サイボーグじいちゃんI 奥浩哉・佐藤信介 『いぬやしき』
これももう鑑賞からまる一か月経っちゃってますけど、まだ辛うじて公開中『GANTZ』『変』で知られる奥浩哉氏のコミックを、『アイアムア・ヒーロー』の佐藤信介監督が映画化。『いぬやしき』、ご紹介します。
癌で余命わずかな中高年サラリーマン・犬屋敷壱郎と、内に暗いものを秘めた高校生・獅子神皓はある晩たまたま同じ公園にいたところ、宇宙からの謎の物体の直撃に遭い、体をスーパーパワーを持つロボットに改造されてしまう。人助けのためにその力を使う犬屋敷と、欲望の赴くままに殺戮を続ける獅子神は、やがて当然のように対決の時を迎える。
原作は連載時だらだらと読んでました。よくもわるくも『GANTZ』と同じ特徴が出た漫画で、発想もビジュアルもまことに面白いんだけど、全体の構成とか完成度は非常に適当と申しますか。ひたすらノリで突き進んでエネルギーが切れたらさっさと終わりにしてしまった、そんな印象(奥先生ごめんなさい)。
だもんで映画もあまり期待してなかったのですが、これがとてもよかった。まず全10巻の漫画を2時間にまとめたことで主人公二人の対比とかテーマがぐっと際立った気がします。
犬屋敷さんは家庭でも会社でもつまはじきにされ、唯一慕ってくれるのは犬だけという非常に悲しいおじさんなのですが、それでもどこまでも善人であり続ける男。ヒーローらしくないのは老化著しい外見と気弱な性格くらいです。対して宿敵の獅子神は美形だしそれなりに何人かから愛されてるにも関わらず、「父から捨てられた」というコンプレックスを捨てきれず凶行に走ります。
以下、中バレで
このあと一度は救ったお母さんがネットやメディアで責められて自殺を遂げ、獅子神の怨念はさらに増幅していくわけですが、この辺が実に現代的なテーマだなあと感じました。「叩いていい」と判断されると全く関係ない人たちまでこぞって鬼のようにバッシングする…というのをよく見かけます。もちろん犯罪や不祥事は正されてしかるべきですが、そういうのは感情的にではなく理性に乗っ取って然るべき立場の人たちが冷静に裁くべきだと思うのですよね。まして多少の失言や失敗などは誰にでもあることではないでしょうか。獅子神母を演じているのが先日不倫でやり玉にあげられていた斉藤由貴だからかよけいにそんなことを思いました。
そういった深刻な題材とは裏腹に、奥先生独特のメカデザインが十二分に再現され、大都会をバックに思う存分暴れる映像は胸躍ります。漫画でももちろんかっこいいのですが、色がついて音がついてバリバリ動くとさらに魅力が増します。佐藤監督が以前映像化した『GANTZ』 の時よりその点さらに洗練されておりました。
どうしても原作disになってしまって申し訳ないのですが、あの結末がどうも納得いかなかったわたしにとって、こちらのENDは実に気持ちよく心和むものでした。そしてエンドロールの途中のシーンがまたよかった。わたしが原作で一番気に入ってたくだりを、さらにさわやかにアレンジして最後の最後に持ってきてくれたので。『アイアムア・ヒーロー』もそうでしたが、本当に原作を愛しその上でよくまとめアレンジした「実写化」の成功例になっていたと思います。
本当によく働かれる佐藤監督はやはり人気漫画原作の『BREACH!』を夏に公開されるとのこと。彼はどっちかというと小市民を主人公にした方がいいお仕事をされるので若干の不安を感じるのですが、余裕があったら観ておこうと思います。
Comments
「ブリーチ」特報が動く絵に変わって、、、、面白そう。期待してます。
Posted by: ふじき78 | May 31, 2018 01:46 AM
>ふじき78さん
めっちゃ遅い返信ですみません… ホロウ?だかのCGは独特でよいですね。銀魂はたぶん観ませんがこちらは鑑賞するかもです
Posted by: SGA屋伍一 | June 11, 2018 09:44 PM