大いなるキャラには多くの分身が伴う ボブ・ペルシケッティほか 『スパイダーマン/スパイダーバース』
本年度アカデミー作品部門受賞作品の次は長編アニメ部門をゲットした映画について語ります。長年のディズニー独占にくさびを打ったそのタイトルは『スパイダ―マン/スパイダーバース』。例によってあらすじから。
蜘蛛の力を持つ超人「スパイダーマン」が活躍する世界。彼にあこがれている少年マイルズ・モラレスは遺伝子操作された蜘蛛に噛まれたことにより、その世界における二番目のスパイダーマンになってしまう。さらにある悪漢が自分の願望をかなえるため次元を操作する実験を行ったことから、様々な時空のスパイダーマンがマイルズの世界に転送されてしまう。
映画ファンにとってスパイダーマンといえばまず思い出すのはピーター・パーカーでしょう。しかし誕生して58年、このキャラにはたくさんのバリエーションが作られ続けてきたのでございました。わたしも最初に触れたのは東映が作った特撮版だったし。アメコミヒーロー数あれど、ここまで幅広くアレンジされまくったのは他にバットマンくらいしかいないのでは。
マイルズ・モラレス君もそうした傍流のスパイダーマンの1人。2000年代マーベルは一見さんが入りやすくするため、それまでのユニバースとは別の、一から設定を刷新した「アルティメット・バース」という世界を立ち上げました。このアルテイメット・バース、従来のマーベルとの差別化のためか、ヒーローのエゴが強烈だったり重要な人物が突然無残に死んだりなどきついストーリー運びで話題を呼びました。小学館プロダクションから出てる『アルティメッツ』という作品を実際に読んでいただけるかと思います。
スパイダーマンも例外ではなく、アルテイメット世界ではピーターがある事件で命を落とすというショッキングな展開を迎えます。普通ならすぐ生き返りそうなものなのに、本当に完全に死んでしまいました。その後を継いだのが『スパイダーバース』主人公のマイルズ・モラレス君だったというわけ。スパイダーマンの映画も幾つも作られ、ファンもそろそろ飽きが来そうなところへなかなかうまいところへ目を付けたと思いました。
この映画ではそれだけにとどまらず、さらにスパイディの歴史から様々なヘンテコキャラを呼び寄せております。正史では悲劇の死を迎えたヒロインが蜘蛛のスーツをまとっているスパイダーグウェン。戦前ハードボイルド風の世界からやってきたスパイダーマン・ノワール。美少女とロボットのコンビであるペニー・パーカー&SP//dr 。動物アニメの中から抜け出たブタ風のスパイダーハムなどなど。正直ペニーやノワールはアメコミファンを自称するわたしも存在を知りませんでした… ノワールは白黒のグラフィックノベル調、ペニーは日本のアニメ風、ハムはバッグズバニーのようなカートゥーンタッチと様々な画風のキャラを無理やり同画面に収めてるあたり大したカオスであります。でもめちゃくちゃ楽しい。
そして忘れちゃいけないのがこの映画オリジナルかと思われる中年スパイダーマン、ピーター・B・パーカー。ヒーロー稼業の孤独に耐えかねて堕落し(といっても不摂生を重ねているだけ)、おなかがボヨンと膨らんでしまった情けないキャラ。それだからこそ体型も含めてものすごく共感できてしまいえろうつろうございました。
そんな挫折ばかりだったおっさんヒーローが不安と戦いながら前に進もうとするマイルズ君と出会い、お互い励ましあいながら共に成長していくという。映像的実験を果敢に繰り返すだけでなく、こんなしっかりした人間ドラマをつむいでるところもオスカー審査員の琴線に触れたのではないしょうか。いつもラリッてるような作品ばかり世に送り出してるフィル・ロード&クリス・ミラーにしてはずいぶん健康的で生真面目でありました。やればできるのね… ラリッた映画も好きですけど。
ちなみにフィル&クリスさんは今回製作と脚本(フィルのみ)でありまして監督は別に三人おられます。『リトル・プリンス』脚本のボブ・ペルシケッティ、『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』監督のピーター・ラムジー、『22ジャンプストリート』脚本のロドニー・ロスマンさんです。いったいどういう風に役割分担してたのか謎ですが、個性が強烈そうな彼らを上手に組み合わせて采配してたのはやっぱりフィルさんクリスさんだったのでは…と思わずにはいられません。
世界最高峰と言っても過言ではないこのアニメ、残念ながら日本ではそれほどぱっとしない売れ行きのようです。『レゴバットマン』もそうでしたが、実写アメコミ映画は観るけれど、アニメにしちゃったら見ない…という層がけっこういるようで。仕方ない…と思う一方で大変くやしい。なんとかして興味をもってもらうにはどうしたらよいのか、足りない頭でぐるぐると考え続けております。フィル&クリス製作のアニメは現在ではもう一本『レゴRムービー2』も公開中。これまたべらぼうに面白いのに苦戦中のようで… があッ!! 及ばずながらこれからも心から応援していこうと誓うのでした。つか、製作だけじゃなくそろそろ監督もやろうな!?
