あるいは、バードマン・リターンズ ジョン・ワッツ 『スパイダーマン ホーム・カミング』
ようやっとわたしが今夏もっとも楽しみにしてた映画について書きます… マーベルコミックスで人気ナンバーワンのあのキャラが、ようやく彼が本来いるべきヒーローだらけの世界で再々スタート。『スパイダーマン ホームカミング』、ご紹介します。
未知の脅威がいくつも存在し、多くのヒーローたちが活躍する世界で。蜘蛛の能力を持つスパイダーマンことピーター・パーカーは、アベンジャーズの中心メンバー、トニー・スタークの指導のもとヒーロー活動にいそしんでいた。だが意外と仕事は地道なものばかり。物足りなさを感じていたところへ、異星人の技術を駆使する犯罪者グループの情報を手に入れる。名をあげるチャンスとばかりに彼らを追うピーターだったが、若さゆえに翻弄されることに…
日本人にも極めて知名度の高いスパイダーマン。今回で6度目の映画化、2回目のリブートです。「またか」という方もおられましょうが、この度の『ホームカミング』にはこれまでなかった大きな要素があります。それは9年前から続いている1大プロジェクト「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」に本格的にスパイディを組み込むこと。これまでのシリーズではヴィランたちを相手にするヒーローはスパイダーマンただ一人でしたが、この世界にはすでに多くの先輩たちが活動しています。この作品に登場する主なゲストキャラはアイアンマンだけですけど、セリフのはしばしにこれでもかというくらいMCUの設定やこれまでの出来事が言及されます。こういうの一見さんはかえって面喰ってしまうかもしれませんが、コミックファンやMCUファンにはいちいちたまらないものがあります。そしてそういう世界だからこそスパイダーマンの能力の限界や未熟さが浮き彫りになります。正直序盤はこれまでで最も頼りないスパイディでしたが、一層応援しようという気持ちになりました。
もうひとつ過去シリーズと比べて際立っているのはその明るさ。有名なベンおじさんの悲劇は語られず、いじめっ子はいるもののヒーロー業と並行して学園生活を大いに楽しむピーターの姿も描かれます。その明るさを増しているものがオタクの親友ネッド。最初は見るからにうざったそうなやつに見えますが、要所要所でけっこう大事なアドバイスをピーターに与えたりしてますし、クライマックスでは思わず拍手したくなるほどの大活躍を見せます。悩み事ばかり増やさせていたハリー・オズボーンとはなんという違いでしょう。どうせ友達を持つならネッド君のような友を持ちたいものです。
思えば映画のスパイダーマンというのは大抵「喪失」の物語でした。『ホームカミング』でも失うものがないわけではないですが、それ以上に彼の未来が明るく、成長していく様が微笑ましい。
対するヴィランの「バルチャー」は得たものを何が何でも失うまいとして悪事を重ねるキャラクター。彼のようにお上から仕事を取り上げられてしまう中小企業がいま米国にはたくさんいるそうです。「家族を養うためには仕方がない」というバルチャーの持論には「だからといって犯罪に手を出すのは…」と思う反面、ついつい納得させられそうになります。そんな「大人の理屈」に対してピーターがどう応えるか…というのもこの映画の見どころのひとつです。
ヴァルチャーを演じるのは何の因果かバットマン、バードマンと三度目の鳥系怪人役となるマイケル・キートン。彼もまたアメコミ映画の中で多くのものを失ってきた男です。そしてトリ系をやるたびにどんどん社会的に落ちぶれて言ってるような…(役の話です)。生え際のさびしいヘアスタイルとあいまってこちらもなんか幸せになってほしいと思わずにはいられません。
以下、ちょいバレで。
わたくし毎週のように映画を観ておりますけど、「そうだ! それだよ!」と拳を握ってしまう作品というのは月に1本もあればいい方です。しかし『スパイダーマン ホームカミング』にはそんなシーンが5回はありました。とりわけ燃えたのは巨大な瓦礫に埋もれそうになって悲鳴をあげていたピーターが、トニーの言葉を思い出して死力をフル絞るシーン。実はこれ原作スパイダーマンの初期に何度かあったパターンで、ピーターはよく巨大な物体に押しつぶされそうになったり、圧倒的な力に引き裂かれそうになります。しかしその度に安西先生よろしく諦めずに気合で逆境をはねのけるピーター。『ホームカミング』では彼がまだいたいけな少年であるがゆえに一層手に汗握り、「よくがんばった!」と喝采したくなりました。この少年の頑張りが暗黒時代にあったアベンジャーズの夜明けを予感させて、おじさんはずるずると鼻水を垂れたのでした。
『スパイダーマン ホームカミング』はまだ辛うじて公開中。日本では前作とどっこいどっこいくらいの売上に落ち着きそうですが、世界ではシリーズ最高に届きそうな勢いです。これからのMCUでの活躍にますます期待が高まります。「スパイダーマン」の映画やコミックについてはツイキャスで少し語ったりもしましたので気の向いた方は聴いてやってください。
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Comments
こんにちは。
近年悪役づいてるマイケル・キートン。生え際のさびしさから哀愁が漂いますが、ヴァルチャーにしては毛が多すぎる気がしました。さりとて、きれいに剃ってくれ、なんて酷なことは云えませんが……。
サム・ライミ監督のスパイダーマンシリーズでヴァルチャーの登場が検討されたときは、ジョン・マルコヴィッチがキャスティングされるはずだったそうなので、ハゲっぷりではこちらに軍配が上がったかもしれませんね。
Posted by: ナドレック | September 18, 2017 10:55 PM
>ナドレックさん
ごもっともです。せめて歌丸師匠くらいのスキンヘッドで臨んでほしかった。というかバードマンの時はもっと薄毛だったのに
「4」での噂を聞いたとき「バルチャーで話が盛り上がるかなあ」と思ったのですが、今回のかっこいいアレンジ+深い人物造形には脱毛、ではなく脱帽というほかありません
Posted by: SGA屋伍一 | September 25, 2017 09:25 PM