恐怖箱男 グラハム・アナブル アンソニー・スタキ 『ボックストロール』
ゴールデン・ウィークに観た映画の感想を今頃書いています… 本日はストップ・モーション・アニメの雄、ライカスタジオの作品で唯一日本未公開だった『ボックス・トロール』について紹介いたします。連休中に恵比寿の写真美術館で特別上映されたのでようやく拝むことができたのでした。
昔々あるところに、夜な夜な箱をかぶったトロールが徘徊する街があった。トロールは危険ということで市長は駆除業者のスナッチャーを雇い、一匹、また一匹とトロールを捕獲していく。トロールに育てられた男の子エッグズは仲間たちが捕まっていくのを涙を呑んで見守るほかなかった。だがやがてエッグズはトロールを助けるために勇気を出してスナッチャーに立ち向かっていく。
一応原作はアラン・スノウという方の小説『Here Be Monsters』。ただ550ページもある大長編ゆえかなりのアレンジがなされたものと思われます。
トロールといえばファンタジー世界では人を襲う怪物であったり、それなりに愛嬌のある妖精であったり、作品ごとにまちまちでありますが、この映画では後者のイメージで描かれています。よくわからないのはなぜ箱をかぶってるのか、ということ。それは作品を観ているうちにわかりました。単純に面白いからです。まず箱をかぶっていると擬態しやすい。さらに寄り集まって合体しやすい。他にもさまざまな箱アクションが披露されます。
あとこの「箱かぶり」というのがこの作品のトロールの性質をよく表しているのですね。人一倍臆病なために駆除業者が襲ってきても、逃げるよりも立ち向かうよりもまず箱にこもってじっと身をひそめることを選ぶという。わたしも日頃からびくびくして生きているので彼らに感情移入せずにはいられませんでした。
そんなトロールたちの窮状を打開すべく奮闘するエッグズが魅力的なのはもちろんですが、この映画にはもう二人異彩を放つキャラクターが登場します。
1人は市長の娘でエッグズに興味を示すウィニー(声はエル・ファニング)。いわば童話におけるお姫様ポジションでありながら、なかなかに乱暴で自己顕示欲の高いやや壊れたヒロイン。でも心の底にはあったかいものを秘めていて、エッグズを懸命に助けようとがんばります。こういう型にはまらない「お姫様」、いいですよね。
もう1人は駆除業者のスナッチャー。彼はトロールが実はおとなしい生き物であることを知っていて、自分の野望のためにそれを隠してエッグズたちを迫害します。この男はチーズのアレルギーを持っているのですが、「出世するためには町の有力者たちのようにチーズ通でなければならない」と思い込んでいて、無理やり苦手なそれに慣れようとします。その際の描写が思いっきりグロテスクで、やけに力が入っておりました。ライカ作品はみな多かれ少なかれホラー的な要素がありますが、『ボックストロール』は怖いというより、このグロ方向に思い切り振りきれておりました。
そんなちょいと悪趣味なところはありますが、ライカ歴代二位の売上を記録し(それでも赤字ですが)、第87回アカデミー賞の長編アニメ映画賞とゴールデングローブ賞アニメ映画賞にノミネートされ、アニー賞では9部門にノミネートされ声優賞と美術賞を受賞したくらいですから一級品のエンターテインメントであり、ストップモーションアニメの大傑作であります。先に話題になった『KUBO』などは動きがなめらかすぎてもはやCGと区別がつかないくらいでしたが、こちらはまだ人形独自の温かみのある質感がよく伝わってきました。そしてエンドロール後にはそんなコマ撮りアニメに費やされる恐ろしいほどの手間暇が、メタ的な演出で明らかにされます。本当にこんなろくろく儲けにもならないような作業をそれほどな苦労をかけて作っているとは… すばらしい(笑) あらためてこれからもコマ撮りアニメを応援していこうと心に固く誓いました。
当然特別上映は終了してしまいましたが、『ボックストロール』は現在普通にDVDで観られます。ご興味おありの方はどうぞ。
コマ撮りアニメの新作としては現在ウェス・アンダーソンの『犬ヶ島』が絶賛上映中。来月にはアードマンの『ア―リーマン』も待機しています。
Comments
露出狂のトレンチコート・トロー……ゴホッゴホッ、何でもないです。
チーズが階級の証になってるって、そんな大事なものに? まあ、「ウォレスとグルミット」にも「チーズ・ホリデー」というただただ、チーズを褒めることがテーマって短編があるから、欧米人にとって、チーズは特別な食べ物なのかもしれない。
Posted by: ふじき78 | June 11, 2018 11:42 PM
>ふじき78さん
チーズってワインのおつまみによく用いられるからなんとなく高級そうなイメージを抱く人もいるのでは
わたしはビール&チーズおかきで一杯やるのが好きです
Posted by: SGA屋伍一 | June 12, 2018 08:59 PM