カルタ馬鹿一代・千年伝説 末次由紀・小泉徳宏 『ちはやふる 結び』
競技カルタに材を取ったベストセラーコミック『ちはやふる』。劇場版である『上の句』『下の句』連続公開から二年を経て、待望の完結編がお目見えとなりました。『ちはやふる 結び』、ご紹介いたします。
ちはやとクイーンの血を血で洗う激闘からしばらくして。瑞沢高校かるた部の面々も三年生へと進級。いよいよ最後の大会へ臨むこととなった。新入部員も2名入り順風満帆かと思われた時、部長の太一はあることで心を乱しかるた部を退部してしまう。ショックをうけるちはやたちだったが、彼が戻ってくることを信じて勝ち続けることを決意する。
少女漫画でありながら恋愛描写はあくまで添え物だった前二作。しかし今回はのっけから告白シーンがあり、いきなり胸キュンモード全開でおじさんはちょっと照れくそうございました。でもまあ考えてみれば百人一首ってほとんどが恋の歌ですからね。この方がむしろカルタという題材にはふさわしい気も。格闘技みたいにバンバン札をすっ飛ばしてる方がむしろおかしいのかもしれません。
そこでクローズアップされてくるのがちはやちゃんにずっと片思いしている太一君。彼、見かけはさわやかなのに恋路となるとジェラシーを燃やしてたり陰でうじうじ悩んでたり、まことに男らしくない。けれどもそれが嫌味にならないというか、同情心を誘う憎めないキャラであります。さすがに部長なのに大会すっぽかしてどっかへ行ってしまうというのは問題だと思いましたが… ともあれ、そんなひがみっぽい太一くんがあることで恋の迷いを振り切りり、「とてもかなわない」と思っていたカルタのライバルに肉薄していく。気が付けば主人公のちはやちゃんより目立っている…というか、彼の方が主人公っぽい!? というわけで、胸キュンモードに冷めていたわたしも、本来のスポーツ漫画モードに戻ったクライマックスでは手に汗握って画面を見守っておりました。
これは原作に負うところも大きいですが、『ちはやふる』はスポーツものとしてもちょっと変わっています。カルタは一人でもできますし、ちはやちゃんという魅力的な天才キャラがいるんですから、普通は彼女がどんどん勝ち数を重ねていく様子を中心に描いていけばいいはずです。でもこの作品は個人の戦いと並行して団体での試合も丹念に追っていくのですね。映画に関して言えば団体戦の方が個人戦よりも比重が大きいくらい。監督はそうすることで競技を通じて若者たちが励ましあい、競い合う姿…良い影響を及ぼしあっていくドラマを映しだしたかったんでしょうね。友達の少ない自分としてはそういうキラキラした青春がうらやましかったりまぶしかったり。
青春といえばこの映画で特に好きなシーンのひとつは、校舎の屋上で「ずっとこのままいられたらいいのにね」とちはやとカナちゃんが語り合う場面。陳腐な言い方ですが、時の流れは誰にも止めることはできません。でもその時の痕跡をなんらかの形で残しておくことはできます。『結び』ではその辺もテーマのひとつとなっています。後輩にタスキをわたしていくことによっても。この後輩がらみのシーンもいちいち心憎うございました。
ちはやちゃんについても一応書いておきます。先ほど「太一の方が主人公っぽい」と言いましたが、ちはや=広瀬すずの顔面力はやはり堂々たるヒロインのそれでありました。普段の彼女はまことに子供っぽい…というか、うちのめいご(6才)に喋り方とか動きとかかなりよく似てました。ですからおじさん目線としてみるとかわいくて仕方がない。ただもう一応それなりのおっぱいがついてるのですから、気安く男子に抱き着くのは控えた方がいいのでは?と思いました。…いや、そういうことじゃなくて。そんな幼児のような彼女が、試合になるときりりと気迫ある若武者のような表情を見せるのですね。この幼児と戦士の二面性を持つ女の子を広瀬さんは見事に演じ切っていたと思います。
そんなわけで見事すぎるほどに「完結」を描き切った『ちはやふる』映画三部作(先日飲んだフォロワーさんたちは「肝心なところで逃げやがって!」「いやあれはまだ完結してない原作に気を使ってだね…」と語ってましたが…)。さすがにもうこの先はないかな? 最近の人気コミックは完結しても数年間を置いて次世代ストーリーを始めるというのがセオリーですけどねw
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Comments
すずちゃんと、かるたを飛ばし合いたいです。
Posted by: ボー | May 03, 2018 07:28 AM
>ボーさん
同感です。たとえ札が突き刺さっても
Posted by: SGA屋伍一 | May 07, 2018 09:58 PM