September 11, 2018

妹はお姉さん 細田守 『未来のミライ』

今夏もアニメ映画をよく観ました。今日はそのうちの一本で細田守氏の最新作『未来のミライ』をご紹介します。

くんちゃんはまだ小学校にも上がっていない甘えん坊の男の子。妹のみらいちゃんが生まれてからというもの、両親はそちらにかかりきりで、かまってもらえないくんちゃんは癇癪を起す日々が続いていた。そんなある日くんちゃんは自宅の庭で「王子」と名乗る奇妙な男と出会い、それをきっかけに不思議な体験を繰り返すことになる。

予告から勝手に感動押しの泣けるお話かと予想していたのですが、これまでの細田作品では最も淡々としたストーリーだったように感じました。ちょうどくんちゃんが読んでる絵本によくあるようなパターン。ごく日常的な状況にある子供が、ちょっとだけ非現実的な体験をルーチンのように何回か経験していくというストーリー。ぱっと思い出せる例が『はれ、時々ぶた』と『トイレにいっていいですか』くらいしかないのが辛いところですが。

そしてこれまで以上に細田監督の私小説感が濃厚になったアニメでもあります。ネット等で「『うちの子かわいいでしょ?』という話をえんえんと見せつけられてるようできつい」という意見がありましたが、わたしはそうは感じませんでした。くんちゃんは時折かわいくて健気な一面も見せますが、基本的にはダダとわがままをこねまくるなかなか手ごわい男児です。でもまあ大抵の子供というのはそういうもんじゃないでしょうか。「育児って大変だな…」ということが未経験の者にもよく伝わって来ました。あと妹が生まれたばかりの時、すぐに機嫌を損ねる様子がわたしの上の姪とかなりおんなじでそのことを思い出してにんまりいたしました。

ただやっぱり細田監督や夏アニメには壮大な冒険とか切ないお別れとかを期待してしまうもので、その点ではちょっと物足りなかったかな… 今回はいいですけど次はもうちょっと細田さんのご家庭から飛躍した話が観たいものです(えらそう)。
個人的に気に入ったのはくんちゃんちにおける犬「ユッコ」の扱いとか。その家に子供が生まれた途端一番かわいい存在ではなくなってしまう…という例、いかにもありそうですよね。大島弓子先生の『綿の国星』にもそんなエピソードがありました。
あと前作からキャラデザが貞本義久さんでなくなってるんですけど、絵はおんなじだったりします。そんな貞本そっくり絵で描かれるイケメンが男のわたしでもドキッとするような色気を放っておりました。

日本テレビその他から「ポスト宮崎駿」として期待されている細田さん。先の言葉と矛盾するようですが、本人はあんまりそんなこと気にしなくてのびのびと自分のやりたいことをやってる様子で、いいなと思いました。『未来のミライ』はまだたぶん上映中。あと1週くらいでしょうか

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August 07, 2018

時代に早すぎた男たち ニック・パーク 『ア―リーマン ~ダグと仲間のキックオフ!』

Elm1『犬ヶ島』『ぼくの名前はズッキーニ』とコマ撮りアニメの傑作が相次いで公開された2018年ですが、老舗のアードマンの新作も後を追うようにしてやってまいりました。『ア―リーマン ~ダグと仲間のキックオフ!』、ご紹介します。

たぶん古代のヨーロッパ。原始人のダグと仲間たちは緑豊かな谷間で毎日楽しく暮らしていた。しかしそこへ青銅器文明を持つ帝国が侵攻し、強引に領土としてしまう。荒野に追いやられたダグは帝国の総督に直談判し、彼らのエリートとサッカーの試合で勝ったら谷間を返してくれると約束を取り付けるのだが…

まずサッカーってそんな紀元前から存在してたのか??という疑問がわきますが、子供アニメでそういう堅苦しいことを言ってはいけません。あと約1万年前の中国の地層から実際に石の球が発掘されてるそうなので、この時代本当に存在していた可能性もわずかながらあります。
ともかく、石器文明のワイルドな連中と青銅器文明のちょっとおしゃれな連中がサッカーで熱戦を繰り広げるという発想が面白い。…ですが…

