってそんな紀元前から存在してたのか??という疑問がわきますが、子供アニメでそういう堅苦しいことを言ってはいけません。あと約1万年前の中国の地層から実際に石の球が発掘されてるそうなので、この時代本当に存在していた可能性もわずかながらあります。
ともかく、石器文明のワイルドな連中と青銅器文明のちょっとおしゃれな連中がサッカーで熱戦を繰り広げるという発想が面白い。…ですが…

この素っ頓狂なアイデアに並ぶストーリーやキャラクターがあったかというと、ちょっと首をかしげざるをえません。さすがは古豪のアードマン、もちろん十分に楽しい作品ではあるのですが、少し前の『ひつじのショーン バック・トゥ・ホーム』やニック・パーク黄金期の『ウォレスとグルミット』に比べるとどうしてもインパクトに欠けるというか。そうやってすぐなんでも他と比べてしまう。オタクっていやですね…
あとやっぱりアードマンは人間よりも動物をメインに据えた方が内容的にも商売的にも成功するような気がします。この映画にしてもダグのペットの犬のようなイノシシや、いつの間にか仲良くなる巨大ガモ、食べられそうなのに楽しそうなウサギに送り主そっくりにしゃべる伝書オウムなどなど動物の方が俄然印象に残ってしまったような。

ああ… 本当はこんな風に文句つけたくないのに… アードマンをもっと持ち上げて激賞したいのに!! 

この映画英国の名門イートン高の同級生、エディ・レッドメインとトム・ヒドルストンの珍しい共演作であるのに、字幕版がほとんどなかったのもつろうございましたね…

Elm2と、ついオタクらしい愚痴が多くなってしまいましたが、普通に面白いですから! 気になった方は円盤か配信でご覧ください。

アードマンの次回作は『ひつじのショーン』劇場版第二作。公開日はまだ決まってないそうで。ちゃっちゃと進めちゃって! また、もう一方の雄「ライカ」の新作はこれまた原始人ものになるっぽいです。かぶった…

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August 06, 2018

銀のサディスティック …あらら クレイグ・ガレスピー 『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』

Itny1遅れて公開された上にさらに書くのが遅れた映画が続きます。本日はアカデミー助演女優賞を持っていった「真実に基づく物語」。、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』をご紹介します。

20世紀末。アメリカはポートランドに住む少女トーニャ・ハーディングは、幼少のころから品のない星一徹のような母親に特訓されて、フィギュアスケートの実力をめきめきとあげていく。やがてはその高いジャンプで全米にも名前を轟かすようになるのだが、一方で彼女の奔放な演技は審査員たちから不評を買うのだった。そんな折、地元の青年のジェフと恋に落ちたトーニャは彼と結婚する。しかしそれは彼女をさらに波乱多き人生へと誘うのであった。

ハリウッド発の「衝撃の実話」って向こうでは常識でも、こっちでは知られてないものが多いですよね。『アメリカン・スナイパー』『フォックス・キャッチャー』『ビニー 信じる男』、最近だと『オンリー・ザ・ブレイブ』などなど。ですがさすがにこの話は当時スポーツ報知の一面にもでかでかと載ったので知っておりました。そのくらいセンセーショナルな事件だったということですね。

ただ別段自分フィギュアスケートに興味がそれほどあるわけでもなく、「映画化された」と聞いても食指がなかな動きませんでした。けれどツイッターで「クズしか出て来なくてすごく楽しい」という評判を聞いて一転。鑑賞することに決めました。
たしかに楽しいところも色々ありました。「ケリガン襲撃事件」を企てた面々の壮絶なボケっぷりとかね。
けれどどちらかといえばそれ以上に痛々しさの方が印象に残ってしまいました。いつもDVを受けてるトーニャの姿がまず視覚的に痛そうだし、彼女の身近な人々の身勝手さがまた強烈に痛い。
まあこの作品も映画である以上完全な真実ではないんでしょうけど、もしそれにかなり近いのだとしたら、「悪役」のイメージが強かったトーニャにどうにも同情したくなってしまいました。

彼女にも全く問題ないわけではないんですが、あんなモンスター親に育てられたら、そりゃ問題児にもなろうというもの。あと五輪で仮にも4位になったのに、それでもスポンサーがつかずレストランでウェイトレスやってたのが厳しすぎる。国内じゃなくて世界の4位ですよ!? その辺は選手によるのかもしれませんけど、フィギュアってのは恐ろしいほど一握りの選手しか報われないのだなあ…と。それでもそのわずかな可能性を夢見て、世界中の子供たちが歯を食いしばってチャレンジしてるんでしょうね。

そんな傷だらけの彼女を演じるのはいま最もホットな女優の1人であるマーゴット・ロビー。プロデューサーの1人としても名を連ねております。輝かしいばかりの美貌を誇る彼女ですが、なぜかハーレクインとか、ピーターラビットの妹など怪我の絶えない役が続いております。もしかして自己破壊願望でもあるのかしら…と心配になってまいりました。

