男女七人唐津物語 檀一雄・大林宣彦 『花筐/ HANAGATAMI』
『この空の花』『野のなななのか』に続く大林宣彦監督の「戦争三部作」完結編。本日は先の第91回キネマ旬報邦画部門にて第二位に輝いた『花筐/ HANAGATAMI』をご紹介します。
アムステルダムから故国の佐賀県唐津市に戻ってきた青年・榊原俊彦は、級友の鵜飼や吉良、可憐で病弱な従妹の美那と青春を謳歌する。時に危うい空気をはらみながらも交流を楽しんでいた彼らだったが、美那の病は重さを増していき、唐津の街にも戦争の気配が濃くなっていく。
原作は『火宅の人』などで知られる檀一雄の短編小説。おそらくかなりのアレンジがなされてるかと思われます。それにインスピレーションを受けた大林監督はデビュー前に脚本を書いたそうですが、日の目をみることなく長い間しまわれておりました。しかしこの度40年の時を経て「奇蹟の」映画化が実現することとあいなりました。
若き日の秀作をもとにしてはいても、氏の出世作『時をかける少女』や『転校生』のような能天気さはなりを潜めております。柔らかいながらも死の気配が満ちているあたりは、やはり近年の二作と共通しております。
「戦争間近の時代の若者たちのロマンス」「不治の病で余命いくばくもないヒロイン』というところは宮崎駿監督の『風立ちぬ』を思わせます。ただ『花筐』はさすがは大林というべきか、例によって宮崎アニメにはないようなぶっとんだ演出が炸裂しておりました。
しきりに繰り返される流血のイメージや、「お飛び! お飛び!」というセリフ。やたらにでかい月や太陽。畑の中にどんどん増えていく兵隊さんの案山子。そして街を行進する「唐津おくんち」の巨大な鯛…などなど。
キャスト陣でとりわけ目を惹いたのはどう見ても高校生には見えない吉良君。長塚京三に似てるなあ…と思ったら息子さんの圭史さんでした(42歳)。無理があるだろ~って気もしますがそれくらいの年でないとあの濃厚な厭世感は出せないかも。
そしてもう一人際立っていたのはヒロイン美那を演じる矢作穂香さん。観た後で調べてみたら『仮面ライダーオ―ズ』で怪人メズール役を演じていた子でした。あのころも浮世離れした空気をまとっておりましたが、今回はさらに現実を越えたような輝きを放っておりました。元々少女を美しく撮ることにかけては定評のある大林監督。少し前ある番組で「映画を撮るということはヒロインに惚れること。僕が『野のなななのか』で常盤ちゃんにどれだけ惚れたか」と語っておられましたが、本作品でもきっと矢作さんにメロメロのデレデレだったのでしょうね。ちなみにこの映画前作に続き常盤貴子さんも出演されています。
正直今回は作品の中で言われるほど「戦争はいかんなあ。悲惨だなあ」というメッセージは伝わってきませんでした。それよりも強く感じたのは若い日々の儚さとか、二度と取り戻せない青春を懐かしみ、惜しむ思いなどでしょうか。大林監督は余命一年という宣告を受けた状況でこの映画を作っていたので、特に「黄金時代」への熱い思いがみなぎっていたような。幸い「余命」は撤回されていまではお元気になられたとのこと。なによりでございます。
前二作と比べると「現代」のパートがほぼないせいかパスカルズの音楽が流れなかったのがちとさみしゅうございました。わたしとしてはこの三部作の中では、やはり二作目の『野のななのか』が最も性にあいました。この『花筐』ももちろん強烈な忘れがたい映画ではありますが。
『花筐/ HANAGATAMI』は概ね公開が終わってしまいましたが、まだちょぼちょぼ予定が残っているところもあります。詳しくは公式サイトをご覧ください。名物映画館のポレポレ東中野では3/17より三部作の一挙上映も行われるとのこと。かなり体力が入りそうですが幻惑の大林ワールドにどっぷりと浸りたい方はどうぞ。
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