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June 28, 2024

2024年5月に観た映画

上半期ベストに間に合うよういつもより更新ペースをあげています。アクセス数は最近ほとんど虫の息ですがw

ともあれ、5月に観た映画の感想をば

 

☆『異人たち』

山田太一の小説をイギリスの人情派アンドリュー・ヘイが映画化。あんまし観るつもりなかったのですが先の映画化である大林宣彦版が「なかなかにホラー」という噂を聞いてなんか興味が涌いてきてしまったのでした。

結論から言いますとホラーではありませんでした。「え? このままおわっちゃうの?」というラスト含めて、ヘイさんの限りない優しさと寂しさが切々と迫ってくるような作品。あまりに雰囲気がいいので仕事疲れを引きずった身としては前半ついうとうとしてしまったのが難点です。主人公が過疎ったアパートから見る朝焼けの景色とかはとてもツボでした。

ドラマ『シャーロック』ではめちゃくちゃ恐ろしいアンドリュー・スコット氏が愛に飢えている物柔らかな中年男を好演。青田赤道じゃないですけど「役者やの~」とひとりごってしまいました。

 

☆『猿の惑星 キングダム』

「猿の惑星」シリーズ最新作。今風のタイトルですが原題もこれでした。リブートっぽい雰囲気のようで一応前作から300年経ってる世界とのことで、なんだか史記と三国志の関係と似ています。

前作の主人公が武人「シーザー」だったのに対し、今回の主人公は救世主的な「ノア」というネーミング。このノア君の気性が少年漫画のヒーローのようにまっすぐさと優しさを合わせ持つキャラで好感が持てました。

シーザーが平和を説いたのに彼の死後そのメッセージは歪んで伝えられ、権力者の都合のいいように使われてるところはリアルでした。猿だったら人間よりも良い社会を作れるはず…だったのに、人に近づけば近づくほど殺伐とした世界になっていくのは皮肉としかいいようがありません。

 

☆『鬼平犯科帳 血闘』

新スタッフ・キャストで久々に映像化とあいなった『鬼平犯科帳』。連動してたTVドラマ「花屋敷」は情緒を重んじた作風でしたが、こちらは激しいチャンバラ・血しぶきがメインとなっており、さながら「大江戸版ハードポリスアクション」といった趣があります。

旧版との差別化として鬼平がぐれてたころの若い時代が頻繁にインサートされております。この若鬼平を演じるのが主演・現松本幸四郎の息子さんである現市川染五郎君。がんばってましたがあまりに美青年過ぎてちょっと鬼平のイメージとそぐわなかったり。お父さんはなかなかにオヤジ鬼平を自分のものとされてました。

先の『梅安』と同じくプロットに「偶然」が多用されてたり、鬼平が逃がしちゃいけない極悪人を二度も逃がしてしまうという難点はあるのですが、柄本明演じる老盗賊の心意気と、鬼平とのやり取りがあまりにも良かったので上半期ベストの1本です。

 

☆『碁盤斬り』

古典落語「柳田格之進」を翻案とした時代劇。8割くらいは人情噺中心の落ち着いたストーリーなんですが、クライマックスで突然ハードバイオレンスになるあたりは山田洋次監督の藤沢周平原作作品を彷彿とさせます。

あまり映画の題材になることのない「囲碁」が重要なモチーフというのがまず独特です。また白石和彌監督の映し出す江戸風景がとても美しい。本当に『仮面ライダーBLACK SUN』とはなんだったのか(あれはあれで嫌いじゃありませんが)

後半お話が仇討と娘の悲劇のふたつに別れ、仇を探すよりタイムリミットの迫ってる娘の身請けの方を優先すべきでは…?とも思いましたけど最後の小泉今日子がすごくよかったので、これも上半期ベスト候補です。

 

