ウォーキング・ウッド パトリック・ネス J・A・バヨナ 『怪物はささやく』
スペインのアカデミー賞と呼ばれる「ゴヤ賞」を9部門に渡って受賞。今日は日本では公開館は決して多くないものの、各所で評判を呼んでいる『怪物はささやく』を紹介します。まずはあらすじから。
難病の母親を抱え、学校ではいじめられ、鬱屈とした日々を過ごす少年コナー。ある晩彼のもとに、夢かうつつか、巨大な木の怪物がやってくる。怪物はコナーにこれから3つの物語を話すという。そしてそれらが語り終えられた後、今度はコナー自身の「秘密の物語」を告白しろと迫るのだが…
度々申してますが、スペイン映画には目に見えない存在に関係した哀しいお話がいろいろあります。『ミツバチのささやき』『アザーズ』『デビルズ・バックボーン』『パンズ・ラビリンス』『ブラック・ブレッド』、そしてバヨナ監督の『永遠のこどもたち』。この『怪物はささやく』もその系譜につらなる作品。たぶん夢か妄想なんだろうな…と思わせといて完全にそうとは言いきれない描写がちらちら出てくる「怪物」くん。この辺のぼやかし方がうまい映画は大体名作です。
で、バヨナ監督にはもう1作インドネシアの津波を題材とした『インポッシブル』という映画があります。3作共通して浮かび上がってくるのは母と子の絆の強さと、命のはかなさ。コナーの母の命が遠からず尽きることは誰の目にも明らかです。それに直面したコナーの心の揺れ動きと、母と関わりがあるらしい「怪物」の真意がこの映画の主な柱となっております。
「怪物」はコナーに明かすように迫る「秘密」。わたしのように心の腐った人間は「どっかにエッチな本でも隠してることでは」と考えてしまうわけですが、もちろん違います。
微妙にネタバレになりますが、その秘密のヒントは怪物の語る3つの話に隠されています。純真な少年はとかく「白は白、黒は黒」「ひとつでも邪な思いを抱いてしまったら自分はもう汚れてしまう」と考えがちなものですが、そんな聖人みたいな人間はそうそういるものではありません。いいことをしながら悪いことをするのが人間で、白黒はっきりしないのが世の中である。そのことを受け入れたられた時、少年は大人へと近づいていくのかもしれません。
そんなわけでどっちかというと、繊細なお年頃の十代の少年少女に特に観てほしい映画であります。
あと特筆すべきは、最近出るだけでネタと化しているシガ二―・ウィーバーがちゃんと女優していたこと。この人がこんな等身大のおばあちゃんやったことって今までありましたっけ? とはいってもスリラーでならした鬼気迫るオーラもびんびんにはなっておりました。
そんな『怪物はささやく』ですが、地方ではこれからかかるところも多いようです。くわしくは公式サイトをごらんください。
J・A・バヨナ監督の次回作はなんとあの『ジュラシック・ワールド』の続編。母と子が恐竜によって引き裂かれる涙涙の物語になるのでしょうか。
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