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April 10, 2019

マイルドスピード/ゆる~いミッション クリント・イーストウッド 『運び屋』

イーストウッド、実に10年ぶりの監督&主演作。御年88歳にしてまたもや剛腕ぶりを見せつけてくれました。『運び屋』、ご紹介します。

園芸課の老人アールは商売に行き詰っていたところ、孫娘の知人から運び屋の仕事を紹介される。単純な仕事の割に高額な報酬が払われることをいぶかしんだアールは、やがて自分が運んでいるものが麻薬であったことを知る。しかし金に困っている家族や友人のため、彼は危険なブツを安全運転で運び続けるのであった。

ここのところを「本当にあった話」ばかり撮り続けていたイーストウッド。今回もまた実際にあった出来事を題材としております。wikiによりますと80代でマフィアの運び屋として名を馳せた退役軍人の園芸家レオ・シャープという人がモデルとのこと。育てていた花がデイリリーというとこまで一緒ですが、「実話を元にした」ではなく「実話に着想を得た」となってましたので、家族とのあれこれやマフィアとのやりとりなんかはかなり創作してるのではと思います。

そんな風にフィクションの割合が高かったり同じ年代の人物を演じていたりするせいか、今回はいつもよりさらに主役に自分を重ねているように感じられました。『ハドソン川の奇跡』にせよ『アメリカン・スナイパー』にせよ『15時17分、パリ行き』にせよ登場人物に対して距離をとった俯瞰的な視点でお話が語られていましたが、『運び屋』では本当に主人公に入り込んだ目線でストーリーが進んで行きます。最近の作品もどれも非常にひきこまれましたが、やっぱりイーストウッドの映画はイーストウッドが主演してる方が面白いように感じられます。そういう作り手と登場人物が同化してる映画の方が主人公に感情移入しやすいですからね。

そう、もしアールと同じ立場に立たされたらどうしよう?と考えずにはいられません。自分は相当要領の悪い人間なので犯罪に手を染めたら速攻で逮捕されるのは容易に想像がつきます。でもどうしにもお金が必要な時に「ちょいと車で運んでもらうだけだから」と言われたら心がぐらぐら揺れてしまいそう。いや、小心者なんで結局はやらないとは思いますけどね… 

あとこの作品、意外だったのが、近年のイーストウッド作品の中ではかなりユーモラスであったということ。普通車で犯罪をする映画と聞けば激しいカーチェイスが繰り広げられるんだろうな~とか思います(『ベイビードライバー』とか『ワイルドスピード』とかね)が、アールさんはご老体だけあって大変安全運転でした。だからこそ警察の目をかいくぐれるわけですけど、急がなきゃいけない時でものんびりしてるので、お目付け役のマフィアなんかは相当キリキリ来るわけです。「このジジイぶっころそうかなー」とまで考えてたりする。ですがじいちゃんと一緒に行動をしているうちにいつのまにかのんびりペースに巻き込まれてしまい、親しい間柄になってしまったり(笑)。この辺は先の『グリーンブック』や漫画『一日外出録ハンチョウ』の大槻&宮本にも通じるものがありました。マフィアのボスもそれなりに悪人なはずなのにやけにアールに親切だったりします。

しかしやってることはやっぱり犯罪ですし、雇い主は凶悪な麻薬カルテルなので、いつかは破局が訪れるわけなのです。

老いてからのイーストウッド主演作は「反省」をテーマとしていることが多いですが、今回もそうでした。もう米寿なんだから「若いころのことはええやん」と水に流しても良さそうなもんですが、年を経ても変わらず反省し続ける。ちょっと前のトランプ支持発言には「???」でしたが、そういうところは見習いたいものです。とりあえず闊達な姿が久しぶりにスクリーンで拝めてよかったです。いつまでもお元気で~

 

 

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Comments

伍一くん☆
イーストウッドさすがですね~
特に主人公そのままに演じているので、確かにぐっと引き込まれやすかったかも☆
きっと仕事にかまけてのあれやこれやは、実にイーストウッド本人そのものなのでしょう。
ところでオレオレの出し子など、高額バイトにクラクラきてはいけないのですyo~

Posted by: ノルウェーまだ~む | April 18, 2019 12:30 AM

>ノルウェーまだ~むさん

またまた返事が遅れてすみません。とりあえず今回は実の娘さんと共演してたので今は親子仲は悪くないようです。
安全運転で運ぶ仕事ならともかく、度胸と演技が要求される詐欺とかは絶対失敗するのでやりませんよー

Posted by: SGA屋伍一 | April 23, 2019 10:21 PM

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