チェコっとだけストレンジャー カレル・ゼマン 『ほら男爵の冒険』
ようやく2018年最初の更新です… もう一か月前になりますが、久方ぶりのユジク阿佐ヶ谷で気になったるーい映画がかかっていたので観てまいりました。『ほら男爵の冒険』(1961、チェコ)ご紹介します。
時は多分20世紀半ば過ぎ。月へとたどり着いた宇宙飛行士は小じゃれたなりをした先客たちと出会う。「ほら男爵」と仲間たちである。ほら男爵は飛行士を天駆ける帆船にのせ、ともに地球へ帰還する。二人は中東、大海原、戦争中の城砦と、様々な場所へ冒険を続ける。
ついさっき調べたばかりなのですが、ほら男爵=ミュンヒハウゼン男爵は実在の人物なんだそうで。サロンでけったいなほら話をしてはみんなを楽しませていたので、そんな異名がついたのですね。彼の死後そのほら話に各地のいろんな民話がまざり、今でいう「ほら男爵の冒険」が出版されました。そのバリエーションは軽く100を越えるとか。
わたしがこの物語に最初に触れたのは星新一氏によるパロディ『ほら吹き男爵 現代の冒険』でありました。その後TVでテリー・ギリアムの『バロン』を観て大いにはまったりもしました。今回阿佐ヶ谷まで出向いたのもギリアム版みたいなのが観られれば…と思ったからです。
ちなみにこの映画、「ブルデチュカ映画祭」なるイベントで上映されておりました。イジー・ブルデチュカはチェコの脚本家でアニメ、西部劇など多彩なジャンルにわたって活躍されたそうで。そのブルデチュカさんが映像作家カレル・ゼマンと組んだのがこの1961年版の『ほら男爵の冒険』です。ウィキを見ますとゼマンさんは「特撮映画監督」と紹介されてますが、その技法は極めて独特です。わたしたちが思い浮かべる特撮とはかなり違う。主に人間は実物を使っているのですが、背景はセットだったり、緻密な精密がだったり、アニメだったり。文章で書いてもわかりにくいのでこちらの紹介動画を見た方がはやいと思います。CGが生まれる以前、こんな自由奔放で様式美溢れる「特撮映画」があったとはまことに驚きです。
ちなみにこの映画が出来た1961年はガガーリン氏が世界初の有人宇宙飛行に成功した年で、その8年後にアポロ11号が月に降り立ちます。人々の目が宇宙に向いていた時代だったんでしょうね。宇宙飛行士がちゃんとフード付きのヘルメットをかぶっている一方で、ほら男爵と仲間たちは月面で普段通りのファッションを貫いているあたりはなかなか人を食っております。
日本のみならず海外でもアニメと実写は完全に分けて作られることが多いですが、このカレル・ゼマンや他のチェコアニメの作家はその辺にはこだわらず、実写とアニメをシャッフルした奇天烈な映像世界を作りあげています。本当に変わっていますね、チェコのクリエイターは… でもそこが面白い。ゼマン氏が手掛けたというウェルズ原作の他の作品も観たくなりました。
この『ほら男爵の冒険』は今では『悪魔の発明』と抱き合わせになったブルーレイが最も手に入りやすい様子。お値段は約7000円とちょっと張りますが興味ある方はどうぞ!
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