バンガボンの名前 トム・ムーア 『ブレンダンとケルズの秘密』
昨年の『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』が好評を博したのか、2009年に製作されやはりアカデミー長編アニメ部門にノミネートされたトム・ムーア監督の前作が、この度ようやっと日本でも公開されることになりました。まあもう始まって一か月くらい経ってるんですけど… そんなわけで今回はその『ブレンダンとケルズの秘密』をご紹介します。
9世紀のアイルランド。ある僧院に暮らす少年ブレンダンは、院長である叔父のもと、バイキングを防ぐための城壁作りに日々励んでいた。そんなある日僧院に高名な修道士エイダンがやってくる。彼が作る美麗な書物「ケルズの書」にすっかり魅せられたブレンダンは、エイダンとともに書物を完成させることにのめりこんでいく。だがその間にもバイキングの脅威は僧院に刻一刻と迫っていたのだった。
まず子供向けアニメなのに舞台が主に「僧院」というところが渋いですよね。寺院系の建物とそこで暮らす人々が中心のアニメというと、他には『一休さん』くらいしか思い当りません。しかしまあ、中世のころの僧院とか修道院ってなにやらロマンをかきたてるものがあります。
あとこのアニメを際立たせているのは、ケルズの書が開かれたり、森の木々がざわめいたりするときにぱっと画面を覆う万華鏡のようなきめ細かい装飾表現。『ソング・オブ・ザ・シー』と共通してるようで、また少し違うタッチを楽しむことができます。独特のキャラクターデザインも面白いですね。特に要所要所で活躍する猫「バンガボン」は口元のXが変わってて印象に残ります(下のイラスト参照)。
僧院に隣接する森のあれこれにもわくわくさせられます。。この時代、森というのは人間にとって最も身近な異界だったわけで。人知を超えた存在がそこには息をひそめております。わたしがこの映画で特に心惹かれたのは、ブレンダンと森にすむ謎の少女のつかの間の交流。子供のころだったからこそ通じ合えた儚い絆が中年男の胸をうつのでした。
で、ここからは八割方ネタバレですが
これ、ディズニーのアニメであれば、ケルズの書のスーパーパワーか何かで悪者たちがズドーン!とやっつけられてめでたしめでたしとなると思うのです。しかしこの作品はその点ファンタジー系のアニメでありながら大変現実的でシビアです。生きていく上で、苦難や悲劇はどうしても避けられない。ではどうやってそれを乗り越えられるのか? そんな問いかけがなされてるような気がしました。そしてそんなごまかしのないストーリーだからこそ心に深く残るものがあります。
『ブレンダンとケルズの秘密』はそろそろメイン館の恵比寿ガーデンシネマなど第一陣が終了の模様。そのあと全国各地の劇場でポツポツとかかっていくようです。くわしくは公式サイトをどうぞ。
トム・ムーア関連作品としては製作を務めている『The Breadwinner』(イスラム系少女の脱出劇?)や、監督作『WOLFWALKERS』(狼少女と人間少女の友情物語?)などがスタンバイしてるようです。この勢いなら日本でもそんなに間を置かず公開されるかなー
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