ミルク色の夜明け すすんでく血塗られた道 エミール・クストリッツァ 『ミルキー・オン・ザ・ロード』
ユーゴ出身の個性派、エミール・クストリッツァが久々に「戦争」を描いた悲喜劇。『オン・ザ・ミルキーロード』、ご紹介します。
隣国と戦争状態のとある村。銃火の間をかけながらミルクを売り続ける男コスタは、村で一番の美女(ただし性格は荒々しい)ミレナに思いを寄せられていた。だがどこからか亡命してきた一人の女と出会った時、コスタはたちまち恋に落ちてしまう。その女がミレナの兄の婚約者であり、他国の将軍から命を狙われている身の上であるにも関わらず…
自分が観たクストリッツァ作品は『アンダーグラウンド』と『ウェディング・ベルを鳴らせ!』の2本のみ。それだけで語ろうとはいささかおこがましいですが、「にぎやかな音楽」「のんびりとした動物たち」そして「障害の多い恋」が彼の作品の特色である気がします。今回も羊、ハヤブサ、ロバ、ガチョウ、大蛇とおおむねかわいらしい動物が画面狭しといっぱい出てきて動物好きには楽しい反面、逆につらい場面もあったりして複雑な心境になりました。
二人の美女に言い寄られる主人公を演じるのは監督のクストリッツァ自身。なかなかずうずうしい…と思わないでもありませんが、確かに彼は(いいおっさんであるにも関わらず)なかなかかっこいい。苦労してきた半生が醸し出す哀愁とあいまって、女だけではなく動物もこぞって彼にメロメロです。この映画ではおまけに変わった鍵楽器の腕前まで披露してくれます。
戦争を題材にしているという点では『アンダーグラウンド』と重なるところも多い本作品。ただあちらが現実の歴史を背景にしたニヒリズムの濃い映画であるのに比べ、『ミルキー・オン・ザ・ロード』はもっとファンタジックでロマンに満ちたお話でありました。また『アンダーグラウンド』の3人がいかに相手を出し抜くか考えてるのに対し、こちらの男女はわりかし純粋でただただ自分の思いにまっすぐであります。
そんな恋物語に暗い影を落とすのが絶え間なく続く砲火の音。一度平和が訪れたかと思いきや、どこぞの将軍が派遣した特殊部隊が村を血で染めていきます。軍服のスタイルなどは某大国がリーダーの多国籍軍をつい思い出してしまうのですが、確たる根拠もないので考えすぎかな…とも思ったり。
いまなお各地で紛争がつづく世界を風刺している面もあるかとは思います。ただわたし自身はそういう社会派的なメッセージよりもちょっと夢見がかった悲恋話としてこの作品を受け止めました。あとあまりうまく言えませんがクストリッツァが伝えたいのは怒りとか非難よりも、悲嘆であり追悼である気がします。お笑いのオブラートにくるまれてはいますけどね。
『ミルキー・オン・ザ・ロード』はもう7割方公開が終わっているようですが、まだ残っている上映館もあり。気になった方は公式サイトの劇場一覧をごらんください。
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