この素っ頓狂なアイデアに並ぶストーリーやキャラクターがあったかというと、ちょっと首をかしげざるをえません。さすがは古豪のアードマン、もちろん十分に楽しい作品ではあるのですが、少し前の『ひつじのショーン バック・トゥ・ホーム』やニック・パーク黄金期の『ウォレスとグルミット』に比べるとどうしてもインパクトに欠けるというか。そうやってすぐなんでも他と比べてしまう。オタクっていやですね…
あとやっぱりアードマンは人間よりも動物をメインに据えた方が内容的にも商売的にも成功するような気がします。この映画にしてもダグのペットの犬のようなイノシシや、いつの間にか仲良くなる巨大ガモ、食べられそうなのに楽しそうなウサギに送り主そっくりにしゃべる伝書オウムなどなど動物の方が俄然印象に残ってしまったような。

ああ… 本当はこんな風に文句つけたくないのに… アードマンをもっと持ち上げて激賞したいのに!! 

この映画英国の名門イートン高の同級生、エディ・レッドメインとトム・ヒドルストンの珍しい共演作であるのに、字幕版がほとんどなかったのもつろうございましたね…

Elm2と、ついオタクらしい愚痴が多くなってしまいましたが、普通に面白いですから! 気になった方は円盤か配信でご覧ください。

アードマンの次回作は『ひつじのショーン』劇場版第二作。公開日はまだ決まってないそうで。ちゃっちゃと進めちゃって! また、もう一方の雄「ライカ」の新作はこれまた原始人ものになるっぽいです。かぶった…

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August 06, 2018

銀のサディスティック …あらら クレイグ・ガレスピー 『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』

Itny1遅れて公開された上にさらに書くのが遅れた映画が続きます。本日はアカデミー助演女優賞を持っていった「真実に基づく物語」。、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』をご紹介します。

20世紀末。アメリカはポートランドに住む少女トーニャ・ハーディングは、幼少のころから品のない星一徹のような母親に特訓されて、フィギュアスケートの実力をめきめきとあげていく。やがてはその高いジャンプで全米にも名前を轟かすようになるのだが、一方で彼女の奔放な演技は審査員たちから不評を買うのだった。そんな折、地元の青年のジェフと恋に落ちたトーニャは彼と結婚する。しかしそれは彼女をさらに波乱多き人生へと誘うのであった。

ハリウッド発の「衝撃の実話」って向こうでは常識でも、こっちでは知られてないものが多いですよね。『アメリカン・スナイパー』『フォックス・キャッチャー』『ビニー 信じる男』、最近だと『オンリー・ザ・ブレイブ』などなど。ですがさすがにこの話は当時スポーツ報知の一面にもでかでかと載ったので知っておりました。そのくらいセンセーショナルな事件だったということですね。

ただ別段自分フィギュアスケートに興味がそれほどあるわけでもなく、「映画化された」と聞いても食指がなかな動きませんでした。けれどツイッターで「クズしか出て来なくてすごく楽しい」という評判を聞いて一転。鑑賞することに決めました。
たしかに楽しいところも色々ありました。「ケリガン襲撃事件」を企てた面々の壮絶なボケっぷりとかね。
けれどどちらかといえばそれ以上に痛々しさの方が印象に残ってしまいました。いつもDVを受けてるトーニャの姿がまず視覚的に痛そうだし、彼女の身近な人々の身勝手さがまた強烈に痛い。
まあこの作品も映画である以上完全な真実ではないんでしょうけど、もしそれにかなり近いのだとしたら、「悪役」のイメージが強かったトーニャにどうにも同情したくなってしまいました。

彼女にも全く問題ないわけではないんですが、あんなモンスター親に育てられたら、そりゃ問題児にもなろうというもの。あと五輪で仮にも4位になったのに、それでもスポンサーがつかずレストランでウェイトレスやってたのが厳しすぎる。国内じゃなくて世界の4位ですよ!? その辺は選手によるのかもしれませんけど、フィギュアってのは恐ろしいほど一握りの選手しか報われないのだなあ…と。それでもそのわずかな可能性を夢見て、世界中の子供たちが歯を食いしばってチャレンジしてるんでしょうね。

