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May 08, 2019

ビリー・バットソンと魔法の呪文 デヴィッド・F・サンドバーグ 『シャザム!』

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現在マーベル・シネマティック・ユニバースの総決算である『アベンジャーズ/エンドゲーム』が絶賛公開中ですが、その一週前に封切られて地道にがんばっているもう一本のアメコミ映画があります。本日はそんな健気な『シャザム!』をご紹介します。

幼いころ母親と生き別れた少年ビリーは、里親に引き取られては脱走を繰り返し、実の母を必死で探していた。ある時新しい里親の元で共に暮らしている少年をいじめっ子からかばったビリーは、彼らから逃げる途中不思議な洞窟のような空間にワープしてしまう。その空間の主である老魔術師シャザムは自身の能力を受け継ぎ、邪悪な闇の勢力と戦うようビリーに申し渡す。言われるがまま魔術師の名を唱えた途端、ビリーはモリモリマッチョの超人へと変身。新たな「シャザム」が誕生した瞬間であった。

シャザムが世に出たのは第二次大戦勃発の翌年の1940年。フォーセットという今は亡き出版社から発行されておりました。当初は「キャプテン・マーベル」という名前で、「シャザム」はビリー少年が超人に変身する時の呪文でありました。漫画の読者と同じ年頃の少年がスーパーヒーローとして活躍するこのコミックは大変な人気を呼び、一時期は元祖アメコミヒーローのスーパーマンと人気を二分したほど。しかしその人気をDCからやっかまれたキャプテン・マーベルは「変身後がスーパーマンに微妙に似てる→パクリだ」と訴えられてしまいます。その後廃刊になったり、DCに権利が買い取られたり、MARVELが同じ名前の「キャプテン・マーベル」というヒーローを作って商標登録したために本のタイトルに自身の名が使えなくなったり、DCの名だたるヒーローたちの活躍のためだいぶ影が薄くなったり、もうこの際まぎらわしいんでヒーロー名も「シャザム」ということにしちまおうとなったり… ま、そんな様々な苦労を積み重ねて今日に至っております。

それがともかくこのヒーローの最大の特長はやはり中身は普通の子供であること。親を失って放浪生活を送っていた…というあたりはディケンズの小説か世界名作劇場を彷彿とさせます。実際初期は名作劇場の主人公よろしく不幸な境遇でも明るさと正義感を失わない、みんなのお手本のような少年でした。それが最近ではやや現実的になり、リニューアルの際に喧嘩や悪さも上等的な、やや斜に構えた性格に変更されてしまいました。それでも根の部分には弱者を見捨てないヒーローらしい性分を抱えているので「シャザム」として選ばれるわけですが。こうした設定はこの度の映画化にも影響を与えております。というか、映画版ではえらくお笑い要素がギュウギュウに詰め込まれていてちょっとびっくりしました。ある評者は「DC版デッドプール」と例えたほど。シャザムと言えば一応正統派ヒーロー…というイメージがあったので少々面喰いましたが、普通に考えればリアル十代の遊びたい盛りの少年がスーパーパワーを得たら、こんな風にいたずらしたい放題のはしゃぎ放題になるでしょう。あと他のDCヒーローのいじりネタがいちいち痛快だったので「もうこれでいいや」という気になりました。

とはいえこの映画はおふざけだけでなく、ビリー少年がなぜヒーローたりえるのか、ヴィランはなぜヴィランになったのか…というアメコミにおいて重要な主題もきっちり描いています。またアメコミものにしてはけっこうきつい真実がビリーを待ち受けていたりもします。そんな彼の助けとなるのが里親のバスケス夫妻と同じ境遇の養兄弟たち。性格も年もバラバラですけど、決して押しつけがましくなくビリーのために奮闘してくれます。この辺のほっこりした描写は実の兄弟の話ではありましたが『ひとつ屋根の下』とか『てんとう虫の歌』(古いなあ…)を思い出したりしました。