☆『関心領域』

今年のアカデミー賞国際長編部門受賞作。アウシュビッツを管理していたナチ高官ルドルフ・ヘスと、その家族を題材とした作品。この映画を観たあと「ルドルフ・ヘス」で検索したらけっこう長々としたwiki項目があったのですが、読んでみるとどうも映画の内容と噛み合わない。さらに調べてナチ高官には「ルドルフ・ヘス」と「ルドルフ・フェルディナント・ヘス」がいて、今回題材になってたのは後者と判明しました。まぎらわしいですね。

すぐとなりで歴史上稀に見る大虐殺が行われていたのに、ほのぼのと平穏な暮らしに興じるヘス家。残酷な場面はほとんど映し出されません。人の「自分をごまかす力」というのがいくところまでいってしまうと、こうなる…という実例のような話です。

実際はどうだったのかはわかりませんが、この映画ではヘスは奥さんの評価を得るために、ユダヤ人の迫害に血道をあげていたように描かれてました。なんだか『マクベス』みたいですね。作品ではそこまでやりませんでしたが敗戦後ヘスは処刑され、直前に「私だって心を持つ一人の人間だったんだ」とか語ってたそうです。よくもまあそんなことが言えたもんだな…と感じる半面、自分に同じ権力があった場合、同じようにならないと誰が断言できるでしょう。そんな権力を得ることは今後まずないと思いますが、反面教師として心の中にとどめておきたい1本です。

 

あさってには今年も半分終了です。次回は『マッドマックス:フュリオサ』『ボブ・マーリー ONE LOVE』『ドライブアウェイ・ドールズ』『男女残酷物語 サソリ決戦』と他もう一本くらい書くかもしれません。

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June 17, 2024

2024年4月に観た映画

上半期終了が近づいてるのでいつもよりハイペースです(これでも)

 

☆『アイアンクロー』

上半期ベスト候補の1本。80年代米プロレス界で人気を博したフォン・エリック一家。父親のプロモートのもと息子たちは次々とスター選手となっていくが、まるで呪いのように彼らは次々と悲劇に見舞われていく。

「事実は小説よりも奇なり」と申しますけど、まさに現実は映画よりも厳しかったりします(映画では死んだ兄弟が一人省略されてます)。肉体を必死で鍛え上げるエリック兄弟。でも彼らが鍛えるべきは肉体よりメンタルだったのでは…? それともスターとしてのプレッシャーは強い精神力をも押しつぶしてしまうものなのか。

あまりにも残酷なドラマの果てに少しだけ語られる慰めと優しさ。そういうのを「感傷」というのでしょうけど、おっさんになるとどうにもそれに泣けてしょうがなかったのでした。

 

☆『落下の解剖学』

カンヌでパルムドールを受賞し、アカデミー賞でもフランス製作ながら外国語部門でなく作品部門にノミネートされた話題作。雪深い山荘で起きた不審な転落死。自殺なのか、事故なのか、はたまた不仲だった妻の手によるものなのか…

いささか『藪の中』的というか、真相ははっきり明示されず、受け手の想像に委ねられるような作りになっております。それとも自分が提示された答えに気づいてないだけなのか… ただ観た人のほとんどは、「この奥さん、たぶんやっちゃってるよな」という印象を抱くのでは。そういう人の断片的な情報から思い込みに走るような傾向も、この映画のテーマのひとつかと。

『アーガイル』はひたすら猫が気がかりになる映画でしたが、こちらは犬がとても心配になる映画でした。フランス語と英語がチャンポンで語られるのには何か意図があってのことだったのでしょうか。

 

☆『ゴーストバスターズ/フローズン・サマー』

最近急に新作が連発されてる「ゴーストバスターズ」の5作目(他バースの作品を除くと4作目)。前作はGBというよりスピルバーグかスティーブン・キングのような趣がありましたが、今回は彼らの本拠地NYを舞台としていて本来の作風に回帰しておりました。といっても旧世代は引き立て役に徹し、新世代の子どもたちがちゃんと前面に出ているところは好感がもてました。