そんな傷だらけの彼女を演じるのはいま最もホットな女優の1人であるマーゴット・ロビー。プロデューサーの1人としても名を連ねております。輝かしいばかりの美貌を誇る彼女ですが、なぜかハーレクインとか、ピーターラビットの妹など怪我の絶えない役が続いております。もしかして自己破壊願望でもあるのかしら…と心配になってまいりました。

Ity2ちなみにこの映画に対してケリガンさんは「私はあの映画を見ていませんし、何か言うこともありません。」「自分の人生を生きるのに忙しいのです」とクールなコメント。トーニャさんの方は「映画の詳細はいくらか事実と違うと主張しながらも、自分に再びスポットライトが当たったことで嬉しそうである」とのことです。うーん、いかにもな反応。まあ喜んでるならそれでいいのかなあ。

『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』はまだぷちっとだけ上映館が残っておりますが、もう少ししたらDVD発売・配信が始まるでしょう。というか北米版はもう普通に変えます。華やかな銀盤の裏面が知りたい方はどうぞ。


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August 03, 2018

ゼロの終点? 谷口悟朗 『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』

Cdg最近ちょくちょくあるテレビシリーズの総集編的映画。本日はその中でも特に目立っている『コードギアス』の最終作、『コードギアス 反逆のルルーシュⅢ 皇道』をご紹介します。第一部『興道』の記事はコチラ。第二部『叛道』の記事はコチラ

一度は記憶を奪われたものの、なんとか自分を取り戻し再びブリタニアへの反旗を翻したルルーシュ=ゼロ。だが最愛の妹ナナリーは、敵である父シャルルの掌中に陥ってしまう。ルルーシュは多くのわだかまりを抱えた友・スザクにプライドを捨てて彼女を守ってくれるよう懇願するが…

『エヴァ』といい『ガルパン』といい、そしてこの『コードギアス』外伝の『亡国のアキト』といい、TV版終了後の激情展開はどんどんスケジュールがのびのびになっていくもの。ですから今回の総集編三部作は流用シーンも多かったとはいえちゃんと予定通り公開されて「たいへんよくがんばりましたね」と褒めてあげたいです。
オーソドックスな総集編だった第一部に対し、いろいろいじりすぎてよくわからなくなった第二部。そして第三部はちらかしまくったものをなんとか風呂敷におさめようと頑張る、そんな印象でした。おさめきれなくてぽろぽろこぼれたものもあった気がしますが、まあ一応許容範囲だったかな、と。

やっぱり多少とっちらかっていても、思い入れのあるエピソードが流れたりすると「そんなことは細かいことよね」と思えてきてしまうもので。今回の『皇道』で申しますと、ロロ君が必死でルルーシュを救おうとするシーン。あんなにひどいことを言われたのに(それも仕方ないっちゃ仕方ないんですが)、それでも命と引き換えに「兄」を守りきったロロ君。そしてそんな彼に初めて心からの笑顔を見せるルルーシュ…

なんだか書いててまた鼻水が垂れ流れて来ましたね… 『皇道』だけでなく『コードギアス』全体でここが一番泣かされたくだりかもしれません。ちなみに一番「ひでえ」と思ったのは『叛道』のユーフェミアの惨劇のあたりです。

あと今回の総集編三部作、わたしが苦手だったラブコメパートがほとんど削られてたのでその辺が大変みやすうございました。本編では悲劇的な最期をむかえたあの嬢ちゃんが普通に生き延びたのもよかった。ここまで改変しちゃってもよいものか?とも思いましたがあれじゃあの娘のおかあさんが可哀想すぎますし、まあいいんじゃないでしょうか。

そして本当にちらっとだけ変えられたラストシーン。いよいよ満を持して「彼」が復活するのでしょうか。アニオタを長いことやってるわたしもテレビシリーズ完結から十年を経て「生き返った」という例は聞いたことがありません。
完全新作『コードギアス 復活のルルーシュ』は来年2月に全国で劇場公開されることがつい先ほど発表されました。楽しみなような観るのが怖いような… 確実に観ますけどね!

