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May 15, 2019

中華で一番! 原泰久・佐藤信介 『キングダム』

Sga2 9年前から当ブログで推していた一大歴史コミックが、とうとう映画化となりました。ちょっとおっかなびっくりでしたが、こりゃ観に行かないわけにはいかんでしょう!! というわけで『キングダム』ご紹介します。

時は紀元前の中国春秋戦国時代。秦国の奴隷の少年・信と漂は貧しい身分から抜け出して剣で出世するため、日々二人で武術の稽古に励んでいた。ある日都の貴族の目に止まった漂はその才能を見込まれ、王宮に使えることになる。一人残された信はくじけず下働きと修行を続けていたが、そんな彼の元に都にいるはずの漂が血まみれで転がり込んで来る。それをきっかけに信は秦国を揺るがす騒乱へと巻き込まれることになるのだが…

というわけでこれは「秦の始皇帝」を題材にした物語でございます。始皇帝・嬴政といえば世界史的には超メジャーな人物でありますが、その苛烈な政策などからどちらかといえば悪役として扱われることがほとんどのような。またお話の主人公としてはその死後台頭してきた項羽と劉邦の方がよっぽど務める数が多い気がします。始皇帝がどのようにして青春時代を過ごし、やがて中華統一を成し遂げたか…ということはあまり知られていないのでは。『キングダム』はその辺にスポットをあてた作品となっています。

ただ主人公を務めるのは始皇帝ではなく、彼に仕える信という少年。後の「李信将軍」であることはまちがいないのですが。これまた紀元前ゆえに謎が多い人物です。『キングダム』はそんな未知の部分が多いのをいいことに、存分に空想の翼を広げた一大活劇となっております。まあぶっちゃけやがて嬴政が列強を打ち破って中華を統一するのはわかりきっているわけですけど、それでも読んでいてハラハラさせられますし、毎週続きが気になって仕方ありません。ここから原泰久先生のストーリーテーリング力がなみなみならぬものであることがうかがえます。

ちなみに原作は現在54巻を数えていて、ぼちぼち全体の6割くらいはいったかな…というところw 映画版はその本当の序章となる5巻までを扱っております。映画版でまず感じたのはその予告編 の出来のよさ。原作ファンとしてはその映像の美しさと叙情性に心打たれて公開前から何べんも何べんも繰り返し見ておりました。こりゃ今までの日本映画の殻を破るような大傑作になるかも…と期待していたのですが、ふたをあけてみたらよくも悪くも日本映画らしい仕上がりとなっておりましたw そんなわけで非常に泥くさい部分も多いんですが、やっぱり若い子たちがボロボロの姿で一生懸命やってる姿を見てるとおじさんとしては胸が熱くなってしまうわけです。特に原作より際立っていたのは信と漂の絆の部分。お話の大切なところで必ず信は漂を思い浮かべるんですが、そういうのずるいぞ!と思いながら鼻水をずるずるとすすっておりました。

信と政の間柄が徐々に変わっていくあたりも感慨深いものがありました。最初は「殺してやる」「利用するだけだ」と言い合っていた二人ですが、苦楽を共にするうちにいつしか双方にとって大切な存在となり、クライマックスで「まちわびたぞ」「おれがついていく」と言葉をかける場面はなんとも言えんものがありました。このあたりがあまりに気持ちよかったので先日二回目を観に行ってしまったほどです。さらに大沢たかお、橋本環奈、長澤まさみといった面々もキャスティングを知った時は「?」と思いましたが、それぞれ原作のキャラを生かしつつ独自の存在感を出していて大変良うございました。また、アクション面では『アイアムア・ヒーロー』『いぬやしき』ほかの佐藤信介監督が本領を発揮し、特に主演の山崎健人君とラスボス坂口拓氏の対決では息をのむほどのチャンバラを展開しております。

最近少年・青年漫画原作の映画が次々と映画化されていますが、正直『銀魂』以外はどれもぱっとした成績をおさめていなくて、今回の『キングダム』も心配しておりました。ところが『コナン』や『アベンジャーズ』といった強豪の下で現在35億という興行収入を達成しております。佐藤監督も山崎君もこれまでで最大のヒット作となったのではないでしょうか。好調の要因は「中国の時代劇」という題材が中高年にもとっつきやすかったことと、やっぱり原作のヒットが示すように元のお話が普遍的に面白いものだったから…と考えております。

はやくも続編の声を望む声が上がっている『キングダム』ですけど、大長編ゆえに次はどこまでやるかが難しそう。とりあえず連載も負けずに引き続きもりあがってくれることを望みます。あと30巻くらいかな…??

