ゾンゲリア超特急 ヨン・サンホ 『新感染 ファイナル・エクスプレス』
韓国で話題を呼んだ新感覚ゾンビ・ムービーが、とうとう日本に上陸(もう一か月経ってますけど…)。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(原題は『釜山行き』)、ご紹介します。
仕事第一で娘と擦れ違いが続くファンド・マネージャーのソグは、別れた妻に会うために親子で早朝の特急KTXに乗車する。列車が発車する直前、異様な形相で乗り込んできた一人の女がいた。実は彼女は生きながらにして怪物となる恐るべき奇病のキャリアだったのだ。やがて女の発症をきっかけに、列車内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。
自分はチキンな人間なので基本的にホラーは映画館で観ることができません。それでも年に1,2回、どうにも面白そうなので我慢して決死の覚悟で鑑賞に臨むことがあります。今年はこの映画がそれにあたります。幸い『新感染』は無事楽しむことができました。自分がダメなのは物陰や暗闇から突然「ガーッ」と現れて驚かすような描写なのですが、この映画のゾンビさんたちはもうほぼずっと明るいところに出っぱなしだったので。でもスリルや緊迫感はめっちゃあります。
皆さんはゾンビが襲ってきたら、できるだけ遠くへ遠くへ逃げますよね。しかしこの映画の主な舞台は走行中の列車。いくら距離を取りたくても列車が止まるまでは同じ箱の中にいなきゃいけないのです。そんな中で生き残るなんて無理ゲーじゃん…と普通は思います。しかしそこをアイデアと巧みなストーリー運びで二時間もたせる技量は剛腕というほかありません。
あとこの映画ちょっと三谷幸喜のドラマっぽいところがありまして。基本でてくるのはごくごく身近にいそうな等身大の老若男女ばかり。ほんで最初はみんな微妙にやな感じなんですよ。それが目的を共に奮闘するのを見てるうちに、どなたもすごく応援したくなってくるのです。お願いだからそろって生き残ってくれ!と願わずにはいられません。
ただ、約一名話が進むにつれ逆方向を行くようにどんどんどんどん虫唾が走ってくる男がいます。ある会社の重役のようなんですが、どこまでも徹底して自分が生き残ることしか考えてません。その足の引張ようはゾンビよりもよほどタチが悪かったりします。このキャラクター、どうも数年前韓国で沈む船で、客を置き去りにして真っ先に逃げた某船長がモデルのようです。しかし意外なことに監督が最も思い入れが深いのはこの男なんだそうで。その愛情があればこそあそこまで憎々しく描けるのかな… まあ我々だって本当に彼のようにならないとは誰しも言い切れないわけで。そう考えると作品に深みをもたらしてるキーマンと言えるかもしれません。
新感覚のアジア系ゾンビ映画として、昨年の邦画『アイアムア・ヒーロー』ともよく比較される本作品。実は監督が構想に行き詰ってた時、突破口のヒントになったのが『アイアムアヒーロー』原作だったそうで、なんかにんまりしました。片や「峠の我が家」、片や「アロハ・オエ」と郷愁を感じさせる唱歌が重要なところで使われてるのも共通しています。やはりアジアゾンビにはこういう叙情性やほろりとくる人情が大切な気がします(と書くとその筋のファンから怒られそうな)。
「子どもを怪物から必死に守るお父さん」「閉鎖空間で疑心暗鬼に陥る人間たち」というところはフランク・ダラボンの名作『ミスト』と似ているところもあります。というかこの作品のオチのつけ方も『ミスト』への返歌のように感じました。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』は好評を呼んでまだいろんなところで上映してる模様。気になる方は公式サイトをご覧ください。そして先日よりこの作品の前日談となる『ソウル・ステーション パンデミック』というアニメ映画も細々と公開中。こちらは人情を排したそれはそれは胃の痛くなるようなアニメだそうです。こっちは自分はDVDでいいかな…
Comments
私もあまりホラー映画は観ないのですが、これは観に行って大正解でした。
ちょっと判らなかったのが、冒頭で女性キャリアが乗り込むところ。特急券持ってたのかな、どうやって改札を通ったのかな、と思ってしまったのですが、韓国のKTXには改札がないんだそうですね。たしかに、途中駅でも改札を通る描写がありませんでした。
ゾンビの恐怖にさらされてるのにいちいち改札を通っていたら、間抜けな絵面になったでしょうね。
Posted by: ナドレック | October 03, 2017 10:56 PM
>ナドレックさん
情報ありがとうございます。ずいぶんゆるいんですね、KTXは。新幹線なんか2回通らなきゃいけないのに。ただ乗りできないようにはなってるんでしょうけど
ゾンビから逃げながら改札きちんと通るシーンは『アイアムアヒーロー』が似合いそうですね
Posted by: SGA屋伍一 | October 04, 2017 10:01 PM