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July 24, 2018

みぞれふる 武田綾乃 山田尚子 『リズと青い鳥』

独特な作風で異彩を放っている山田尚子監督の最新作。先日(といってももう一か月前…)地方にも流れて来たので観てきました。『リズと青い鳥』、ご紹介します。

夏のコンクールを控えた北宇治高校の吹奏楽部。オーボエ担当の鎧塚みぞれは、フルート担当の傘木希美と共に演奏し、一緒にいられることを何よりも幸せに感じていた。しかし課題曲「リズと青い鳥」を練習するうちに、その曲の物語が二人の間にさざ波を立てていく。

このお話、ライトノベルおよびそれを原作としたアニメ『響け! ユーフォニアム』のスピンオフなんだそうです。たぶんそちらを見て(読んで)なくても十分にわかると思います。わたしがそうだったんで。
『響け!~』の方ではそれなりに男子キャラも活躍するようなんですが、こちらの『リズ~』では共学校が舞台なのに男子の影が『あずまんが大王』なみに薄いです。まあ男子なんか一人もいなくても成立するお話なのですね。

そんな風に十代の女子の純粋な思いだけをひたすら突き固めて出来た宝石の結晶のような映画。一歩間違えればついていきがたい独りよがりな空気が漂ったかもしれませんが、わたしはそうは感じませんでした。こんなおっさんでも大好きな人とただ一緒にいるだけでしやわせになれる…という気持ちはそれなりにわかるもんで。なんだか書いててとってもはずかしいぞ!! そして劇中のお話のように「大好きなら束縛しないでその人の自由にさせてあげなきゃ」という気持ちや、それがいろいろ辛いという思いもわかる。んで、それは恋愛に限らず友人との間にも生じることであるし。それともそこまで深まった切ねえ思いのことを普通は「恋」というのでしょうか。う~~~んむ。

最初は全然観る気なかったんですが、ツイッターでの好評と、ある酒席で一緒に飲んだ人が語った「足しか映らないシーンがえんえんとある」という感想を聞いて鑑賞することにしました。なるほど、噂に違わぬこだわりの深い足描写でした。もちろん足以外のところもいっぱい映りますが、そうした演出に山田監督の飾り気のないセンスが光っていた気がします。

20180720_162318本年度もたくさん作られてる国産アニメ映画ですが、評者の間で最も高い支持を受けるのはこの作品かも。『リズと青い鳥』はさすがに公開もほぼ終わってしまいましたがぼちぼちDVDも出ると思いますので興味ある方はそちらでごらんください。


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July 17, 2018

蝙蝠忍法帖 水崎淳平 『ニンジャバットマン』

20180623_152143なにかと斜め上から攻めてくるDCコミックスの最新映画は、『~VS鷹の爪団』につづく日本のアニメスタジオとのコラボレーション。『ニンジャバットマン』(すげえタイトル…)、ご紹介します。

ゴリラのマッドサイエンティストの実験により、中世の日本に飛ばされてしまったバットマンとその仲間たち、そして宿敵たち。ジョーカーをはじめとするヴィランたちは諸国の戦国大名になりかわり、天下統一を果たさんとしのぎをけずる。時間も国も違う状況ながら、それでも正義を貫くバットマンは、ファミリーとともに「ヴィラン大名」に敢然と戦いを挑む。

どうですかこのいかれまくったストーリー… わたしはてっきりDCでいう「エルスワールドもの」(もしバットマンが異なる時代に生まれていれば…みたいな話)かと予想していたのですが、一応バットマン正史にも無理やり組み込めなくはない話でした。
で、脚本がアメコミにも造詣の深い中島かずき先生なので、意外とキャラクターたちは原作の設定を忠実に踏襲していたりします。『フラッシュ』から珍妙な悪役のゴリラグロットをひっぱってきたり、別に全員出さなくてもよいのに歴代のロビン兄弟のそろい踏みをさせたり。その辺から先生の並々ならぬこだわりがうかがえます。ちなみにロビン軍団を初見の方たちに簡単に説明すると

ナイトウイング…初代。チャラいようで苦労人。サーカス出身
レッドフード…二代目。一度死んでヴィランになったことも
レッドロビン…三代目。頭脳・技術派。一番普通
ロビン…現役。最年少だが暗殺技術を習得してる

