その男、エドゥアール ピエール・ルメートル/アルベール・デュポンテル 『天国でまた会おう』
フランスのアカデミー賞と言われるセザール賞を5部門で受賞。大都市では3月くらいに公開されたものが連休中にこちらでもかかり、これまたいまさらではございますが感想を書いておきます。『天国でまた会おう』、まずはあらすじから。
第一次大戦末期のヨーロッパ西部戦線。上官の無茶な命令で敵陣に突撃した若き兵士エドゥアールは、年の離れた戦友のアルベールを救おうとして爆撃で顔の下半分を吹き飛ばされてしまう。アルベールは彼を献身的に世話するが、このことがきっかけでエドゥアールは心を閉ざしてしまう。終戦を迎え街が復興に向かう中、エドゥアールは愛国心や戦争を美化するムードに対し風変わりな復讐を思いつく。
公式サイトでも触れられてますが、3年ほど前翻訳ミステリー界隈で話題を席巻した『その女、アレックス』という小説がありました。これがたしかに巧みな構成と意外な真相、息もつかせぬ展開で読ませる一級品のエンターテインメントだったのですが、とにかくまあ、えぐい話でして。小説だったからまだよかったけど映像だったらとても見続けていられなうだろうな…と思いました。
で、今年初めくらいにその原作者ピエール・ルメートルの別の作品が映画化され、日本でも公開されるという情報を聞きました。それがこの『天国でまた会おう』だったというわけ。「ギリアムやティム・バートンを彷彿させる魔術のような映像」という惹句や、奇天烈な仮面をかぶった男とかわいらしい少女のポスターにひかれ、「『アレックス』よりはやさしい話かも」と気になっていたのでした。ところがどすこい、序盤の戦場でのくだりなんかはなかなかにゴアでございました… まあやっぱりね。下あご大体吹っ飛んだ状態で生きてるわけですからね。そこさえ耐えきればあとはあんまりきついところはないんですが。
珍しいのはこれが十以上は年齢差のありそうな友情の話という点。ただアルベールが一生懸命エドゥアールのためにいろいろやってやってるのに、エドゥアールの方ではそれが当然のようにおもってる節があり、もうちょっと友人をねぎらってやれや、と思わないでもありませんでした。人前に出られない姿になったうえ麻薬中毒も進行していく身の上では自分のことだけでいっぱいいっぱいなのかもしれませんが。
ちょうど先日DVDでチャップリンの『担え銃』をたまたま見てたのですが、第一次大戦を舞台にして戦争をおちょくってやろうとする精神はこの映画とも通じるところがありました。もっともチャップリンの方は最初から最後まで爆笑モードですが、『天国でまた会おう』は軽妙な空気もたもちつつ全体的に物悲しいお話であります。とくに最後にエドゥアールがとる行動は大変ショッキングで、茫然としてしまいました。なぜそこでそうしてしまうのか大変納得がいかないのですが、そこがかえってこの作品の深いところでもある…のかな。
ちなみにエドゥアールの姉を主人公とした続編的小説『炎の色』がすでに早川文庫から翻訳されて出ております。ちょっと読んでみたいけどやっぱり物悲しいお話なのかな… 『その女、アレックス』も映画化されると聞いたけどその後どうなっているのでしょう。まあ公開されても自分観ませんけどー
Comments
エドゥアールの行動は突飛で悲劇的でしたが、彼も頑固な父親譲りなんでしょう。しかし、ノーの意図なのか、イエスであるも愛を受け入れる事にシャイだったのか、前から考えていた決意に渡りに船だったのか、多分、決意があったからが最有力だと思いますが、父親との赤裸々な感情のやり取りは想像する他に無いと思います。
でも、あれだけの勇気があれば他の事も出来ると思いますし、国家権力を象徴する身近な存在として父親を恨む心があったかも知れません。日本は愛国心に対して愛は盲目で、フランスはそれよりは自由ゆえに、怒りの表現方法と相手も多彩なんでしょう。複数の報復の相手は出て来ますが、誰を一番恨んだのでしょうか。
Posted by: 隆 | August 24, 2019 09:58 PM
>隆さん
やっぱりエドゥアールが一番うらんだのは父親ではないかな…と。だからこそその恨みが筋違いであることを悟ったとき、自分に絶望してああいう行動をとったのでしょうね。ただ残された父親のことを思うとあまりにもやるせなくてつらい結末でした
Posted by: SGA屋伍一 | August 29, 2019 10:10 PM