限りなく可も不可もない、毒にも薬にもならないさくっとしたエンターテインメント。でも仕事あとの疲れた体を引きずって観に行ったので、かえってそういうのがちょうど良かったです。

 

☆『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

前作が思ったよりヒットしちゃったので、ノリで続行することになった「モンスターバース」最新作。地中でのんびり暮らしていたコングさんを襲う、未知のエリアからやってきた謎の猿の軍団。不本意ながら前回共闘したゴジラさんの助けを借りようとするコングさんですが、相手はそうそう話の通じる相手ではなく…

正直あまり期待してなかったのですけど、今回は冒頭で歯痛に悩むコングさんがとても身近に感じられ、最後までどっぷり感情移入してしまいました。怪獣たち全く喋らない(喋れない)のに、彼らの考えが手に取るようにわかる。本当に見事な演技指導…じゃなくて演出力でした。猿系だけでなく様々な形の怪獣が出て来たのも高ポイントです。コングさんになかなかなつかないチビコングは、わたしの家にやってきたばかりの時のちび猫によく似てました。

しかし今回はこけると思ったけどな… モンスターバースの最高収益を更新したとか。やはりアメリカの猿愛、いやゴリラ愛の深さゆえでしょうか。

 

☆『リンダはチキンがたべたい!』

フランス製作の一風変わったアニメ(というか向こうから来るアニメは大体変わってます)。お肉屋さんが休みの日に、娘にチキン料理を作ると約束してしまったお母さん。困った彼女はなんと牧場から鶏を強奪、警察に追われる身となります。その追跡の最中、鶏も脱走に成功。果たしてチキン料理は完成するのか。

こんな風にどんどん収拾がつかなくなっていく展開が滅法楽しい映画でした。また生きた鶏を前にして主人公の女の子が情が涌くのかと思いきや、「あたしがぶっ〇す!」とやる気満々だったり、なかなか強烈なヒロイン像でありました。

吹替ではありましたが、お母さん役が去年3回未亡人を演じた安藤サクラさん。今回もバリバリの後家さんでした。こうなったら未亡人役を演じた回数で記録を更新していってほしいです。

 

やっつけではありますが、だいぶ感想が消化出来ました。残るは5月と6月。次回は『異人たち』『猿の惑星 キングダム』『鬼平犯科帳』『碁盤斬り』『関心領域』あたりについて書きます。

 

 

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June 11, 2024

2024年3月に観た映画

はやいもので2024年もぼちぼち上半期が終わろうとしています。ここらで当ブログもちょっとだけまいていこうと思います(気持ちだけ)。とりあえず3月に観た6本の感想をぱぱぱっと

☆『アーガイル』

マシュー・ヴォーン監督お得意のちょっと変わったスパイアクション。もういいおじさん・おばさんのサム・ロックウェルとプライス・ダラス・ハワードが恋にアクションにお笑いにバタバタ動き回る様子がとってもキュートでした。でもそれよりもっと可愛かったのは監督の愛猫でヒロインのペット役をつとめたニャンコ。これがけっこう危ない目にあいまくりで正直鑑賞中は猫が心配で心配で心配で、メインのストーリーにあまり注意が行きませんでした。

マシューさんはこれも「キングスマン」ワールドに組み込んでさらなる続編を構想してるとのことですが、あまり儲からなかったようですしこれ1本で終わってもいいと思いますよー

 

☆『ネクスト・ゴール・ウィンズ』

一筋縄ではいかないコメディ監督タイカ・ワイティティが挑んだ実録スポーツもの。国際戦で歴史的大敗をやらかした米領サモアサッカー代表が、アメリカを追い出された名監督と組んで初勝利を目指すというストーリー。これ、3か月前に観た映画なのにもうけっこう忘れている… でもけっこう見てる間は面白かった気がする…

暗めの映画にばかりに出てるミヒャエル・ファスビンダ―氏が嬉々としてお笑いを楽しんでる様子が微笑ましゅうございました。あとあんまり知らない米領サモアの風土の勉強になったり。

