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May 11, 2025

2025年3月に観た映画

恒例の二ヶ月遅れの映画覚書。3月はアカデミー賞関連の映画ばかり観てました。

☆『ANORA アノーラ』

カンヌのパルムドールに加え、アカデミー監督・作品・主演女優他計五部門を受賞。しかしのっけからアダルティなお店の描写がグイっと入って来るので、家族連れにはまず向かない作品。

バカップルがはしゃぐ序盤、どんどん収拾がつかなくなっていく中盤、祭りがだんだん収束していく終盤にわかれていて、もちろん楽しいのは中盤のビッチさんとヤクザの用心棒みたいな連中が行く先々で騒動を巻き起こすあたり。ただバカ騒ぎでは終わらず人生の哀歓をしんみりと描く終盤あっての映画賞高評価でしょうか。

ショーン・ベイカー監督の前作『フロリダ・プロジェクト』もそうでしたが、あけっぴろげでも物悲しいヒロイン像は西原理恵子の『ぼくんち』などを思い出させます。

 

☆『名もなき者』

☆『ベターマン』

前者はボブ・ディランの若き日をつづった作品、後者はロビー・ウィリアムズが猿に扮して半生を語った映画。ノミネートはされたけど無冠に終わりました。

こういう実在のミュージシャンを題材にした作品ってだいたい流れが決まってて、無名のころの苦労→ブレイクして大スターに→サクセスしてしまったゆえの苦悩→一皮むけて成長するか死んじゃうか という感じでしょうか。この2作品は主人公がまだ存命なので明るい感じで終わってます。

『名もなき者』は監督・アーティストの特性のゆえか全体的に爽やかなムード。恩人たちや恋人との関係にほっこりしたり切なくなったり。ボブもそれなりにドラッグにふけってた時期があったそうですが、そこはスルー。『ベター・マン』の方は対照的にドラッグ描写がっつりでギラギラした仕上りになってます。

ひとつ疑問だったのは『ベター・マン』で両親・祖母へのリスペクトは満載なのに一緒に育ったというお姉さんに関しては全く触れられずその辺ちょっとひっかかりました。

 

☆『Flow』

長編アニメ部門受賞作。どうも人類が滅亡したっぽい世界で猫と仲間たち?のサバイバルな船旅が描かれます。こう書くと息詰まるアクション映画のようですが、キャラ達がのんきな上に美術があたたかなパステル調なので気を引き締めないと寝そうになります。画風は名作ゲーム『人食いの大鷲トリコ』とどことなく似てたり。

全編セリフがなく動物が喋ったりはしませんが、明らかに猫が猫を越えた行動を取ることもあり、その辺のリアリティラインが興味深かったです。

落ちはもしかするとバッドエンドを予期させるものとも解釈できますけど、自分はなんとなく作風からそれはないんじゃないか…と思ってます。

 

☆『教皇選挙』

偶然でいまめちゃくちゃタイムリーな映画になってしまった脚色賞受賞作…ということは原作があったのね(今気づいた。英国の小説だそうで)。スルー予定でしたが映像がとても美しいと聞いて見ることにしました。

タイトル通り教皇の座を巡る暗闘を題材にした作品。ただ候補たちがみなそれなりにお上品なおじいちゃんなので、流血沙汰とかにはなりません。それでもひねった謎・伏線がちりばめられていて、一風変わったミステリーのような趣があります。日本でも実際のコンクラーベより前から地道にヒットしてたのは、その辺に理由がありそう。

 

☆『ミッキー17』

こちらはアカデミー賞関係ないですけど、前作『パラサイト』でフィーバーしたポン・ジュノ待望の新作。ハリウッド製作で、荒廃した寒そうな世界を舞台にしたSF映画ということで『スノーピアサー』を思い出しますが、どっちかというとがっつり似てるのは『風の谷のナウシカ』だったり。

アメリカメインのキャストなせいか、あんなにくどめだったポン監督の個性がやや薄めになってしまったきらいはあります。それでも監督お得意のポカーンとさせられる必殺下ネタは健在でした。主人公が限りなく底辺の存在というところもそうかな。そんな最低辺のミッキーに美女が寄ってくるのが謎なんですけど、そこはやはりロバート・パティンソンだからでしょう。

