燃やしていいのは体脂肪だけ 今石洋之・中島かずき 『プロメア』
一ヶ月後の健康診断を控えひそかにジョギングを続けているわたくしですが、それとはまったく関係なく、本日は『天元突破グレンラガン』『キルラキル』のコンビが贈る劇場アニメ『プロメア』を紹介いたします。
精神により発火できる能力を持つ新人類「バーニッシュ」が誕生した近未来。世界ではバーニッシュによる被害を食い止めるため各地で特殊消防隊「バーニングレスキュー」が活躍していた。その一員である血気盛んな青年・ガロは、テロ集団マッドバーニッシュとの戦いの中で、彼らのリーダーである若者リオと出会う。激しくぶつかり合う二人だったが、やがてガロはバーニッシュたちの哀しい運命や自分が所属する都市プロメポリスの裏面を知り、葛藤するようになる。
まあやっぱり最初に思うのは「これ、『グレンラガン』の二時間版別バージョンじゃん」ということですね。そもそも主人公のガロが『グレンラガン』の主要キャラであるカミナによく似ている。他にも『グレン~』を思わせる要素があちこちに散りばめられておりファンとしては「たまんねえぜグへへ」という感じでした(品のない表現だなあ)。
ただこれまでの中島・今石作品と違うのはこれが1本に映画であるということと、恐らく実在の役者さんを想定して、それからキャラを膨らませていということ。三谷幸喜さんが好んで用いている「あて書き」というやつですね。メインの3人である松山ケンイチ氏、早乙女太一氏、堺雅人氏はそれぞれ中島かずき先生の舞台に出ておられたとのことなので、恐らくその時彼らの演技を見ながら先生は「こういうキャラが活躍するアニメを作ったら面白かろうな」と思われたのかもしれません。とりわけそれが爆発していたのが主役二人の前に立ちふさがる執政官クレイを演じていた堺さん。普段はニコニコ穏やかな表情を浮かべているのに、尻尾をつかまれた途端別人のようにブチ切れる様子が最高でした。普通悪者が居直るところってイライラしそうなものなのに、なんでかすごい爽快だったんですよね… そういえばドラマ『新選組!』の時に聞いた堺さんのエピソードで「最初は山南さんのようにソフトな笑みを浮かべながら飲んでいたのに、酔いが回ってきたらボロボロ毒を吐き出してきた」というのがありました。まさにこのクレイは堺さんにうってつけのキャラだったと言えるでしょう。
あと同じことを繰り返してるようで、少しずつ色を変えてるのが中島・今石コンビ。彼らの作品には少なからずダイナミックプロの影響があると思うのですが、その線で行くと『グレンラガン』は『ゲッターロボ』の、『キルラキル』は『キューティーハニー』のオマージュっぽいところがありました。そして『プロメア』は原作の『デビルマン』が根底にあったんじゃないか…という気がします。まあ途中あからさまに絵柄を意識してるシーンがありましたし。「怪物」と異分子を排除している政府が、実は怪物以上の怪物だったというあたりはまさに『デビルマン』でありました。威勢がよくワイルドなガロは不動明を、中性的でクールなリオは飛鳥涼をイメージしているようにも思えます。でもまあ『プロメア』はとにかく元気で世界の破滅も気合で吹っ飛ばすようなノリなので、その辺は『デビルマン』とは全然違いますね。
絵柄の特色はと申しますと、とにかく三角と四角が目立ちます。無数の角ばった図形が画面いっぱいを縦横無尽に駆け巡る映像暴力と申しましょうか。ここんとこのアニメ映画は美術的にも恐ろしく力の入ったものが続いていますが、『プロメア』はそんな痛快なキュビズムでもって炎と氷の戦いをこれでもかという感じで描き切って、観る者を翻弄します。
そしてロボです。予告を見た時、「今回はロボはどの程度出るのだろう。おまけ程度かな」と感じていたのですが、ドカーンとやってくれやがりました。今の日本で出来る最高峰のロボアニメでございました。先日の映画秘宝のインタビューで中島先生は「レオパルドンを出していたら『スパイダーバース』はアカデミー賞を取れなかっただろう」とおっしゃっていましたが、『プロメア』からは「賞なんかどうだっていいわ! わしゃ巨大ロボが好きなんじゃあああ!」という魂の叫びが聞こえてきました。信じてたぜ… かずき…(敬称略)。わたくしそろそろ中島先生には本腰入れてゲッターロボのリメイクをやってほしいと思ってるのですが、この願いどこかのお金持ってる会社に届きませんでしょうか。
『プロメア』は残念ながら日本全体ではそんなにヒットしてないのですが、都内近郊の良い設備の劇場では満席続出という局所的なフィーバーを巻き起こしております。この映画はたぶん伝説になる… ので観られるところにいる人は今のうちに観ておいたほうがいいぜ?
2019のアニメ映画フィーバーは現在公開中の『海獣の子供』、近日封切り予定の『きみと、波に乗れたら』『天気の子』と続きます。『プロメア』と違ってオミズ系の話が多いようで。
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Comments
SGAさんこんばんわ♪
オリジナル作品とは言っても、ストーリーが進行していくとそこかしこにトリガー作品のお馴染み要素と言いますか、お約束臭が凄い漂ってきて、やはりファン目線で観ればトリガーらしい期待を裏切らない熱い作品でしたね^^
俳優さんの起用とかも最初は訝しげに見えるものですが、松山ケンイチさんと早乙女太一さんは観た限りだとちゃんと上手かったですし、堺雅人に至っては凄かったですねwパンフには声量を最大5段階まで用意してたらしくて、読みながらフリーザかよって思っちゃいました^^;
Posted by: メビウス | June 16, 2019 01:35 AM
>メビウスさん
実はトリガー作品、パンティ&ストッキングとか宇宙パトロールルル子とかは見てないんですよね。観ねば…
堺さんはしょっぱなから飛ばし過ぎて「このテンションでずっとは持ちません」と泣きを入れたところ、「ずっとこのテンションで!」と要求されたそうです。お疲れ様でしたw
Posted by: SGA屋伍一 | June 18, 2019 09:32 PM