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November 20, 2019

役者をやめるな! 上田慎一郎 『スペシャルアクターズ』

昨年『カメラを止めるな!』がブームとなった上田慎一郎監督の単独第二作。これまた公開だいたい終わっちゃってますけど、『スペシャルアクターズ』ご紹介します。

和人は「緊張すると失神してしまう」という厄介な体質を抱えながら、役者を目指している青年。彼はある晩警備員のバイトをしている時、長い間連絡を取っていなかった弟の宏樹と再会する。そのことがきっかけで和人は新興宗教がらみのスキャンダルに巻き込まれることになる…

演技の最中テンパるとぶっ倒れてしまう役者さん…というアイデアが(本人には気の毒ながら)まず面白い。あとタイトルでもある「スペシャルアクターズ」というのがメディアに出るわけではなく、「レンタル家族」や「レンタル恋人」のように一般人からお金をもらって一定の期間別人を演じるという設定もなにやらワクワクするものを感じます。上田監督は「演じる」「お芝居」というテーマがお好きなようですね。

今回もまた意外性を重視したネタバレ絶対防止設計ゆえ、感想を書くのが難しいのですが、観ている最中は「色々強引だなあ」と感じるところがありました。ただ最後まで見終わると「それも計算のうちかジョジョ…!」と一本取られた気持ちになります。ここで残念なのが、やはりあまりにも完璧だった『カメ止め』と比較してしまうところ。あれの前だったらもっと手放しで絶賛しただろうに… こんな風に前とついつい比べててしまうのが自分の嫌なところだな~と思います。ちなみに体操の着地に例えるなら『カメ止め』は100点満点、『スペアク』は80点、『イソップの思うツボ』はギリギリ50点というところでしょうか。

鑑賞しながらデビッド・フィンチャーの『〇ーム』にも似てるなあ、と感じたのですが、やっぱり上田監督のスタイルで思い出すのは初期のナイト・M・シャマラン。『カメ止め』を『シックス・センス』とするならば今回は『アンブレイカブル』的な作品になる…かな? アメコミヒーロー的なやつも出てきますしw そうすると20年後くらいにまた続編的な完結編が出来てしまうかもしれませんね…

あと冒頭に下手な演技にパワハラかってくらいガンガン怒鳴り散らす監督が出てきて、映画の現場ってだいたいこんな感じなのかなあ・気分悪いなあ…と思ったのですが、上田監督は撮影中動揺した役者さんを抱きしめて「一緒になんとかしましょう!」とフォローしてあげるくらいあったかい人だそうです。ぜひとも成功して日本映画界の現場の野蛮なところを変えてほしいところです。

…もっとも『スペシャルアクターズ』はそれほど話題になることもなく既にほとんどの映画館で公開終了。もう少し『カメ止め』の遺産が効いてくるかな?と思ったのですが… 何の力にもなれず申し訳ない思いでいっぱいです。ただ熱心なファンに支えられ一部の劇場ではまだ細々と続いているようなので、興味わいた方は調べてみてください~

 

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November 18, 2019

ラスト・オブ・シャイアン スコット・クーパー 荒野の誓い

非常にどうでもいい話ですが、今から一ヶ月ほど前、当地域は台風の影響で5日ほど断水になりまして。これはそんなヘロヘロな状況の中、銭湯ついでに観にいった思い出深い作品。クリスチャン・ベール主演の地味残酷西部劇『荒野の誓い』、ご紹介します。

1892年、未だ無法の地域の多いアメリカ。かつてシャイア族と激しく戦ったブロッカー大尉は、その長イエロー・ホークを故郷まで護送する任務を与えられる。友を多く彼らに殺されたブロッカーは、当然苛立ちを抑えきれずにいた。そんな旅の途中、一向は野蛮なコマンチ族に家族を殺されたロザリーという女性を行きがかり上同行させることになる。多くの危険が潜む行程の果てに、ブロッカー、ホーク、ロザリーを待ち受けるものとは…

原題は『Hostiles(敵意たち)』。ただこれだと抽象的なので、とりあえず「荒野の」とつけときゃ西部劇っぽくてわかりやすかろ~という配給さんの気持ちもわかります。