Ity2ちなみにこの映画に対してケリガンさんは「私はあの映画を見ていませんし、何か言うこともありません。」「自分の人生を生きるのに忙しいのです」とクールなコメント。トーニャさんの方は「映画の詳細はいくらか事実と違うと主張しながらも、自分に再びスポットライトが当たったことで嬉しそうである」とのことです。うーん、いかにもな反応。まあ喜んでるならそれでいいのかなあ。

『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』はまだぷちっとだけ上映館が残っておりますが、もう少ししたらDVD発売・配信が始まるでしょう。というか北米版はもう普通に変えます。華やかな銀盤の裏面が知りたい方はどうぞ。


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August 03, 2018

ゼロの終点? 谷口悟朗 『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』

Cdg最近ちょくちょくあるテレビシリーズの総集編的映画。本日はその中でも特に目立っている『コードギアス』の最終作、『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』をご紹介します。第一部『興道』の記事はコチラ。第二部『叛道』の記事はコチラ

一度は記憶を奪われたものの、なんとか自分を取り戻し再びブリタニアへの反旗を翻したルルーシュ=ゼロ。だが最愛の妹ナナリーは、敵である父シャルルの掌中に陥ってしまう。ルルーシュは多くのわだかまりを抱えた友・スザクにプライドを捨てて彼女を守ってくれるよう懇願するが…

『エヴァ』といい『ガルパン』といい、そしてこの『コードギアス』外伝の『亡国のアキト』といい、TV版終了後の激情展開はどんどんスケジュールがのびのびになっていくもの。ですから今回の総集編三部作は流用シーンも多かったとはいえちゃんと予定通り公開されて「たいへんよくがんばりましたね」と褒めてあげたいです。
オーソドックスな総集編だった第一部に対し、いろいろいじりすぎてよくわからなくなった第二部。そして第三部はちらかしまくったものをなんとか風呂敷におさめようと頑張る、そんな印象でした。おさめきれなくてぽろぽろこぼれたものもあった気がしますが、まあ一応許容範囲だったかな、と。

やっぱり多少とっちらかっていても、思い入れのあるエピソードが流れたりすると「そんなことは細かいことよね」と思えてきてしまうもので。今回の『皇道』で申しますと、ロロ君が必死でルルーシュを救おうとするシーン。あんなにひどいことを言われたのに(それも仕方ないっちゃ仕方ないんですが)、それでも命と引き換えに「兄」を守りきったロロ君。そしてそんな彼に初めて心からの笑顔を見せるルルーシュ…

なんだか書いててまた鼻水が垂れ流れて来ましたね… 『皇道』だけでなく『コードギアス』全体でここが一番泣かされたくだりかもしれません。ちなみに一番「ひでえ」と思ったのは『叛道』のユーフェミアの惨劇のあたりです。

あと今回の総集編三部作、わたしが苦手だったラブコメパートがほとんど削られてたのでその辺が大変みやすうございました。本編では悲劇的な最期をむかえたあの嬢ちゃんが普通に生き延びたのもよかった。ここまで改変しちゃってもよいものか?とも思いましたがあれじゃあの娘のおかあさんが可哀想すぎますし、まあいいんじゃないでしょうか。

そして本当にちらっとだけ変えられたラストシーン。いよいよ満を持して「彼」が復活するのでしょうか。アニオタを長いことやってるわたしもテレビシリーズ完結から十年を経て「生き返った」という例は聞いたことがありません。
完全新作『コードギアス 復活のルルーシュ』は来年2月に全国で劇場公開されることがつい先ほど発表されました。楽しみなような観るのが怖いような… 確実に観ますけどね!

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July 24, 2018

みぞれふる 武田綾乃 山田尚子 『リズと青い鳥』

独特な作風で異彩を放っている山田尚子監督の最新作。先日(といってももう一か月前…)地方にも流れて来たので観てきました。『リズと青い鳥』、ご紹介します。

夏のコンクールを控えた北宇治高校の吹奏楽部。オーボエ担当の鎧塚みぞれは、フルート担当の傘木希美と共に演奏し、一緒にいられることを何よりも幸せに感じていた。しかし課題曲「リズと青い鳥」を練習するうちに、その曲の物語が二人の間にさざ波を立てていく。

このお話、ライトノベルおよびそれを原作としたアニメ『響け! ユーフォニアム』のスピンオフなんだそうです。たぶんそちらを見て(読んで)なくても十分にわかると思います。わたしがそうだったんで。
『響け!~』の方ではそれなりに男子キャラも活躍するようなんですが、こちらの『リズ~』では共学校が舞台なのに男子の影が『あずまんが大王』なみに薄いです。まあ男子なんか一人もいなくても成立するお話なのですね。

