哀しき野菜生活 クロード・バラス 『ぼくの名前はズッキーニ』
昨日はアカデミー賞で大いに盛り上がりましたが、前回のアカデミー長編アニメ部門にノミネートされた傑作コマ撮りムービーが先日ようやく公開されました。『ぼくの名前はズッキーニ』、紹介します。
酒浸りの母と二人暮らす「ズッキーニ」と呼ばれる少年は、ある日起きた事故により身寄りのない子供たちが住む養護施設に引き取られることになる。そこにいるのはみな複雑な事情を抱えた児童ばかり。最初は壁を作ったり衝突したりしていたズッキーニだったが、共に過ごすうちに次第に彼らの「家族」となっていく。
どうでしょう、この重苦しいストーリー… ふつうストップモーションアニメというのは動物が主人公だったりファンタジックな話であることが多いですが、こちらではどこまでも現実的で深刻な物語。コマ撮りアニメで人間ドラマを丁寧につづったものといえば『メアリー&マックス』などもありましたが、あちらはもう少し語り口がユーモラスだった気がします。
本当に切ないことに世の中には親からも愛されない子供がいますし、すべての子供に温かい家庭があるわけではありません。しかしそうしたシビアな現実を突きつけるのは、普通こういうアニメを見る小学生以下のお子さんにはさぞショックだろうと思います。だもんでどちらかといえば十代以上の皆さんに観てほしい作品。ポスターもタイトルもキャラクターも、いかにも幼児向けっぽい感じなんですけどね…
コマ撮りアニメにも色々あります。アートで突き抜けたシュバンクマイエルの作品群、ポップでコロコロしたアードマン作品、リアルすぎてCGにしか見えないライカ作品などなど。
『ぼくの名前はズッキーニ』のモコモコっとしたフエルトっぽい質感や温かみのある積み木のような街並みは、製作国は違いますがロマン・カチャーノフの『チェブラーシカ』を思い出させます。主人公の頭がやたらでかかったり、どことなく物悲しいムードが漂ってるところも似ております。
わたくしなんでわざわざこんな題材をコマ撮りアニメでやろうと思ったのか不思議だったのですが、そんなETVで夕方にやってるようなビジュアルで語られると、お話のきつさも多少やわらげられるような効果がありました。
あと繰り返し「重い、悲しい」と書いてますがそれだけの作品ではありません。世の中にはちゃんとした情愛深い人たちも確かにいる、ということも含められておりました。
特に強い印象を残すのは序盤はタチの悪いいじめっ子にしか思えなかったシモン。この直後に観た『グレイテスト・ショーマン』にもあったんですが、最初すごく意地悪だった人が終盤ぽろっと優しさを見せるというの「ずるいよなあああ」と思いつつ弱いです。やめてください、本当にもう…
というわけでこれまたできるだけ多くの人に鑑賞していただきたい良作アニメなのですが、昨年秋に公開された『KUBO』などと比べるとあまり話題になってないのが切ないところです。おまけに第一陣はそろそろ公開終わりそう… この映画も日本公開までこぎつけるのはさぞや苦労があっただろうに。近くでやっててちらとでも興味のある方は、ぜひ足を運ばれてください。劇場一覧はこちら。
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