傷だらけの… 新海誠 『天気の子』
『君の名は。』でジブリに匹敵するほどのブレイクを成し遂げた鬼才・新海誠。言うまでもありませんけど、その待望の新作が現在公開中であります。『天気の子』、紹介いたします。
わけあって離島から東京へ家出してきた少年・帆高。ネカフェ難民として苦しいくらしを続けた後、彼は怪しげなフリーライター須賀に拾われ、怪しげな都市伝説を調査する仕事を見つける。なんとか仕事も板についてきたころ、帆高はチンピラにつきまとわれていた少女陽菜と出会う。彼女はなんと帆高が取材の際うわさを聞いた「空を晴れさせる能力を持つ少女」だった。
前作のあまりの大ヒットぶりに置いてかれた元からのファンが、「おれたちの新海が帰ってきた!」と喜んでいる本作品。たしかに『君の名は。』よりも直情的というか、作家性が強く表れた映画となっていました。でもやっぱりこの二作で新海監督は大きく変わったと思うんですよね(自分はまだ未鑑賞作品もあるなんちゃって新海ファンですが)。以下にその理由を述べます。
以前の新海作品の主人公はすかした感じのかっこつけた少年がほとんどで、心の中はともかく表面上はエッチなことなど全く考えてないようでした。が、帆高くんと瀧くんは普通におっぱいに興味があるようです。そのことを指摘されて真っ赤になって否定するシーンもあったり。こんなにかっこ悪い姿を以前の新海作品の主人公が見せることはなかったように思います。
もうひとつは「ムー」です。まさか二作続けて新海さんがこの雑誌をキーアイテムとして用いて来ようとは夢にも思いませんでした。胡散臭さの点では東スポに匹敵する「ムー」(すいません)が恋愛ものの小道具として用いられた例は、わたしは他には『ぼくの地球を守って』しか知りません。ちなみに監督は地方の建設会社の御曹司で「ムー」の愛読者だったそうなので、キャラ的には『君の名は。』のテッシーに近いようです。
さらにもう一点ありますが、それは後に回します。
『天気の子』ではこの作品独自の要素も幾つかあります。新海作品といえばキラキラピカピカしたビジュアルが特徴ですが、本作品ではそれよりむしろ薄暗くドバドバ降り続く雨のシーンが多い。それでもかびくさい感じはせず、清潔感・透明感にあふれているのが彼らしいですけど。
あと貧乏描写もこれまでには観られなかった点です。前作でがっぽがっぽ稼いだはずなのに、なぜこれほどまでにジャンクなご飯描写が真にせまっているのでしょう。「貧乏」といえば、実は自分がこの映画にとりわけ感心をひかれたのは、懐かしの名テレビドラマ『傷だらけの天使』のオマージュなのでは?と思うところが幾つかあったからでした。まず『傷だらけ~』の舞台であった代々木会館がこちらでも重要な建物として登場します。また、主人公たちは無垢な人たちのために奮闘し、貧乏でありながら安い食べ物をおいしそうに食べ、明るい未来が全く見えない中でも懸命あがきつづける、そういう姿も通じるものがあります。さらに『傷だらけ~』のオサムと同じく『天気の子』の須賀には離れて暮らす幼い子供がいたり。明確なソースはございませんが、監督はけっこう意識してたのでは、と思い込んでおります。
『天気の子』は不思議な偶然というか、まさに今の時期にぴたりと合わせて公開されたような作品でもあります。ずっと長雨が続いてて、ようやく晴れたその日が公開日だったり、先の代々木会館が封切りからまもなくしてとうとう取り壊されたり。またこの映画の本当に直前に京都アニメーションの悲しい事件がありました。図らずもこの映画はその悲劇に対する鎮魂歌であり、亡くなった方たちの遺志を継ぐ決意表明となってしまった気がしてなりません。それなりに映画を観続けておりますが、こんなにも「時」に呼ばれてきたような例はちょっと記憶にありません。
以下は結末に触れてるのでご了承ください。
『君の名は。』以降で変わったな、と思った三つ目の点は、「ハッピーエンドに対するこだわり」です。前作も今作も物悲しい結末にしようと思えばいくらでもできたはずなのに、強引にベタなハッピーエンドに落とし込んでいます。でもそんな優しい新海監督の方が自分は好きです。ヒロインが『秒速5センチメートル』とおなじ「きっと大丈夫」というセリフをいうところに一抹の不安を感じないでもないですが…(あちらは全然大丈夫じゃなかったので…)
というわけで『天気の子』は予報通り現在大ヒット公開中です。前作には及ばないでしょうけど、おそらく本年度最高の売上を記録するのでは。今の時期は『トイストーリー4』『ライオンキング』『ワンピース』などもあり、ここ3年くらいで最も映画館に人があつまっている気がします。そんな盛況が嬉しいわたくしでございました。
Comments
こんばんは。
願望に正直な男子らしい、感情の起伏と行動力のある主人公と言う意味では、君の名は。と共通していますね。一生懸命鉄道を走るシーンが良かったです。好きだったら何でも出来るという、大人達の中でも須賀は、唯一その少年の恋心を理解して居て、結構、良い大人なんじゃないでしょうか。
好きな人の為であれば、尽くすという気持ちであると。何か、監督じたい、こういう大災害とか、カオスの中から、愛や再生といった、復興状態と言いますか、そのリセットされたがゆえに、未完の世界とか、どん底から這い上がる過程といった、個が全体を振り回してしまう、といったアンバランスな世界が好きなような気がしました。
Posted by: 隆 | August 21, 2019 08:54 PM
>隆さん
たぶん監督は少年のころの純真な姿を帆高に、現在のいろいろ不自由な自分を須賀に投影してるのでしょうね。予告の時点では須賀は悪者っぽかったので意外でした
いま日本も災害や経済で明日をも知れないところがありますが、若者たちにはそんな中でも自由に生きてほしいというメッセージを受け取りました
Posted by: SGA屋伍一 | August 22, 2019 09:02 PM
もう少年じゃないから100パーそういうのないんだけど、マックで少女にハンバーガーおごってほしいわ(銃はいらない)。
Posted by: ふじき78 | August 29, 2019 11:29 AM
>ふじき78さん
いやー、ひなちゃんがバイトをくびになったの、あのおごりがばれちゃったからでは?とおもったり
Posted by: SGA屋伍一 | August 29, 2019 10:15 PM
うん、「きっとだいじょうぶ」はよかった。そういうの好き!
たまにコメつけに来ないといけない(なぜ?)
そういえば、SGAって何ですかー。すが?
Posted by: ボー | November 04, 2020 10:44 PM
>ボーさん
おひさしぶりです! 覚えていてくれてありがとう! きっと大丈夫! スガヤなのでSGA屋なのです!
Posted by: SGA屋伍一 | November 18, 2020 10:44 PM