ハリー・ポッターと死の放屁 ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート 『スイス・アーミー・マン』
毎週毎週映画を観てるとたまーにとんでもなくヘンテコな作品に出くわすことがあります。本日は今年のヘンテコ映画の中でもベスト3に入る1本、『スイス・アーミー・マン』をご紹介します。
船の事故で無人島に流れ着いた青年ハンクは、孤独と飢えからいままさに死のうとしていた。だが首に縄をかけようとした瞬間、流れ着いた男の死体が目に止まる。絶え間なくオナラを噴出するその死体をジェットボートのように利用して、島を脱出するハンク。それ以後も彼を様々な仕方で利用して、ハンクはなんとか故郷へ戻ろうと奮闘する。
最初にあらすじをちらっと聞いたとき、『キャストアウェイ』のバレーボールが死体に変わったような話かと思いましたが、ハンクが島を脱出するのはわりとすぐでした。そのあとがむしろ本番と言えます。
タイトルはスイス特製の十徳ナイフから来ています。まるでいろんな用途に使える多機能ツールのような男、ということですね。死んでますけど。
さらにナイフでもボールでもなく人間の形をしているので、さびしさをまぎわらすのにももってこい(人によっては不気味に感じるでしょうが…) ところがそのうちテレパシーのような形で本当に意思を通わせてくるので、正直ひきます。死体を演じるのはご存知ダニエル・ラドクリフ。元ハリー・ポッターゆえ死してなお意識を保つことができるのか、それとも青年(ポール・ダノ)の孤独が呼び込んだ妄想なのか。シュバンクマイエルによくありますけど、この辺を上手にぼやかしてあるところがにくいですね。
そういえばラドクリフ君の姿を映画館で観るのはそれこそハリー・ポッター以来。ハーマイオニーことエマ・ワトソンが『美女と野獣』で変わらずスター街道を歩んでいるのに対し、ダニエル君は実在のゲイ文学者やフランケンシュタインの助手、推理すると角が生えてくる青年ととんがった役が続いています。そして今度は「意思を持つ多機能死体」と来ました。もう一生働かなくてもいいくらいの財産を稼いでしまったようなので、それこそ遊びで面白そうな役だけ選んでやってるのかもしれません。
楽しかったのは森を探検する途中で二人が映画ごっこに興じるあたりですかね。君たち極限状況じゃないのかね…というツッコミはおいといて、手作りの小道具で名作を再現するあたりは『僕らのミライへ逆回転』とか『リトル・ランボーズ』などを思い出させます。なかでもハンクがひいきにしているのが『ジュラシック・パーク』。そんなにもジュラパを引用するのには何か深い意味でもあるのだろうか…と思いましたが、わかりませんでした。普通にないのかもしれません。
一方でハンクの相棒がなぜ「死体」なのかというのはわかる気がします。不器用だけどさびしがり屋の人が物言わぬ人形に親しみを抱いたり、慰めを求めたり…という話は時々ありますよね。『空気人形』とか『ラ―スと、その彼女』とか。わたしも人一倍繊細で愛情に飢えた人間なので彼らの気持ちが大変よくわかります。あとでアマゾンで探してこようかしら… あ、ラブドールじゃないですよ? あれは高そうですし… 話が横道にしれましたが、結局無人島に行こうと大都会にいようと孤独な人は孤独なのです。でもそれを皮肉っぽくも温かくあほらしく描いている点に好感がもてました。
特に「これアホだわw」と思ったのはやはりダニエル君がぶっぱなし続けるオナラ。本当に映画の半分くらいはオナラの音が鳴り響いてるんじゃないかという。西洋の人はゲップよりはオナラに寛容と聞きましたが、それでもさすがにここまでやられたら閉口するのではないでしょうか。ともかく映画史上かつてないほどのオナラムービーでありました。オナラ関連でいうと『サンダーパンツ!』という作品もすごいらしいですが、そちらは未鑑賞です。
『スイス・アーミー・マン』はそろそろ終わる劇場もあれば、これから始まるところもあり。くわしくは公式サイトをご覧ください。
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