ル・アーヴルのワンツーパンチ サミュエル・ジュイ 『負け犬の美学』
ボクシングというとなんとなくアメリカのスポーツ、というイメージがあります。ボクシング映画も大概は米国製ですし。ですが先日珍しくフランス製のボクシング映画が近場で公開されたので観に行ってきました。『負け犬の美学』、ご紹介します。
40代でいまだ現役のボクサー、スティ―ブは敗戦が続いていたが、引退する踏ん切りがなかなかつかないでいた。そんな折、最愛の娘のためにピアノを買ってあげようと決意したスティ―ブは、欧州チャンピオンのスパーリングパートナーに強引に志願し、まとまった金を得ようと奮闘する。
舞台はル・アーブル。少し前カウリスマキ監督の作品で『ル・アーヴルの靴磨き』というのがありましたが、たぶん同じ町です。『ル・アーヴル~』ではなんとなく寒々としたひなびた印象がありましたが、こちらは時代と多少場所が違うのか取り立てて派手でもないけど、それなりにひらけたにぎやかな感じで描かれておりました。
ボクシング映画というか格闘技映画には2通りあると思います。ひとつは自分の夢や求道のために格闘技をやる作品。もうひとつは家族(特に息子・娘)のためにお父さんががんばるタイプの映画です。どういうわけか今年は『パパは悪者チャンピオン』『ファイティン!』とそんな作品が続いてしまいました。ボクシングに限って言うと少し前ジェイク・ギレンホール主演の『サウスポー』というのがそうでした。そしてこの『負け犬の美学』もそっち側の映画です。
で、ボクシング映画における主人公というのはかなりの確率でチャンピオンの座を狙うものですけど、スティーブはちいともそんなことは考えてません。年も年ですし、負け試合も多いですし。じゃあなぜこんな痛いスポーツを続けているかといえば、やはり好きだからということと、「お嬢ちゃんの憧れる自分でありたい」という動機があるかと思います。それは日本だろうとフランスだろうと関係ない、どこの父親も抱くごくごく普通な感情なのでは。こういうシンプルな親子の絆を微笑ましく描いたわかりやすさはフランス映画らしからぬ気がします。逆におフランスらしかったのは、スターじゃなくてどちらかといえば底辺の方のボクサーを、日常生活含めて淡々としみじみと描き出してるところでした。スポ根的な熱さは感じられませんでしたが、こういう「知られざる格闘選手」たちの物語も地味に胸を打ちます。
おフランスの人ってお洒落第一で汗をかくことを嫌い、ワイン片手に「トレビア~ン」とか言ってるようなイメージがありましたが、もちろんそんな人ばかりでなく、不器用に家族のためにがんばる人もいるのだな…と感じ入りました。
ボクシング映画は来年の年明け早々に『ロッキー』シリーズの最新作である『クリード2』も控えております。こちらは王道中の王道的なジャンル映画になりそう。やっぱり楽しみです。
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