ポン作品のラストはいつもいい意味でモヤモヤさせられるのに、こちらは割とすっきりさっぱりだったのはらしくなかったです。新境地でしょうか。

 

今年のアカデミー作品部門、DUNE2を別枠とするならその中で最もツボにはまったのはアノーラでしょうか。次いで教皇選挙、ブルータリストという感じ。

次回は『ファレル・ウィリアムス ピース・バイ・ピース』『アンジェントルメン』『サイレントナイト』『プロフェッショナル』『アマチュア』について書く予定です。

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May 01, 2025

『べらぼう』を雑に振り返る 4月編

☆第13回「お江戸揺るがす座頭金」

鳥山検校に身請けされた瀬川だったが、蔦重への思いを見抜かれ、次第に二人の関係はぎくしゃくしていく。その一方で盲人たちの組織による無法な高利貸しが問題となり、ついには幕府中枢にまでその影響が及ぶことに。

「べらぼう・闇金ウシジマくん編」。今回は蔦重の影が薄く、江戸時代における借金蟻地獄のえぐい様子が丹念に描かれます。別に贅沢してるわけでもないのにちょっとしたことがきっかけでいつの間にか膨大な返済を抱えてしまう… この辺この時代も現代もあまり変わりありませんね。あーやだやだ

「検校」という言葉、ちらちら時代もので耳にしてましたが、このドラマでやっと正確な意味を知りました。勝海舟の何代か前の人もそうだったとか。あと幕府が盲人を保護するようになったのは『どうする家康』の於愛の方につながると聞いて目が鱗。

 

☆第14回「蔦重瀬川夫婦道中」

座頭金が問題となり捕えられた鳥山検校と瀬川。だが瀬川はあっさりと釈放される。これで離縁がかなえば誰はばかることなく夫婦になれる。そんな夢を描く蔦重と瀬川だったが…

1回目から正ヒロインであった瀬川さん退場の回。借金が生んだ負の連鎖が語られる一方で、人を想う心の連鎖も描かれます。一億数千万払って身請けした女を、その幸せのためにあえて手放す検校。そして蔦重の夢のためにそっと姿を消す瀬川。ふううう… なんでこうなるの!!

何気にゲストのお奉行にベテラン声優井上和彦さんが登場。目をつぶってセリフを聞くと確かにSFヒーローの声でした。

 

☆第15回「死を呼ぶ手袋」

次代将軍と目されていた西の方・家基が狩りの最中突然の死を遂げる。田沼は陰謀の匂いを感じ源内にその真相を探らせるが…

タイトルからして横溝正史っぽい回。さすがは元金田一耕助だけあって源内より先に真相を見抜いた白眉毛様でしたが、まさか第二の被害者となってしまうとは… 反目してた田沼様とようやく和解できたかと思ったらこの展開。史実は非情です。

この回から名前だけは知ってた山東京伝が登場。こんなに軽い人だったの??

この回の『風雲児たち』ポイント:やっと出ましたの杉田玄白。前野良沢は出ないっぽい

 

☆第16回「さらば源内、見立は蓬莱」

田沼より捜査の打ち切りを命じられ、怒りをあらわにする源内。かねてより精神的に参っていたこともあり、源内はさらに常軌を逸した行動を取るようになる。それを陰謀の黒幕が見逃すはずはなかった。

唐丸の退場以来ベロベロ泣かされた回でございました。蔦重もこれまでにないくらい泣いてましたが、本当に彼は源内先生が大好きだったんですね… 先生の方は蔦重に対してはけっこう適当でしたが。須原屋市兵衛さんの「語り継いでいく。どこにも収まらねえ男がいたってことを」のセリフが胸を打ちます。源内先生こと安田顕さん、熱演お疲れ様でした。

この回の『風雲児たち』ポイント:源内が凶宅に移り住み、図面の件で腹を立て…というとこまでは一緒。その先が自分の罪ではなくハメられて、というのはドラマオリジナル。こんなドラマをつむげる森下先生はすごい。でも憎い。好き

 

ここで1週お休みを挟んで、「第1部完」的なムードが漂っておりました。全体の1/3が終わったわけで。第二部は田沼の没落に伴い寛政の改革に苦闘していく蔦重の姿が描かれていくと予想。引き続き期待しております。

 

 

 

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