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September 18, 2018

死霊のうらがわ 上田慎一郎 『カメラを止めるな!』

人里離れたところにある今はもう使われていない水道施設で、ゾンビ映画の撮影をしているクルーがいた。常軌を逸した監督の興奮ぶりに次第に疲弊していくスタッフ・俳優たち。メイク係の女性は場を紛らわそうとロケ地にまつわる伝説を語り始める。なんでもそこはもともと旧陸軍の研究所で、死体を生き返らせる実験が行われていたとのこと。彼女がその話を語り終えるや、異様な物音が館内に響き渡る。それは想像を越えた惨劇の幕開けであった…

…って感じで始まる今話題のヒット作『カメラを止めるな!』。ホラー映画としてはありがちな出だしであまり期待も持てないのですが、どうしてどうして、ストーリーはここからどんどん予期せぬ方向へ転がってまいります。

新宿駅東南口の近くにケイズシネマという映画館があります。欧州のアート系作品の特集上映や、新人監督の秀作なんかをよくかけてるところで、言ってみればこう、「エッジの効いた」映画をよくあつかってる劇場です。客席もそれほど多くなく、「新宿のど真ん中で経営厳しくないかしら」と勝手に心配したりしてました。
で、今年の7月くらいでしたでしょうか。そのケイズシネマで毎回満席で大評判を呼んでいる作品があると聞きました。それがこの『カメラを止めるな!』でした。興味が湧いたもののチケットを取るのが大変そうだな…と思っっていたら、今度は評判が評判を呼んで全国のTOHOシネマズで拡大上映されるという。そして映画ファンのみならずひろく一般層にも大変な好評をもって迎え入れられました。映画ファン歴20年のわたしにもこんな異例の形でヒットを飛ばした邦画はちょっと記憶にありません。ある方のお話によると伊丹十三監督の『お葬式』なんかがとても近い形だったそうですが。

ヒットの要因は月並みですがまずわかりやすい、とても面白い映画であったこと。「面白い」というのは人それぞれでですが、『カメラを止めるな!』には普遍的というか最大公約数的な面白さが詰まっておりました。また、それと同時にとても変わった作品でもあることも好評の理由かと。わたしくらいの年になると「これはあれのオマージュかな?」と感じるところがチラホラないでもないですが、それでもトータル的には立派なオリジナリティを有してますし、まして普段あまり劇場に行かない人たちにしてみたら「こんな映画観たことない!?」というくらいヘンテコな構成だったと思います。高額な予算をかけなくてもすぐれた脚本とアイデアひとつでこんだけの傑作を作れるという実証のような作品。少し前だと『キサラギ』『アフタースクール』『フィッシュストーリー』などと近いものを感じました。

監督はこの映画が2本の舞台から影響を受けていることを認めています。1本は劇団PEACEという団体の『GHOST IN THE BOX!』。もう1本は三谷幸喜氏の『ショウ・マスト・ゴー・オン ~幕を下ろすな』。後者はたまたま教育テレビ(現Eテレ)で放送されていたのを見たことがあります。どんな内容かと申しますと、ある名優が『マクベス』を公演するわけですが、もうかなりの高齢のため途中で倒れてもおかしくない状態だったりします。おまけに演出家が迷子になって小屋に到着できなかったり、ピンチヒッターにスタッフのお父さん(ずぶの素人)が来てしまったり、本当にたくさんのトラブルが公演を襲います。それでも一度幕を開けた以上最後まで芝居はやらなきゃならない…というスタッフのドタバタ・がんばりを描いた作品。ちなみに背景の転換は一回もなく、檀上はずっと舞台の袖で固定されておりました。

確かに『カメラを止めるな!』と似てるところは幾つかありましたが、表現方法が映画とお芝居とはおのずとやりようが異なってくるもの。『ショウ・マスト~』は普通にDVDが発売されてるので興味を持たれた方は見比べてみるのも一興かと。三谷さんは「ぼくの影響? 受けない方がいいんじゃない?」の一言で済まされましたが、もう一方の舞台の方は次第に納得いかなくなってしまったようで、現在「原作として認めるか」という協議がつづいてるとのこと。ただそんなネガティブなニュースさえもヒットの肥やしになってしまった感すらあります。

『カメラを止めるな!』は怪談の時期が終わってしまったこともあり、さすがに売り上げがピークを過ぎて参りました。それでもまだ2、3週は上映が続くものと思われます。繰り返すようですが、こんなヘンテコな映画がこんなヘンテコな形でヒットを飛ばすことは今後10年ないのでは。祭りにでも参加するつもりで、ちらっとでも興味を持たれた方は鑑賞してみるのはいかがでしょう。何かにつけ自信がないわたしが(ちょっとだけ)自信をもっておすすめいたします。

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Comments

> 「エッジの効いた」映画をよくあつかってる劇場です。

何だと、「エッチの効いた」映画をよくあつかう劇場ならたまに行くぞ!

Posted by: ふじき78 | September 18, 2018 at 10:57 PM

(「うる星やつら」の)サクラさんが「カメッ トメッ カメッ トメッ」とお祓いをする姿が思い浮かびました。

Posted by: ボー | September 19, 2018 at 06:27 AM

伍一くん☆
私もTOHOでようやく観ましたが、噂に違わず面白かったデス。
アイデアって大切!

Posted by: ノルウェーまだ~む | September 23, 2018 at 02:19 PM

>ふじき78さん

AVにおされがちなエッチ映画の火を消さぬようがんばってください!

Posted by: SGA屋伍一 | September 24, 2018 at 08:57 PM

>ボーさん

うる星はあんまり記憶にないんすよね… めぞん一刻とらんまは好きだったんですが

Posted by: SGA屋伍一 | September 24, 2018 at 08:58 PM

>ノルウェーまだ~むさん

実はわたしTOHO新宿で一回観て、地元のシネプラザサントムーンというというとこでもう一回観ちゃいました。どちらの回も大盛況でみんなゲラゲラ笑っててたのしかったです!

Posted by: SGA屋伍一 | September 24, 2018 at 09:00 PM

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