最も危険な将棋 瀬川昌司・豊田利晃 『泣き虫しょったんの奇跡』
♪ふう~けえ~ば とぶよ~な しょおぎのこまにィ~~と。本日はもう公開が終了してしまった将棋映画の傑作『泣き虫しょったんの奇跡』を紹介いたします。
時は80年代。特に主体性のなかった瀬川昌司少年(しょったん)は明るい担任の先生に励まされてから、将棋にどんどんのめり込んでいく。隣家に住む鈴木悠野というライバルに恵まれたしょったんはめきめき実力をあげ、ついにはプロ棋士を養成する「奨励会」に入会。だが奨励会で生き残ることは想像を絶するすさまじさで、しょったんは次第に追いつめられていく…
洋画の「実話に基づいた話」というは向こうではよく知られていても、日本人にはそうではないことが多いですよね。最近だと『アメリカン・スナイパー』とか『フォックス・キャッチャー』とか。この『泣き虫しょったん』もいわゆる「衝撃の実話」なんですけど、わたくし恥ずかしながらちい~とも知りませんでした。これ、当時は相当話題になったと思うんですけど、その時よほどボーっと生きてたのか。ともかくそのころの奨励会には「26歳までに4段に昇格できなければ退会→プロにはなれない」という鉄の掟がありました。一度退会したしょったんがどうしてプロになれたのか… そのプロセスはまさしく「奇跡」以外の何物でもありません。
ストーリーはおおむね3部にわけることができます。将棋を知り、友とひたすら打ち込んでいくワクワクする第一部。奨励会に入るものの次第にプレッシャーに蝕まれていく第二部。この第二部が本当に胃がキリキリするようなつらいパートで、自身奨励会に所属していたという豊田利晃監督の経験が存分に生かされております。そしていったんゼロにリセットされてから、静かに再起をはかっていく第三部…と。それこそ本当に映画みたいな話であります。
主演の松田龍平さんはお父さんゆずりのオーラを漂わせている方ですが、今回はそのオーラを封印。ひたすらおとなしげでぼそぼそしゃべるしょったんをある意味熱演しておられました。
そのしょったんを温かく支えるのが3人のオヤジたち。将棋倶楽部のおじさんのイッセー尾形、実父の國村隼、再起を手助けする小林薫、三者三様の人間力でもってそれぞれの時代のしょったんを導いていきます。決して安易に感動をあおるような作りではないのですが、出てくる人々の静かな情熱が鼻水を誘ういい映画でございました。
…にもかかわらず興行はだいぶ苦しかったようで。『聖の青春』もいい映画でしたが、あまり芳しくない成績でした。この度はつい最近藤井聡太君の快進撃もあったので、その影響でもう少し売れるのでは…と期待しましたがやっぱりダメでございました。なんというか「将棋」という題材そのものが映画興行にむいてないのかもしれません。個人的には本年度の実写邦画では1,2を争う出来だと思っているのですが… 無念。わたくし好きな映画はあんまり人に勧められない場合が多いですけど(劇場版『仮面ライダーアマゾンズ』とか)、『泣き虫しょったんの奇跡』は自信をもってたくさんの人に推せる作品です。
ちなみにこの映画、出番1分もありませんが『聖の青春』『3月のライオン』にも出てた染谷将太氏もキャストに名を連ねています。染谷将棋三部作とでも呼べばいいのか。また将棋映画が作られることがあったら、引き続き登板していただきたいですね!
Comments
「ともかくそのころの奨励会には26歳までに4段に昇格できなければ退会」今でもそうです。
ただし三段リーグで勝ち越せば残留できるけどそれも29歳まで。
オレも奨励会に入りたいと母親に言ったことがある。
そしたら「名人になれるのか?」
それはムリなので夢に終わった。
最近そのことを母に言ったら全然覚えていませんでした(笑)
なんて話したことありましたっけ?
Posted by: まっつぁんこ | October 25, 2018 07:26 AM
やはりここは起死回生、永井豪の「真夜中の戦士」を映画化して、将棋映画の再興をはかるしかないか。
Posted by: ふじき78 | October 28, 2018 11:14 PM
>まっつぁんこさん
26歳を越えても辛うじて残れる例が幾つかあるみたいですね。これも前からそうだったのかな
奨励会に関しての話は初めて聞きました。名人のまっつぁんこさんを見てみたかった気もしますが、そしたら知り合いになってなかったかも
Posted by: SGA屋伍一 | October 30, 2018 09:40 PM
>ふじき78さん
え、『真夜中の戦士』って将棋漫画だったの… 『月下の棋士』はさすがにもう映像化されないかな
Posted by: SGA屋伍一 | October 30, 2018 09:41 PM
また染谷将太さんが出てるよ、と思いましたが、『聖の青春』で奨励会を年齢制限のために退会せざるを得なかった役とは反対に、今回は順調にプロ棋士にのし上がっていく役で、三作三様で面白いですね。
本人の将棋の腕は「最弱」だそうですが
Posted by: ナドレック | January 06, 2019 11:14 AM
>ナドレックさん
今回の染谷さんは本当に「特別出演」くらいの登場場面でしたね(笑) 彼の他にもちょびっとしか出てこない役に妻夫木氏とか豪華な顔ぶれが目立ったなー
Posted by: SGA屋伍一 | January 07, 2019 09:52 PM