« この怒り、どうすレバいいノンか ジアド・ドゥエイリ 『判決、ふたつの希望』 | Main | ミッション・インテリジェンス シドニー・シビリア 『いつだってやめられる 闘う名誉教授たち』 »

December 05, 2018

永遠なる女王様 ブライアン・シンガー/デクスター・フレッチャー 『ボヘミアン・ラプソディ』

Drm1主に1970年代から80年代にかけて活躍した伝説のバンド「クイーン」。そのクイーンの足跡をたどった映画が2018年の今日本でも大ヒットしております。本日はその『ボヘミアン・ラプソディ』についてダラダラと書きます。

1970年英国。空港で働く青年ファルーク(後のフレディ・マーキュリー)は音楽にのめりこみ、押しかけのようにしてブライアン・メイとロジャー・テイラーが組んでいたバンドに加わる。もう一人ジョン・ディーコンを加えたバンドは「クイーン」と名を改め、瞬く間にスター街道を驀進。世界各地でコンサートを重ね、さらに不朽の名作「ボヘミアン・ラプソディ」をリリースする。この世の栄華を極めたかに見えたクイーンだったが、フレディは人知れず孤独と己のアイデンティティに苦悩し続けていた。

わたしがクイーンの名前を知ったのは十代のころ、「レディオ・ガガ」じゃないですけどラジオの古めの曲を紹介する番組を聞くようになってから。「ジェット・ストリーム」とか「クロスオーバー・イレブン」とかそういうやつですね。その後フレディの死後、ロック好きの弟がはまって、隣でビデオを見ながら「なかなかいいじゃん」と思ったり、『クロマティ高校』での出演?にインパクトを覚えたり。そんな風に本当に上っ面のことしか知らないままこの年まで生きてきました。
ただクイーンの曲というのは本当にいまいろんなところ…CM、TV番組、映画で使用されているので、わたしたちの日常にすっかり浸透してしまった感があります。ここ数年の映画だけでも「ロック・ユー」(『ピクセル』)、「フラッシュのテーマ」(『テッド』)、「ボヘミアン・ラプソディ」(『スーサイド・スクワッド』予告)、「キャント・ストップ・ミー・ナウ」(『ハードコア』)、「アンダー・プレッシャー」(『SING』)、「レディオ・ガガ」(『T2 トレインスポッティング』)、「キラークイーン」(『アトミック・ブロンド』)、「ブライトン・ロック」(『ベイビードライバー』)とわたしが知ってるだけでもこんだけ使われおり、「さすがにクイーンかけすぎじゃね!?」状態でありました。そして真打とばかりに彼ら自身の物語を描いたこの作品が公開されました。

前半の山場はやはりタイトルである名曲「ボヘミアン・ラプソディ」が作られていくくだり。この曲についてもちょくちょく耳にはするものの、歌詞の内容については今回初めて知りました。二転三転する曲調とシュールな言葉で聴く者を翻弄しますが、これ自体ひとつの物語であり、人を殺してしまった少年が裁きの場へと向かうお話を曲にしたものであります。「ボヘミアン」というのはかつてジプシーと呼ばれたロマのことであり、漂泊の民のことであります。フレディは自分のことを世間から迫害された、どこにも居場所がないそんな存在のように考えていたのでしょうか。あれだけの成功をおさめても彼がそんな風に感じていたとしたなら、本当に世の中どうやっても幸せになれないのでは…なんて思えてきます。
でもまあ、彼の真の居場所というのはやっぱり「クイーン」であり、観衆が前に立つステージであったわけで。それをフレディが心から実感するまでのお話ということもできます。「人間3人いれば派閥が出来る。バンドはだから必ずもめる」とは中島らも氏のお言葉です。クイーンも色々もめはしましましたが、とことんまでこじれなかったのは、やっぱり彼らがバンドである以前に「家族」だったからなんでしょうね。

フレディを演じるのはエジプト系のラミ・マレック。これまで最もメジャーな役は『ナイトミュージアム』3部作のファラオでしょうか。こういってはなんですが、そんな大スターとは程遠い彼がカリスマのフレディになるのは相当なプレッシャーがあったかと思います。しかしそれこそフレディが乗り移ったかのような熱演ぶりで高い評価を得ております。

大概ネタバレですが、自分が最も鼻水を垂れ流したのはフレディが病院でやはり先の長くなさそうな少年の「エオ」に応えるシーンと、長年険悪だったお父さんに迎えられ、彼の口癖だった「善き行い」を果たしに行くシーン。後者はアメコミ者としてはちょっと違いますが、『スパイダーマン』の「大いなる力には大いなる責任が伴う」というあれを思い出したりしました。

Srzksu5f_400x400『ボヘミアン・ラプソディ』は現在3週連続で前週の収益を上回るという驚きのヒットを記録しております。正直今の日本でクイーンの映画が売れるわけなかろう…とか公開前は思っておりました。ごめんなさあいごめんなさいごめんなさい。おそらくこれまで彼らのことを知らなかった若い人々も、その力強いメロディでひきつけているのでしょう。かつて酔いしれた世代はなおさらのこと。恐るべしクイーンであります。


|

« この怒り、どうすレバいいノンか ジアド・ドゥエイリ 『判決、ふたつの希望』 | Main | ミッション・インテリジェンス シドニー・シビリア 『いつだってやめられる 闘う名誉教授たち』 »

Comments

伍一くん☆
応援上映行ってきました!
私も父に会いに行くあたりから、ラストのライブシーンまで泣き続けてしまいましたよ。
それほどファンでもなかったのに、すっかりハマってしまいますね☆

Posted by: ノルウェーまだ~む | December 07, 2018 11:09 PM

>ノルウェーまだ~むさん

わたしも「よくなにかで聴く」くらいの立場だったのですが、すっかりはまってしまいました。そしてクイーンについてなんにも知らなかったんだなあと。これほどの規模で応援上映やってるのも異例ですよね!

Posted by: SGA屋伍一 | December 11, 2018 09:46 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 永遠なる女王様 ブライアン・シンガー/デクスター・フレッチャー 『ボヘミアン・ラプソディ』:

» 「ボヘミアン・ラプソディー」☆応援上映!! [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
クイーンファンの★ちゃ★の長引いた風邪が治るのをずっと待っていた。 やっと実現した応援上映!彼女がサイリウムを準備してくれて準備万端☆ 18時50分からだけあって、クイーンと共に青春を過ごしてきた年代のサラリーマンもたくさんで、当然のように満席だったのだけど…おや?意外とおとなしいよ?応援上映なのに…... [Read More]

Tracked on December 07, 2018 11:06 PM

» ボヘミアン・ラプソディ [象のロケット]
1970年、イギリス・ロンドン。 昼は空港で働き、夜はライブ・ハウスに入り浸っていた青年フレディは、ギタリストのブライアンとドラマーのロジャーのバンドの新しいヴォーカリストとなり、ベーシストのジョンを加え、ロックバンド「クイーン」として活動を始める。 数々のヒット曲が生まれ、彼らは世界的大スターとなるが…。 音楽ヒューマンドラマ。... [Read More]

Tracked on December 24, 2018 01:15 AM

« この怒り、どうすレバいいノンか ジアド・ドゥエイリ 『判決、ふたつの希望』 | Main | ミッション・インテリジェンス シドニー・シビリア 『いつだってやめられる 闘う名誉教授たち』 »