わたしの子供のころ、ネイティブ・アメリカンの方たちはもっぱら「インディアン」と呼ばれておりました。ですがそれが差別的呼び方だということになり、いつのころからか「ネイティブ~」という呼称の方が一般的に。ただそれもベストではないらしく、本当は部族ごとの名前で呼ぶのが一番いいらしいです。その流れをくむかのように、かつては西部劇で野蛮な悪役だった彼らも、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』あたりからはむしろ被害者的な描かれ方に。現代劇ですが少し前の『ウィンド・リバー』でも窮状が切なく語られておりました。

で、『荒野の誓い』でも基本的には「白人に土地を奪われ仕方なく戦った」という立ち位置なのですが、同時に女子供でも容赦なく殺す悪鬼のような原住民も出てきます。確かにどの人種でも全ていい人、もしくはすべて悪い人…ということはなく、いい人もいれば悪い人もいるのが現実。そういう点では大変公平な視点でした。

凶暴なコマンチ族との激闘がずっと続くかと思いきや、この問題はわりとあっさり解決します。その代わりブロッカーやロザリーたちにはまた別の難儀が次から次へと押し寄せませす。その度に旅のメンバーも一人、また一人と減って行く。公平であると同時に意地の悪い話だなあ、とも思いました。でもがんばって最後まで見たら、とてもさわやかな気持ちにさせられました。もう大概ネタバレですけどこのラストシーンがとても素晴らしい。もうちょっと語りたくなるところをがんばってよくそこで止めました!と監督を激励したくなりました。

ちなみにこの映画2017年に本国でかかってるんですけど、興行的にあれだったのか日本では2年くらい遅れての公開となりました。不遇かもしれませんけどやはり西部劇の『ビリー・ザ・キッド』が劇場スルーされたことを考えるとまだいい方かもしれません。なんちゃって西部劇ファンとしてはもう少しわが国でも新しいファンが増えてくれればなあ…と願うしだいです。

主演でますます脂がのってるクリスチャン・ベール氏は来年早々に『フォードVSフェラーリ』にも出演。またしてものアカデミー賞ノミネートも噂されていて、こちらも期待しています。

 

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November 15, 2019

ストーリー・オブ・騒動/高校与太郎卒業編 久保茂昭 『HiGH&LOW THE WORST』

日本映画界におけるガラパゴス的アクションシリーズ『HiGH&LOW』(通称ハイロー)。一昨年の「3」完結するかと思いきやスピンオフ的な展開でもって継続中。本日はそのハイローとコミック『WORST』がコラボした最新作『HiGH&LOW THE WORST』、ご紹介します。1&2作目の感想はこちら 。3作目の感想はこちら。

SWORD地区の一角を担う不良の巣窟鬼邪高校(おやこうこう)。全日制ではリーダーの轟が定時制のボス・村山とタイマンの末敗北したため、誰がトップに成り代わるか群雄割拠的な様相を呈していた。そんな鬼邪高にふらりと戻ってきた転校生・花岡楓士雄はケンカの強さと爽やかな人柄で人望を集めていく。一方町では牙斗螺(きどら)と呼ばれる犯罪組織がドラッグを売りさばき、鬼邪高や近隣の武闘派高校・鳳仙学園にも被害者が出始める。ドラッグを良しとしない村山と鳳仙のボス上田はそれぞれ組織を叩くべく動き始めるが、牙斗螺もまた彼らを罠にかけるべく計略をめぐらす。

走り屋・ホスト・ヤクザと様々なアウトローがごった煮のように登場した前3部作に対し、今回出てくるのは基本的に高校生がほとんど。昭和末期世代としては『ビー・バップ・ハイスクール』や『ろくでなしブルース』などを思い出すところですが、さすが今の不良たちはファッションもおしゃれというか、かつてのコテコテなリーゼントのヤンキーはほとんどおりません。またライバルとなる鳳仙学園の面々は「幹部以外髪をはやしてはいけない」という掟があるためほぼ全員がスキンヘッドという異様な一団であります。

「人多すぎ」が特色のハイローシリーズ、今回も情け容赦なく新キャラがどかどかと登場し中年の記憶力が試されます。が、基本的に見分けがつきやすいのと、サブキャラ全員覚えなくても話にはついていけるのでなんとか乗り切れました。