という感じです。
ただ一方で中島先生の別な趣味も大暴走してました。この方はロボット系にもめっぽう愛情を注いでる方なんですよね… それをこの『ニンジャバットマン』でもいかんなく発揮しておられました。クライマックスなどは「バットマン」ではなく別の何かを見ているような錯覚を覚えたほどです。
わたくしこの作品を舞台挨拶付きで鑑賞したのですが、その時のスタッフのお話によると「半ズボンの小学生6年生あたりが一番観ていて楽しい映画」とおっしゃってました。あと「明らかにおかしい状況でも作中では誰もつっこまない。つっこむのは観客の皆さん。だから無言で観られるととてもつらい」とも。幸いその願いがかなって応援上映の企画もポツポツ行われているようです。
あと『鷹の爪団』の時はとにかく「お金がない」ということが強調されてましたが、今回はわりと潤沢な資金があったようです。その甲斐あってか菅野祐悟先生の勇壮なスコアが鳴り響き、『ポプテピピック』とは全く異なる「神風動画」の本気の超絶技巧が拝見できます。途中ちょっぴり「AC部」になってたところもありましたが、それはそれでご愛嬌。
たとえ周りのすべてがボケようとも、己のポリシーを曲げずに正義を貫くバットマン。金も地位もスーパービーグルも失いながら、自分を自分たらしめているのはその肉体と精神なのだ…ということは決して見失いません。そしてなによりバットマンって意外と日本刀がめちゃくちゃ似合うのです。そのチャンバラのためだけでもこの映画は観る価値があります。

20180623_170607『ニンジャバットマン』は上映劇場が少ないので近くでやっている方は大変ラッキーです。そろそろ一陣は公開が終わりそうなのでだまされたと思ってこの映像ドラッグを味わってきてください。本当に「だまされた!」と思われたらその時はすいません。隣の画像は舞台挨拶の時の様子。まめつぶみたいだなー


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July 04, 2018

犬神家の獄門島 略して ウェス・アンダーソン 『犬ヶ島』

Igs1「すでに公開終了している映画」の紹介第二弾は、異才ウェス・アンダーソンが二度目のコマ撮り映画に挑んだ『犬ヶ島』でございます。

架空の日本。犬を憎むメガ崎市の市長コバヤシは、伝染病を媒介する原因として市内のすべての犬を離れ小島の「犬ヶ島」に隔離してしまう。だが自分に尽くしてくれた愛犬を諦めきれない市長の養子アタリは、単身犬ヶ島に潜入し、その犬「スポッツ」を救出しようと試みる。たまたまアタリと出会った4匹の犬たちはその心意気に打たれ、スポッツを探す旅に同行する。

最初に設定を聞いたとき首をひねりました。なぜ日本なのか。なぜ犬なのか。そこに理由はあまりないと思いますがたりない頭で考えてみました。

ウェスさんはアニメのオールタイム・ベストの1位か2位に『AKIRA』をあげておられました。ジブリ作品などもけっこうお好きなようです。つまり自分の手で好きな「日本のアニメ」を作ってみたかったのではないでしょうか。それがどうしてこうなったのかは謎ですが。正直AKIRAよりもジブリよりも、70年代的な風景やドタバタしてる時の表現などから『ド根性ガエル』や『天才バカボン』に近いセンスを感じました。

そしてなぜ犬なのか。外国の人が抱く日本のイメージのひとつに「侍」があります。しかし現代日本にサムライはいません。そこでどうしてもサムライ的なものを出したいウェスさんは、「忠義に熱い」「かっこいい」「戦闘力が高い」ということで代わるものとして「犬」を選んだものと思われます。劇中には『七人の侍』へのオマージュらしきシーンもありますし、島に捨てられた犬たちは主君を失った浪人と非常によく似てます。

ウェス作品ではよく犬猫などの小動物がひどい目にあいますが、『犬ヶ島』はその集大成的な映画でもありました。人形(犬形?)の映画ということで愛護団体からの抗議もないので、その点やりたい放題でした。動物が嫌いなわけではないと思うんですよね。好きなゆえにちょっかい出したり、小突きたくなってしまうようなそんなゆがんだ愛情かと。アニメとはいえ犬たちはいい迷惑です。

あとやっぱり「犬が喋る」ということや彼らが徒党を組んで冒険に挑むところは、高橋よしひろ氏の『銀牙』を思い出さずにはいられませんでした。この漫画はフィンランドではガラパゴス的な人気があるそうですが、ウェス氏もどこかで読んでいたのでしょうか? それとも単なる偶然か。
ちなみに今『銀牙』のシリーズは3作に渡る続編を経て最終章に突入。長年の敵である熊と戦うか和解すべきかという面倒くさそうな展開になっています。

