沈黙の艦内 ドノバン・マーシュ 『ハンターキラー 潜航せよ』
こちらは二ヶ月ほど前に公開されてたのですが、ほかに注目作が多かったのでついスルーしてしまったのでした。ところがツイッターでじわじわと評判になっていくのを眺めているうちに「観とけばよかったな~」と後悔。そこへちょうどよく遅れて別の劇場でやってくれたので、これ幸いと鑑賞してきたのでした。『ハンターキラー 潜航せよ』、紹介いたします。
ロシア近海を演習で潜航していた米軍の潜水艦が、突如として消息を絶つ。米国海軍は事態を調査すべく、一平卒からのたたき上げであるジョー・グラスと原潜アーカンソーのクルーを現地に向かわせる。やがてグラスたちは事件の背後に米露を揺るがす大きな陰謀が関わっていることをつきとめる。核戦争への発展を防ぐべく、アーカンソーは想像を絶する危険な海域へ針路を向ける。
というわけで最新版の潜水艦映画です。このジャンルで名作と言われるのはウォルフガング・ペーターゼン監督の『Uボート』ですが、残念ながら観てません。数少ない鑑賞した作品は『クリムゾン・タイド』『U-571』『ローレライ』といったあたりです。それだけしか観てないのに語るのは気が引けますが、潜水艦映画というのは他の戦争映画とは少々違った醍醐味があります。そのひとつは「先に相手に気付かれたらダメ」ということ。深海の静寂の中で息をひそめ、相手がボロを出すのを必死に待つ戦い。本当に息が詰まるような緊張感があります。
醍醐味のもうひとつは魚雷。魚雷というやつは戦闘機のミサイルよりゆっくりですが、その独特なスピードがかえって恐怖感をあおります。直撃すればもちろん一発でオシャカですし、そばで爆発しても船体のあちこちから水が噴き出して「押しつぶされる!」というパニック感がみなぎります。醍醐味というか「いかにおっかないか」という説明になってきました。この『ハンターキラー』はそういった深海戦闘の面白さと恐怖がよく表れておりました。
そんな風におしっこちびりそうなスリルに満ち溢れているのに、同時にとてもすーがすがしい映画なんですよね。主演が『300』や『エンド・オブ・ホワイトハウス(キングダム)』のジェラルド・バトラーだし「キラー」とタイトルについてるし「手当たり次第にぶっ殺す!」というノリなのかと思いきや、これがなるたけ「殺さないように殺さないように」という方向に進んでいきます(まあアクション映画なんでそれなりに死人は出ますが)。宇宙船から帆船までフィクションの中で様々な艦長を観てきましたが、グラス艦長が際立っているのはその最大の武器が軍略でも気迫でもなく「信頼」だということ。キーパーソンとしてもうひとりロシア軍の潜水艦艦長が出てくるのですが、敵とも味方ともしれぬこの男を、グラスは「同じ潜水艦勤めだから」という理由で不動の精神で信じぬくのですね。その信頼が八方ふさがりで突破不可能のように思えた状況を打開させていく糸口となっていきます。また地上でも共同作戦にあたっている別クルーがいるのですが、彼らもまた顔も知らず言葉も交わさないグラスたちを信じて決死の任務を遂行していきます。
ロシア側の艦長を演じるのはスェーデン版『ミレニアム』で有名なミカエル・ニクヴィスト氏。残念ながらこれが遺作となってしまいました。奇妙なことにもうひとつの遺作の『クルスク』という映画も潜水艦を題材にした作品だそうで。コリン・ファース、レア・セドゥといったそうそうたるキャストなのですが、いまのところ日本公開の予定なしだったり…
そのうちDVDにもなるでしょうけど、やはり深海の戦いは真っ暗で音がよく響く映画館で観た方が臨場感たっぷりですね。滑り込みで観られて本当によかったです!
Comments
「ハンターキラー」なんていうから、宇宙刑事ギャバンの宿敵かと思いました。
『宇宙刑事ギャバン』に始まるメタルヒーローシリーズは、ギャバン、シャイダー、スピルバンと映画スター、映画監督の名にちなんでネーミングされてましたから、今もシリーズが続いていたら「宇宙刑事バトラー」の登場もあったかもしれません。
Posted by: ナドレック | July 01, 2019 11:16 PM
>ナドレックさん
ギャバンは適当に観てたのでそちらのハンターキラーは記憶にないですね。ジャスピオンのマッドギャランはかすかに覚えてるのですが…
しらべたら「ハンターキラーとは「専門化された能力をもつ航空機・艦船を組み合わせて行う対潜水艦掃討作戦」という意味だそうです。ひとつ勉強になりました
Posted by: SGA屋伍一 | July 02, 2019 09:20 PM