必殺剣トンボ斬り 歯室麟・木村大作 『散り椿』
昨年惜しくも亡くなった葉室麟氏の小説を、日本きっての名カメラマン木村大作が映画化。『散り椿』、ご紹介します。
友の父親の不正を告発した扇野藩士瓜生新兵衛は、そのことが元で脱藩。妻の篠と二人江戸でひっそりと暮らしていた。だが妻と藩主が相次いでこの世を去ったあと、新兵衛は思うところあって故郷へ戻ってくる。折しも扇野藩では新しい藩主のもと改革を進めようとする新兵衛の友・榊原采女と、旧藩主の影で私腹を肥やしていた家老・石田玄蕃の対立が激化。新兵衛の帰還はその争いにさらなる嵐を呼ぶ。
完全なる噂話ですけど、ジャニーズでもっとも喧嘩が強いのは誰かといえば岡田准一氏と松岡昌宏氏なんだとか。松岡氏の場合は気合というか番長的な強さらしいですが、岡田氏が強いのは格闘技を本格的にマスターしてるから。確かにドラマ『SP』における彼のアクション・身体能力はそれこそ半端ないものがありました。
そんな彼が時代劇で鬼気迫るチャンバラを見せてくれるというので期待していた本作品。ちなみに岡田君はいまをときめく是枝裕和監督の『花よりもなほ』という時代劇にも出ているのですが、そちらは剣はからっきしの侍の役だったんで今思えばなんかもったいない気がします。
で、その殺陣はどうだったかというと、これがなかなか独特でございました。普通チャンバラというとその方が華やかだからか剣を大きく振り回して首や胴体をチョンパするものですが、『散り椿』では剣の振りは最小限。相手の急所を細かくチョキチョキ切っていくような殺法でございました。確かに1人で多数を相手にするにはその方が効率が良さそう。あと重心を低くして「どんっ」と当たっていくような斬り方やチャンバラの合間にでんぐり返しを持ってくるようなアクションも、最近の時代劇ではあまり見なかったような。名カメラマン木村監督は「もう殺陣は全部岡田君に任せといた」とのことなので、いささか無責任な気はしますが、それで正解だったと思います。
一方ストーリーの方はどうだったかと申しますと、とりあえずだいたいのところは面白かったです。不穏な空気が流れるとある藩にいわくつきの男が舞い戻り、さらに状況がきな臭くなっていくあたりとか。そして男はどんな秘密を隠していて、何を企んでいるのか… 一人の男を中心にして周囲が洗濯機のようにかき回されていくこの流れ、ベタですがそれこそ黒澤明の『用心棒』『椿三十郎』のようです。
ただよくわからないのは当時藩を勝手に抜けるというのは相当な重罪だったはず。君主が死んだとはいえそんな簡単に帰って来れるものなのでしょうか。この辺は原作を読むとわかるのかな?(未読)
黒澤作品と違うのは主人公がややウェットなところですかね。ウェットというか彼も彼の妻も親友の采女も思考パターンが大概面倒くさい。三者の面倒くささが絡み合って事態はすっかりややこしくなってしまうのですが、この面倒くささが考えようによっては日本人尊んでいる「おくゆかしさ」というやつなのかもしれません。うーん、めんどくさー!!
岡田君は年末から来年にかけてドラマ『白い巨塔』に映画『来る』『ザ・ファブル』と相変わらずお忙しい模様。アクション好きとしては「伝説の殺し屋がなるべく目立たぬよう努力してひっそりと暮らす」という『ザ・ファブル』に期待しております。やっぱ体は動かせるうちにガンガン動かしていきましょうよ!とピークを過ぎた40代は思うのでした。
Comments
岡田君の剣法はリアルに強いと思うんだけど、映画としてはあまり美しくない。大上段に振り下ろす従来の剣法では全然太刀打ちが出来ないという事を誰かに語らせるとか、圧倒的な映像でそれを観客に分からせる、そういう演出があっても良かったのではないでしょうか? 「分かる奴だけが分かればいいんだ」ってのは娯楽映画っぽくないでしょ。
Posted by: ふじき78 | October 30, 2018 10:57 PM
>ふじき78さん
これは娯楽活劇というより人間ドラマよりだったからリアルな殺陣の方があってると思いました。どっちかというと山田洋次の『たそがれ清兵衛』なんかに近い流れ。あの作品では大上段に振りかぶったら剣が鴨居にぶつかってたりしましたね
Posted by: SGA屋伍一 | October 31, 2018 09:07 PM