マイルズ・テラーは参らない ベン・ヤンガー 『ビニー/信じる男』
ボクシング映画にはずれなし…とまでは言いませんが、名作が高確率で多いのも確か。今日とりあげるのもそのうちの1本です。『セッション』のマイルズ・テラーが主演を務める『ビニー/信じる男』、ご紹介いたします。原題は『Bleed for This(このために血を流す)』です。
「実話をもとにした物語」。80年代後半。すでにデビューから数年を経ているスーパーライト級のボクサー、ビニー・パジェンサはタイトルマッチで敗退。プロモーターから引退を勧められる。納得のいかないパジェンサは新たなコーチ・ケビンの指導のもと奮起し、二階級あげて見事な戦果を収める。順風満帆かに思えたその矢先、ビニーは突然の事故に見舞われる…
見てて思ったんですよね。開始30分くらいのところでもう人生逆転に成功してる。いくらなんでもはやすぎでしょ、残りの1時間半くらいどうすんの…とか考えてたらやっぱりとんでもないアクシデントが待っていました。
この事故によりパジェンサはボクサーとしてはもちろん、普通の生活すらおぼつかなくなります。回復を確実にするには脊椎固定手術というものがベストなのですが、それを受けるとボクサー人生は確実に終了(というかどう考えてももうボクシングなんかできなさそうなんですけど…)。 で、パジェンサが選んだのが「ハロー」というものを装着する療法。わたしの画力でわかっていただけるとありがたいのですが、上画像のように肩に金属のやぐらのようなものを取り付けるわけです。これを半年間つけっぱなしなので当然何をするにも不自由が付きまとう。さらに頭にボルトが刺さってるので、麻酔なしで抜くと想像を絶する激痛がともないます。だのに「神経を鈍らせたくない」と拷問のような痛みに耐えるビニー。なしてそこまでして… と思わずにはいられません。
正直序盤のパジェンサはそこまで堪え性のある人物には見えないんですよね。減量には苦労してるしギャンブル好きだし、ボクサーには厳禁の試合前のエッチまでやらかしてる。ところが誰もが「あきらめろ」という状態になっても、彼だけは復帰を決してあきらめない。異常なまでのストイックさでもってあらゆる苦労を乗り越えていきます。とはいえ果たして一度壊れかけた脊髄でまたリングに上がれるのか? そこは実話なんで「ビニー・パジェンサ」で検索すればすぐわかります。
自分も『はじめの一歩』とか愛読してたのでボクシングのことはとりあえず上っ面くらいは知ってますが、この話のことは知りませんでした。これけっこう当時アメリカでも話題になったと思うんですけどマイク・タイソンやジョージ・フォアマンのことはともかく、彼のことまでは耳に入ってこなかったなあ。これほどに「小説よりも奇なり」な事実も珍しいと思うんですけどねえ。不思議ですねえ。
それにしてもマイルズ・テラーは『セッション』に続いてこちらでも交通事故にあっていて、本当に車には気をつけてほしいものです。対照的に今回はお師匠さんには恵まれています。暗い過去やアルコール依存症を抱えながら、ビニーをずっと支え続けるケビン。丹下段平や鴨川会長にも匹敵するその献身ぶりには男涙を誘われました。
なんかもうラストシーンまでばらしちゃいますけど、ビニーがインタビューで語っていた言葉が印象に残っています。「みんなそう簡単じゃないと言うけれど、大切なことはいつだってシンプルなんだ」と。地獄の底から這い上がってきた男が言うからこそ、重みと説得力があります。
『ビニー/信じる男』はうちでは遅れて公開されてたのでもう2、3館くらいしか予定が残ってないですね… 興味を抱かれた方は来年1月にDVDが出るのでそれまでお待ちください。つか、もう来年ももうすぐそこですね…
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