モータリゼーションの裏側で キャスリン・ビグロー 『デトロイト』
『ハートロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティー』など骨太な題材で観る者を圧倒するキャスリン・ビグロー監督。その最新作は、60年代に米国を揺るがした暴動を扱った群像劇。『デトロイト』、ご紹介します。
1967年7月、黒人が経営するクラブの摘発をきっかけに火が付いたデトロイト暴動。その勢いはとどまるところを知らず、政府は鎮圧のため軍隊を派遣する事態に発展。歌手で成功することを夢見ていた青年二人は巻き添えから逃れるため、アルジェ・モーテルに宿泊する。だがそのモーテルから何者かが軍隊に空砲を打ち込んだため、容疑者とみなされた彼らは他何人かと共に、市警から容赦ない尋問を浴びることになる。
デトロイトといえば自分としては映画『ロボコップ』や『ナイスガイズ!』でなじみのある町。自動車産業で戦後急速に発展したものの、やがて日本車におされて今では空洞化に歯止めが利かなくなってる…なんてことをどこぞのニュースで目にしたような。本作品で扱ってる事件は、デトロイトがまさに頂点から下降を始める寸前くらいに起きた事件です。
黒人の差別をテーマにした映画も本当によく作られております。そのペースと本数はナチス関連作品に匹敵するほどでしょうか。現在ヒーロー映画『ブラックパンサー』が北米で映画史を塗り替えるほどのヒットを続けていますが、あちらが黒人の夢と理想を描いた作品だとすると、こちらは現実と歴史を扱ったものと言えます。
ただこの映画で扱われる悲劇は、人種差別のみが原因でもないような気がします。確かにそれはきっかけであり、要因の一つでありますが、少なくともアルジェ・モーテルで人命が失われたのは「自分が正しい。悪を裁かねばならない」という思い込みや、不幸にして滑稽な勘違いなども関係しているかと。ビグロー監督は『ゼロ・ダーク・サーティ』でも政府によるテロリストの拷問などを描いていましたが、人が義務感に駆られて残酷行為に走ることに興味があるのかもしれません。
そのサド的警官を演じるのが『ナルニア国第3章』『リトル・ランボーズ』での悪童役が印象的だったウィル・ポーター君。これまでのベスト・アクトでは…と思えるほどの鬼気迫る演技でしたが、あまりにこの役が辛くて影で泣きながらやってたんだとか。そんな情報を事前に仕入れてしまったせいか、いまひとつこのサド警官が憎めなくて困りました。
以下、ラストまでネタバレで。
命を永らえた青年の1人、ラリーは、歌手になる夢を捨てて、出世とは程遠い聖歌隊に入ることを望みます。先祖は強制的にアメリカに連れて来られた彼らですが、多くの人は自然にキリストの教えを受け入れているようで。まあそもそもキリスト教というものは白人専用のものではなく、中東から始まった人種に限定されないものですしね。その名を戦争に利用する政府・組織もありますが、本来はラリーのように憎しみを乗り越えて平和と愛を訴えていくものではないかと。このデトロイト暴動から約半世紀。いまだに対立の火種が絶えないのはなんともやるせないところでありますが。
「アカデミー賞候補!」とうたわれながらノミネートされなかった『デトロイト』ですが、決して候補の作品群と比べてレベル的に劣るものではありませんでした。結局モーテルの中で何が起きたのか、正確に知っているのは当事者たちだけなわけですが、それでも可能な限りに真実に近づこうとするビグロー監督の気迫を感じました。
残念ながらもうほとんど上映が終わってしまってましたが(…)、興味わいた方は二番館がDVD(たぶん近日発売)でご覧ください。
Comments
伍一くん☆
なかなかにやるせない映画ですよね。
そして未だに悪童顔のウィル・ポールターくんは実に良く演じきりました!
泣きながら演じたとは思えない性悪ぶりが実に見事でした。
彼に災いが降りかかってないといいのだけど…
Posted by: ノルウェーまだ~む | April 15, 2018 03:55 PM
>ノルウェーまだ~むさん
悪役を好演すると、中の人もそういう人間なのでは…と思われてしまうことはよくありますからね。でも実際は悪役が定番の方は好人物が多いそうです
ポーター君は『なんちゃって家族』のボンクラ君もとてもよかったです
Posted by: SGA屋伍一 | April 17, 2018 09:55 PM
で、とろいと? 私が?
Posted by: ボー | March 12, 2019 08:57 AM
>ボーさん
とろい点では自分も自信があります
Posted by: SGA屋伍一 | March 12, 2019 09:27 PM