話がそれました。少し前まで「毒にも薬にもならない」という作風だったウェスさんですが、前作『グランド・ブダペスト・ホテル』に引き続き『犬ヶ島』でもちらっと社会風刺的なメッセージが込められておりました。大人になっちゃったんですかねえ、ウェスさん。でも正直今回は素っ頓狂な日本描写やエキセントリックなキャラ達のせいでその辺はだいぶかすんでました(笑) 訴えたいことがあるなら、もう少しシリアスな映画でやった方がよいかと思われます。

Igs2『犬ヶ島』は現在ほぼ公開が終了。こんだけ日本愛を注いでくださったにも関わらず、興行の方はぱっとしなかったようで申し訳ない限りです。
まあ近々DVDが出るでしょう。この映画はぶっちゃけテレビ画面で観てもあんまり醍醐味とかは変わらないと思います。ワンちゃんの好きな人はぜひ。

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June 19, 2018

シン・メカゴジラ 静野孔文 瀬下寛之 『GODZILLA 決戦機動増殖都市』』

Gkk1史上初となるアニメ映画版ゴジラ三部作。本日はその第二部となる『GODZILLA 決戦機動増殖都市』を紹介いたします。第一部の記事はコチラ

ゴジラアースの圧倒的な破壊力の前に大敗を余儀なくされた人類軍。意識を失ったリーダーのハルオは人類の末裔らしき原住民の少女に介抱される。なんとか生き残った仲間たちと合流した彼は周囲を探検しているうちに、かつて人類軍の切り札であった機動兵器「メカゴジラ」がまだ機能していることを知る。なんとかシステムを復旧させ、さらに改良を重ねたハルオたちはアースゴジラにリターンマッチを挑む。

今年の春はスクリーンに二度もメカゴジラが登場した異常な時期でした。一本はスピルバーグのアレで、もう一本はこちらです。ただこの「メカゴジラ」の解釈がなんというかこう… 「そう来たか!」という感じでw
二作目にいたってようやく自分、スタッフが何を目指したのかわかった気がします。彼らは怪獣映画を作るというより、ゴジラを題材にしたハードSFがやりたかったのでしょう。だからか今回ゴジラさんの出番は終盤のみに限定されております。
まあそれはそれで面白い。今回の前半は「ウン万年たった地球がどんな風に変化したのか」という秘境探検ものとして、前作以上にワクワクしましたし、メカゴジラを形成するナノマシンの特徴や、ハルオたちに協力する宇宙人・未来人の考え方の違いなどもいちいち興味深い。
ただ「ゴジラ映画」を期待していった従来のファンたちはちょっときつかったかもしれません。わたしが思い出したのは『機動戦士ガンダム』を原作とした『フォー・ザ・バレル』という小説。『ガンダム』の子供っぽいところ、けれんみの強いところを徹底的に排除しSFとしての完成度をひたすら追求した作品。それはそれでオシャレで不思議な魅力があったのですが、本来のガンダムからはだいぶかけ離れてしまったような。
でもわたしとしては何かしら新しい試みをした方がコンテンツは自由になるし、さらに発展していくと思うので今回のこの試みも大いに賛同しております。
新しいといえばこれまでのゴジラ映画は大抵1作で片づけなければならないという不文律がありましたが、「3作かけないと倒せない」ということでいまだかつてないゴジラの無敵さが際立っているような。というかこんな感じだと3作目でも倒せるかどうかわかりません。
あと前の記事で自分は「虚淵さんの真骨頂はむしろストーリーの中盤あたり。だいたいその辺で主人公の世界観を根底から揺るがす衝撃的な事実が明らかになり、お話がどう解決するのかさっぱり予想がつかなくなります」と書きましたが、珍しいことに大体この予想が当たっておりました。まあ虚淵さんは残酷なようで心根は優しい方なので、この三部作も一応希望を残す形で終わるんじゃないかと思います。

この映画公開直前に刊行された本編を補完する小説の第二作『GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』も前作『怪獣惑星』同様相変わらず面白い。忘れられた東宝特撮のマイナーネタがこれでもかと詰め込まれ、そしてひたすら破滅に突き進んでいく珍妙な作品です(笑) 映画版第3作の前にこちらももう一冊出していただけると嬉しい。

