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October 30, 2022

『鎌倉殿の13人』を雑に振り返る⑩ 10月編

第38回「時を継ぐ者」

鎌倉で更なる権力を得るため、実朝に退位を迫る時政。だがそれは最初から失敗することを覚悟しての、自滅的な行動だった。

タイトル元ネタはJ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』からでしょうか。牧氏の変、というか時政パッパ退場編の後編。なぜそれなりに分別もある時政が妻に煽られるままに暴走したのか…というのは不思議なところですが、Twitterでどなたかが「我々の世代は宮沢りえにお願いされたら絶対に断れない刷り込みのようなものがある」ということを申されていて納得いたしました。

北条時政という人は「風格のある老獪な戦国武将」に近い…それこそ武田信玄みたいな…イメージだったのですが、このドラマを見てからは「やる時はやるけど、作物を愛する気のいい田舎のおっちゃん」という風に変わりました。

なぜ最後まで自分のそばにいてくれないのか、涙ながらに父に詰め寄る義時。もしかしてこれが彼の流す最後の涙だったりして。いよいよ権力の頂点に上り詰め、腹の底から真っ黒黒スケになってしまいました。『ゴッドファーザー』のマイケルそのものでございます。:

この回のまず使わない日本語:「羽林」 やっぱ「武衛」の方がかっこいい

 

☆スペシャルトークショー

残り10回の最終章突入の前に突然放映されたトークショー。飽くことない権謀術数の連打に疲れていた視聴者にちょうどよい癒しとなりました。

まあやはり一番印象に残ったのは大泉洋氏の「日本国民全員の『全部あいつのせい』を僕が受け止める」発言でしょうか。本当に劇中の頼朝そのものでイラっと来ました(笑) スタジオでも概ねそんな反応。ただやっぱり彼の退場と共にお話の陰残さがどんどん増してきたことを考えると、貴重なキャラだったんだなあ…と認めざるを得ません。

あと胸に迫ったのはこれまで退場していった多くの方たちのまとめムービー。中には「死んだ」とも言われずいつの間にか消えてた土肥実平みたいな人も… もっと扱いがひどいのはムービーにすら出てこなかった文覚とかですね。

三谷さんからラストの脚本を頂いて震えあがったという小栗・小池のお二方。ガイドブックには詳しく描かれてなかったですけど、果たしてどんな結末なのか。アガサ・クリスティの某名作からヒントを得たとのことですが…

 

第39回「穏やかな一日」

牧氏の変の後から和田合戦の間の1207~1212年あたりの出来事を、さらっと一日に編集したエピソード…ということを冒頭で説明する実体長澤まさみ。あなたは一体誰なんですか!?

それはともかくこの回は義時よりも将軍実朝のデリケートな心情を細やかに描いた内容となっておりました。勘のいい方は先のおばばとの面談でお気づきになっていたようですが、このドラマでは実朝はやはり同性愛者だった…と捉えているようです。ただその意中の相手が泰時だったとは意外でした。女子からは「朴念仁で面白みがない」と言われる泰時ですが、一体彼のどこに惹かれたのか。やっぱり顔が坂口健太郎だからか。ノンケの気持ちのいいやつに恋してしまって苦しむという話、最近吉田秋生先生の『詩歌川百景』でも読みました。

オリキャラなのか実在の人物なのか不明だった鶴丸は、この回で「平盛綱」だったことが判明。彼と泰時主従は見ていて微笑ましいですね。あと「殺しときゃよかった」と言った直後に「父上にうまいもんでももってってやれ」と言う義時はかなり屈折してます。

この回の重要なアイテム:間違えて渡した…ということだったけど本当は間違いじゃなかった恋の歌

 

第40回「罠と罠」

1213年。鎌倉ではトップに立った義時の専横を苦々しく思う御家人たちが、歴戦の勇士である和田義盛の元に集まるようになっていた。義盛自身は何の野心も抱いていなかったが、その勢力を無視できなくなった義時は和田の一党を滅ぼすことを画策する。

どうですこの粗筋。どう読んでも悪役としか思えない人物が大河ドラマの主人公なんだからすごいとしか言いようがありません。

幕府草創期最大の内紛と言われる「和田合戦」への過程を描いたエピソード。今まで愛すべき多くの人たちを見送ってきましたが、今度はとうとう和田さんまで… 何とか助かってほしい… まあもう検索しちゃってどうなるかわかってるんですけど。

そんな重苦しいムードに和田さんの女装という強烈なギャグをぶっこむ三谷脚本。あわや成功するかと思いきややっぱり悲劇に向かってしまうのがこのドラマのセオリーです。

ただ義時も心の底では和田さんが好き…というところを指摘されて肯定してしまうところは切ない。自分の中に望んでいる正反対のことがある。でも鎌倉を守るために誰かを犠牲にする方を選んでしまうわけですね。修羅の道であります。

