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October 04, 2017

空と海と陸と君の間には クリストファー・ノーラン 『ダンケルク』

Dnk3新作を撮るごとに注目を集める… そんな監督は珍しくありませんが、いま最もその点で勢いを感じるのが、『ダークナイト』『インセプション』のクリストファー・ノーランです。本日はそのノーランが初の史実ものに挑んだ『ダンケルク』をご紹介します。

1940年の欧州。ナチスドイツの攻勢に後退を余儀なくされた英仏軍は、フランス北端のダンケルクまで追い詰められる。取り残された30万以上の兵士を救うべく、チャーチルは「ダイナモ作戦」を敢行。空から援護を行う飛行隊、民間人でありながら作戦に加わる小型船の船長、そして海岸にて必死で生き残ろうとする兵士たち。三者の時間と行先は、激戦の地においてやがてひとつに重なり合う。

まず構成の点において他に類を見ない映画です。あらすじにも書いたように三つの視点からストーリーが語られるのですが、空軍がこの作戦に参加するのは1時間。小型船の面々が着くまでに1日。そして浜辺にいる兵士たちは一週間もの間助けを待っています。時系列にそって話を進めるなら、当然全体の7割以上は浜辺のグループに割かれることになるわけですが、ノーランは空組、海組、陸組にほぼ均等に時間を割り振っています。そして三つのグループのパートが入れ替わり立ち代わりシャッフルされて進行していくので、気合を入れて見てないと時系列がどの辺だったのかわからなくなること請け合いです。生死を賭けた「ダンケルクの戦い」が、ある者にとっては1時間であり、ある者にとっては1日、またある者にとっては1週間だった… そんな各人の感覚のずれ、点と点が一つに重なり合うカタルシス、そういうものを描きたかったがゆえにこういう体裁をとったのでしょうか。ともかく、この実験精神・チャレンジ精神に拍手を贈りたいと思います。
ノーラン監督は主に「ダークナイト3部作の人」というイメージでしたが、『ダンケルク』を観てからは「とにかく時間軸をいじりたがる人」という風に変わりました。『メメント』『インセプション』『インターステラー』そしてこの『ダンケルク』。全く違う題材を扱ってるようで、自分の個性・テーマをしっかりと持っている作家。こういうクリエイターにオタクは弱いのです。

均等に割り振られてるといっても、やっぱり3組の中でもっとも悲惨なのは救出を待つ「陸組」であります。普通の冒険映画だったら船に乗って陸地を離れたらそこで終わりか、あるいは沈没のピンチを潜り抜けながら話が進んでいくものだと思います。しかしこの映画の軍艦はそれはもうあっという間にあっけなく沈んでいきます。乗っちゃあ沈み、乗っちゃあ沈み…そんなサイクルを繰り返していたらノイローゼになってもおかしくはありません。なので陸組に感情移入すればするほど胃が痛くなってきます。

他にも「英国視点から見た第二次大戦もの」「プロペラ機でのドッグファイトが描かれてる」という点でも珍しい作品。名画のリストを探って行けばそれなりにあるかとは思いますが、近年の大作の中ではほとんど扱われなかった題材ではないかと。プロペラ機に関しては日本では『永遠の0』がありましたけどね。

また、極めてシンプルなセリフ回しや、ごくごく抑えた感情表現はこれまでのノーラン映画とは一線を画しています。まるで作品に出てくる厚焼きパンのように朴訥であります。それだけに表情の裏を読むにはこちらの想像力もある程度要求されるのですが、慣れてくるとここぞという場面で男たちの静かな決意や安堵感、哀切などがしみじみと胸のうちにしみわたって来ます。つまみはあぶったイカでいいと思います。
わたしが特にジーンと来たのはビールが手渡される場面。こんなにも感動させられるビール・シーンはそうはありません。まさしく映画史に残るビールだったと思います。

映画はいかにも「勝利は目前だ!」みたいなあおりで終わってしまうのですが、実際はこのあと5年も世界大戦が続いたというから泣けます。某誌の解説によると「ここで生き残った多くの兵士たちは、おそらくノルマンディーや他の激戦地で命を散らしたであろう」とのこと。そいつは悲しすぎるじゃありませんか… この映画のあの人やあの人は、無事生きて終戦を迎えてほしいと心から願うのでした。

Dnk2『ダンケルク』はそろそろ公開から一か月経ちますが、わが国でもヒットしたのでもう少しやってると思います。少し前の戦争映画『ハクソー・リッジ』がいまひとつの結果に終わってしまったので、この成績は正直意外でした。これは世間一般にもクリストファー・ノーランの名前がだいぶ浸透してきたということなのでしょうか???


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Comments

こんにちは。

戦争映画大好きで、ノーラン監督と来たら見逃すことはできません。
彼のSFは私は難解なんですが(それでも面白いけど)
この作品は史実に忠実であるぶん、
多少時間軸をいじってあってもわかりやすかったです。
彼はとにかく時間をシャッフルしたい監督さんではあるのですね。

>乗っちゃあ沈み、乗っちゃあ沈み…そんなサイクルを繰り返していたらノイローゼになってもおかしくはありません
そうそう・・・・まさにそれ。
乗れたからといって油断はできないんですよね。
あの場にいたらストレスでどうかなっちゃいそうですね。
救い出しに行くほうも命がけだし。

この作戦は大戦の初期のものだったなんてわたしも知りませんでした。
でもこの作戦の成功で、生き残った兵士がのちの戦いを勝利に導いたのですね。

Posted by: なな | October 09, 2017 at 02:04 PM

>ななさん

そういえば『インターステラー』はいまだによくわからないところが色々ありますね(笑) でも難解な点があっても面白さでひっぱってくれるのノーラン監督の非凡なところかと

>>乗っちゃあ沈み、乗っちゃあ沈み…

まさに連続タイタニック状態でありましたね… あれらの船には勇敢な看護士さんたちも乗っておられましたが、彼女らの運命にも涙を誘われました

第二次大戦ものはいっぱいありますけどほとんどは米軍中心の、大戦後期のころの映画ですよね。そういった点で勉強になる作品でした

Posted by: SGA屋伍一 | October 10, 2017 at 09:48 PM

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クリストファー・ノーラン監督が,第二次大戦中のダンケルクの大撤退作戦(ダイナモ作戦)を、空、陸、海の3つの視点で描いた戦争映画。劇場で鑑賞。 映画つぐないにも描かれていた、ダンケルクの場面。海岸で祖国への船を待っている負傷し疲弊した兵士たちの姿や、連れて行けないためか、射殺される軍馬たちのシーンが切なく心に残っている。しかし、ダンケルク撤退の詳しい背景を知らなかった私は、なんとなく、これを、終戦間際に行われた単なる移送みたいに勝手に思っていた。戦いが一段落したから海を渡って祖国へ帰るのに、船の調達が... [Read More]

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