フランス鉄道の奇跡 クリント・イーストウッド 『15時17分、パリ行き』
老いてなお精力的に映画を作り続けるクリント・イーストウッド。本日はその彼が実際にあった事件をもとに、また新たなチャレンジを試みた意欲作『15時17分、パリ行き』をご紹介します。
スペンサー、アンソニー、アレクは子供のころからの親友同士。成長してうち二人は軍に入り、一人は大学に進む。ある時旧交を温めるためヨーロッパ旅行を思いついた彼らは、金を工面して三人で欧州へ向かう。イタリア、ドイツ、オランダと大いに旅を満喫していたスペンサーたちだったが、フランスへ渡る途中で思いもよらない事件に巻き込まれる。
この映画、なによりまずびっくりしたのは映画情報サイト、ロッテン・トマトメーターでかなりの低得点をたたき出したこと(笑) あのイーストウッドでさえも、やる時はやってしまうんだ!?と、なぜか少しほっとしたものでした。
詳しく調べてはいませんが、おそらくその理由は事件の当事者である演技のド素人3人をそのまま主演で起用したことにある気がします。前作『ハドソン川の奇跡』で乗客の何人かを「本物」に演じさせたことと、そこで手ごたえを感じたことがイーストウッドのチャレンジ精神に火をつけてしまったんでしょうね。あと彼らが普通にヨーロッパ観光を楽しんでいるくだりがけっこう長いことも不評の原因かと。
でもわたしはあんまりその二点をマイナスには感じませんでした。
まず素人起用の件ですが、欧米人が身近にいないせいかあまり彼らの「演技」が不自然に感じられなかったのですよね。むしろ朴訥な表情や口調がかえってごく自然というか、「その辺をぶらぶら歩いてる観光客感」をリアルに醸し出しているように思えました。
もうひとつ観光パートが長いという点に関しては、彼らに感情移入してると自分も欧州の名所・スポットを巡ってるような気がしてきてこれまた逆に楽しかった。いいですよね、夢のヨーロッパ旅行。死ぬ前に一回くらい行けるかしら… ふううう
あとこの映画でもうひとつ興味深かったのが、「『ダイハード』みたいな事件って実際にあるんだなあ」ということ。そして現実の『ダイハード』はバトル部分がかなりあっという間だということです(笑) その辺のあっさり加減も一般にはマイナスポイントなのかもしれませんが、まあやっぱり現実はそんなもんでしょうと。
『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』と三作続けて「21世紀アメリカの英雄」を題材にしているイーストウッド。今回の『15時17分、パリ行き』は前二作の中間にあたる作品だと考えます。『アメリカン~』は殺人と戦いで英雄になった男の話。『ハドソン川~』は誰とも戦うことなく人命を救った男の話。で、『15時17分~」は戦って誰も殺さず人命を守った男たちの話…ということで。最近時々言動に不安も感じるイーストウッドですが、こうやってひとつのテーマを多面的にとらえ、観客に考えさせ、しかも十分にスリリングな映画を作りあげるという点で、やはり当代きっての名匠と言い切って間違いないでしょう。
当事者の青年の1人が「戦争で人を殺さないで人命を助ける」ことを目標に掲げている点も印象に残りました。その動機に信仰が大きく影響を及ぼしているあたり、『ハクソー・リッジ』のテズを思い出さずにはいられません。我々からすればその目標は大きく矛盾してるように感じられますが、彼らにしてみれば自然に導き出された結論なんでしょうね。そしてそのポリシーが結局は多くの命を死の淵から守ったわけですから、一概に「間違ってる」とは言えない気がします。
『15時17分、パリ行き』は公開からもう一か月を過ぎていますのでぼちぼち終了かと思われます。『ダイハード』や「沈黙」シリーズが現実に起きたらどんな感じなのか、興味ある方は駆け込みでごらんになってください。
電車映画としては先週末からリーアム・ニーソン主演の『トレイン・ミッション』も始まっています。『新感染』とか『オリエント急行殺人事件』とか、鉄道サスペンスが地味に続くこのごろ。
Comments
痔が15個もあって17も噴火してたら、行き先がパリだろうが何だろうが大変だよなあ。えっ、そういう映画じゃないって。
Posted by: ふじき78 | April 22, 2018 09:38 PM
>ふじき78さん
長距離列車でトイレにも行けずずっと揺られてたら痔にもなりますし汚物も噴射しちゃいますよね。って花の都が舞台なんだからもっときれいな話しましょうよ
Posted by: SGA屋伍一 | April 23, 2018 10:12 PM