2025年3月に観た映画
恒例の二ヶ月遅れの映画覚書。3月はアカデミー賞関連の映画ばかり観てました。
☆『ANORA アノーラ』
カンヌのパルムドールに加え、アカデミー監督・作品・主演女優他計五部門を受賞。しかしのっけからアダルティなお店の描写がグイっと入って来るので、家族連れにはまず向かない作品。
バカップルがはしゃぐ序盤、どんどん収拾がつかなくなっていく中盤、祭りがだんだん収束していく終盤にわかれていて、もちろん楽しいのは中盤のビッチさんとヤクザの用心棒みたいな連中が行く先々で騒動を巻き起こすあたり。ただバカ騒ぎでは終わらず人生の哀歓をしんみりと描く終盤あっての映画賞高評価でしょうか。
ショーン・ベイカー監督の前作『フロリダ・プロジェクト』もそうでしたが、あけっぴろげでも物悲しいヒロイン像は西原理恵子の『ぼくんち』などを思い出させます。
☆『名もなき者』
☆『ベターマン』
前者はボブ・ディランの若き日をつづった作品、後者はロビー・ウィリアムズが猿に扮して半生を語った映画。ノミネートはされたけど無冠に終わりました。
こういう実在のミュージシャンを題材にした作品ってだいたい流れが決まってて、無名のころの苦労→ブレイクして大スターに→サクセスしてしまったゆえの苦悩→一皮むけて成長するか死んじゃうか という感じでしょうか。この2作品は主人公がまだ存命なので明るい感じで終わってます。
『名もなき者』は監督・アーティストの特性のゆえか全体的に爽やかなムード。恩人たちや恋人との関係にほっこりしたり切なくなったり。ボブもそれなりにドラッグにふけってた時期があったそうですが、そこはスルー。『ベター・マン』の方は対照的にドラッグ描写がっつりでギラギラした仕上りになってます。
ひとつ疑問だったのは『ベター・マン』で両親・祖母へのリスペクトは満載なのに一緒に育ったというお姉さんに関しては全く触れられずその辺ちょっとひっかかりました。
☆『Flow』
長編アニメ部門受賞作。どうも人類が滅亡したっぽい世界で猫と仲間たち?のサバイバルな船旅が描かれます。こう書くと息詰まるアクション映画のようですが、キャラ達がのんきな上に美術があたたかなパステル調なので気を引き締めないと寝そうになります。画風は名作ゲーム『人食いの大鷲トリコ』とどことなく似てたり。
全編セリフがなく動物が喋ったりはしませんが、明らかに猫が猫を越えた行動を取ることもあり、その辺のリアリティラインが興味深かったです。
落ちはもしかするとバッドエンドを予期させるものとも解釈できますけど、自分はなんとなく作風からそれはないんじゃないか…と思ってます。
☆『教皇選挙』
偶然でいまめちゃくちゃタイムリーな映画になってしまった脚色賞受賞作…ということは原作があったのね(今気づいた。英国の小説だそうで)。スルー予定でしたが映像がとても美しいと聞いて見ることにしました。
タイトル通り教皇の座を巡る暗闘を題材にした作品。ただ候補たちがみなそれなりにお上品なおじいちゃんなので、流血沙汰とかにはなりません。それでもひねった謎・伏線がちりばめられていて、一風変わったミステリーのような趣があります。日本でも実際のコンクラーベより前から地道にヒットしてたのは、その辺に理由がありそう。
☆『ミッキー17』
こちらはアカデミー賞関係ないですけど、前作『パラサイト』でフィーバーしたポン・ジュノ待望の新作。ハリウッド製作で、荒廃した寒そうな世界を舞台にしたSF映画ということで『スノーピアサー』を思い出しますが、どっちかというとがっつり似てるのは『風の谷のナウシカ』だったり。
アメリカメインのキャストなせいか、あんなにくどめだったポン監督の個性がやや薄めになってしまったきらいはあります。それでも監督お得意のポカーンとさせられる必殺下ネタは健在でした。主人公が限りなく底辺の存在というところもそうかな。そんな最低辺のミッキーに美女が寄ってくるのが謎なんですけど、そこはやはりロバート・パティンソンだからでしょう。
ポン作品のラストはいつもいい意味でモヤモヤさせられるのに、こちらは割とすっきりさっぱりだったのはらしくなかったです。新境地でしょうか。
今年のアカデミー作品部門、DUNE2を別枠とするならその中で最もツボにはまったのはアノーラでしょうか。次いで教皇選挙、ブルータリストという感じ。
次回は『ファレル・ウィリアムス ピース・バイ・ピース』『アンジェントルメン』『サイレントナイト』『プロフェッショナル』『アマチュア』について書く予定です。
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