Gkk2『GODZILLA 決戦機動増殖都市』はもう終わったかと思ってましたが、まだ月末までは公開してるようです。近々ネットフリックスでも配信されるでしょう。そして11月には完結編『星を食らうもの』が公開。今度はゴジラの宿敵であるアレが登場するようで。ハルオ君たちの戦いを最後まで見届けたいと思います。

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June 11, 2018

恐怖箱男 グラハム・アナブル アンソニー・スタキ 『ボックストロール』

Hakocoverゴールデン・ウィークに観た映画の感想を今頃書いています… 本日はストップ・モーション・アニメの雄、ライカスタジオの作品で唯一日本未公開だった『ボックス・トロール』について紹介いたします。連休中に恵比寿の写真美術館で特別上映されたのでようやく拝むことができたのでした。

昔々あるところに、夜な夜な箱をかぶったトロールが徘徊する街があった。トロールは危険ということで市長は駆除業者のスナッチャーを雇い、一匹、また一匹とトロールを捕獲していく。トロールに育てられた男の子エッグズは仲間たちが捕まっていくのを涙を呑んで見守るほかなかった。だがやがてエッグズはトロールを助けるために勇気を出してスナッチャーに立ち向かっていく。

一応原作はアラン・スノウという方の小説『Here Be Monsters』。ただ550ページもある大長編ゆえかなりのアレンジがなされたものと思われます。
トロールといえばファンタジー世界では人を襲う怪物であったり、それなりに愛嬌のある妖精であったり、作品ごとにまちまちでありますが、この映画では後者のイメージで描かれています。よくわからないのはなぜ箱をかぶってるのか、ということ。それは作品を観ているうちにわかりました。単純に面白いからです。まず箱をかぶっていると擬態しやすい。さらに寄り集まって合体しやすい。他にもさまざまな箱アクションが披露されます。
あとこの「箱かぶり」というのがこの作品のトロールの性質をよく表しているのですね。人一倍臆病なために駆除業者が襲ってきても、逃げるよりも立ち向かうよりもまず箱にこもってじっと身をひそめることを選ぶという。わたしも日頃からびくびくして生きているので彼らに感情移入せずにはいられませんでした。

そんなトロールたちの窮状を打開すべく奮闘するエッグズが魅力的なのはもちろんですが、この映画にはもう二人異彩を放つキャラクターが登場します。
1人は市長の娘でエッグズに興味を示すウィニー(声はエル・ファニング)。いわば童話におけるお姫様ポジションでありながら、なかなかに乱暴で自己顕示欲の高いやや壊れたヒロイン。でも心の底にはあったかいものを秘めていて、エッグズを懸命に助けようとがんばります。こういう型にはまらない「お姫様」、いいですよね。
もう1人は駆除業者のスナッチャー。彼はトロールが実はおとなしい生き物であることを知っていて、自分の野望のためにそれを隠してエッグズたちを迫害します。この男はチーズのアレルギーを持っているのですが、「出世するためには町の有力者たちのようにチーズ通でなければならない」と思い込んでいて、無理やり苦手なそれに慣れようとします。その際の描写が思いっきりグロテスクで、やけに力が入っておりました。ライカ作品はみな多かれ少なかれホラー的な要素がありますが、『ボックストロール』は怖いというより、このグロ方向に思い切り振りきれておりました。

そんなちょいと悪趣味なところはありますが、ライカ歴代二位の売上を記録し(それでも赤字ですが)、第87回アカデミー賞の長編アニメ映画賞とゴールデングローブ賞アニメ映画賞にノミネートされ、アニー賞では9部門にノミネートされ声優賞と美術賞を受賞したくらいですから一級品のエンターテインメントであり、ストップモーションアニメの大傑作であります。先に話題になった『KUBO』などは動きがなめらかすぎてもはやCGと区別がつかないくらいでしたが、こちらはまだ人形独自の温かみのある質感がよく伝わってきました。そしてエンドロール後にはそんなコマ撮りアニメに費やされる恐ろしいほどの手間暇が、メタ的な演出で明らかにされます。本当にこんなろくろく儲けにもならないような作業をそれほどな苦労をかけて作っているとは… すばらしい(笑) あらためてこれからもコマ撮りアニメを応援していこうと心に固く誓いました。