 

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May 13, 2019

北欧テレホンショッキング グスタフ・モーラー 『THE GUILTY/ギルティ』

アンデルセンとデニッシュの国、デンマークよりえらくとがったサスペンス映画がやってまいりました。本日はロッテントマトにおいて99%をたたき出したその『THE GUILTY/ギルティ』をご紹介します。

深夜の警察の緊急コールセンター。とある事情でそこにいやいやながら勤めているアスガーは、任期も終わりに近づいた時一人の女性から助けを求める電話を受ける。何者かに誘拐されているらしい彼女を助けるため、アスガーは知恵を絞って各方面に連絡するのだが…

この映画の特色はなんといっても主人公が「建物のその階から1歩も外に出ない」というところにあります。他の登場人物はコールセンターの同僚らと、電話で声しか聞こえない人たちだけです。そんなわけでストーリーはもっぱら電話のやり取りだけですすんでいきます。

こういうスタイル、ほぼパソコンの画面だけで進行していた昨年の『search/サーチ』 を思い出させます。しかし時間が飛ばされたり主人公がしょっちゅう外に出ていたそちらと比べると、 『ギルティ』の方はさらに限定的です。普通なら我慢できず現場に急行するんじゃないか?というところでもアスガーは持ち場を離れません。理由のひとつはやはり感情的になって外に飛び出すよりも、そこで電話を受けたりかけたりしたほうが対象を助けられる可能性が高いから…ということがあげられます。そしてもうひとつは監督の「おれは意地でもこのスタイルを貫くから!」というこだわりゆえでしょう(推測ですが)。

そうしたコンセプトから連想したのはミステリーの「叙述トリック」という型式。文章だけなのを逆手に取って読者をひっかけるタイプの小説です。目で色々背景がわかってしまう映画では不可能な方式だろう…と思っていましたが、「声しか聞こえない」という状況を用意することで限りなく「叙述トリックの映像化」に近いものを作り上げていたと思います。

あと舞台がほぼ固定されていて二三の部屋を出入りするだけ…という設定は非常に演劇にもむいてそうです。演劇と違うのは頻繁に主役の顔が大写しになってその焦燥や苦悩が伝わりやすいことですね。で、この主演の方、まあまあ整った顔立ちをしてるんですが「美しすぎる」というほどでもない、長時間の大画面アップにちょうどいい顔面力でございました。くどすぎず、ずっと落ち着いて見られるルックスというか。日本で言うなら誰にあたるか… うーん、おもいつかない。

そんな風に映画の作りは大変面白いのですが、ストーリーの内容はけっこう重苦しかったりして。「国民の幸福度」が世界ランキングでかなり上の方のデンマークですが、抱える悩みの量や重さ、種類は日本の我々とさほど変わらないのでは?と思ったり。出身監督で有名な人と言えばほかにラース・フォン・トリアーやニコラス・ウィンディング・レフンといったダークな方たちでありますし… お隣のスウェーデンでも『ミレニアム』とか『ぼくのエリ』とかありましたしね…

もうおおむね公開終了してしまった『ギルティ』ですが、世界での好評を受けて早くもハリウッドでのリメイクが決まっているとのこと。主演はジェイク・ギレンホールだそうで。ちょっとオリジナルと比べると顔が濃いように感じられますが、評判がよかったらそっちも観てみるつもりです。

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May 08, 2019

ビリー・バットソンと魔法の呪文 デヴィッド・F・サンドバーグ 『シャザム!』

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現在マーベル・シネマティック・ユニバースの総決算である『アベンジャーズ/エンドゲーム』が絶賛公開中ですが、その一週前に封切られて地道にがんばっているもう一本のアメコミ映画があります。本日はそんな健気な『シャザム!』をご紹介します。

幼いころ母親と生き別れた少年ビリーは、里親に引き取られては脱走を繰り返し、実の母を必死で探していた。ある時新しい里親の元で共に暮らしている少年をいじめっ子からかばったビリーは、彼らから逃げる途中不思議な洞窟のような空間にワープしてしまう。その空間の主である老魔術師シャザムは自身の能力を受け継ぎ、邪悪な闇の勢力と戦うようビリーに申し渡す。言われるがまま魔術師の名を唱えた途端、ビリーはモリモリマッチョの超人へと変身。新たな「シャザム」が誕生した瞬間であった。

シャザムが世に出たのは第二次大戦勃発の翌年の1940年。フォーセットという今は亡き出版社から発行されておりました。当初は「キャプテン・マーベル」という名前で、「シャザム」はビリー少年が超人に変身する時の呪文でありました。漫画の読者と同じ年頃の少年がスーパーヒーローとして活躍するこのコミックは大変な人気を呼び、一時期は元祖アメコミヒーローのスーパーマンと人気を二分したほど。しかしその人気をDCからやっかまれたキャプテン・マーベルは「変身後がスーパーマンに微妙に似てる→パクリだ」と訴えられてしまいます。その後廃刊になったり、DCに権利が買い取られたり、MARVELが同じ名前の「キャプテン・マーベル」というヒーローを作って商標登録したために本のタイトルに自身の名が使えなくなったり、DCの名だたるヒーローたちの活躍のためだいぶ影が薄くなったり、もうこの際まぎらわしいんでヒーロー名も「シャザム」ということにしちまおうとなったり… ま、そんな様々な苦労を積み重ねて今日に至っております。

