幽霊はひとりぼっち デヴィッド・ロウリー 『ア・ゴースト・ストーリー』
風変わりな傑作をおおく送り出している製作会社「A24」。その中でも数々の映画祭で賞に輝いた鳴り物入りの作品を、ようやく拝むことができました。『ア・ゴースト・ストーリー』、ご紹介します。
すこし擦れ違いこそあるものの、仲睦まじい一組の夫婦。だが夫はある日自動車事故であっけなくこの世を去ってしまう。しかしの霊はこの世にとどまり、妻を静かに見守り続ける。
と書くとどうしても思い出すのは名作『ゴースト NYの幻』。ただベタベタな恋愛ものだったあちらに比べ、こちらはかなりシュールなタッチです。まず幽霊のデザインがなんともシンプル。丸目のついたシーツをすっぽり羽織っているだけで、「オバケのQ太郎」を彷彿とさせます。そういえば子供の絵本に出てくるオバケってこういうシルエットのものが定番だったような。お化けと幽霊は厳密には違うものかもしれませんが。
そんな風にビジュアルこそ滑稽ではありますけど、「ストーリー」の方はギャグもほとんどなく淡々と進行していきます。幽霊さんの孤独をひたひたと共感させるような作り。この辺は『ゴースト』というより手塚治虫の『火の鳥 未来編』に近いものがありました。悠久の時をただ一人で生きていかねばならない主人公の悲劇。漫画と映画の違いこそあれ時間の無情さと無限さを強く感じさせてくれる二作品です。
「時間」と書きましたがこの配分がまた独特でした。おくさんが黙々とパイを食べてるシーンを5分くらいかけて撮ったかと思えば、あるくだりでは時間が数十年ジャンプしたりする。そんな風にすることで時間に対する感覚の不確かさを表現したかったのか…というのは考えすぎか。
途中ある面倒くさいやつが、パーティーの席上で「ぼくらはみんないずれ消滅してしまうんだから存在に意味なんてない」みたいなことを言います。この映画はそれを否定してないと思うのですが、なぜか作品からは不思議なあたたかみや優しい視線を感じます。愛情豊かな人が弱弱しく咲いている小さな花に抱くようなそんな感情がこめられているような。
そんなひとりぼっちの幽霊を、ほとんどシーツをかぶったまま『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が記憶に新しいケイシ―・アフレックが好演しております。この2作ですっかり「幸薄い寡黙な男」というイメージが自分の中で定着してしまいました。つい先日監督作『Light of My Life』が海外で公開されたようですが、どんなものを撮ったのか気になります。
どういうわけかタイトルのよく似た(でもまったく関係ない)『シシリアン・ゴースト・ストーリー』という映画も近々遅れてこちらにやってきます。こちらはマフィアがらみのシビアな話のようで。でも雰囲気良さげなのでたぶん観ると思います。
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