わたしがなんとなく注目してしまうのは、普通のかっこしてるのにヤンキーたちの中にいるせいでとりわけ目立ってしまう眼鏡君の轟君。『魁‼黒マティ高校』の神山君をなんとなく思い出させるキャラクター(神山君はケンカとかしない子でしたけどね)。かつて不良からいじめられたゆえに体を鍛えて復讐のために「不良狩り」を行っていたという経歴で、周囲からは「ケンカは滅茶苦茶強いがあいつの下には付きたくない」と言われるような、他者を寄せ付けないクールな男であります。ところが天真爛漫な楓士雄から「力を貸して欲しい」と言われると満更でもない感じで助けてやるあたり、本当は友達が欲しかったのか、それとも純真な弟分タイプにほだされてしまう性分だったのか… ともあれそんな轟と楓士雄の関係にほっこりさせられました。

続いて「いいなあ…」と思ったのが富田望未さん演じるヒロインの「ドカ」ことまどかさん。普通こういう話の女子キャラってもっとこうアイドル的な女優さんを起用するものだと思うんですけど、富田さんのコメディエンヌ的キャラが凸凹した楓士雄たち幼馴染グループの紅一点として非常にしっくりはまるんですね。あと年相応に恥じらったかと思えば、不良もびびるほどにすごんだり、はたまた友達や後輩をやさしくなぐさめたり…と色んな顔を見せてくれるところが楽しゅうございました。

主人公の一人でありシリーズの「顔」の一人である村山君も相変わらず面白いですね。ぼーっとしてるようで「鬼邪高はクスリ禁止だから! (やるヤツは)殺すよ」と肝心なところはビシッと決めてくれます。あと楓士雄や轟がピンチになるとすごくいいタイミングで助けに来てくれれます。そういうところはヒーローの面目躍如でありました。

あともう一点書いておきたいのは、鳳仙の情報担当の「サバカン」が役者さんも立ち位置も『ちはやふる』のヒョロくんそのまんまだったこと。監督もあの映画観てたんでしょうか… 入場特典に高橋ヒロシ先生による特別コミックがついてくるのですが、これに収録されてる番外編の主役がなぜかこのサバカン(笑) 高橋先生も(略) ここまで優遇されてるということは次のスピンオフの主役は彼と見て間違いないでしょう。

あ、アクションについてなんも書いてないな… えーと、すごいです。これはもう見てもらうしかない。スローとクイックでリズムをつけながら、誰がどういう動きをしてるのかはっきりわかる映像。人数が多ければ多いほどこういうの難しいと思うのですが、カメラワークの超絶技巧によってそれを可能としております。これはもうハイローのお家芸と言っていいのでは。

残念ながら『HiGH&LOW THE WORST』は昨日をもって大体の劇場で公開が終わってしまったのですが(おーい)、特別上映、応援上映等の企画はまだある模様。気になってきた方は探してみてください。

 

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November 14, 2019

お笑いモンスター誕生 トッド・フィリップス 『ジョーカー』

これはも~語るべき人が語りつくし、わたしが語ることもないと思いますが、一応備忘録として書き留めておきます。今年度下半期最大の問題作といっても過言ではない『ジョーカー』、ご紹介します。

1980年代アメリカ。貧富の差により不穏な空気が漂うゴッサムシティに、老いた母と二人で住むアーサーという青年がいた。彼は精神障害をわずらいながらも、コメディアンとして人々を楽しませようと仕事に励んでいた。だが同僚から護身用の銃を渡されたことと、不遇が度重なったことが、彼の心の中で危険な衝動を育てていく。

キャラクターとしての「ジョーカー」が誕生したのは1940年。恐らく登場してからしばらくはその名の通り道化師的な、バットマンのやられ役、引き立て役にすぎなかったヴィランであります。それが段々と凄みを増していったのはそのオリジンが描かれた1988年のコミック『キリング・ジョーク』から。アメコミを変えたと言われるアラン・ムーアの描くその狂気は、ジョーカーの内に潜む闇をまざまざと読者の胸に刻みつけたのでした。そして2008年ヒース・レジャーが演じた映画『ダークナイト』では、ジョーカーはバットマンと対等と言っていいほどの、計り知れないパワーを持った存在にまで高められます。一方で『レゴバットマン』のようにバッツに執着するかわいらしい駄々っ子のように描かれることもあり… 本当に多種多様のバリエーションが生まれることになります。詳しくは記事下の「ジョーカー表」をご覧ください。