 

☆『デューン 砂の惑星 PART2』

2年半ぶりの『デューン』待望の完結編。原作やリンチ版で大筋は知ってましたが、ヴィルヌーヴの描く宗教画のような格調高い映像化をハイテンションで楽しませてもらいました。特に興奮したのはポールが巨大サンドワームに飛び乗って乗りこなすシーン。これ、どっかで観たような… そう、『アバター』でドラゴンと「絆を結ぶ」シーンとシチュエーション含めてよく似てます。でも一応原作はこちらの方が先なわけで… とりあえず『デューン』が色々な作品に多大な影響を与えていることを再認識いたしました。

一点しっくりこなかったのは、リンチ版はすごくすっきりした結末だったのに、こちらはなんだかモヤモヤした問題を残した幕となってしまったこと。ある意味より「深い」終わり方と言えなくもないですが。

どうやらヴィルヌーヴはまだ映画化されたことのない(ドラマ化はある)続編『砂漠の子どもたち』を第3部として公開するつもりのよう。十分な収益も出たのでほぼこのまま進むと見ていいでしょう。また3年待つのはしんどいなー

 

☆『名探偵ホームズ』

80年代半ばに登場人物を犬に置き換えてアニメ化されたシャーロック・ホームズ。そのうち宮崎駿が演出し、映画館でもかけられた4本のリバイバル。本当に今の宮崎作品と違って説教臭くなくてバカでわかりやすくて素っ頓狂でめちゃくちゃ楽しかった。楽しすぎた。そういう点では『カリオストロの城』にもひけをとりません。

若くて元気なうちにもっとこういうのいっぱい作ってほしかったなあ

 

☆『オッペンハイマー』

上半期最も感想を書くのが難しい作品。自分としてはこれまでのノーラン作品の中ではかなり異質な映画だと思いました。あの『ダンケルク』でさえエンターテインメントとして楽しめるところがありましたが、これは「楽しむ」ための作品ではないように感じられたので。自らを滅ぼす力を人類が手に入れてしまった世界で、どうやって生きていくか。その現実をつきつけるような映画です。

まず一点学べるのは、国家が禁断の手段を選んでしまう流れ。過去の例を反面教師として、こういう流れになることだけはなんとかして避けていきたいものです。大衆である自分たちにどれほどの力があるのか…ということはさておいて

あとオッペンハイマーはもちろん優れた物理学者ではありますが、恐らく彼がいなくても原爆は完成し投下されたことでしょう。そういう意味では彼は「重要な歯車」とも言える立場だったのかも。抜けても代わりはいたかもしれないけれど、マンハッタン計画において中心となる役割を果たしたという意味で。歯車としての役割を終えた後で、出来る限り個人であろうとした半生も描かれます。

「エンターテインメントではない」と書きましたが、物理学者の目から見える世界の描写や、アインシュタイン、ボーア、フェルミといったその道のビッグネームが続々と登場するところはちょっと楽しかったです。

 

☆『瞳をとじて』

『ミツバチのささやき』で知られるビクトル・エリセ監督の31年ぶりの新作。映画界から足を洗った一人の監督が、突如として現場から失踪した親友でもある主演俳優を探すお話。これが「昔の恋人」ではなく「親友」だったのが良かったなあ…となんとなく感じられました。

未完の映画をめぐる話でもあるのですが、この辺は構想の前半しか出来なかった自作『エル・スール』に対する思いも込められていたのでしょうか。主人公の監督はおじさんなのにさわやかで趣味人で女性から好かれるあたり、先日の『PERFECT DAYS』の役所広司と通じるところがありました。

 

この月は3時間越えの作品が3本あって膀胱と尻痛との戦いでもありましたが、なんとか耐えきりました。さすがオレ。

 

次回は『落下の解剖学』『アイアン・クロ―』『ゴーストバスターズ:フローズン・サマー』『ゴジラ×コング』『リンダはチキンが食べたい!』について書きます

 

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