馬耳中東風 ダグ・スタントン ニコライ・フルシ― 『ホース・ソルジャー』
今日もほぼ完全に公開が終わった映画の感想です。5月は動物映画の傑作が多かったのですが、その先駆けとなった『ホース・ソルジャー』、ご紹介します。
全世界を揺るがした9.11の同時多発テロ。ブッシュ大統領はイスラム過激派への報復としてアフガンへ12人の精鋭部隊を派遣する。家族とのつらい別れを経てミッチ・ネルソン率いる部隊は敵地へと向かうが、地元の協力者である軍閥のリーダーは一癖も二癖もある男で、作戦の進行は困難を極めるのだった。
予告編からは5万の敵軍に取り囲まれた12人の騎兵が決死の脱出を試みる…というストーリーを連想しますが、実際に観てみるとだいぶ違いました。別に包囲されてるわけではないし、何を考えてるかわからないとはいえ友軍もそれなりにいます。空からの援護射撃もあります。
そもそもなぜ現代の戦争において馬を用いているのか。これは険しい山の多い地形が関係しております。がけっぷちの細い道を通るのは馬でないと難しいですし、敵に気づかれずにそっと忍び寄るのももってこいなのです。
そしてもちろんこれで戦車に立ち向かうわけではありません。目的はアルカイダの拠点をこっそり確認すること。そしたら無線で基地に座標を知らせ、敵のアジトを空爆してもらうという作戦なのです。科学の発達した21世紀だからこそできる戦術である一方、同時にアナログな移動方法である馬に頼らなければならないというのが興味深かったです。
割と安全そうな戦法に思えますが、やはりそこは戦争。時々事情でアジトに近付きすぎて至近距離での銃撃戦に展開することもあれば、地元の協力者たちが血気にはやって勝手につっこんでっちゃったり。クリス・ヘムズワース演じる指揮官の苦労がしのばれます。
実はこの映画でとりわけ面白かったのは馬に乗ってのガンアクションよりも、とりあえず米軍をサポートしてくれる軍閥の将軍ドスタムとネルソンの駆け引きでありました。共通の敵がいるからこそ手を組んでいるものの、老獪で悲惨な経験をしているドスタムは若いネルソンをあまり信頼しておりません。その彼の信用を得るためにネルソンは全力で本音をぶつけていきます。
そのネルソン氏は国内での安全なポストが決まっていたにも関わらず、9.11の惨劇を目の当たりにして「何かをやらなければ」と中東行きを志願した男。その姿は『アメリカン・スナイパー』のクリス・カイルを彷彿とさせますし、『ハクソー・リッジ』のテズや『15時17分、パリ行き』の主人公をも思い出させます。そういう若者がすべてじゃないでしょうけど、世界の覇王たるUSAにはいいか悪いかはともかくとして、有事に際し国のために働こうと考える若者が時代を越えて多くいるようです。わたしなんかは仮にいま二十代だとしても日本のために戦おう、なんて気持ちはこれっぽっちもありませんけどね。
ただそうやって愛国心に身をささげたクリスが心を病みながらも戦場から離れられなかったのに対し、ネルソンはさっぱりさわやかに平和な環境に戻ってこれたのはなぜなんだろう…と思いました。「個人の資質の違い」と言ってしまえばそれまでですけどね。
というわけで『ホース・ソルジャー』はもう二番館くらいでしか公開予定がありませんが、近々DVDが発売されると思いますので興味おありの方はその際にどうぞ。
引き続き五月の動物映画をいろいろ紹介していく予定ですが、記事が書けるのが先か、公開が終わるのが先か…
Comments
この映画を「動物映画」のくくりで紹介するとは流石ですね。
わりと馬はどうでもいい映画でしたが。
予告編の 50000vs12 には騙されました……。
Posted by: ナドレック | June 13, 2018 10:08 PM
>ナドレックさん
「ホース」と題名についてるので当然動物映画です! まあたしかに『戦火の馬』よりはウマ目だってなかったかな…
予告編にははやくも今年の「ハッタリ予告編大賞」をあげたい
Posted by: SGA屋伍一 | June 19, 2018 10:58 PM