ただここまで書いておいてなんですが、監督のトッド・フィリップスはそれほどジョーカーに対して強い思い入れがあったわけではないようで。じゃあなぜこの映画を手掛けたのかというと、最近個性的なドラマ映画の企画がなかなか通りにくいと。ならとりあえず今人気のアメコミ映画のガワをかぶせておけば自分のやりたい話を撮れるんじゃないかと。そしたらあっさり通ってしまったそうです。ちなみに監督は「何らかの注文とか要請とか来るんじゃないと覚悟してたら全く来なかった」とのこと。さすがはあの「鷹の爪団」ともコラボしたDCコミックス&ワーナーブラザーズ。なかなかの懐の広さです。

というわけで自分はこの映画を「ジョーカー」の映画というよりは、「ジョーカーの名前だけ借りたトッド・フィリップスのマーティン・スコセッシ・オマージュ作品」だと考えてます。すでに色々言われてますが、社会的立場の低い主人公が孤独ゆえか次第に常軌を逸した行動を取っていく流れはスコセッシの名作『タクシードライバー』を彷彿とさせます。また未見ですが、冴えないコメディアンが妄想に取りつかれていくストーリーは『キング・オブ・コメディ』との類似をよく指摘されています。そして両作品の主人公であるロバート・デ・ニーロが重要な役で出演していたり。実際フィリップス監督はこの映画のプロデュースをスコセッシに依頼したそうですが、彼は多忙だったため、代わりの制作者を紹介してくれた…なんて縁もあります。

もっとも主人公にどっぷり自分を重ね合わせていることが多いスコセッシに対し、フィリップス監督はジョーカー=アーサーに対し距離を取っているというか、あくまで客観的に見つめているように感じられます。その辺は彼がずっと『ハングオーバー』などのコメディ作品を手掛けてきたからではなかろうかと。お笑いって「人がなぜそれを面白がるのか」冷静になって考えていく作業でもありますからね。

それはともかくこの映画のヒットと同時進行で、スコセッシ監督が「マーベル映画はテーマパークのようなもので本当の映画じゃない」という発言をしたためにけっこう業界全体に波紋が広がったりもしました。「アメコミ映画」といわずに「マーベル映画」と言ってるあたり自身もちょっと関わった『ジョーカー』に気を使ったのでしょうか。その後ちょこちょこフォロー的な発言もされてましたが、つまるところ彼は渋いドラマ映画や文芸的な作品が劇場でかけづらくなってきたことを憂いているようです。いまそういうのがやりたいとなると映画館よりも配信サービスの方でどうぞ、ということが多いようなので…

で、この『ジョーカー』は体裁だけでもアメコミ映画にしてしまえば、CG少な目の挑戦的な内容でも客は集められるということを証明してしまいました。正直観る前は「バットマンが出てこなそうなジョーカーの映画なんて売れるのか???」とかなり心配しておりました。ところがどすこい、公開前から批評家は絶賛、ベルリン映画祭の金獅子賞は取る、そして最終的には10億$までいっちゃうんじゃないかというヒットぶりです。派手なアクションがあるわけでもなし、美男美女もそんなに出てないし、しんどく切なく苦しいストーリーとおおよそ一般には人気のなさそうな内容にも関わらずこれだけ売れてるのは謎としかいいようがありません。さらにライバルが少ない状況だからとはいえ、日本で4週連続トップを取るほどに客が入ってるのも深い謎です。トッドさんのやり方もあざといとは思いますが、結果的にこんだけドラマ性、テーマ性の深い作品がたくさんの人に観られてるのは良いことなんじゃないでしょうか。

アメコミファンとしてはやっぱり「ガワだけ利用してやりたいことをやった」というのがひっかからないでもないです。けれど聖書やギリシャ神話、シェイクスピアといった古典作品もそういう風に利用されることはよくあります。バットマンとジョーカーも誕生して80年。もう「古典」の部類に属する作品とみなしていいのかもしれません。