そんなわけで大ヒット作の影に隠れてる感じではありますが、ここんとこのアメコミ映画と比べて同様のハイレベルを維持している本作品、興味があるのに観そびれているならぜひ公開中に映画館に行ってほしゅうございます。かかってるのたぶんあと二週くらいなので… DCフィルムズユニバースの次なる作品は来年2月に本国公開予定の『バーズ・オブ・プレイ』。『バットマン』に登場する女性キャラチームの活躍が描かれます。DCサイドもここんとこ一定の質を保っているのでこの調子でがんばってくださいー

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Comments

SGAさんおはようございます♪

DC作品の中でもかなり古参のヒーローだというのは自分も鑑賞前に耳に入れていたのですが、SGAさんの説明を聞く限りですとそれ以上にかなり不遇な扱いを受けているキャラクターなんですねぇ^^;公開日にしてもエンドゲームの前週でしたから案の定外様に追いやられている感じがして、それもまた不運な気もします(汗

でも内容の方はかなり好みで、悪ノリでスーパーパワーを乱発したりyoutubeにアップしたりするユーモアな要素は自分もツボにハマりましたし、特撮戦隊風になる最後の展開も普通にビックリして面白かったですね。アクアマンに続いて見応えのある単独作品だったとも思いました♪

Posted by: メビウス | May 09, 2019 07:56 AM

伍一くん☆
スーパーマンに微妙に似ているから訴えられるのに、使っていた名前を商標登録してないだけで、横からかっさらわれても仕方ないなんて、大人の世界って怖い…

この映画の成功はやっぱりもっさりしたオッサンの中身がこどもってところなので、キャラ変があって良かったですね。
普通の真面目ヒーローだったらイマイチですもの~~

Posted by: ノルウェーまだ~む | May 11, 2019 12:20 AM

>メビウスさん

本当に今年のアメコミ映画は上半期に押し込まれていて「もう少し間隔あけてくれ…」と思います。せっかくどれも傑作なんだから。あと因縁の「キャプテン・マーベル」とつづけて公開というのもなんあんでしょうね~ 
素行の悪いヒーローの様子がyoutubeにあげられてるあたりは、むかしなつかし(というほどでもないか?)の『ハンコック』を思い出したりしました。

Posted by: SGA屋伍一 | May 13, 2019 10:01 PM

>ノルウェーまだ~むさん

そう、あまり言いたくないですけど出版アメコミの世界もわりとブラックなところがありまして… そういえばディズニーも最初作ったウサギのキャラが権利取られて長年使えなかった、なんてことが
変身後はスーパーマンとあまり変わらずですが、いまはかなり二人の共闘が観たいです…!

Posted by: SGA屋伍一 | May 13, 2019 10:04 PM

これは、強味というか、弱味でしょうね。大人であれば、子供として、奔放な振舞いや発言は、何を言っているんだ、と白目で観られるでしょうね。日常生活では、むしろ、マイナスとなるスタイルを、有事には活かせていましたね。

クイズとか、物書きとか、知的には全く弱いのでしょうが、力を重んじる、マッチョが正義という世界観では、正真正銘のヒーローだと思います。

Posted by: | May 15, 2019 06:27 PM

>隆さん

アメコミ映画数あれど、子供目線で描かれたものって他は『ベイマックス』くらいですかね。大人としては眉をひそめるような行動もありましたが、そこは劇中の里親夫婦のように広い心で見てやりたいもの
知的な面は成績優秀そうな義兄弟たちがカバーしてくれるのかな? 続編ではその辺のチームアップも楽しみです

Posted by: SGA屋伍一 | May 15, 2019 10:08 PM

微妙に近い名前に変えるってのはダメだったんですかね?
「ミスター・マーベル」とか「ジェネラル・マーベル」とか。あっ「マーベルマン」でいいじゃん。

Posted by: ふじき78 | May 17, 2019 12:18 PM

>ふじき78さん

大阪のバッタモン売り的な発想ですな。「マーベルマン」はいたかもしれない…

Posted by: SGA屋伍一 | May 21, 2019 10:05 PM

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