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February 20, 2018

カンバンはしまわない マーティン・マクドナー 『スリー・ビルボード』

Tbd1いよいよ再来週にせまった第90回アカデミー賞。本日は『シェイプ・オブ・ウォーター』と並んで作品賞の最有力候補である『スリー・ビルボード』をご紹介します。

ミズーリ州エビングで若い娘が強姦されたのち焼き殺されるという凄惨な事件が起きる。だが半年たった後も警察はいまだ犯人を捕まえられずにいた。業を煮やした被害者の母ミルドレッドは、家の近くの大きな三枚の看板に強烈なメッセージをでかでかと掲示する。
「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」
警察署長ウィロビーは温厚で街の人々から慕われていたため、ミルドレッドの行動は多くの反感を買う。露骨にいやがらせをする者も現れるが、それでも彼女は態度を変えない。

最初あらすじを読んだ時すごく痛々しい話だなあ…と思って話題作であるにも関わらずスルーするつもりでおりました。ところが予告編を目にしたら主演のフランシス・マクド-マンドがファックファック連発しててとてもユーモラスな印象を受けたのですよ。思ったほどきつい映画ではないかも?と考え直して鑑賞することにしました。まあやはり発端となる事件はとても残酷なものですが、全体的にショッキングな映像はほんの少ししかありません。そして観終わったあとには妙に心地よくなる不思議な作品でありました。

出だしはどことなく西部劇を思い出させます。。犯罪がまかり通る地方都市で、理不尽な暴力により家族を奪われた主人公。正義の執行人たる警察はあてにならず、彼(女)はついに自ら行動を起こす…という具合に。
しかし家族を奪った悪漢はどこの誰なのかさっぱりわからず、警察もそれなりに一生懸命やっていたりする。そんな感じで娯楽活劇ならこう進むであろう…という展開のことごとく逆をついてくるのですが、それがかえって痛快でした。むしろあっさり犯人が現れたら興ざめしてしまったのではないかと思います。

序盤で登場人物たちがビリヤードに興じている場面があります。狙ったわけではくタマタマなんでしょうけど、キャラクターたちの関係がちょうどビリヤードの球に似ている気がしました。殺人犯はキューを握るプレーヤーです。彼に後ろから突かれたミルドレッドは怒りにまかせ別の球にぶつかり、その球はさらに別の球にぶつかり…という具合にひとつの怒りが様々な方向に伝播されていきます。
その中にあってやや異質なボールがウィロビー署長。他の球が木製な中、彼だけがまるでスポンジで出来ているかのようです。すごい勢いで突進してくる球をやんわり受け止め、上手に勢いを殺していく、そんな存在です。

以下結末までネタバレで。
Tbd2
そんなボールたちの予想せぬ動きが面白くはあるのですが、それでもやっぱり多少のモヤモヤ感も残ります。各々の激情は幾分おさまったのでしょうけど、結局残忍な犯罪者に公平な裁きはくだされないわけですから。きっと世の中往々にしてこういうことはあるのでしょう。怒りをぶつけるべき相手が上手く逃げおおせた場合、振り上げた拳はどこにもっていけばいいのか。作り手からそんな宿題を提出された気がします。怒りは時として大きなエネルギーになります。この映画でも「怒り」が多少よい結果を生んだと言えなくもありません。反面あちこちに被害をもたらしてもいます。そんな風に怒りは悪いものもいいものも焼き尽くしてしまう大火によく似ておりますね。

中心となる三人を演じるフランシス・マクド-マンド、ウッディ・ハレルソン、サム・ロックウェルはそれぞれがベストアクトだったのでは…と思えるほどの存在感を放っておりました。特にコワモテの役が多かったハレルソン氏は、イメージを一新するような懐も思慮も深いキャラを演じております。余談ですけど彼のお父さんはマフィアの殺し屋で何回目かのお仕事の時逮捕され、服役中に亡くなったとのこと。ウッディさん自身も警察やパパラッチを殴って何度か逮捕されているようです。この映画の撮影中、いったいどんなことを考えながら演技していたのでしょうか。

Tbd3『スリー・ビルボード』は現在全国の映画館で上映中…ですが、せっかくアカデミー賞の前に公開してくれたのにあんまりお客さん入ってないみたいです。観た人それぞれに何かしら残していく映画だと思うので、ちらとでも気の向いた方はぜひごらんください。


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Comments

伍一くん☆
えー!?ウッディ・ハレルソンのお父さんはホンマもんの方だったのですね??それでどこか凄みのある雰囲気を醸し出していたのかしら…
そんな彼が一転、慈愛のこもった署長を見事に演じていましたね。
こんなに面白いのに、お客さんもっと入ればいいのに~~

Posted by: ノルウェーまだ~む | February 21, 2018 at 12:36 AM

>ノルウェーまだ~むさん

またまた返事が遅れてすみせぬ~
ホンマモンの方だったようですね… シャーリーズ・セロンの生い立ちも相当過酷だったらしいですけど
アカデミー賞取れたらもっと話題になって公開も延長するかな? 自分はまあ『シェイプ・オブ・ウォーター』に取って欲しいんですけどー

Posted by: SGA屋伍一 | February 28, 2018 at 09:46 PM

犯人はヒューマン・トーチ(断言)。

Posted by: ふじき78 | March 28, 2018 at 05:31 PM

>ふじき78さん

ゴーストライダーかもしれない

Posted by: SGA屋伍一 | March 30, 2018 at 10:18 PM

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