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May 28, 2019

猫の意趣返し 柏葉幸子・原恵一 『バースデー・ワンダーランド』

更新をさぼってるうちに公開が終わってしまった映画がまた1本… いまさらという気もしますがわたしが日本アニメ界で最も信頼を置いてる作家のおひとり、原恵一氏の最新作『バースデー・ワンダーランド』ご紹介します。

友達を上手にかばうことができずに落ち込んでいた小学六年生の女の子・アカネは、自分の誕生日にまだ若いおばさんのところへお使いにやらされる。アカネがおばさんが営む風変わりな雑貨屋でくつろいでいると、突然床下からヒポクラテスという紳士然とした男が現れる。ヒポクラテスは自分の世界が危機に瀕していて、それを救う力を持つアカネに共に来てほしいと懇願する。わけもわからぬままアカネとおばさんは不思議な世界に連れて行かれ、冒険の旅に出ることになるのだが…

いま非常にはやってますよね、「なろう系」っていうファンタジーのジャンル。平凡な主人公が異世界に転生したらチートな力を授けられて無双の活躍をするという話。ただこういうのってジュブナイルや童話などでもむかーしから原型があったりするので、別段目新しいものでもなかったりします。ちなみにこのアニメの原作は1981年に柏葉幸子先生が著した『地下室からのふしぎな旅』という児童文学。さっとあらすじを見たところ大筋は一緒のようですが、「世界を救う」とかそういう話ではないみたい。もうひとつちなみに柏葉先生は『霧の向こうのふしぎな町』という作品を書いておられるのですが、これがあの『千と千尋の神隠し』の原型になってるんだとか。

さて、本編のほうですが、さすがは原監督というか作品内の落ち着いた色彩の豊かさには目を見張らせられます。特に『カラフル』でも発揮させられた食い物描写には恐ろしいほどの吸引力を感じました。あともうひとつツボだったのが原監督にしては珍しい猫描写。異世界の猫は喋ったり立ったりするんですが、それでもいかにも猫らしいしぐさにいちいちなごませてもらいました。悪役の1人(1匹?)に「だもんね~」が口癖の黒猫がいるんですが、こいつがまた小憎らしいながらもかわいらしゅうございました。

ただ残念ながらとういうべきか、最も印象に残ってしまったのがメインの柱ではなく装飾にあたるその2点だったというのがちょっと物足りなかったような。原監督のこれまでの傑作というのはごくごくありふれた日常の世界の中に、異常な存在が介入してくるものが多いのですが、今回はそれが逆転していてまるっきり非現実的な世界に日常的な存在が迷い込むというコンセプト。それでなにか大きなインパクトとか、他の多くの異世界冒険ファンタジーと比べて傑出したところがあるかといえばあまり感じられなかったというのが正直なところです。強いて言うなら冒険のパートナーとなるのが気ままなおばさんというのが少し珍しいかな? 

と、ちょっとくさしてしまいましたが、お話のテーマは本当にまっすぐで、他の人を思いやる心の大切さとか、それにはちょっと勇気を出して前に踏み出すことが必要なんだ…ということはよく伝わって来ました。アカネと同じくらいの子供たちがこの映画を観て、そういうことを感じ取ってくれたらそれでいいんだと思います。問題はそういう子供たちが大体『名探偵コナン』や『名探偵ピカチュウ』にもっていかれてしまったことですね。主人公が探偵だったらよかったのだろうか…

ここ2,3年、ジブリの後を継げとばかりに作家性の強いアニメ映画が色々作られてますが、大体こけていて安定してるのは細田守監督くらいでしょうか。それでもなおも作られ続けているのがありがたいことでございます。2019年はひきつづき『海獣の子供』『君と、波に乗れたら』といった意欲作が待機中。『君の名は。』でメガヒットを飛ばした新海監督の『天気の子』も控えています。わたしの一押しは現在公開中の『プロメア』。これまた興行が苦しそうですが、現在の日本アニメの最高峰とも言える出来なので気の向いた方はぜひご覧くだされ~

 

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