それがともかくこのヒーローの最大の特長はやはり中身は普通の子供であること。親を失って放浪生活を送っていた…というあたりはディケンズの小説か世界名作劇場を彷彿とさせます。実際初期は名作劇場の主人公よろしく不幸な境遇でも明るさと正義感を失わない、みんなのお手本のような少年でした。それが最近ではやや現実的になり、リニューアルの際に喧嘩や悪さも上等的な、やや斜に構えた性格に変更されてしまいました。それでも根の部分には弱者を見捨てないヒーローらしい性分を抱えているので「シャザム」として選ばれるわけですが。こうした設定はこの度の映画化にも影響を与えております。というか、映画版ではえらくお笑い要素がギュウギュウに詰め込まれていてちょっとびっくりしました。ある評者は「DC版デッドプール」と例えたほど。シャザムと言えば一応正統派ヒーロー…というイメージがあったので少々面喰いましたが、普通に考えればリアル十代の遊びたい盛りの少年がスーパーパワーを得たら、こんな風にいたずらしたい放題のはしゃぎ放題になるでしょう。あと他のDCヒーローのいじりネタがいちいち痛快だったので「もうこれでいいや」という気になりました。

とはいえこの映画はおふざけだけでなく、ビリー少年がなぜヒーローたりえるのか、ヴィランはなぜヴィランになったのか…というアメコミにおいて重要な主題もきっちり描いています。またアメコミものにしてはけっこうきつい真実がビリーを待ち受けていたりもします。そんな彼の助けとなるのが里親のバスケス夫妻と同じ境遇の養兄弟たち。性格も年もバラバラですけど、決して押しつけがましくなくビリーのために奮闘してくれます。この辺のほっこりした描写は実の兄弟の話ではありましたが『ひとつ屋根の下』とか『てんとう虫の歌』(古いなあ…)を思い出したりしました。

そんなわけで大ヒット作の影に隠れてる感じではありますが、ここんとこのアメコミ映画と比べて同様のハイレベルを維持している本作品、興味があるのに観そびれているならぜひ公開中に映画館に行ってほしゅうございます。かかってるのたぶんあと二週くらいなので… DCフィルムズユニバースの次なる作品は来年2月に本国公開予定の『バーズ・オブ・プレイ』。『バットマン』に登場する女性キャラチームの活躍が描かれます。DCサイドもここんとこ一定の質を保っているのでこの調子でがんばってくださいー

Szm1

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May 07, 2019

離島猫歩き ねこまき・岩合光昭 『ねことじいちゃん』

十連休も終わり、ほぼ二週間ぶりの更新です。うほっ 本日は猫カメラマン(他の動物も)の第一人者岩合光昭先生が映画監督としてデビューを飾られた『ねことじいちゃん』をご紹介いたします。

猫と漁師と老人の多いとある島で。元教員の大吉さんは飼い猫のタマと共に、周りの人々と触れ合いながら悠々自適の日々を過ごしていた。しかし島の人々の高齢化と人口の減少はそんな大吉さんたちの暮らしにも次第に影を落としていく。離れて暮らす大吉さんの息子は父親を心配し、都会で共に暮らそうと持ちかけるのだが…

…なんか暗い感じのあらすじになってしまいましたが、全体的にのんびりまったりした映画です。だってこの映画のメインとなるのは島のそこかしこをうろちょろしてる猫なんですから。大画面にいっぱいに写るごく普通の猫と、館内に響き渡るゴロゴロ音… お好きな方にはたまりません。

監督の岩合先生の猫を撮る力は疑いようもございません。BSの『世界ネコ歩き』を観てもわかるようにまったく猫に警戒されずに撮影をされています。どころか猫の方からそっちに寄ってきたりする。体がマタタビで出来てんじゃないか?と思うほどの猫吸引力です。ただ猫は撮れても人間も出てくる普通の映画は作れるのか…というと未知数です。しかしまあその点は優秀なスタッフに恵まれたのか(失礼)、一応人間ドラマとしても完成された作品になっていました。出演者・柴咲コウさんの「監督は猫ばかりに集中していて人間の方はおざなりだった」なんてコメントもありましたが。

猫吸引力といえば主演の立川志の輔氏も大したもの。タマちゃんが本当に自然に氏に寄り添っていて、前かがみになった背中にポンと乗ったりする。もっともこれはもう一方の主演である猫のベーコンさんの演技力に負うところも大きいかもしれません。これまでにTVドラマ「ようこそ、わが家へ」、映画『ねこあつめの家』、太陽生命CM「かけつけ隊サービス『太陽生命が大切にするもの』」篇などに出演おられるそうです。いずれにしてもそんな一人と一匹のアンサンブルが大変見事でした。

そういえば先日30日は平成の終わりだけでなく、当ブログもにぎわしてくれたモンさんの二周忌でございました。仰向けに寝てるとおなかにポンと乗ってきたモンさんの感触を思い出しながらこの文章を書いてました。体重もなかなかだっただけに、あれは苦しゅうございました(笑)20070531183006_1thumb1

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