そんな風に十代の女子の純粋な思いだけをひたすら突き固めて出来た宝石の結晶のような映画。一歩間違えればついていきがたい独りよがりな空気が漂ったかもしれませんが、わたしはそうは感じませんでした。こんなおっさんでも大好きな人とただ一緒にいるだけでしやわせになれる…という気持ちはそれなりにわかるもんで。なんだか書いててとってもはずかしいぞ!! そして劇中のお話のように「大好きなら束縛しないでその人の自由にさせてあげなきゃ」という気持ちや、それがいろいろ辛いという思いもわかる。んで、それは恋愛に限らず友人との間にも生じることであるし。それともそこまで深まった切ねえ思いのことを普通は「恋」というのでしょうか。う~~~んむ。

最初は全然観る気なかったんですが、ツイッターでの好評と、ある酒席で一緒に飲んだ人が語った「足しか映らないシーンがえんえんとある」という感想を聞いて鑑賞することにしました。なるほど、噂に違わぬこだわりの深い足描写でした。もちろん足以外のところもいっぱい映りますが、そうした演出に山田監督の飾り気のないセンスが光っていた気がします。

20180720_162318本年度もたくさん作られてる国産アニメ映画ですが、評者の間で最も高い支持を受けるのはこの作品かも。『リズと青い鳥』はさすがに公開もほぼ終わってしまいましたがぼちぼちDVDも出ると思いますので興味ある方はそちらでごらんください。


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July 17, 2018

蝙蝠忍法帖 水崎淳平 『ニンジャバットマン』

20180623_152143なにかと斜め上から攻めてくるDCコミックスの最新映画は、『~VS鷹の爪団』につづく日本のアニメスタジオとのコラボレーション。『ニンジャバットマン』(すげえタイトル…)、ご紹介します。

ゴリラのマッドサイエンティストの実験により、中世の日本に飛ばされてしまったバットマンとその仲間たち、そして宿敵たち。ジョーカーをはじめとするヴィランたちは諸国の戦国大名になりかわり、天下統一を果たさんとしのぎをけずる。時間も国も違う状況ながら、それでも正義を貫くバットマンは、ファミリーとともに「ヴィラン大名」に敢然と戦いを挑む。

どうですかこのいかれまくったストーリー… わたしはてっきりDCでいう「エルスワールドもの」(もしバットマンが異なる時代に生まれていれば…みたいな話)かと予想していたのですが、一応バットマン正史にも無理やり組み込めなくはない話でした。
で、脚本がアメコミにも造詣の深い中島かずき先生なので、意外とキャラクターたちは原作の設定を忠実に踏襲していたりします。『フラッシュ』から珍妙な悪役のゴリラグロットをひっぱってきたり、別に全員出さなくてもよいのに歴代のロビン兄弟のそろい踏みをさせたり。その辺から先生の並々ならぬこだわりがうかがえます。ちなみにロビン軍団を初見の方たちに簡単に説明すると

ナイトウイング…初代。チャラいようで苦労人。サーカス出身
レッドフード…二代目。一度死んでヴィランになったことも
レッドロビン…三代目。頭脳・技術派。一番普通
ロビン…現役。最年少だが暗殺技術を習得してる

という感じです。
ただ一方で中島先生の別な趣味も大暴走してました。この方はロボット系にもめっぽう愛情を注いでる方なんですよね… それをこの『ニンジャバットマン』でもいかんなく発揮しておられました。クライマックスなどは「バットマン」ではなく別の何かを見ているような錯覚を覚えたほどです。
わたくしこの作品を舞台挨拶付きで鑑賞したのですが、その時のスタッフのお話によると「半ズボンの小学生6年生あたりが一番観ていて楽しい映画」とおっしゃってました。あと「明らかにおかしい状況でも作中では誰もつっこまない。つっこむのは観客の皆さん。だから無言で観られるととてもつらい」とも。幸いその願いがかなって応援上映の企画もポツポツ行われているようです。
あと『鷹の爪団』の時はとにかく「お金がない」ということが強調されてましたが、今回はわりと潤沢な資金があったようです。その甲斐あってか菅野祐悟先生の勇壮なスコアが鳴り響き、『ポプテピピック』とは全く異なる「神風動画」の本気の超絶技巧が拝見できます。途中ちょっぴり「AC部」になってたところもありましたが、それはそれでご愛嬌。
たとえ周りのすべてがボケようとも、己のポリシーを曲げずに正義を貫くバットマン。金も地位もスーパービーグルも失いながら、自分を自分たらしめているのはその肉体と精神なのだ…ということは決して見失いません。そしてなによりバットマンって意外と日本刀がめちゃくちゃ似合うのです。そのチャンバラのためだけでもこの映画は観る価値があります。

20180623_170607『ニンジャバットマン』は上映劇場が少ないので近くでやっている方は大変ラッキーです。そろそろ一陣は公開が終わりそうなのでだまされたと思ってこの映像ドラッグを味わってきてください。本当に「だまされた!」と思われたらその時はすいません。隣の画像は舞台挨拶の時の様子。まめつぶみたいだなー


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