放蕩と朗読とホドロフスキー アレハンドロ・ホドロフスキー 『エンドレス・ポエトリー』
前々作と前作の間には約20年もの歳月を必要としましたが、今回は4年で新作を完成させた鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー。やればできんじゃん! そんな彼の自伝的作品第二弾『エンドレス・ポエトリー』ご紹介します。
生まれ育った町トコピージャからチリの大都市サンチャゴに越してきたホドロフスキー一家。詩作に熱中するアレハンドロは、事業を継がせようとする父親と対立。家を出て芸術家たちのシェアハウスに落ち着く。やがて経験する恋人や親友との出会い、裏切り、別れ… 若き詩人は魂の赴くままに青春を謳歌する。
なんてさわやかでキラキラとしたあらすじなんだ… のちに変態的かつ難解な映画で名を知られるホドさんにも、ごく普通の夢を追う若者だった時代があったということですね。彼らしいアングラなビジュアルもチラチラとはありましたが。
まず驚いたのは前作『リアリティのダンス』とかなり直結した内容だったこと。本作品は『リアリティ~』のラストシーンから始まってますし、キャストも続投してます。タイトルを同じにして「PART1」「PART2」としても全く違和感ございません。『リアリティ~』を「少年時代編」とするならば、今回は「青年時代編」であります。
ただ前作が後半「お父さんが独裁者を暗殺しに行く」という明らかにフィクションなストーリーだったのに対し、今回は最初から最後まで現実にありそうなお話でした。おそらくホドさんのキャリアの中でも最もまっとうで落ち着いた映画かと思われます。
意外だったのは彼が最初から映像作家を目指していたわけではなく、詩人になりたかったというところ。わたしはこの二作の他には『エル・トポ』くらいしか観てないのですが、確かにあれはシュールな叙事詩か民謡のようなところがありました。どこまで意味がこめられているのか、意味などないのか、わかるようでわからない。そんな後の作品に通じるような荒々しいポエムが全編を彩ります。
ただ詩を朗読するだけでなく、「芸術は行動だ」と主張して突発的に無謀な冒険を始めたり、珍妙な作品をこしらえたりするアレハンドロと仲間たち。これよりだいぶスケールは劣りますが、かつて似たような中二的思考をこじらせた身としては若気の至りをいろいろ思い出して顔から火が出るようでした。ただホドさんがすごいのは単なる中二だけに終わらず、のちにちゃんと世界のアーティストたちに影響を与える存在になったことですね。こういうこともごくごくまれにありますから中二魂もなかなか侮れません。
あと作品の中でホドさんは若き日の自分のことを「美しい」と言わせたりしてなかなかずうずうしい、と思いましたが、こないだツイッターで流れてきた画像(記事頭参照)を見ると本当に美青年だったようです。天は二物を与えずとはあてにならない言葉であります。
この映画にはもうひとつ際立った特色があります。それはチンコがはっきり映るシーンがけっこうあること。ホドさんの映画といえばチンコが出るのは当たり前なのですが、これまでで最長の露出度だったのではないかと。しかもこれがぼかしなしにかなりはっきりと出ます。「芸術作品」ということで上手に映倫を説得したのでしょうか。わたしもそういえばあまり他人様のブツをまじまじと見ることはないので、ある意味貴重な映像体験でした。
変態とかチンコとかいろいろ書いてしまいましたが、ホドさんらしからぬ優しくしんみりするエピソードも幾つかありました。特にエズメとアレハンドロの別れのシーン(両方とも息子さんたちがやってる)は、ホドさんの厳父への複雑な愛情がじんわり伝わってきて感慨深いものがありました。その後の映画作家へと転向するお話も観たいですし、自伝を離れてコミックのようなSF作品も作ってほしい。年齢的にいろいろ厳しいかとは思いますが、まだまだ長生きしてヘンテコな映画・コミックをなるたけ世に送り出してほしいものです。
『エンドレス・ポエトリー』は昨年11月から公開されてますが、まだ粘り腰のように全国各地で続映されてたり予定されてたりします。中には過去作品も一緒に特集上映があるところも。詳しくは公式サイトをご覧ください。
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