わたしたちのマーキュリー計画 セオドア・メルフィ 『ドリーム』
2月に行われたアカデミー賞作品賞ノミネートの、ようやっと最後の1本です。NASA草創期に宇宙開発を陰で支えた女性たちを描く『ドリーム』、ご紹介します。
1960年代、NASAはソ連に追い付くべく初の有人宇宙飛行プロジェクト「マーキュリー計画」に血道をあげていた。キャサリン、メアリー、ドロシーら有能な黒人女性たちもその能力を買われ、日夜計算と実験に励んでいたが、肌の色のゆえに、女性であるがゆえに不当な待遇に耐え忍ばねばならなかった。それでも彼女たちの奮闘はやがて実を結び、徐々に計画の中心を担っていくようになる。
原題は「Hidden Figures(隠された数式)」。宇宙飛行において必要なのにいまだたどりつけない正解的な数字のことを表すと共に、上司から嫌味半分でマーカーで塗り消された書類のことも指しています。またfigureには「人物像」を指すこともあります。彼女らの存在が大々的に知られるようになったのことはごく最近のことであり、ようやく日の目を見た…という意味も含められています。
NASAといえば時代の先をいってるというイメージがありますが、さすがに創設まもないころは内部で偏見や差別的措置もあったようです。加えて当時はキング牧師の活動が注目を集めていたこともあり、黒人と白人の間で緊張が高まっていたことも彼女らを脅かします。そうした逆風にあってもキャサリンたちが妥協することなく、自分の道を邁進する姿は実にすがすがしい。二重の差別を乗り越えてしかも3人とも現役のお母さんだったりしますからね。逆に子供たちがいることが彼女らを強くしたのかな…なんてことも思いました。
あとそういう時代においても人種・性別に囚われず人を尊敬できる者たちもいる、ということも慰められます。ケビン・コスナー演じるキャサリンの上司や、グレン宇宙飛行士、マハーシャラ・アリ演じるキャサリンの恋人などがそうでした。余談ですがマハーシャラさんはドラマ『ルーク・ケイジ』のすぐに切れるギャングの役が強烈だったため、いつDVを振るいだすかと、とてもハラハラさせられました(大丈夫でした)。
『ズートピア』でも言われてましたが、「わたしは差別してない」と思ってる人間でもそれなりに差別意識はあるもの。だからこそ、余計気をつけてそういう意識をなくしていかねばならない。この映画はそういうことに気づかせてもくれます。わたし自身も以前はこの映画の一部の男たちのように、「女子は機械や科学が苦手」と漠然と思っていたことがありました。その誤解をただしてくれたのは『魁!! クロマティ高校』に出てくるロボット番長メカ沢君です。彼の言葉を引用すると「女が機会に苦手というのは偏見にすぎない。現に携帯が流行ってから女たちはバンバンメールやその他の機能を使いこなしてるだろ」とのことです。『ドリーム』を観ていてそんな真理を思い出しました。つか、計算や機械が苦手なのは自分の方だった…
wikiの項目を見ると史実と映画とではちょこちょこ異なるようですが、当時こういう闘いは全米のいたるところにあったものと思われます。そういうのを集約してわかりやすくことの本質をあらわしたってことなんでないでしょうかね。杉田玄白の『蘭学事始』でも『解体新書』翻訳の苦労を表した「フルヘッヘンド」という語のエピソードがありますが、実際に『解体新書』にその文章はないそうですし。
あとこの映画、邦題を巡るあれやこれやで騒がれたりもしました。最初に発表されたのはもちろん原題の『ヒドゥン・フィギュア』ではなく『ドリーム わたしたちのアポロ計画』というものでした。ところがアポロ計画に関しては最後にちょっと触れられるだけで、実際はマーキュリー計画がメインの作品なのでSNS等で非難が殺到。ついには副題が外れてただの『ドリーム』になってしまいました。
わたしとしては洋画不振のこのごろにあって、有名な「アポロ計画」を使って親しみをもたせようとした意図もわかるんですよね。アポロもまるっきり無関係というわけではないし。むしろ『ドリーム』だけじゃ何の映画かさっぱりわからないと思います。
邦題もほんと難しいですよね。原題そのままだと一般の人には意味不明なことも多い。だからといって直接関係ない語やダジャレを使って客を集めようとすると非難をあびる。わりと最近よく聞くのは「○○と○○の○○を○○」みたいな「の」や「と」が入った長めのタイトル・副題。確かにこれなら内容をわかりやすく伝えられるかもしれませんが、どうもオシャレじゃありません。
自分はその方がよいのであれば日本独自のタイトルをつけちゃってもいいと思ってます。ただその場合は的外れじゃない、短いながらも作品をよく表した題をつけてほしいな、と。でもって広く一般の人の興味を引きそうな題…となるとやっぱり相当難しいですね… なにはともあれ配給会社の皆さんがんばってください。
わかりやすく力強いテーマがあり、教養も身につき、しかもスカッとする『ドリーム』。大勢の人に自信を持ってすすめられる映画です。タイトルが意外と功を奏したのか?公開館が少ないながらもまずまずの成績をおさめております。あともう二週くらいはやってるのでは。
Comments
こんちはーっ♪
マーキュリー計画って.....胸毛の人??? 笑
邦題が....いまいちでしたね。もっとセンス良くつけられないもんでしょうか。
しかし中身はとても良かったです。
人種差別も描かれてましたけど彼女たちがとても魅力的でした。
そしてケビン・コスナーが素敵でしたわ~
Posted by: yukarin | October 27, 2017 02:29 PM
伍一くん☆
誰じゃ?と思ったら、そっちのマキューリーさんでしたかっ(爆)
差別をテーマでも暗くならずに、3人が夢に向かって邁進していくのが清々しくて良かったデス☆
Posted by: ノルウェーまだ~む | October 31, 2017 12:43 AM
>yukarinさん
お返事遅れてすいません。胸毛はお嫌いですか?
たしかにドリームの話ではあったのだけどね… J-POPでいう「ビリーブ」なみにありふれたタイトルでした
ケビン・コスナーはあまりにもインテリ系の上司がはまりすぎてて観ていて気づかなかったw 昔は銃とか弓矢とかぶっ放してたのになあ
Posted by: SGA屋伍一 | November 02, 2017 09:57 PM
>ノルウェーまだ~むさん
♪ごめんね素直じゃなくて(ムーンライト伝説)
今年は映画でよくクイーンの曲を聴きます
彼女らの気高さもまさしく女王様のそれだったように思います
Posted by: SGA屋伍一 | November 02, 2017 10:00 PM
♪ これが私の素敵な…ドリーム!
思いっきり計算できて、適材適所で幸せだよねー。
Posted by: ボー | November 13, 2018 12:24 AM
>ボーさん
♪これがわたしの 夢だったのよ いとしい あなたは いまどこに~
なんか物悲しくなってきましたよ!
Posted by: SGA屋伍一 | November 13, 2018 09:38 PM