老人と爪 ジェームズ・マンゴールド 『LOGAN/ローガン』
2000年のX-MEN第1作よりウルヴァリンを演じていたヒュー・ジャックマンさんですが、とうとうこの度その役を引退されることとなりました。本日はそんなヒューさんの卒業を飾る骨太映画『LOGAN/ローガン』をご紹介します。
ミュータントがほぼ絶滅した近未来。そのわずかな生き残りであるローガンは、衰弱した恩人のチャールズとひっそり地方都市で運転手として暮らしていた。だが彼を元ヒーローチーム「X-MEN」の一員だと知る女性が、ある少女を逃がすのを助けてほしいと頼んだことから、ローガンは再び激しい戦いに巻き込まれる。以前よりも回復能力が衰えた体をひきずりながら、彼はチャールズと少女を守りきることができるのか。
「いつまでも老けない」が売りだった狂戦士ウルヴァリン。ですが本作品ではだいぶ年寄りじみて、辛うじて治るものの傷の回復も遅い(そしてすごく痛そう)。いままで彼の活躍を「不死身だから」と安心していた我々も、やたらと「最後」と強調される宣伝も手伝って、「大丈夫かしら…」と不安な気持ちを掻き立てられます。
これまでのX-MENは多少の差こそあれ一応「ヒーロー映画」でありました。どんな困難があっても最後はヒーローが目的を達成して、明るい未来を予感させる…そんなシリーズでありましたが、今回のウルヴァリンはもろくたびれた手負いの獣のようなイメージで、「ヒーロー」の肩書からは程遠い。本作品の白黒ヴァージョンには「ノワール」という副題がついてますが、まさに主人公が滅びに向かって失踪していくノワール映画のような趣があります。話はとりあえずこれまでのX-MENとつながっているようにも見えますけど、そのあまりのドライで現実的な世界観は、まるっきり独立した別の映画に見えなくもありません。
で、アメコミファンとしてはいささか複雑なところですが、そのヒーロー性を排除したスタイルが、この映画の完成度をめっちゃ高めてしまっているのですね。悪者といえど殺しは殺しだし、正義の側が決して弱者を救い切れるわけでもない。どころか犠牲を増やしてしまうことさえある。そして生き抜こうと全力であがくことは、時としてあまりにも痛々しく物悲しい… カタルシスから遠ざかる一方で、一人の男の生き様としては切々と胸に響くものがあります。まるでローガンの心身の痛みを我々も共有するかのように。本作品が「アメコミ映画の新たなる到達点のひとつ」と評される所以です。
だけど… だけどね。あ、ここからほぼネタバレで
あれがウルヴァリン100年の戦いの結末だとしたら(多少の救いはあるにせよ)あまりにも悲しすぎるじゃありませんか!!
もしかしたらまたタイムスリップで時空改変とかして解決するのかな、とも予想しましたけど、とてもそんなトンデモが許される空気でもなく。これだったらむしろめでたしめでたしの『フューチャー&パスト』で引退した方がよかったじゃないの…と切に思いました。
ちなみにこの映画、あるスタッフによれば「『アポカリプス』の何年後」であるらしいし、パンフの説明によると「これっきりの独立した作品」でもあるらしい。え~ するってと… どっちなんだ???とこちらを見事に混乱させてくれます。自分の考えは後者に近く、「X-MEN世界の幾つかある未来のひとつ」と考えてます。X-MENの映画はこれからもまだまだ作られるでしょうから、いずれ『ローガン』の絶望的な未来はシリーズにとって矛盾を生じさせたり、不都合なものとなるでしょう。ウルヴァリンだって別の役者さんで再登場するものと思われます(なんせ人気No.1キャラクターですから)。だからこの映画はヒューさん&パトリックの卒業記念のために、特別に別枠で製作された作品のように思えてなりません。その辺のことはおそらく来年公開予定の『ダークフェニックス』で早くもはっきりするものと思われます。しかしコミックならまだしも現行の映画シリーズに「パラレルワールド」という設定を使用したら、ますます劇場版X-MENはカオスな状態に突入していくんだろうなあ… MCUやDCEUとの差別化になるのでしたら、それもまっ いいか!という気はします。
さんざん「暗い哀しい」と描きましたが、凄烈なシーンの合間合間にやさしく叙情性に満ちた場面が織り込まれているのも、この映画を傑作たらしめています。もう一度観るのはちょいきつくはありますが、そういう美しいショットはぜひ白黒版で観かえしたいものです。
そんな『LOGAN/ローガン』ですが、日本では二日後の七夕に概ね終了です。ウルヴァリン&ヒューさんの最後の戦いを、これまで付き合ってきた方たちはぜひ見届けてあげてください。
余談ですがコミックの方のウルヴァリンも少し前「これで今度こそ本当に最後!!」みたいなイベントをやって死んじまいましまたが、早々と復活しそうな模様。というかもう復活したのかしら? 本の方のアメコミ売り上げが芳しくないいま、ローガンもそう簡単には死なせてもらえないようです。
Comments
ここだけの話ですが、サイクロップスが好きな私としてはですね、ウルヴァリン/ローガンには隠居してもらって、サイクロップスを中心に据えるいい頃合いだったと思います。『X-MEN』の主人公はサイクロップスですからね!これまで映画では散々な扱いでしたが、いよいよサイクロップスの時代ですよ。
本作は新世代のミュータントたちが生き延びるところで終わりますが、来春には『ニューミュータンツ』が公開されますね。
そろそろ公式な時系列表が欲しいです……。
Posted by: ナドレック | July 06, 2017 12:53 AM
>ナドレックさん
実はわたしも映画前はウルヴァリンよりサイクロップスの方がひいきだったんですが、シリーズがすすむにつれ段々とウルヴァリンにも愛着がわいてきたりして
サイク中心で人気でるかなあ。むしろデッドプールをメインにすえたほうが… あ、いまのなしで
正確な時系列に関してはそのうち「観客のみなさんの解釈にまかせます」とか言い出しそうでこわいっす
Posted by: SGA屋伍一 | July 07, 2017 10:29 PM
伍一くん☆
えーっ!?次の作品はもう来年の予定なのね~
さすがアメコミ情報が早いwa!
従来のXーメンシリーズとは違った趣で、私はとっても好き♪
パラレルワールドになったら混乱するから困るけど、ローガンにはまた違ったアプローチで登場してほしいかも…
Posted by: ノルウェーまだ~む | July 10, 2017 12:26 AM
>ノルウェーまだ~むさん
そう、実は来年はX-MEN系の映画が3本も予定されています…
大丈夫か!!??
ともあれこちら、大人の映画ファンには特に好評ですね。本当に前作やデッドプールの荒唐無稽ぶりがうそのようです
ジャックマンさんも「これからも別の役者でウルヴァリンは活躍するだろう」と言ってました。二代目に期待です
Posted by: SGA屋伍一 | July 11, 2017 08:53 PM