わたくしこの映画を観たのはもう一ヶ月以上前なんですけど、未だに映画館で普通に上映中。さらにS・キングの『IT』後編もヒットしていて、空前のピエロブームというちょっとおかしな状況になっております。とりあえず『ジョーカー』はアカデミー賞作品賞候補となることはほぼ間違いないので、アメコミに興味ない人も騙されたと思ってちょっと観ていただきたいです。

 

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November 07, 2019

殺し屋さんたちと動物たち チャド・スタエルスキ 『ジョン・ウィック/パラベラム』

もはやキアヌ・リーブスの代表作となりつつある殺し屋映画シリーズ「ジョン・ウィック」。本日はその最新作にして第3弾の『ジョン・ウィック/パラベラム』、ご紹介します。1作目の記事はこちら 。2作目の記事は こちら

どうにも我慢ならぬことがあり、つい殺し屋組織の掟をやぶってしまった伝説のヒットマン、ジョン・ウィック。それにより彼は組合に所属する全ての殺し屋たちから、賞金首として狙われることになった。ひとまず愛犬をホテルに預け(ホッ)、逃亡のたびに出るジョンさん。文字通り四面楚歌の状況で彼が生き残る道はあるのか…

「そこで終わるんかーい!!」というところで幕を降ろした前作。今回はもろにその直後から始まります。長年の義理からジョンさんにちょっとだけ時間の猶予を与えてしまう殺し屋ホテルの支配人。そのことがジョンさんにわずかな活路を、組織には大きな混乱を招くことになります。

『パラベラム』で特に印象に残ったのはなぜか画面の端々に出てくる動物さんたち。冒頭では厩舎に逃げ込んだジョンさんが実に上手にお馬さんを利用して追っ手をバタバタ撃退していきます。この映画のテーマである?ワンちゃんたちも負けてはいません。ジョンさんとヒロインを守って悪党たちにガブガブと噛み付きます。こんなにされたら悪役の俳優さんもひとたまりもなかろう…ということで恐らくCGかと思ったのですが、撮影現場の動画を見たらガチでした。そのリンクを貼ろうとしたのですが、どこにUPされてたかわからなくなってしまったので、ご興味おありの方はがんばって探してみてください。

そしてジョンさんの最大の好敵手となる男がなぜか猫好きの寿司職人。そのお店ではなぜかきゃりー・ぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」が流れていたりします。謎だ!! さらにこの職人さんとその部下は、ジョンさんがターゲットであるにも関わらず「あんたの大ファンなんだ」と恥ずかしげも無くリスペクトを告白します。そしてピンチになったジョンさんが「ちょっと待って」と言うと素直に待ってしまう… さすがにここは寛容なわたしも「それは幾らなんでもおかしかろう!」と思いました。まあそんな感じでこの度の第3作、これまでよりもお笑いムードが濃くなってしまった感があります。少々腑に落ちない気もしますけれど、猫がかわいかったので許すことにします。

寿司職人を演じるのはマーク・ダカスコスさん。わたしが大好きな『ジェヴォーダンの獣』でネイティブ・アメリカンの武術家を演じておられた方でした。日本、アイルランド、フィリピン、スペイン、中国と様々な人種の血をひくめっちゃ多国籍な俳優さんです。ちなみに『ジェヴォーダンの獣』はフランスの田舎でアメリカン武術とアフリカン武術が激突するという滅法カオスな時代劇でおすすめです。

『ジョン・ウィック/パラベラム』はアメリカで公開されるやまたしても大ヒットとなり(本当に米国人、こういうの好きよね)、ほぼ第4作の製作が決定となってしまいました。それが伝わってきたのが日本公開前。…となるともう大体わかっちゃいますよね。ジョンさんが3作目で生き延びられるのかどうなのか(笑)。今回もまたしてもスッキリしない幕切れだったので、スタッフに苛立ちを覚えつつもたぶん次も付き合うと思います。

若かりしころは続編が嫌いらしかったキアヌさんですけど、先日『マトリックス』の第4作にて再びネオ役を演じることが報じられびっくりしました。恐らくジョン・ウィック4よりもそちらの方が先になることでしょう。20年ぶりのグラサンカンフーに期待しております。

