アダムはバス・ドライバー ジム・ジャームッシュ 『パターソン』
一筋縄ではいかないシュールな作風で根強い人気を誇るジム・ジャームッシュ監督。以前BS系で初期の2作『パーマネント・バケーション』と『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を観たのですが、淡々としすぎていて正直よくわかりませんでした。そんな苦手意識を持っていたのに心安らぐ予告編につられて、先日新作を観てまいりました。『パターソン』、ご紹介します。
北米の一都市パターソンに住むパターソンさんは、平凡なバス運転手。彼の愛するものは白黒にこだわる妻、ペットのブルドッグ、詩を読むことと作ること、マッチ箱の収集、夜の散歩のついでにいきつけのバーでひっかけること… 映画はそんなパターソンのある一週間を追う。そして彼の前にはなぜか双子がよく現れる。
というわけで今回もわかりやすい起承転結のある作品ではないのですが、ずいぶんとっつきやすく感じられたから不思議です。それはたぶん穏やかで上手に日常を楽しむパターソン氏が、とても親しみやすい造形だったから。演じるのは『スター・ウォーズ』のカイロ・レンが記憶に新しいアダム・ドライバー。正直あちらの絶えずイライラしてるキャラより、こちらの何があっても決して怒らない仏のような役の方がよほど合っていると思いました。パターソンさんは普通に行動してるだけなのに、彼も周囲の人もどことなくユーモラス。こういう静かでちょっと変わった雰囲気、荻上直子監督の『めがね食堂』とも似ています。
パターソン氏が特に熱中しているのが詩作。ひとつのマッチ箱に関して様々な表現でもってえんえんと語っていたりします。こんなにマッチにこだわった映画といったら他には『不思議惑星・キン・ザ・ザ』くらいしか知りません。その詩が美しいものかどうかわたしにはちょっとわかりかねる(文芸学科卒なのに…)のですが、ありふれた直方体についてこれだけ文章をつむげるのだから、それはやっぱりひとつの才能なのでは…という気がします。どうも日本でポエムというと、気取ったり気恥ずかしかったりするイメージが先行してしまいますが、こういう肩の力の抜けた自然体の詩はなかなかいいものだな~と思いました。
パターソン氏が街中ですれ違ったり歓談したりする人も人種、年齢が様々ながら、詩を愛する人が多く、同じ趣味について楽しそうに語らっているシーンを見てるとなごみます。
あとこの映画で特に目を惹くのが、ブルドッグのネリーさんは昨年のカンヌ映画祭でパルムドッグを受賞したほどの演技派。特に奇抜なことをしているわけではないのに、醸し出す存在感はなかなかのものです。残念ながらネリーさんは映画完成直後に亡くなってしまい、自身のの受賞について知ることはなかったそうで。…いや、生きてても知ることはなかったかな。「なんか褒められてるな」くらいは感じたかもしれませんが。
余談ですが最近はまっている漫画に『ハンチョウ』という作品があります。ギャンブル漫画『カイジ』のスピンオフなのですが、これまたいい年のおっさんがごく限られた一日を、それほど大金をかけずにどこまで楽しめるか…ということに挑んだ内容。こちらもおすすめです。『パターソン』と比べるといささか即物的というか、食欲中心ですが。
『パターソン』は地方ではまだこれからかかるところも多い模様。ドライバーさんは年内に強盗と闇落ちジェダイの役で2本の新作が待機しております。うーん、無理してないかい?
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