この回のそれなりに重要なアイテム:あんまり意味なさそうな女物の上っ張り

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October 16, 2022

2022年8月に観た映画

今年もあと二か月半で終わりとか本当に恐ろしいことでございます。とりあえずまたしても今頃ではありますが、夏の盛りに見た映画について覚え書くとします。

☆『劇場版 Gのレコンギスタ』

放映時見そびれてた富野由悠季監督の最新作が、劇場版5部作が完結するころになって盛り上がってきたので慌てて1~3部をアマゾンプライムで予習、4・5部を映画館で観てきました。

富野監督というとやはりガンダム・イデオン中心の重厚なイメージで語られることが多い方ですが、『ザブングル』『ダイターン3』のような力の抜けた元気いっぱいの作品も作れる人。この『Gレコ』はそこまでくだけちゃいないけど、「重富野」と「軽富野」の中間くらいのムードになっておりました。かつてにくらべると丸くなったな…という印象がある反面、若かった時の「元気」は衰えていないようで頼もしい限りです。

今までのガンダムもそうなんですが、こういう近未来SFというのは異なる二つの勢力の争う単純な構図になりがちなもの。しかし『Gレコ』では主に4つの国家が登場し、それぞれに和平派と好戦派がいたりします。各勢力から和平を望む者たちが寄り集まり、その集団が戦いを収束させていく流れが面白かったです。独特なセンスで描かれた宇宙建造物も見応えがありました。

 

☆『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち

マイBESTコミックである『風雲児たち』で最も好きなパート「大黒屋光太夫」編を、同作のファンである名脚本家三谷幸喜氏が歌舞伎化。それをさらに「シネマ歌舞伎」として映画館用にアレンジした作品。

まあこれ当たり前のことなのかもしれませんが、原作の大事なところはおさえつつも、漫画の忠実な舞台化というよりは、これはこれでひとつの「三谷幸喜作品」になっておりました。代表的な漂流民のキャラクターも微妙に性格が違ってたりしてて。あと歌舞伎というより新劇に近い印象。

現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』といっぱいかぶっていたのが楽しかったです。やはり三谷さんの歴史劇って「みなもと太郎メソッド」をお手本にして作られてるんだな…と改めて思いました。少し前亡くなられたみなもと先生の絵が、冒頭でスクリーンいっぱいに動いていたのにも感動しました。

 

☆『ソニック・ザ・ムービー ソニックVSナックルズ』

コロナ禍でありながら早くも続編を作ってきた『ソニック ザ・ムービー』の2作目。はっきり言うと「今回も面白かった」くらいしか感想が浮かんでこないという… それでもひねり出してみると

・『鎌倉殿の13人』で活躍中だったイケメン・中川大志君の吹替がめっちゃうまい

・なぜ宇宙からやってくるエイリアンがそろいもそろってモフモフの可愛い動物なのか(可愛いからゆるす)

・ロシアでのダンスバトルが楽しかったが今の情勢を思うと悲しい。

あと今夏観たキッズムービー三作品、クライマックスがなぜかみな怪獣映画でした。『ゴジラVSコング』ヒットの影響でしょうか。

 

☆『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』

フランス発のアメコミヒーローパロディ映画。さえない俳優が主役に抜擢された作品『バッドマン』撮影中に事故にあい、自分を本物のバッドマンだと思い込んでしまうお話。ポスターはアベンジャーズ風ですが、どっちかというと中心になってるのはバットマン。ただ一応マーベルのネタも色々入ってます。

監督が海外版『シティハンター』の人ゆえか、恐ろしく下ネタが多く、そういうのあまり気にしない私でさえ「これどっかから叩かれないだろうか」と心配になりました。今やアメリカよりも欧州の方が下ネタに寛容なのでしょうか。なんとか料金分くらいは楽しみましたが、これスクリーンよりうちで寝っ転がって観た方が楽しいかも。

 

☆『DC がんばれ!スーパーペット』

DCの数あるキャラクターの中でも、まず映画化されなさそうなスーパーヒーローたちのペット、特にスーパーマンの飼い犬「クリプト」にスポットをあてた物語。一発ネタ的映画かと思いきや、これがなかなか人間関係における重要な教訓が含まれていて深い内容となっておりました。例えば一人の友達にべったり依存しすぎちゃいけない、他にも等しく親しい友人を何人か作っておいた方がいい…とか。実際にすんなりそうできたらなんも苦労はないわけですが。

他にもクリプトのよき理解者となるバット犬エースの悲しい過去とか、モルカーをほうふつとさせる珍妙スーパーモルモット軍団とか、クリプト決死の最終奥義とか、動物たちの見どころがあまりに多く、本来なら一番目立ちそうなジャスティスリーグの面々がちゃんと脇固めになってるところがなかなかすごい。

自分的には年間ベストの一本に入るくらいお気に入りの作品となりましたが、日本では壮絶にぶっこけてしまったのが悲しい。本国ではきちんと売れてるようなのがせめてもの救いです。

 