 

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November 04, 2019

沈黙の旅館 アンソニー・マラス 『ホテル・ムンバイ』

有頂天ホテルにグランド・ブダペスト・ホテル、マスカレード・ホテルにホテル・マリーゴールド… ホテルの映画も色々ありますが、本日は実在の事件を題材にしたホテルの作品について書きます。『ホテル・ムンバイ』、ご紹介します。

2008年、インドのムンバイで起きたパキスタンのイスラム過激派による同時多発テロ。その矛先は長い歴史を誇り、資産階級がこぞって利用するタージ・マハル・ホテルにも向けられた。テロリストたちの容赦ない銃撃に逃げ惑いながらも、ホテルの従業員たちは懸命に宿泊客の命を守るべく奔走する。

2008年というと今から11年前。この事件も大大的に報道されてたと思うのですが、なんでか記憶がなく、まことにお恥ずかしい限りです。

インドの映画といえばいかつい男性が歌って踊って悪者たちをバッタバッタとやっつける、そんなイメージですのでみんな明るくハイテンションなんだな…と思います。しかし急成長の影で多くの社会問題も抱えているわけで、この『ホテル・ムンバイ』はそんなインドのひとつの裏面についてわたしたちに教えてくれます。ですから歌も踊りもありません。

ハリウッドのアクション映画ではテロリストがある建物を占拠して、命知らずのヒーロー一人立ち向かって事件を解決する…というものがいっぱいあります。けれど現実ではテロが起きても都合よく正義のヒーローが居合わせることはまずありませんし、兵器の訓練を受けた武装ゲリラが突然押し入ってきたら一般人であるわたしたちは無力に等しい。そんな絶望度100%な状況を巧みなカメラワークで上手に理解させてくれるので、観てるわたしたちもその時の宿泊客の一人になったような気分を味わえます(あまり味わいたくないシチュエーションではありますが)。フィクションではいかにも生き残りそうな人も、出番の少ないキャラと平等にさくっと殺されてしまうところにもテロの恐ろしさがよく表れていました。

で、こういう映画を観ると無信仰の人が多い日本では「やはり宗教は怖い」と感じられる方がいっぱいいると思います。しかし単なる宗教批判の作品ではないことは、ホテルの従業員たちの描写を見るとよくわかります。彼らもテロリストたちと同様信心深い人間たちですし、そもそもお客たちを助けようとするのもその信仰心によるところが大きい。異なる場面で主人公のデーブ・パテルが牛肉を、テロリストたちが豚肉を食べることを嫌悪するシーンがありましたが、そういうところからも動機は違えど宗教が毒にもなり薬にもなるということがうかがえました。

また、情け無用の殺人マシンに見えたパキスタンの少年たちも段々と年相応の顔をのぞかせて辛い気分にさせてくれます。ホテルの豪華な作りに無邪気に驚いたり、女性の死体の胸を探ることをためらったり、故郷の家族に電話で愛情を伝えるエピソードなどから。年若いゆえに純粋であり、その純粋さを狡猾な指導者に利用されてしまう。この黒幕が未だに逮捕されていないという事実になんともやるせない怒りを感じます。

武器を持たぬ者には圧倒的に強かったテロリストの少年たちも、国の特殊部隊の前では赤子同然であり、普通なら気分爽快になるであろう終盤の部分も先に書いた描写などから複雑な思いをかき足られるのでした。

そんなしんどい・せつない・せつない・やるせないと三拍子そろった『ホテル・ムンバイ』でしたが、デーブさん初め自己犠牲的な従業員たちの姿には本当にこころ洗われました。その多くは今も現役でタージ・マハル・ホテルで働いているとのことなので、お金をためてついついお顔を拝見しに行きたくなります。自分の安月給ではとても泊まれない気もしますけど…

『ホテル・ムンバイ』は一月前にTOHO系列で観てきたのですが、これからかかるところもチラホラあるようなので気になった方は公開劇場一覧 をご覧ください。また本来通りの陽気なインド映画も現在『ロボット2.0』が上映中。こちらもおすすめです。

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