41jx92krjl__sy355_当然特別上映は終了してしまいましたが、『ボックストロール』は現在普通にDVDで観られます。ご興味おありの方はどうぞ。
コマ撮りアニメの新作としては現在ウェス・アンダーソンの『犬ヶ島』が絶賛上映中。来月にはアードマンの『ア―リーマン』も待機しています。


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May 30, 2018

サイボーグじいちゃんI 奥浩哉・佐藤信介 『いぬやしき』

Inuyashikie1460137240369これももう鑑賞からまる一か月経っちゃってますけど、まだ辛うじて公開中『GANTZ』『変』で知られる奥浩哉氏のコミックを、『アイアムア・ヒーロー』の佐藤信介監督が映画化。『いぬやしき』、ご紹介します。

癌で余命わずかな中高年サラリーマン・犬屋敷壱郎と、内に暗いものを秘めた高校生・獅子神皓はある晩たまたま同じ公園にいたところ、宇宙からの謎の物体の直撃に遭い、体をスーパーパワーを持つロボットに改造されてしまう。人助けのためにその力を使う犬屋敷と、欲望の赴くままに殺戮を続ける獅子神は、やがて当然のように対決の時を迎える。

原作は連載時だらだらと読んでました。よくもわるくも『GANTZ』と同じ特徴が出た漫画で、発想もビジュアルもまことに面白いんだけど、全体の構成とか完成度は非常に適当と申しますか。ひたすらノリで突き進んでエネルギーが切れたらさっさと終わりにしてしまった、そんな印象(奥先生ごめんなさい)。

だもんで映画もあまり期待してなかったのですが、これがとてもよかった。まず全10巻の漫画を2時間にまとめたことで主人公二人の対比とかテーマがぐっと際立った気がします。
犬屋敷さんは家庭でも会社でもつまはじきにされ、唯一慕ってくれるのは犬だけという非常に悲しいおじさんなのですが、それでもどこまでも善人であり続ける男。ヒーローらしくないのは老化著しい外見と気弱な性格くらいです。対して宿敵の獅子神は美形だしそれなりに何人かから愛されてるにも関わらず、「父から捨てられた」というコンプレックスを捨てきれず凶行に走ります。
以下、中バレで

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このあと一度は救ったお母さんがネットやメディアで責められて自殺を遂げ、獅子神の怨念はさらに増幅していくわけですが、この辺が実に現代的なテーマだなあと感じました。「叩いていい」と判断されると全く関係ない人たちまでこぞって鬼のようにバッシングする…というのをよく見かけます。もちろん犯罪や不祥事は正されてしかるべきですが、そういうのは感情的にではなく理性に乗っ取って然るべき立場の人たちが冷静に裁くべきだと思うのですよね。まして多少の失言や失敗などは誰にでもあることではないでしょうか。獅子神母を演じているのが先日不倫でやり玉にあげられていた斉藤由貴だからかよけいにそんなことを思いました。

そういった深刻な題材とは裏腹に、奥先生独特のメカデザインが十二分に再現され、大都会をバックに思う存分暴れる映像は胸躍ります。漫画でももちろんかっこいいのですが、色がついて音がついてバリバリ動くとさらに魅力が増します。佐藤監督が以前映像化した『GANTZ』 の時よりその点さらに洗練されておりました。

どうしても原作disになってしまって申し訳ないのですが、あの結末がどうも納得いかなかったわたしにとって、こちらのENDは実に気持ちよく心和むものでした。そしてエンドロールの途中のシーンがまたよかった。わたしが原作で一番気に入ってたくだりを、さらにさわやかにアレンジして最後の最後に持ってきてくれたので。『アイアムア・ヒーロー』もそうでしたが、本当に原作を愛しその上でよくまとめアレンジした「実写化」の成功例になっていたと思います。
Inuyashiki2e1460137490559本当によく働かれる佐藤監督はやはり人気漫画原作の『BREACH!』を夏に公開されるとのこと。彼はどっちかというと小市民を主人公にした方がいいお仕事をされるので若干の不安を感じるのですが、余裕があったら観ておこうと思います。


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