次回は9月に観た『NOPE』『この子は邪悪』『ブレット・トレイン』『ハイ&ロー ザ・ワーストX』などについて書きます

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October 02, 2022

『鎌倉殿の13人』を雑に振り返る⑨9月編

第34回「理想の結婚」

後味の悪い頼家暗殺の後、鎌倉は実朝を中心とした体制を一層強いものとしていく。さすがに自分の罪の重さに落ち込んでいた義時だったが、影の薄さナンバー1だった13人の一人二階堂行政から孫娘を嫁にとすすめられ、年甲斐もなく(地味に)浮かれ出す。

タイトル元は『最高の離婚』でしょうか。たぶんまだ1204年ごろのお話。陰残な内ゲバがず――――――っと続いていて疲れ切った視聴者たちに、オアシスのように訪れた息抜き回。「義時最後の妻」である「のえ」さん、清純派であまり菊地凛子っぽくないなあと思っていたら終了間際にやらかしてくれたというか笑わせてくれたというか。これをもって義時の「おなごはキノコが好き」説は完全に誤りであったことが証明された感。

この回は実朝を鍛えるべく各御家人たちが各々得意分野を代わる代わる教授するシーンも楽しかったですね。義村の「おなごとのあとくされの無い別れ方」講座はいらない、というか無い方がいいと思います。

この回の重要なアイテム:何度目かの山盛りキノコ ナベになった鹿之助

 

第35回「苦い盃」

実朝がまだ若いため、実質鎌倉のトップに立っているのは執権・北条時政。だが基本は田舎のおっさんなので、その治めっぷりは情に流されやすくいい加減な采配も多い。そこへ来て妻のりくに煽られて、さらなる領地拡大を狙い始める。そのことが発端で、婿であり同胞である畠山重忠との間柄に亀裂が入っていく。

前回に引き続き笑える場面も多いのですけど、それと並行して畠山さん退場の前奏曲が奏でられていくのがつらい回。引き続き、といえばいまひとつ掴みどころのなかった実朝君はアットホームな和田邸で鹿鍋をいただいてから、どんどん彼と奥さんになついていきます。その様子が大変微笑ましいのですけど、不在の間に御所は大騒ぎになってしまい、こいつら絶対あとですげえ怒られるぞ…とハラハラしました。

そして抜き打ち的に出てきた謎の老婆=大竹しのぶ。悩める実朝君に「お前の悩みはお前だけのものではない」と、見かけとは裏腹にとてもいいアドバイスを送ります。それを聞いてさめざめと泣く実朝君。なんていい子なんでしょう。前二代がアレすぎたというのもありますが、この子は一体誰に似たのでしょう。

この回の重要な教訓:よくわからない書類にハンコは押さない 雪の日は出歩かない たまには風呂に入る

 

第36回「武士の鑑」

悪妻に煽られまくった時政パパはとうとう重忠を陥れることに成功。ここに「畠山重忠の乱」が勃発。ただ重忠は軍勢を集めることはせず、恭順もせず、少数の兵で武士の誇りを守ることで歴史に名を残そうとする。

1205年の出来事。この回はもう畠山重忠&中川大志君の独壇場でありました。顔もいい、頭も切れる、武芸も達者となればちょっと嫌味なキャラになりそうですが、おごるところは少しもなく、質実剛健を地で行く畠山殿にただただ感服し、泣かされた回でありました。まだ若いのに貫禄たっぷりにそれを演じきった中川君がまたすごい。

また、悲痛なエピソードに笑いを添えてくれた和田さんとのあれこれも印象深かったです。「あいつとは同じものを感じるのです」とか「なんでわかったんだ!」とか「腕相撲で決めよう」とか。この「美男と野獣」コンビも見納めと思うと寂しい限りでした。クライマックスにおける小四郎との『クローズ ZERO』みたいなヤンキーバトルも迫力ありましたね。

結局なんでいるのかわからないままに足立遠元氏もこの回でフェードアウト。「13人」も残り7人となりました。

この回の重要なアイテム:重忠と和田さんの別れの水杯

 

第37回「オンベレブンンビンバ」

時政の悪政により無実の罪で討たれた重忠。鎌倉でさらなる悲劇が起こらないようにするため、政子と義時は父と戦う決意を固める。両者の激突は必至…かと思われたが、なぜか時政は酒と魚持参で一人政子たちの元を訪れる。そして北条親子の最後の宴が始まる。

突然の謎タイトル。ネットでは「イタリア語で『子供のための影』の意味では」という考察が流れてましたが、単に大姫の呪文「オンタラクソワカ」を適当に覚えていた、ということでした。誰もちゃんと覚えていなくて放送禁止すれすれのワードまで飛び出して来ましたが、そのあまりの和やかさに「毎回こういうのでいいんだよ! もう史実も無視していいから!!(駄目です)」と思わずにはいられませんでした。

時政さんも色々ひどいことやってんですけど、「もうこここまでかな」と悟ったような笑顔を見せられると坂東彌十郎さんの人柄もあってか、速攻で許したくなってしまうのがずるいですね。和田さんが結果的に上総広常の思い出話をしてたのにも和みました。

この回の重要でもないアイテム。トキューサがモチモチモチモチしてた餅

 

先ごろ「全48回」という発表がありましたので、『鎌倉殿』もあと残り11回。早くも寂しくなってきました…

 

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