デ・ニーロ・イン・コリア チャン・フン 『タクシー運転手 約束は海を越えて』
もう大体公開が終わってしまった紹介シリーズ第3弾。本日は2017年韓国においてNo.1ヒットとなった『タクシー運転手 約束は海を越えて』、参ります。
1980年。ソウルで娘と貧しく暮らしていたタクシー運転手のキム・マンソプは、光州まで連れて行ってくれれば大金を払うという外国人客の話を聞き、なんとかその仕事を取り付ける。だがマンソプは知らなかった。その時光州は軍部に掌握されていて、これからまさに大きな惨劇が始まろうとしていることに。
当時わたくしは3歳。光州事件のことはおろか韓国という国があることもよくわかってませんでした。というか、40過ぎてようやくそんな悲劇があったことを知りました。そんなわけでいろいろ勉強させていただいたこの映画には感謝しています。
光州を抑えていた軍閥は地域一帯を封鎖し、反抗する住民たちを容赦なく虐げていたのですが、外部には「テロが起きていてこちらが襲われている」なんて報道しておりました。そしてそれをすんなり信じてしまう韓国国民。ネットが発達し簡単に動画を配信できる現代では不可能なことだと思いますけど、それともやはり世界のインフラが発達してないところでは今もこういうことがあるのでしょうか。マンソプが乗せる記者ユルゲン・ヒンツペーター氏はその欺瞞を暴くため光州に潜入します。災難なのはそれに付き合わされることになったマンソプさん。
興味深いのはこれが光州だけの事件で、ちょっと走ったソウルでは普通にのどかな暮らしが営まれていたということです。わが国でいうなら地方のどっかの県に突如として独裁政府が誕生し、周囲と交流が断絶してしまうようなものでしょうか。果たしてどうしてそんなことになってしまったのかは、調べが足りないためによくわかりません。
ともあれ、序盤はのんびりまったりしている昔のソウルから始まるので、山崎監督の『ALWAYS』みたいな雰囲気が漂っております。マンソプを演じるソン・ガンホ氏のキャラがまたユーモラスでのんびりムードに拍車を駆けます。しかしそのムードは光州に入ると徐々に緊張感を増し、ついには血みどろの銃撃シーンへと突入してしまったので顔色を失いました。マンソプさんとユルゲンさんは生きるか死ぬかの脱出行をせまられることになります。本当に前半と後半でこんなに空気が一転してしまう映画は『ライフ・イズ・ビューティフル』以来です。また、そんな凄惨な事態に陥っても、二人を懸命に助けようとする人々の姿には胸を打たれました。
で、頭から実在の事件をモチーフにしたフィクションだと思って観ていたのですが、最後にユルゲンさんはおろか彼を助けたタクシー運転手も本当にいたということを知ってたまげました。さすがにマンソプさんのキャラやクライマックスのあれこれは盛ってると思う(というか、実在した運転手さんの名前はサボクさん)のですが、それにしてもすごい話です。
あと『タクシードライバー』『TAXI』『フィフス・エレメント』などタクシー運転手はちょくちょく映画の題材になるのに、バスや電車の運転手はあんまり主人公になりませんよね。タクシーの方が自由度が高いからなんでしょうけど、ちょっと気の毒です。
『タクシー運転手』のDVDは11月発売。まだもうちょっと先ですか。名画座などでも細々とかかってるので気になった方はチェックされてください。
Comments
> 映画の題材になるのに、バスや電車の運転手はあんまり主人公になりませんよね。
バスで思い出すのが「ダーティー・ハリー」「ガントレット」「スピード」とか。でかくて攻撃力があって人質がいっぱい詰まってる交通機関。主人公がバス運転手というのは確か「パターソン」がそうだった。「パターソン」のバス、銃で蜂の巣にされたり、速度が遅くなると爆発する爆弾を仕掛けられたりしないんだよね。残念。
Posted by: ふじき78 | September 04, 2018 04:06 PM
>ふじき78さん
あー、『パターソン』ありましたね。なるほど。バスもそれなりに映画で活躍しておりますね。『バス男』というのもあったし。『ガントレット』のあれはかなり好きです
Posted by: SGA屋伍一 | September 05, 2018 09:57 PM
こんにちは。
「サボクさん」は実在したタクシー運転手のほうですね。ソン・ガンホが演じた劇中の人物は「キム・マンソプ」です。
日本だったらあのような悲惨な出来事をこんな風に娯楽色たっぷりに描いたりしないのではないかと思います。こういう描き方をするところが韓国映画の面白さでしょうか。
Posted by: ナドレック | September 09, 2018 09:11 AM
>ナドレックさん
解説補足ありがとうございます。あとで修正しておきます。
江戸時代、明治維新くらいまでは多少ぶっとんだお話でも許されそうですが、戦中・戦後くらいの実話ベースの話でこれだけ思い切った脚色をしたら「不謹慎だ」と怒られそうな気がします。日本では。韓国の思い切った実話ベースの映画といえば『シルミド』も忘れがたいです
Posted by: SGA屋伍一 | September 11, 2018 09:27 PM