僕の前に道はできる ジョン・ワッツ 『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』
一本の映画でひとつの記事を書くのもこれまた本当に久しぶり。本日ははやくも2022年の映画ベストワンになってしまいそうなMCU最新作にしてジョン・ワッツ版スパイダーマン完結編『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』を紹介いたします。
前作ラストでヴィランのミステリオにより正体を暴かれ、殺人の濡れぎぬまで着せられたスパイダーマン=ピーター・パーカーはメディアの猛バッシングを受けることに。そのせいで恋人MJや親友ネッドの大学進学まで絶望的になってしまい、責任を感じたピーターは戦友の魔術師ドクター・ストレンジに、魔法の力で人々の記憶から「スパイダーマンの正体」を除き去るよう頼み込む。願いを聞き入れたストレンジだったが、ピーターの注文が細かかったために魔法は失敗。それどころか平行世界からスパイダーマンを憎む者たちを呼び寄せることになってしまう。
以後、さらにどんどんネタバレしていくのでご了承ください。
今回の元ネタのひとつは2007年に発表されたコミック『スパイダーマン/ワン・モア・デイ』。「シビルウォー」事件において世界に正体を明かしたピーターですが、そのことがきっかけで彼に恨みを持つヴィランがメイおばさんを殺害するという悲劇が起きます。己の行為を悔やんだピーターは悪魔メフィストと取引をし、自分の正体を忘れさせることとメイおばさんを生き返らせることの代償として、MJとの結婚をなかったものにしてしまう…というストーリー。この作品は発表当時賛否両論…というか圧倒的不評を持って迎えられました。そんな黒歴史を巧みにアレンジして全米歴代3位はほぼ確定なほどにヒットさせてしまうMCUスタッフには恐れ入ります。
それはともかく、今回の『ノー・ウェイ・ホーム』はスパイダーマンというヒーローの特質をよく表していたと思います。そのひとつはスパイダーマンが「いつも犠牲を払っている」ヒーローだということ。軽口叩いて陽気なイメージのあるスパイディですが、映画作品ではどれも何かしらの悲劇に見舞われています。それは親しい人を辛い目に合わせたり、死なせてしまったり、あるいは私生活が忙殺されたり…ということです。それでいて彼がいい目を見ることはほんのちょびっとしかありません。ヒーローなんてやってても正当な報いを得ることなんてほとんどない。それでもピーターは自分の信念を曲げませんし、生き生きと活動を続けます。
もうひとつの特質はスパイダーマンはレスキューマンであること。アメコミヒーローも数多くいますし、その目的や動機も実に様々。で、スパイダーマンが活動するのは悪を倒すことや組織の命令ではなく、困っている人・死の危険に見舞われてる人を助けること。それがたとえヴィランであってもです。今回の事件なんてパニッシャーが当事者だったら秒速で箱のスイッチが押されてあっという間に解決する話です。ストレンジ先生も冷たく「それが運命だ」と言います。それでも断固として彼らの命をあきらめないピーター。簡単に人命が諦められてしまう今のご時世ならばこそ、そんな少年の純真な姿は胸を打ちます。
さて、これからがいよいよこの作品のキモとも言えるネタバレ部分ですが…
マルチバースの扉が開いてやってきたのは旧作品の悪役だけではなく、2002年から始まった元祖スパイダーマン(トビー・マグワイア)と、2012年から2014年にかけて作られたアメイジング・スパイダーマン(アンドリュー・ガーフィールド)までもが集結します。これ、公開前から噂にはなってましたが、本当に実現するとは思いませんでした。ガーフィールド君なんて「僕はその映画に出る予定ない」なんて公言してたし… だましやがったな!! いや、だましてくれて本当にありがとうw
第1作からリアルタイムでこのシリーズを追いかけてきた自分にとって、このコラボは本当に心躍るものでした。そしてこれ、今のスパイダーマンだからこそ成しえた企画かもしれません。トビーもアンドリューもまだ健在で、さらにヴィランの面々も含め、ファンが狂喜するであろうことを望んで出演を快諾してくれました。これがスーパーマンやバットマンだったら演者に故人もいますし、「大人の事情」で出てくれなそうな方もいます。
また、この映画が素晴らしいのは、好きだったのに中途半端に終わってしまった映画、続編のキャラたちも、私たちが知らない・見られないだけでどこかの時空で変わらず元気にやってるんだな、と実感させてくれたところです。スパイダーマンも元祖・アメイジング共に「この後大丈夫かな?」と不安が残る状態でシリーズ終了となっていました。それが久しぶりに「本人」がスクリーンに登場し、「なんとか元気でやってるよ」と安心させてくれたのですからこれが泣かずにおられましょうか。
泣かずにおれない、といえばトム・ホランド演じるピーターの最後の決断も胸を締め付けられました。またしても大きな犠牲を払わされるスパイダーマン。しかしその顔は意外にも晴れやかです。この世界の誰からも忘れられようと、平行世界で同じようにがんばってる兄弟がいることを知って励まされたのでしょうか。
アメコミ映画によくあるエピソードのひとつに「ヒーローが恋人にだけ正体を明かす」というものがあります。まあ東西を問わず中二少年の妄想がたぎるシチュエーションです。しかし前作でそれをやらかしたピーターは、今回MJのためを思いもう一度それを繰り返したりはしません。相手の平穏を願い自分の望みを捨てた時、人は大人になるのでしょう。スパイダーマン「ホーム3部作」は少年が幾つかの出会いと別れを繰り返し、大人に成長していく物語だったのだと思います。
このシリーズに欠かせないポッチャリ二人組、ネッドとハッピーにも大いに泣かされました。特に今までお笑いしか提供しかしてこなかったネッドに泣かされるとは思わなかった… そしてMCU1作目から登場しヒーローを支え続けてるハッピー。これでお別れみたいなムードが漂ってましたが、これからもこのユニバースの顔であってほしいものです。ただ中の人ジョン・ファブローも映画に出演する傍ら、監督作も待機しててスターウォーズのドラマのプロデューサーもやって料理番組も司会して、過労で死なないか本気で心配です。人のことは言えませんがなかなか不健康な体型してるし… もう少し健康に気を使って末永く活躍していただきたいものです。
果たしてこれから映画スパイダーマンはどこに向かっていくのか。トムホ君もソニー・マーベルの首脳陣もまだ具体的なことは言及してませんが、自分としては3作くらいソニーのヒーロー世界に出張させて、ヴェノムやマイルズ・モラレスとの共演作でも作れば盛り上がると思います。ソニーさん、この企画5千円くらいで買いません?
さしあたって再来月にはソニーのユニバースで『モーヴィウス』が、5月には今回やらかしてくれた『ドクター・ストレンジ』の新作が公開予定。秋にはアニメ作品『スパイダーバース』の続編が二部作で待機しています。スパイダーマンの世界はクモの巣のようにまだまだ広がっていくようです。
Comments
ふと思ったんですが、スパイディもヴィランもいなくなったマルチバースは平和に、いや、結局治療されたあとに両方戻るのか。トムホが全部、自分のマルチバースにヴィランを集めた方がトータル多次元世界では平和になったりして。
Posted by: ふじき78 | April 17, 2022 11:45 PM
>ふじき78さん
それを言っちゃあおしまいよ的な… まあ普通の犯罪者が泥棒したりといった地味な犯罪は増えてるかも
Posted by: SGA屋伍一 | April 20, 2022 03:29 PM