あと先日世界での好評を受けて続編の企画が立ち上がっているというニュースも入って来ました。今度こそ巨大ロボット・レオパルドンがスクリーンでおがめるか?
Comments
SGAさんおはようございます♪
自分がそうであったように、やっぱりスパイダーマンが日本でもより多くそして深く知られるようになったのはサム・ライミ版の実写作品なのかなぁとも思いますと、実写は馴染みがあるから観るけどアニメは少し敬遠・・という考えを持ってる方は確かに少なからずいるような気もします。原作を知らないので実際自分も最初本作の映像観た時は混乱してしまいましたし、良くも悪くもスパイダーマンこうあるべしな固定観念に縛られていたのですが、スパイダバースはそういう考えを斬新な映像技法と素晴らしいストーリーで取っ払ってくれた気がしますね。この世界観もアリだとw
マルチバースの世界も色々な次元に多様なスパイダーマンがいるように見えたので、続編やスピンオフの幅が広がって面白そうなので、実写同様に息の長いシリーズになって欲しいですね^^
Posted by: メビウス | April 04, 2019 10:47 AM
>メビウスさん
そういえばライミ版が日本で大ヒットした時少なからずビックリしたんですよね。いまだに理由がよくわかりません。東映版のファンがそんなにいたとも思えないし
正直自分も製作のニュースを聞いた時「なぜアニメで?」とわりとテンションh低めでした(笑) しかしさすがはフィル・クリス・コンビというべきか、こちらの期待をはるかに上回るものを作ってくれました。ぜひ続編作ってほしいですね!
Posted by: SGA屋伍一 | April 08, 2019 09:22 PM
アメコミ映画で実写とアニメの境というのがあるのね。
何となく推測できるのは実写の方が信用があると言う事ですね。監督なり役者なりビッグネームが出るじゃないですか。予告で大丈夫そうだったし、まさか、このビッグネームが真面目に撮つていて、子供だましの映画になる事はないだろう。大人の鑑賞に耐えうるものになるだろうって信用があると思います。それはサム・ライミやティム・バートンなんかが築いてきた信用だと思うのですが。
ぶっちゃけ簡単な話、宮崎駿がアメコミのアニメ作ったらむちゃ入る、そういう事じゃない? 今、アニメの作り手で名前だけで人を呼べるのは宮崎駿だけでしょう(原恵一もお客入ってないし)。もうちょっとアニメで誰かが打開してくれるまではこんな状態続くんしゃないですかね。
Posted by: ふじき78 | May 02, 2019 10:45 AM
>ふじき78さん
実写とアニメの境… と言われると恐竜探検隊ボーンフリーなど思い出すわけですが。
たしかに日本のアニメは国産のなじみのあるキャラか作家のネームバリューがないと客入り厳しいですよね。庵野監督と新海監督に期待
Posted by: SGA屋伍一 | May 07, 2019 09:40 PM