ミート・ザ・モンスターペアレンツ ジョーダン・ピール 『ゲット・アウト』
2017年もだいぶ残りすくなくなってきました… 本日は来年のアメリカの賞レースを驀進してる風変わりな作品『ゲット・アウト』を紹介します。
クリス(黒人)とローズ(白人)は仲の良い恋人同士。二人は休暇にローズの実家にいくことになり、クリスは緊張を隠せない。ローズは「うちの両親は進歩的だから大丈夫」と彼を慰めるが… クリスの心配をよそにローズの両親・アーミテージ夫妻は彼をあたたかく迎えてくれた。ひとまず安心するクリスだったが、夜更けに全力疾走する使用人や、彼をこっそり観察しているメイドに不気味なものを感じ始める。やがて周囲の資産家があつまるパーティーがアーミテージ家で開かれ、事件は起きた…
最初にこの映画のことを知ったのはアメリカでヒットを飛ばしていた時だったでしょうか。で、どうやら主人公の黒人青年がじわじわいたぶられるストーリーらしいと知って、興味が減りました。自分、そういうサドっぽいお話ってあんまり好きじゃないもので…
でもたまたまなじみの映画館でかかることになったし、評論家がその年に選ぶベストムービーなどによく名を連ねたりしてたので、「観るだけ観てみるか…」と考え直したのでした(権威に弱い)
で、結論からすると予想とは裏腹に大変いい気持ちで映画館を出ることができました。いや、こういうこともあるから映画は実際に観てみないことにはわからんもんですね。
まず感心したのは異様なムードの出し方。シャマラン作品なんかも普通の映像を撮ってるだけなのに、突然何が起こるかわからない緊張感が常にみなぎってますが、『ゲット・アウト』にも田舎の綺麗な屋敷の中にそこはかとなく不気味で、「何かがおかしい…」というぞわぞわした空気が漂っております。特にインパクトを残すのがメイドさんの「泣きながら笑う」演技。怒りながら笑う竹中直人にも匹敵するすごワザでした。
この感じ、わたしたちと変わらない平凡な主人公がずるずるとのっぴきならない状況にはまっていく、藤子不二雄A先生のブラックユーモア短編とよく似ています。
序盤の意味ありげな伏線・映像にことごとくちゃんと意味があるのもすごいし、主人公が「トリップ」したりさせられたりする描写も独特で面白かったです。そして謎が明らかになると藤子F不二雄先生の「すこし不思議な」短編の方にムードがシフトしていきます。
そして特に自分が気に入ったのは要所要所で絶妙なユーモアがあり、最後にはとてもカタルシスを感じさせてくれたことです。一応これ「ホラー」というジャンル分けをされてるんですが、「したコメ映画祭」でも上映されておりました。確かにホラーでもあり、コメディでもあるんですよ。普通ホラーにお笑い要素を入れると全体的にギャグ映画になってしまうことが多いのですが、『ゲット・アウト』はその二つが見事に融合した稀有な作品となっておりました。ちなみに監督はもともとコメディアンが本業だったそうです。名前が「ジョーダン」ってえのがまた…(すいません)
実はこの映画、本当は別の結末が用意されていたそうですけど、世相を鑑みて監督がラストを変更したとのこと。そのもう一つのENDについてはウィキペディアの項目で読むことができますが、いやあこうならなくて本当によかった。
というわけでかなり痛快な作品でありましたけど、こんな映画が大ヒットしちゃったらアメリカの人種問題が一層深刻になったりしないだろうか…と遠い国のことながら心配になるのでした。
自分が観たあとも『ゲット・アウト』はますます多くの賞にノミネートされ、この分だと来年のアカデミー賞も大いににぎわせてくれそうです。観られる人はいまのうちに観ておくことをお勧めいたします。
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Comments
伍一くん☆
「下コメ」で掛かった時は見られなかったのだけど、こんなすごい映画だったなんて~~
じわじわとヒットしていくタイプのブラックなホラーコメディだったね。
バッドエンドが好きな私も、さすがに最後はホッと胸を撫で下ろしました。
Posted by: ノルウェーまだ~む | December 23, 2017 04:22 PM
>ノルウェーまだ~むさん
ねえ、下コメは時々「これがコメ!?」という作品を持ってくるのだけど、ちゃんとコメディなんですよね
「評論家絶賛」というと敷居の高い映画が多いですけど、これは普通の人でもハラハラゲラゲラできるなかなか普遍的な作品でありました
Posted by: SGA屋伍一 | December 26, 2017 10:39 PM