ボーイ・ミーツ・ファムファガール エドワード・ヤン 『クーリンチェ少年殺人事件』
また間が空いてしまいました… そしてゴールデンウィークに観た映画の感想を今頃書いてます… 本日紹介しますのは早逝した巨匠エドワード・ヤン監督の伝説的作品『クーリンチェ(牯嶺街)少年殺人事件』であります。今回デジタル・リマスター版が作られたということで多くの劇場で再上映されることになりました。ではまずあらすじから。
1950年代末期の台湾。あまり風紀のよくない夜間クラスに通う十代の少年・小四は、不良たちのリーダー・ハニーの恋人だった小明と親しくなる。対立するグループとの抗争、ハニーの帰還、スパイ容疑をかけられた父の拘留、そして小明との擦れ違いなどを経て、平凡だった小四の心にはいつしか深い闇が根を下ろしていく…
作品が発表されたのは1991年。自分はまだ高校生でしたかね。都会ではおそらくミニシアターブームが華やかなころだったかと思います。いわゆる「名画」の中では比較的最近の方…といえるかな。
全編通して特に印象に残ったのはその「暗さ」でしょうか。ストーリーは中盤過ぎまではそんなに暗くはないんですけどね(決して明るくもありませんが…)。だから暗いというのは単に画面・映像についてです。もちろん昼のシーンもそれなりにありますが、とにかく夜のシーンが多い。あと暗がりの中で何がいるのかわからなったり、極端に影に覆われてたりするカットが目立ちました。
この映画はやはり少年の心の闇を描いた作品だと思うのですが、小四の心の激しい部分というのはそう滅多に表れるものではなく。家族への思いやりも、女の子への純粋な愛情も、仲間たちと楽しそうに遊んでる姿も、ごくごく平凡な少年のそれであります。しかしそうした日常の中にちらちらっと鬼気迫る何かが見え隠れしはじめます。そんな小四の危険な部分が影に覆われながらも、少しずつ大きくなっていくあたりがとても居心地悪い反面、スリリングでありました。特に我慢を重ねていた小四がバットで電球をパキンと割ってしまうシーン、いけすかない近所のおじさんに背後から忍び寄るシーンなどはやがて来る凶事を予感させて忘れがたい絵でありました。
闇が濃い、といえば当時の台湾もそうであります。『セデック・バレ』や『KANO』などを観ていたからわかったことですが、50年代といえばまだまだその土地に暴力や戦争の名残が残っていた時代。加えて冒頭でも述べられていましたが、国自体がまだまだ不安定でありました。そんな当時の台湾に漂う不安な空気が、暗めのスクリーンの中にずっと立ち込めていた気がします。
あとこの映画の特色はなんといっても約四時間もあることですね… 「4時間なんてあっという間」という方もいれば、「やっぱりそれなりに長い」という方もおられる。自分も休憩なしでこんだけの尺の映画に臨むのは初めてだったので、ちょっとおっかなびっくりでありました。トイレを我慢できるように3時間くらい前から断ったりしてね…
で、正直なところやっぱりそれなりに長くは感じましたが、不快な長さではなかったし、それだけの時間がこの物語には必要だったと思います。とはいえ上映が終わった後、ほぼ満席の映画館には「おれたち、なんとかやり遂げたよな…」という軽い徒労感も漂っていたような。気のせいでしょうか(笑)
わたくしは今回の「デジタル・リマスター版」、第一陣が終わった後に川崎のアートセンターというところで観ましたが、まだぽつぽつと名画座等で上映が続いているようです。特に小さい箱ながらユジク阿佐ヶ谷などでは連日満席だとか。この伝説はまだまだ語りつがれていくようです。
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