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November 03, 2017

冬来たりなば、猿遠からじ マット・リーブス 『猿の惑星 聖戦記』

Swgw1シリーズが始まって約50年。いまここに『猿の惑星』史上最高傑作が誕生しました。リブート版3部作の完結編でもある『猿の惑星 聖戦記』、ご紹介します。旧シリーズおよび1作目『創世記』の感想はコチラ。2作目『新世紀』の感想はコチラ

進化した猿たちと衰亡著しい人類の対立が激化する近未来。猿側のリーダー・シーザーは戦いの中最愛の妻と長男を失う。復讐に燃えるシーザーは、群れから離れて仇である人類軍の指導者「大佐」を追う。しかし大佐たちの奇妙な行動はシーザーと仲間たちを困惑させる。彼らの目的は果たして…

正直申しますとわたしこのシリーズやシーザーにそれほど愛着があったわけではないんです。旧シリーズの『新・猿の惑星』は好きだし、『創世記』もそれなりに感動しましたけど、やっぱりわたし人間なんで。どちらかといえばシーザーよりもジェームズ・フランコやジョエル・エドガートンといった「いいもん」の人間に感情移入しながら観てました。
ところが今回はもうのっけからモンキーになりきって「猿がんばって! 人間ぶちのめせ!!」とすっかり猿状態でずっと鑑賞しておりました。前二作の下積みがあったからか、アンディ・サーキスの熱演が心を動かすのか、はたまた巧みで骨太な脚本の力によるものなのか… わたし以外にも猿化してしまった人たちは大勢いるので、これ
は本当にすごいことです。あらためて物語の持つパワーの強さというものに感服いたしました。

そういったエモーショナルな部分もサルことながら、前半お話をひっぱる「謎」の部分もまた興味深く。大佐たちは猿以外の何かとも敵対してるようなのですが、その相手とは一体だれなのか。隊の中で行われている「味方殺し」は何の意味があるのか。これらの謎が明らかにされた時、「大佐」という男の凄みや意思の強さに圧倒されます。それは限りなく狂気に近いものでもあるのですが…

以下、どんどんネタバレで。

どなたかがネットで書いていてはたと膝を打ったのですが、これ、「言葉」を巡る「万物の霊長」の交代劇でもあったのだなあと。「言葉は神なり」という聖書の一節がありますが、せっかく言葉を与えられて神様の代理を任せられていたのに、度重なる失敗の末にその座=「言葉」を取り上げられてしまう人類。そして別の生き物が地球の管理を引き継ぐ…という。いわゆる「黙示録」でありますね。
ただこの映画、とりわけ印象深いのは無言のやり取りが描かれた2つのシーンなんですよね。シーザーと大佐が最後に相対する場面と、激戦の最中シーザーと裏切り者のドンキーが視線を交わす場面。それらの数瞬の間、いったいどれほどの感情が彼らの間に交錯したのかと考えると、「無言」の持つ限りない豊饒さに感じ入るのでした。言葉を失った少女エヴァの可憐な純真さもいちいち胸をうちます。

そして傷だらけになりながら、我武者羅に生きる道を探し求めるシーザー。彼はその名の通りカエサルのようでもあるし、十字架にかけられたキリストのようでもある。群を約束の地へ導く姿はモーゼのようでもあります。けれども英雄であり聖人である以前に、とても人間臭い(猿なのに)。我々と同じように泣き、怒り、迷い、悩み、微笑む。そんな「彼」だからこそ我々は深い親しみを感じるわけで。思えば1作目から苦難の連続だったその生涯。できれば穏やかな老後を過ごしてほしいと心から願いながらスクリーンに見入っておりましたが、その結末は…

さて、このお話、「50年前の1作目につながるのでは」なんてことも言われてます。同じ名前のキャラもちらほら登場しておりますし。でもオリジナル『猿の惑星』の主人公は地球に降り立った時、「発射してからすでに2000年が経過してる」なんてことを言ってました。その計器がどこまで信頼できるかも怪しいんですけど… え~と、じゃあ結局どっちなのかというと「どっちにも取れる」ってことでいいんじゃないかと思います(無責任)。ただ『創世記』の時点で恒星間飛行ができるほど人類の文明が発達してるようには見えなかったので、やっぱり旧シリーズとはパラレルワールドと考えた方が一番しっくり来るのでは。

Swgw27年越しの物語にこれ以上ないくらい堂々たる幕をひいた『聖戦記』。あらためて「まあ付き合いで観てやるっぺよ」という動機で臨んだことに深く土下座いたします。
これで本当に終わりかと思うと本当にさびしいですね…(今頃かよ!) ただ人気シリーズはいつかまた復活するのが世の常。やらなきゃいいのにやっちゃうのが人間の愚かさなのです。ウキー!!


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Comments

「人間臭い」という表現も、いつか見直しを迫られるかもしれませんね。
「男らしい」とか「女々しい」が死語になりつつ今、猿やAIの人間臭さを表す言葉が必要な気がしました。

Posted by: ナドレック | November 04, 2017 12:39 PM

>ナドレックさん

いま業界はポリコレ関連にやたら敏感になってますからね。公開中の『ブレードランナー2049』もAI差別を描いた作品ですし。すべての知性が平等に扱われる時代が来ますように?

Posted by: SGA屋伍一 | November 08, 2017 09:32 PM

伍一くん☆
もうすっかり猿目線でしたよね~
そして「言葉」に関する洞察力、感服しました。さすが文学部!!
ただ、その「言葉」を介さずに目で語り合うシーンこそ、雄弁でしたね。

Posted by: ノルウェーまだ~む | November 16, 2017 10:22 AM

>ノルウェーまだ~むさん

返信遅れてすみませぬ。そして過分のお言葉をいただき恐縮です
わが町では度々野猿が出没するのですが、言葉抜きでコミュニケーションが図れるか今度ためしてみようと思います

Posted by: SGA屋伍一 | November 21, 2017 08:57 PM

ラストシーンを見て「猿者は追わず」だな、と思いました。

スピンオフとか4本目を作るんやないで。「追わず」やで。

Posted by: ふじき78 | November 26, 2017 11:54 PM

>ふじき78さん

どうしたんですか。今日のダジャレは切れ味が鋭いじゃないですか
そういえば最近のエンドロールにお決まりの「シーザーは帰ってくる」とかなかったですね

Posted by: SGA屋伍一 | November 28, 2017 10:01 PM

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